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64話  「ん? あ、第一王子に忍ばせた式神……」

 







 黒の勇者の協力を得ることができてよかった。

 護衛部隊隊長は、そっと息を吐く。一人でも味方が欲しかったのだ。その為に、高価な嘘を見抜く魔法道具まで使用した。黒の勇者は、心の底から協力してくれるようだ。

 先日も、王妃の為に懸命にアドバイスをしてくれていた。


「しかし、流石だな」


 早くも王族の危機を察し快くこちらに協力してくれるという。事情は黒の勇者の察した通り、王弟の反乱だ。第一王子の部下にも王弟の息の掛かった者が送り込まれており黒の勇者が小指を立てて示した通り第一王子の部下が敵の一人なのだ──獣人の間で、小指を立てるジェスチャーは“部下”を示す。


「それにしても恐ろしい」


 危機を察していただけではなく、情報収集を行っていたという。敵に回したら、と考えると恐ろしい。これが黒の勇者の力か。


「さて、王妃様の元へ戻るか」













 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












「は、は、は」


 暗いくらい部屋の中、王弟は機嫌よく笑いながら酒をあおった。

 彼は王子を傀儡にし、王を暗殺するつもりだ。

 王妃の護衛隊長とやらが動いているらしいが、それも知っている。知っている上で泳がせているのだ。奴が仲間だと思っている部下の大半は王弟の息の掛かった者だ。これで何ができよう。奴が必死に集めている証拠とやらはもう、無い。


「黒の勇者もこれではお終いだな」


 だいたい、そんなおとぎ話信じるほうが愚かなのだ。

「まさか、王妃から与えられた菓子に薬が混ざっているとは思わないだろう!! はーはーっはっは! 王妃の侍女にも我が手の者が混ざっているのさ!」


 機嫌が良くなり、更に叫ぶ。今まで我慢していたが、自分の考えた計画を誰かに話したくて話したくて仕方がなかったのだ。人の気配も感じないし、許されるはずだ。


「まぁ、薬といっても人の言うことを信じやすくなるようなそんな効果のある薬なのだがな」


 最高だ。


「都合のいいことにそれは素晴らしい花の香りがする! 天は我らに味方した!」


 気分がいい。


「王子レグナムよ! 死なせはしないさ! 我が傀儡として生き続けるだけで! ブワーハッハッハッ!!!!」


 兄王暗殺の計画もそろそろ立てなければ。


「今宵は良い夜だなぁ!!」


 彼の機嫌は、最高だった。












 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















「うーん、ようやく帰れるぞー」


 次の日、隊長の人が決行すると言ってた日だ。どうやらお食事会があるから、この国で身分の高い奴は大体招待されるらしい。俺達は何故か最初から招待される予定だったという。黒の勇者とかいう称号、すげぇな。いや、この世界の俺の称号は“紙使い”だけど。最近紙で手を切らなくなったことがその恩恵だろうか。



「オレも村の様子とか見てぇなぁ」


 トールフが、ぐっと伸びをする。


「トールフはそのまま村に留まるの?」


 トールフは、首を横に振った。


「いんや、オレは冒険者を続けるぜ。みんなに応援してもらってる夢だからさ」


「ぼく、も!」


「おぉ、ブッカもか」


「シーフやるんです」


「がんばれ」


 きっとできるさ。


「急っすけど、これで本当に帰れるんすか?」


「そうですわねぇ。わたくしも帰りたいと思っていたのでいいですけど、何か作戦があって?」


 あの隊長との話は二人にはちゃんと伝えていない。そんな暇なかったし。これからは報・連・相を大切にしていきたいね。今回は許して。


「まーね」


『あれ、なんか来た!』


「ん? あ、第一王子に忍ばせた式神……」


 ようやく来たのか。式神といっても、自我はないし周りの音をところ構わず吸収するだけのやつだ。ほらそこ、ストーカー予備軍とか言うんじゃありません。ストーカーしてる訳ではない。


「じゃーシンク持っといて」


 確認するのもめんどくせぇ。


『えっ? はい!』


 パシッとシンクが式神を捕まえた。よーしいい子だ。



「今日、何するんだっけ」


「巴ちゃん人の話聞こう? まったく、立派な大人になれませんよ?」


「帰れるんだよね」


「それだけ覚えてたらよしっ! いい子っ!」


 まぁ流れに身を任せればいいや。


「手のひらがえしが激しいですわね」


「いつものことじゃないっすか」


「そうですわね」


 うちのパーティもいつも通りだしなんとかなる。うん。変なことになったら逃げよう。















 獣王の唸るような挨拶が終り、やっとご飯にありつける。シンクの席も「赤蛙の席もあるよね?」と言ったら用意してくれた。すまんな。


 流石獣王国と言うべきか、この国のご飯はボリューム満点である。うまい。共食いがうんぬんとか考えてはいけないのだろうか。




「ではこれにて……」


「申し訳ございません! ここで皆様にお話しが!!」


「なんだ」


「何事だ」


「こやつは何者」


「静まれ! 確か……我が后につけていた

 者だな。話すといい」


「ハッ、単刀直入に申しますと、王弟殿下は陛下を裏切っております」


 おおー、きたきた。完全に他人事で俺は同調するタイミングを見計らうって待って王弟の裏切り!? 聞いてないんですけどぉ!? え? え?はい? どういうことっすか先輩。なかったことにしたい。


「ほーう。証拠はどこにある」


 あれか。あれが王弟か。王様に似てるけど王様のほうが気迫とかそういうのがあるな。なんだろ、王様の劣化版みたいな。


「おい、証拠を持ってこい」


 俺は何も知らないぞ。大体、証拠があるなら俺を巻き込まないでくれ。こっそり逃げたい。


「ありません」


「は?」


「え? あっ、すんません」


 ないのかよ! 思わず声出たじゃん!


「どういう事だ」


「王弟の裏切りなどありません。すべて隊長の虚言です」


 あー、なるほどね。やり込めようと思ったらぎゃくにやられたってパターンね。味方全員裏切ってたやつね。おっけ! 逃げよう。







 話は変わるが俺は常々思っていた。俺の隣に座る可能性全振りチョロ雑魚式神ダンジョンマスターシンクは、きっといつか何かやらかすと。そしてそれは今だった。






「は、は、は」


「「「「「!?」」」」」


『ふぎゃぽばっ!?!?!?』


 突然、シンクの方から王弟の声が聞こえてきた。

 シンク、お前めちゃくちゃ驚いてるけど何したの? え、俺から渡された式神いじって遊んでたの? それ起動できるのお前。すげぇなってそれどころじゃない。





 状況が動き始めた。














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