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「勘違いですれ違った恋」番外編  作者: 柏木紗月
新婚生活スタート
15/62

イチャイチャ


 リビングに入ってきたのは彫りが深くて強面の高い身長の竜二さん。講義に来てくれた時もテレビに出ている時も笑ってなくてあんまり笑わない人なのかなって思っていたけど今はニコニコしている。


「こんばんは椿ちゃん。会いたかったよ」


 会い……思わずドキッとしてしまった。俳優さんみたいに整った顔をしていて低くて渋い声に立ち上がって握手をしようとしていた手が止まってしまう。


「ちょっと竜二さん!!そういうの無し!!ダメダメ!!」

「会いたかったから会いたかったって言っただけなんだけど」

「椿がうっかりドキッとしちゃったじゃないですか。椿は俺だけだけど免疫ないんですから」

「それじゃ関はもっと駄目だね」


 竜二さんは笑って右手を差し出してきたから私も気を取り直して握手をする。


「私もお会いできて嬉しいです。えっと……今までいろいろとありがとうございました」

「俺たちはしたいことを好きにやってるだけだよ。2人が一緒にいられるようになってそれを見られて嬉しい」


 優しくそう言われて私と先輩がこうして一緒になることを願ってくれていたんだって改めて嬉しくなった。


「はいはい、もう握手良いから」


 先輩は私と竜二さんの手を離して私の手をぎゅっと握って席に座り直す。


「隼人くん嫉妬だー」

「翔太くん煩いよ」

「会わせてくれるって言ってたのに」

「会わせたいし紹介したいですけど忘れてました。みんなイケてるおじさんだって。椿、みんな会わせるけど油断しちゃ駄目だよ」

「油断……?」

「この人たちは今では落ち着いてるけど若い時はナンパしたり逆ナンされる人数で勝負するようないけない人たちだったんだ」

「そ、そうなんですね。かっこいいですもんね」

「うーん……かっこいいのはかっこいいけど……」

「わ、わかりました。かっこいいって思っても言わないようにしますね」


 先輩が拗ねてしまうと思って言うと先輩は喜んでくれたけどため息がいたるところから聞こえた。


「ほんと隼人くんって残念なイケメンだねー」

「椿ちゃん大人ー」


 翔太くんと洋子ちゃんが口々に言うから苦笑いしてしまう。


「まあまあ、隼人くんも念願叶って椿ちゃん大好きが抑えられないのよ」

「いつも抑えてなかったけどー」


 佳代子さんと翔太くんの言葉に嬉しいなと思ってる間に竜二さんも席につく。


「椿ちゃん飲める?」

「あ、はい。ありがとうございます」


 竜二さんが日本酒を注いでくれて先輩と3人で飲む。


「美味しいです!!」

「良かった。同じの買ってあるから持って帰って。結婚祝い」

「家族からワイン貰ってるんですけど」

「隼人くんいくらでも飲めるでしょ。それ飲んだの?」

「まだです。週末に母さんと優菜さんが来るんでそれが終わって一段落できる日曜日の夜に飲もうってことに」

「じゃあその時に一緒に飲んでよ。そういうことならあいつらにも届けさせよう」

「だー!!また始まった。良いですって!!」


 携帯を触り出した竜二さんに先輩が慌てて止めようとする。なんだろうと思ってると佳代子さんが教えてくれる。


「この人たちは隼人くんになにかしてあげるのが好きなの。隼人くんになにか買ってあげたいって競い合うのよ。引っ越してきた時もね、炊飯器と電子レンジを買うからみんなは他の物にしてって。あ、見てくれた?この人が炊飯器を選んで私が電子レンジを選んだの。でも隼人くん物の価値がわからないから全然機能してないの」

「あ!!あれお二人が買ってくださったんですか!?私すごい感動したんです!!自分では手が届かなくて買えなかったんですけど欲しくて!!料理が楽しいです!!いろいろ作ってみたいのがたくさんあって!!」

「ふふ、そうでしょう?ほら隼人くん、あの高性能の家電わかる子にはわかるのよ。あれにしておいて良かったじゃない」

「そうですね。結果的に良かったです」

「テレビも掃除機2つもワインセラーもコーヒーメーカーもたこ焼き器もそれぞれみんなで買ったのよ」

「たこ焼き器?」

「しまってあるんだ。いつか椿としたら良いよって言われて。そうだ、椿たこ焼き好き?」

「え、えっと、好きですよ。おうちでやったことないですけど楽しそうですね。やってみたいです」

「良かったー。ついに使う時が来たよ」

「日曜日には届くようにするって」

「はやっ!!もう良いですよ。月曜日仕事だから椿はあんまり飲まないでね。けどみんな良いもの選んでくれるから美味しいよ」

「良いんですかね……」

「会った時に美味しかったって言ってくれればみんな喜ぶよ。そうだ。11月の第3土曜日空いてる?そこ集まれそう」

「え、決まったんですか?」

「俺と関が無理やり予定こじ開けたら合ったんだよ」

「無茶しますね……俺は大丈夫です。椿は?予定ある?」

「いえ!!ないです!!」

「ん、良かった。じゃあそこでね」


 竜二さんも優しくて良い人だしほかの皆さんに会うのも楽しみだな。

 佳代子さんからご飯を受け取った竜二さんがテーブルにあるおかずを取って食べ始める。日本酒はもう2杯目。お酒強いんだな。と、思ってると先輩もだった。私はちびちびとゆっくり飲んでる。


「それにしてもやっぱり俺が1番じゃないか。あいつらも悔しがってた。ざまあみろだ。村岡と木村がきーって怒ってた」

「私のおかげよ。それからあなたじゃなくて私が1番よ」

「さすが押しの強いおばさんだな。お前のおばさん根性もたまには役に立つ」

「あらあら、素直にありがとうが言えないのかしら。おばさんおばさんってまだ若いのよ」

「自分で自分のことおばさんって呼んでるだろうが」

「自分で言うのは良いのよ。あなたが言うと嫌みにしか聞こえない」

「誰だっておばさんになるんだから別に良いだろ。いつまで小娘の気持ちでいるんだ」


 ひぃ!!佳代子さんが持ってた菜箸が真っ二つに割れた。


「母さーん椿ちゃん引いてる」

「引いてる引いてるー」


 翔太くんのと洋子ちゃんはなんでもないように冷静にそう言う。


「普段はもっと酷いんだよ。この2人の夫婦喧嘩」

「そ、そうなんですか」


 びっくり。でもうちのお母さんとお父さんもよく喧嘩してる。お父さんが怒られてるだけだけど。でもさすがに箸は割らない。すごいな……と思いながら普通に食べてる先輩に倣って私もご飯を食べる。


「でもさ、どうして椿ちゃんは父さんを優しいと思ったんだろー。顔厳ついのに」


 翔太くんがなんの前置きもなくそう言う。


「ほんとよねー。仕事してる時むすっとして全然笑わないのに」


 佳代子さんにも言われて竜二さんはムッとしてる。私は慌てて言う。


「た、確かに講義してる時ずっと難しい顔をしてましたけど会社が大きくなるにつれて社員1人1人を見ることができなくなって、だからこそ人を育てるのが大切だって聞いて。社員が働きやすいと思ってくれるような環境を作ることが利益をあげることと同じくらい重要だって。働いてるみんなのことを大切にしてる優しい人だなって思ったんです」

「ほら、椿はステータスがどうとか見た目が厳ついとか気にしないんですよ。その人の内面を見るんです。良い子でしょ」

「せ、先輩……」


 隣にいる先輩がポンポンと頭を撫でてくれる。嬉しいけど恥ずかしい。それに思ったことを言っただけなのに。


「みんなに言ってやらないと。村岡と木村が高級な菓子でも学生に差し入れしたんだろって言ってた」

「えーそんなこと言ってました?」

「隼人くんメッセージ飛ばしてるからね」

「ああ、本当だ。餌付けなんて卑怯だって言ってますね」


 先輩は携帯を見て苦笑いしてる。よくわからないけど私が竜二さんのことを優しいと表現したことがみんな疑問だったみたい。確かに怖そうな見た目ではある。


「ねえねえ、婚約指輪見たーい」

「え、うん」


 突然洋子ちゃんに言われて私は左手を見せる。


「わー!!可愛いねー!!」

「ありがとう」


 嬉しくなる。先輩がくれた婚約指輪はとても可愛くて素敵だから。私はお風呂に入る時と料理をしてる時以外はいつもつけてる。立て爪のないソリティアのシンプルで華奢なシルバーの指輪で結婚指輪と一緒にずっとつけてほしいって言ってもらえて私は飛んでいきたくなるくらい幸せで幸せで。自慢したら駄目だと思いつつ職場には青木さんを始めとして女性はみんな結婚しているから私は大きな声で言わないようにしつつも何度も見てくださいと言ってしまう。


「椿ちゃんニヤニヤしてるー」

「えへへ。嬉しくて。こんなに素敵な人が好きになってくれて結婚してくれてその上こんなに素敵な贈り物までしてくれて。羽があったら飛んでいっちゃいそうなんだー」

「飛んでいっちゃ駄目だよ。隣にいてくれないと」

「例えですよ。ずっと隣にいます」

「新婚さんがイチャイチャしてるー」

「隼人くんだけじゃなくて椿ちゃんも隼人くん好きすぎるんだねー」


 なんだか恥ずかしくなったけど先輩が優しく頭を撫でてくれて幸せでやっぱりふわふわした気持ちになっちゃう。

 そうやってお喋りをしながらご飯を食べ終わると佳代子さんが書類をくれた。


「来週の土曜日隼人くん勉強見てくれる日だからその時でも良いわよ」

「わかりました。ありがとうございます」

「隼人くん、ついでにこれも持っていかない?」

「1つで十分ですよ。それに歩いてきてるのに荷物になります」

「そう?じゃあ明日にでも帰る前に寄ってよ」

「ええ?もう無茶苦茶だな。わかりましたよ。じゃあこっちも明日にしますよ」


 先輩と竜二さんの話も終わったみたいで私たちは家に帰った。

 マンションの駐車場でお布団を車から出して2人で持って部屋に入る。


「椿待って」

「はい?」


 ドアを開けてもらって中に入ってそのままリビングに行こうとしたら先輩に止められる。振り返ると両手を広げていた。


「え、一緒に帰ってきたんですけど……」

「それでもやるの」

「そういうものですか?」

「そうだよ」

「そうなんですね」


 そういうものなのかと思いながら絶対慣れないと思いながら先輩に抱きつく。先輩の匂いだと思っているとすぐにキスをされる。優しく触れるだけのキス。これだけでとろけちゃう。好き。


「椿……」

「はい?」

「そんな顔されるとすぐしたくなっちゃう」

「ひゃー!!」


 そんな物欲しそうな顔してた!?はしたない、穴があったら入りたいくらい恥ずかしくなってると先輩に頬を撫でられる。


「可愛い。もっと俺を求めて」

「せ、先輩……好きです」


 そしてもう一度キスしようと顔が近付くと同時に携帯のバイブレーションが鳴る。


「あっと……私かもです」


 そそくさと鞄から携帯を取り出すとさっき交換した洋子ちゃんからスタンプが送られてきていた。女の子がよろしくと言ってる。可愛いなと思ってるうちに先輩がお布団を持ってリビングに歩いていってしまった。ま、まずい。私雰囲気を壊してばっかりな気がする。でも外では恥ずかしいし家でも恥ずかしいし結局どこでも恥ずかしいしんだけど。でも先輩に呆れられちゃったら嫌だ。そう思って慌てて後を追いかける。


「あーやっぱりだ」

「え?なんですか?」


 さっきの甘い雰囲気の先輩はどこへやらで携帯を見ながらいつもの先輩がソファーに座ってた。


「村岡さんがずるいって拗ねてる。抜け駆けだって」

「村岡さんって先輩の大切な人の1人ですよね?」


 私がソファーに近付くと携帯を見せてくれた。


『俺が1番に会いたかったのにずるいです。翔太くんと洋子ちゃんとも仲良くなったんですよね。ずるいです。美織だって椿ちゃんに会いたがってるんですよ』


 美織ちゃんっていうのは村岡さんのお子さんなのかな?

 先輩は携帯に何か打ってる。


「えー明日?テレビ電話?もー村岡さんもなりふり構わないんだから……椿明日何時に終わる?」

「え?えっと、早く終わると思います。19時には家に帰れると思いますよ」

「本当?じゃあ良いかな。良いですよっと」


 喋りながら打ち込んでから携帯を机に置く。


「村岡さんがテレビ電話で椿と喋りたいって」

「え、あ……はい。村岡さんって?」

「んーと……これ」


 なんだろ。先輩はまた携帯を見せてくれた。画面には世界的にも有名なイタリアンレストランのサイトが映っていた。


「せ、先輩私ここ知ってます」


 なんかさっきも言ったなと思いながら言う。


「高級レストランですけど料理が美味しそうで敷居が高くて緊張しちゃって無理だろうなって思いつつ一度は行ってみたいお店の1つなんです」

「あ、本当?好きな料理言ってくれれば伝えるよ」

「え?え?どういうことですか?このお店がなんなんですか?」

「これこれ」


 先輩が指してるところはお店のオーナーの顔写真。下に村岡健と名前が書いてあった。


「ま、まさかこの人ですか?」

「そうだよ。村岡さん」

「な……先輩の大切な人ってすごい人ばかりなんですね」

「だからさっき言ったでしょ。みんなで集まるのもこの店だよ。貸し切りしても良いって。だけど改装直後になるから貸し切ると1時間しか無理かもって。椿こういうお店嫌でしょ?1時間で「いやいやいや!!」」


 平然と常識はずれなことを言われて焦ってしまう。


「こんな高級店本当に良いんですか?貸し切りなんてとんでもないです!!」

「そう?でもそしたら個室にはしてもらうね。俺も高級店嫌いだけどここはわりと平気だから椿もきっと大丈夫だよ」

「は、はあ」


 驚きで呆然としてしまう。


「ね、椿。村岡さんが嬉しいって。なにが食べたいか明日教えてだって。もうこんな時間だからゆっくり選んでって。それに合わせたワインも用意するからって。村岡さんワインソムリエなんだ。あのワインセラーくれたの村岡さんなんだよ」

「そ、そうなんですねーすごいですー……」


 こういうのカルチャーショックっていうのかな。で、でも先輩の奥さんだもん。どんなすごい人でも普通にできるようにしないと。そうだよ、竜二さんだって有名人だけど気さくで優しい人だった。きっと大丈夫。

 そう思ってると突然先輩に抱き締められた。


「さっきの続きしよっか」

「へ!?なんでですか!?今の今まで普通に話してたのに!!」

「さっきは抑えが利かなくてヤバイところだったけどクールダウンしたから平気。ね、良いでしょ」

「う……でもお風呂は」

「あとだよあと。椿から誘ったんだから責任もって」

「さ、誘ってないですよ!?」

「誘ったよ」

「で、でも呆れてないんですか?」

「へ?なにが?」

「私がいつも雰囲気台無しにしちゃうから……」


 私がそういうと先輩はばっと身体を離して私の目をじっと見る。


「そんなこと絶対ない」

「ほ、本当ですか?」

「本当だよ。椿が緊張して慣れないのはわかってるから。ゆっくりで良いんだよ」

「私先輩に喜んでもらいたいんです」

「ちょっとさっきから殺し文句ばっかりなんだけど……真面目に話したいのにヤバい」

「そ、そうなんですね。じゃ、じゃあ……」


 先輩が苦しそうに苦笑いするから私は目を瞑る。すると優しくキスをしてくれてそのまま──。


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