66話 「アキルクお前味覚どうしたーー!!!!」
「トールフの奴等、冒険者始めたらしいな」
右、左、左と見せかけて右。分かってるって。甘い甘い。
「そうなんすか?」
足技は、及第点。
「おう、ミーユとブッカと三人らしい。いやー、パーティ名考えてくれって言われて参ったよ。はっはー」
おお、貫手か。避けるけど。
「えっ、いつ会ったんすか!?」
驚きのせいで身体をブレるなんて修行がまだまだ。
「街を歩いてたら、たまたまね?」
おっ、腹に膝蹴りを入れようとするとは猪口才な。
「へー、どんな名前にしたんすか?」
無駄な動きが少ないせいで次何するか分かりやすいな。
「“神獣の顎”かっこいいだろ」
ま、無駄な動きだらけでも困るけど。
「あぎとって何すか」
ここらで終わらせるか。
「アゴ!!」
アキルクの顎を掴む。顎クイのポーズ……誰も嬉しくないね。とにかくこれでアキルクは捉えた。
「うーん、20点」
「相変わらず低いっす!!!」
伸び代があっていいじゃないか。
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「お疲れ様ですわ。お茶は如何です?」
「お、ありがとー……なんのお茶?」
初めて飲む味がする……無駄に爽やか。紅茶に大量のフ○スク混ぜた味がする。有り体に言えば不味い。
「体力回復のポーションを混ぜましたの! どうでして?」
「巴はなんて言ってた?」
必殺、質問返し!! 巴は朝ごはん当番だ。クラリーヌは台所でこれを淹れた筈! あのくいしんぼちゃんが味見しない訳がない!
「『緊急事態なら文句は言わない』って仰ってましたわ」
「そうだね。俺もそう思う」
飲めなくはないけど求めて飲みたくない。アキルクはどうだ?
「…………………っ」
「おい、どうしたアキルク!? 無理せずにぺっしなさいぺっ!」
「アキルクさんっ!?」
ふとアキルクを見ると、俯いて身体を震わせていた。クソ、アキルクはポーションアレルギーだったのか!?
「……………じゃないっすか」
そして、ボソッと何かを呟く。
「「え?」」
「天才じゃないっすかクラリーヌさん!! 美味しい! もう一杯貰えないっすか?」
「どうぞ」
「ありがとうっす」
そして一気飲み。
「美味しい!」
「アキルクお前味覚どうしたーー!!!!」
目を輝かすな。フリ○ク紅茶だぞそれは! 何かの間違いだと言ってくれ!! クソっ、シンクに飲ませて多数決をするしかない! いつまで寝てんだあのダンジョンマスター!
「やはりか」
「その声は……巴」
ヌッと巴が入ってくる。よーしよし、おいでおいで。軽く巴の頭を撫でる。
「クラリーヌが作ったのは体力回復紅茶。つまり疲れていない満には効果がないため微妙に感じ、疲れきったアキルクには美味しく感じたのだよ」
どうしてそれを知ってるんだお前。
「な、なんだってーー!?」
「そうなんすか? 確かに、どこが美味しいのか聞かれれば言えないっすけど、とにかく美味しいっす!」
大丈夫? そのポーション紅茶。後遺症とか出ない?
「ご安心を。ポーションを美味しく感じる現象はよくありますわ」
「「「へー」」」
それなら安心だぁ。
「クラリー、それどうすんの?」
「うちのパーティにはアキルクさんがいらっしゃるのでそんなに必要性はありませんわ。売り物にしようと思ってますの。
今日、どこかのお店と交渉して売ることにしますわ」
「じゃあ、今日は別行動か」
「ええ」
なるほど、今日は三人で狩りだな。
「よーし、今日も張り切っていくぞー」
「「「「おー!」」」」
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「おはよーございまぁす」
一応挨拶しながらギルドの中に入る。相変わらず煩くて男臭い。一週間前まで、獣王国にいたからなんだか見慣れない場所のように感じる。あの時は大変だった……。
「お久しぶりです。完璧な円の皆様、一人足りないようですが」
「「受付のお姉さん!」」
「お久しぶりっす」
一番関わりのある、鋭いツッコミが持ち味のお姉さんだ。
「クラリーヌは別用なんです」
「なるほど。ところで、獣王国の英雄である皆様にお届けものです」
「あれ。その話もうそっちまで伝わってきてるんですか?」
「ギルドではもう話題ですよ。ここらの冒険者の間にこの話が広まるのも時間の問題でしょう」
「トールフもここで活動してますしね」
「ええ。ちなみにお届けものの送り主ですが獣王国の主要人物です」
王か王子か王妃か大臣かって感じだな。
ついでになんでお姉さんがここでそんな話を始めたのか理由も察してるぞ。
「そうでしたか! 大臣様でしょうかねぇ?」
一国の王に認められた冒険者がいるギルドとしての話題性、それはギルドの活気に繋がる。周囲の冒険者に発破かけられるし……そんなとこだろ?だから、このことを多くの冒険者に知らせたいからここでこんな話してる。俺はそれに乗った。自分の拠点が活発になって悪いことはないし。
「察されてましたか」
それくらい察するさ。
「しかし、有名になってしまえばその分……」
「絡んでくる奴も増えるでしょうね」
お前だよ。そこの聞き耳立ててる冒険者5人。チラッと見ると慌てて明後日の方向を向き口笛を吹き始めた。ヘタクソか。
「口笛吹けてない……」
巴、そういうことは言ったらだめなお約束だよ。
「んー」
「大丈夫ですよ。これまでも悪目立ちしてましたし、その程度別に苦ではない」
それにお忘れかもしれないが俺と巴の最終目標は『その名を轟かせる』だ。この程度で臆してちゃ始まらない。
「それならよかったです」
「はい」
「では、マスター室まで案内しますね」
貰ったのは結構大きい箱だった。帰ってから見るのが楽しみだ。
「今日はどの依頼受ける?」
「なんでもいいー」
「丁度いい討伐系はないっすかね」
オークの巣とかかなぁ。やっぱり。
と、その時。
「うるっせぇなぁ! スラムのゴミは黙ってろ!」
普段から騒がしく、多少の大声では最早目立たないギルドを一瞬静まらせるまでの怒声。どうやら冒険者の喧嘩のようだ。よくあること、よくあること。見るまでもない。
続いて、ゴンッともボコッともつかぬ拳の音。片方がぶっ飛ばされたらしい。ん? 冒険者の喧嘩にしては飛ばされたほうの音が軽いぞ? つまりこれは……。
「ぐっ……」
そう呻いたのは子供だ。10歳くらいだろうか。肌は汚れと日焼けで真っ黒で、ボロ切れから覗く手足が小枝みたいに細い。
「何するんすか! 大丈夫っすか?」
真っ先に飛び出したのは、アキルクだ。膝を付いて子供を起こし、冒険者を睨みつける。
「何があったにしろ、子供を殴ることはないんじゃないんすか?」
「あぁん? やんのかオラ」
「自分と決闘をしたいなら受けて立つっす。どうなっても知らないっすけど」
あーあ、可哀想に。この冒険者の負けだわ。この冒険者も弱い初心者ではないが、アキルクには負ける。ほら、その証拠にぬっと立ち上がったアキルクに冒険者がたじろいだ。
んー、アキルクが保護するってんなら、俺達は子供の様子でも見ますかねぇ。




