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7話 「そのゴブリンの魔石は己のものにするが良かろう」

 






 オレの名前はソムリラー・リッパー。経歴だけは長いD級冒険者だ。

 ソロで動いていて、座右の銘は安全第一。どこにでもいる冒険者だ。


 そんな俺に、ギルドマスターの特別推薦依頼が来たのは、ひとえに長い経験が評価されたのと、それまで真面目にやってきたご褒美だろう。特別推薦を請けた経歴があるなら、それだけで箔が付く。


 そして、一緒に依頼を請けることになるらしい新人冒険者が、会いたいと言う。

 確かに前もって確認しておくのは大事だろうということで、迷宮に向かうメンバーで会うことになった。

 それにしても、A級パーティの“漆黒の翼”もいるのか……緊張するな。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









 “漆黒の翼”の強烈な紹介の後、出てきたのは、本当に冒険者かと疑いたくなるレベルで華奢な、美少女だが目の死んでいる少女と、おとなしそうな女顔の涼やかな目元をした少年だった。

 ミツルと、トモエという変わった名前だ。顔立ちも、整ってはいるがこの辺りでは見かけないものだし異国の人間だろう。

 完璧な円(アブソルートサルコウ)というパーティ名だ。

 服装も貧相で装備もなく、心配になってくる。

 本当にこの子達がブラックスネイクと、レッドボアを狩ったのだろうか?


 “漆黒の翼”の皆さんが武器屋を紹介してくれると聞いて、やっと安心できた。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










 トモエ、は短剣使いらしい。

 それにしても、あの剣は軽く見えてもいい鉄を使ってるし、厚刃だから見た目よりも重量がある。

 あんな小さい少女が使えるとは思えなかった。





 結論、使えた。ごめんなさい。オレは間違っていた。


 試し切りスペースには、木製の人形が5体あった。

 それがトモエを囲むように置いてある。


 トモエは剣をくるくると回すと、一番近い場所にあった人形の首を刎ねた……刎ねたっ!?

 いやいやいやいや、そんなサラッと刎ねられるほど柔らかい木じゃないぞ!

 手元は早すぎて見えなかったし今! どうやったの⁉

 そして、そこから先はオレじゃ全く見えなかった。

 残像を残しながら3体を屠り、最後は………


「えい」


 スパーン、と真っ二つになる人形。

 ええええええ、真っ二つぅぅぅぅぅぅぅ⁉ なにこれ。


「結構いい。買いだな」


 しみじみと剣を眺めるトモエ。死んでいる目が若干輝いて見える。


「マ、マイドアリー」


 ほら、お兄さん引いてる。


「ふっ、面白い。少し遊んでやろう」


 狡猾な百舌鳥がやって来た。トモエの動きを、確かめたくなったのかもしれない。


「うん、遊ぶ」


 なんの気負いもなく、トモエは言った。大丈夫だろうか。

 まあ、怪我しても頭と体が繋がっていれば治せると豪語する優秀なヒーラーも居るし、大丈夫だろう。





「先手必勝!」


 狡猾な百舌鳥が、鉄の鉤爪をつけて目にも止まらぬ速さでトモエに迫った。狡猾な百舌鳥の左手がブレる。

 トモエは剣を握りしめ、自然体で立ったままだ。


 二人の影が交わり………



 カラン



 という音が聞こえた。目の前には、剣を狡猾な百舌鳥の首に添える相変わらず無表情で死んだ目をしたトモエと、呆然とした顔つきの狡猾な百舌鳥がいた。



「なっ……」


 何が、おきた?


「説明してやろう。狡猾な百舌鳥の鉤爪は相手を騙すための罠、本命は右手に隠し持った極小の短剣。

 目の前にある物で注意を引き、別のもので殺す、狡猾な百舌鳥のよく取る手段だ。

 しかし、それは暴かれた。

 トモエ・シワタリは剣で短剣を叩き落とし、その勢いで首まで剣を持っていった……いつでも首が切れるようにな。同時に鉤爪を盗んでいる」


 混沌の梟が説明をしてくれた。ありがたい。オレには何がなんだかさっぱりだった。


 確かに、狡猾な百舌鳥の手にはあの鉤爪が無い。

 まさか⁉ 本当にスリ取ったのだろうか。あんな短時間で!!



「シワタリ家の“流水”から伝授、“武器取り”」


 どういう家だよ!? シワタリ家!!化物一家か⁉



「ふふっ、思わず最終奥義を使いそうなったよ」


 と言う狡猾な百舌鳥は明らかに動揺している。


「使っても良かったのに」


 トモエが残念そうに言う。やめてやれ。


「条件が揃ってたら使ってたのだ」


 足がカクカク震えている。おそらく虚勢だろう。


「使ってくれたら私も本気出せたのに」


 すっごい追い詰めてくる。そろそろ泣いちゃうよ、この人。


「えっ……フッ、また剣を交えるのを楽しみにしている」


 冷や汗を垂らしながら狡猾な百舌鳥は言う。

 “漆黒の翼”としての矜持は忘れないその姿は素晴らしい。


「うん、楽しみ。いつにする?」


「ちょっ……と、時が来ればわかる」


「そっか。余りにもゆっくりだったから、そんなもんかって思ってたから、よかった」


 狡猾な百舌鳥の安寧を祈る事しかできない。


「あぅ! そうに決まっているだろう! 我は“狡猾な百舌鳥”! 最初から本気など出すわけがないっ!」


 トモエから悪意は感じない。他人の表情を読むのが苦手なんだろう。

 ミツルのしみじみとした表情で、彼の苦労がわかる。

 天才とは、いつも何処か欠けている。そんな彼女と共にいるミツルは、今まで頑張っていたのだろう。よかったな、少年。




「狡猾な百舌鳥は我らが最弱。帰ったら鍛えなくてはな。

 自分の予想外の事が起きると必要以上に混乱する癖がまだ抜けていない。

 それにしても貴様らは、ただ者ではないようだな、昔、何かしていたか」


 孤独の鷹がそう語る。いつの間にか来ていたミツルと話していたようだ。


「まぁ、そんなところです」


 それはよく分かった。トモエがそれだけ強いということは、ミツルも戦えるのだろう。もう見た目にはだまされない


「………そんな事より、変わった武器を使うのだ、なっ」



 孤独の鷹がそう言って、剣を振るった…………なにやってんのおおおおお⁉

 いや、幾ら鞘付きとはいえそれ本気でしょ⁉ 死んじゃうよ⁉ 撲殺だよ⁉


「びっくりしました」


 えー、この子もアッサリ避けてるー。すごーい。反撃する余裕もあったんだー。しかも寸止め。えー、オジサンついてけないよー。


「なに、この仔羊はどれ程の強さかとおもってな。

 ふっ、冒険者でもこの様な状況で攻撃をしたら何もできないのだがな……面白い」


 そだねー。オレだったら確実に死んでた。この子もめっちゃ強いわ。


「プロですから」


 何の? なんのプロなの⁉ 怖くて聞けないよ!!


「ふっ、そうか。実に面白い。

 気に入った。迷宮には潜るのだな」


「トモエが良ければ参加するつもりです」


「楽しみにしている」




 もしかしなくても、オレがこの中で一番弱い?










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









 まだ、太陽も昇りきっていないような早朝、俺と巴目を覚した。


 おはよう! 今日は迷宮探索当日だ!

 俺、死渉 満は今日も元気だ。



 早すぎる朝ご飯に、死渉式兵糧丸をかじり、体操などを一通りして身体に調子をつかせる。


「今から迷宮ってさ、どんなとこなんだろうね」


 ふと、巴が言う。


「見た目は洞窟タイプらしいよ」


 今日の日のために、迷宮について色々と予習していたのだ。

 迷宮とは、見た目だけでも洞窟のようなタイプや、塔のようなタイプなど様々あり、魔物の種類も様々らしい。

 そこに法則性はなく、迷宮で見つかる宝にも()()()()()()があるようだ。


「わかんないから調査に行くんだよね。

 沢山戦えたらいいなぁ。

 でも、産まれたての迷宮だからそんなに強いのがいないって言ってたよね」


 つまらなそうに、巴がため息をついた。


「それフラグ」


「立ててんの」


 巴が足元の小石を蹴る。


「だと思った」


 それを俺は棍棒で打ち返した。


 良くも悪くも、巴は()()だ。

 好戦的で好戦的で、一に戦闘二に戦闘、三・四は無くて五に戦闘の死渉気質。

 危険と知りつつも、死を渡っちゃう。有り体に言って、戦闘狂。


「でも、満も楽しみなんでしょ?」


 巴がそれを見ないで蹴り返す。


「そう?」


 俺も、カーブをつけて打ち返す。


「うん。楽しそう。迷宮の話をするとき笑ってた。とても楽しそうに」


 そうだったかな? でも、巴が言うならそうなんだろう。


 巴の変化球を打ち返しながら言った。


「まじかー。笑ってたか俺」


「うん」


 よく考えると、楽しみかもしれない。ワクワクしている。


「…………君のような勘のいい相棒は嫌いだよ」


 うそ、好き。全く、巴には敵わない。唯一無二の相棒だから仕方ないか。


 それを聞いて、巴が笑った。容赦のないカーブをつけて石が飛んでくる。


「やりやがったなー!」


 そのエゲツのない一球を、なんとか打ち返した。

 カキーン、といい音がして近くのドブ川に小石が落ちる。

 ポチャッ、ともベチャッとも言い難い音がした。


「ホーーーームラン!! そろそろ行くか」


「うん。行こっか」


 出るには少し早いが、俺達は新人だ。遅刻するよりいいだろう。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「お、早いね。おはよう」


 集合場所についてしばらくすると、ソムリラーさんがやって来た。


「「おはようごさいまーす。今日はよろしくお願いしまーす!」」


 芸能人みたいに挨拶する。今日も息ぴったりだ。


「元気だねぇ。調子はどう?」


「とってもいいです。それにしても、迷宮が楽しみでたのしみで」


 そう言うと、ソムリラーさんがおかしそうに笑った。


「迷宮が楽しみだなんて、面白いことを言うなあ! ま、すぐに分かるよ。どんなとこだか」


「大変なんですか?」


「だって、汚い! 危険! 暗い! の三拍子が揃ってるんだ。

 今回は小さい迷宮だし、“漆黒の翼”がいるから滅多なことにはならないと思うがな」


「そうなんですか」



「待たせたな、善良なる市民よ!」


 ソムリラーさんとしばらく喋っていたら、“漆黒の翼”さん達が来た。


「「「「「“漆黒の翼”登場」」」」」


 そして、みんなでポーズをキメる。背後が爆発した。

 毎回やるのか、これ。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「というわけで、今回向かうのは南の森にある迷宮だ。

 大したことはなおと思うが、心して挑むよう」


「分かりました」


「「はーい」」


 南の森にある迷宮の前で、最終的確認をする。


 シーフの狡猾な百舌鳥さん、盾役の虚無の鷲さん、剣士の孤独の鷹さんが前衛で、新人の俺達とそんなに強くないソムリラーさんが中衛、というか守られ役。

 魔法使いの混沌の梟さんとヒーラーの禁断のブラックスワンさんが後衛だ。

 ありがたや。幾ら地球で活躍していたからといって、異世界では勝手の違うことも多いだろう。慢心してはいけない。油断したものから死ぬ。

 余程のことがない限り、素直に守られておこう。




 そして、パッと見は何の変哲もない洞窟に入ってゆく。

 中は薄暗く、それぞれの手に持ってる光る石(虚無の鷲さんがくれた)だけが頼りだ。

 シーフの狡猾な百舌鳥さんが進んで、罠などが無いか確かめる。


「異常なし」


「ご苦労、進むぞ」


 迷宮の広さは、人が3人通れるくらいの幅しかない。


 つまり…………



 迷宮の奥



 狡猾


 孤独 虚無


 俺   巴


 ソムリラー 禁断


  混沌



 という順番だ。





 暫く進むと、急に前が広くなった。


「ゴブリン8体発見!」


 どうやら、戦いの場らしい。


 見ると、目の前には緑色の肌をした薄汚い生き物が8体いた。

 見た目は、いわゆるゴブリンだ。いや、でかくて可愛げの無くなった家鳴(やなり)みたいだな。ブッサイクだ。

 人型だけど、額に魔石が嵌っているので魔物決定だ。血は何色なんだろうか。


「ふん、ゴブリンか。見たところ突然変異種もいないようだし、貴様らの秘められし深淵の力を示してみろ。哀れな子羊よ」


 孤独の鷹さんが、不敵に笑って言った。


「つまり、雑魚だからどうにかしてみろって事ですね? 実践力を見るために」


「そういう事だ。なに、もしもがあっても、我らがその闇の力で救済しよう」


 援護付きってことだ。俺は、棍棒を構えた。




「じゃ、いきます。──はんぶんこだぞ」


「ん、わかってる」


 言っとかないと、巴に全部取られちゃうからな。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










 手始めに、一番近くにいたゴブリンの頭を叩き割る。

 コイツらは知能が低いらしく、連帯をしてこない。

 ぎゃあぎゃあと喚き立てて、こちらに向かってくるだけだ。やりやすい。血は赤か。


 倒した勢いで、前に進みもう一匹を殴る。後ろから気配があった。

 反射的に、ゴブリンの腹に振り返りざまの肘鉄を入れる。

 相手の内臓が駄目になる嫌な感触がした。

 最後のゴブリンは棍棒で叩き、沈める。


「ふう、十秒だな」


 前の世界よりも、体の動きがいい気がするのは気のせいじゃないだろう。

 前だと、同じことをしようとしたらもうちょっと時間が掛かった。


 巴は、俺より早く片付けていたようだ。



「えっ…………良いだろう。哀れなる子羊よ、貴様らの秘められし真の力はこの目で見抜いた」


 なんか褒められた。やったぜ。


「すごいな、二人とも!? オレ、なにやってんのか分かんなかった!」


 ソムリラーさんも素直に賞賛してくれた。褒められて嬉しい。


「ふふん」


 巴も、得意そうに胸を反らした。簡単なことでも褒められると嬉しい。褒めて伸びる派なのだ。俺達は。


「そのゴブリンの魔石は己のものにするが良かろう」


 そういうことで、ゴブリンの魔石8個は俺達のものとなった。







 その後も、順調に探索は続いていった。

 “漆黒の翼”さん達の実力も見ることができた。

 この人たちも強い。特に、孤独の鷹さんは“斬王(ざんおう)”のおじちゃんを思わせる暴れっぷりだった。






 俺達は、それで油断していたのかもしれない。

 本番で油断など許されることではないのに、でも気付いたときにはもう遅い。




 狡猾な百舌鳥さんがトン、と何の変哲もない地面を踏んだ。


 そして、そこから魔法陣が浮かび上がり────



 俺の視界は暗転した。











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