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63話  「勿論。黒の勇者の名と僕の相棒巴の名に誓おう」

 










「満、洗脳したってよ」


「言い方酷くなぁい!?」


 王妃様の所から帰ってきて、今はその報告会をしている。

 巴さぁん!? 突然の裏切りに泣きそう。泣かないけど。

 俺の膝に乗って機嫌よさそうに抱きついてくるのはいいんだけどさぁ! うーん、可愛いから許す!


「ふふん」


「犯罪は、いけないっすよ」


「一緒に謝りに行ってあげますわ」


「王妃様を洗脳なんて、お前やっぱ只者じゃねぇな」


「この国を、どうするつもりですか?」


「ミツルさん、洗脳、上手でした!」


『その人、式神にするんですか?』


「お前らぁ!」


 なんでこういう時一致団結するの? 式神にするつもりも洗脳したつもりもないし!


「洗脳はしてません。アドバイスしただけです」


「それにしても不用心ですわね。王妃様しかいらっしゃらなかったなんて」


「……そうだねー。まぁ実はいたんじゃない? 知らんけど」


「そうなんじゃないのー?」


 実際は護衛っぽいのが6人だね。いたよ。天井と地下に。気にするほどでもなかったから気づかないことにしてるけど。



「あ、そうだ。あげる」


 クッキー、マドレーヌ……エトセトラ。巴が思いついたように上着からお菓子を次々と出していった。どこに入れてたの? 隠す技能向上してない? “奇術師”の称号ってそういうこと?


「お菓子」


「どこのだよ」


「さっき貰った」


 トールフの突っ込みを軽やかに流す巴。貰ったってお前、がめてきたに等しいからな。


「元々食べる用だから、どこで食べてもいいんじゃない」


 わーいポジティブ! ま、いっか!


「これ美味いよ」


「あ、ほんとだ」


「おいしい」


『私もたべたいです』


 シンクの分をいくつか分けて渡す。


「はいよ」


『わーい! 美味しいです! なんだか幸せな気持ち……』


「ふわふわするっすね」


 その日は結局、おやつを食べて解散した。
















 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「ふむ、気づいていないようだな」


 暗闇の中、一人の獣人の男が呟く。そして、ぐしゃりと手の中の紙を握り潰した。


「絶対に消してやる……」







「母上との茶会はどうだったのだろうか」


 第一王子がふと言った。


「何か聞いているか?」


 彼がそう問いかけるのは、前から共にいる家臣の一人。犬の獣人だ。彼よりもずっと年上である。


「恙無く終了したそうです。では、こちらを」


 机の上に菓子がいくつか皿に盛られて置かれる。

 王子の母は、お茶菓子に拘りがありよくこのようにして分けてくれる。

 そのうちのひとつをつまみ齧る。ふんわりと花の香りが広まったが特に気にせず話を続ける。しかし、なんだか気分がとても良い。


「お伝えしたいことが」


「なんだ、言ってみろテオドール」


 どうやらこの忠臣はテオドールというらしい。彼は第一王子の信を深く受けている。


「叔父上様から……やはり、留学はおよしになるべきかと」


 その言葉を、どこかぼうっとした頭で処理する。叔父がそう言うならそうかもしれないという気になった。


「そうか、そうだなぁ」


「レグナム様。貴方は王子なのです。やはり他国に出るべきではないと思います」


 テオドールが、口数多く説得するとだんだんそれがとても正しい事のような気がする。


 しかし、レグナムは……第一王子は気づいていないようだ。


 そんな様子の王子を見たテオドールの口元が、釣り上がっていることに。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














 明確にこちらに向かってくる気配を感じ、目を覚ます。深い眠りから覚醒した俺の頭はもう冴えている。同じものを感じて、隣で寝ていた巴も起きた。


「誰だろ……迷惑なんだけど……」


 せっかくぐっすり寝てたのに。

 巴の柔らかさと暖かさを名残惜しく思いながらも、しっかりと上半身を起こした。


「ん、来た」


 面倒くさそうに巴がトランプを投げた。その態度とは裏腹にトランプは正確さを一切欠かずに壁とその人物の服を縫い止めた。マスクを被っていてどんな姿なのか分からない。声からして男だろう。


「何者?」


「王妃様の護衛部隊の者だ。話があって来た。怪しい者ではないからこれを取っていいか?」


「大丈夫ですよ」


 トランプはそこまで深く刺さっておらず、軽く身を振るえば取れてしまう。


「ありがたい、して黒の勇者よ。お前の正義感を見込んで話がある」


 うわー。なんだか面倒なことに巻き込まれそうな予感。

 巴が俺の背中にしっかりと抱きついている。やる気はない。むしろ寝る気満々。


「聞くだけ聞きましょうかぁ」


 益になったら協力するよ。




「お前は気づいているだろうか。王妃様の邪魔者について」


「はい?」


 いや、そっちの内政とか聞いてもちんぷんかんぷんなんだけど? なんで知ってると思うの?


「黒の勇者は千里眼を持つからな……」


 そうなの? 初知りなんだけど。


「実はそれは王子様にとっての毒でもある。今は分からないだろうがな」


 うーん、もしや……


「これ?」


 小指を立ててジェスジャーで聞く『女?』


「やはり気づいていたか。“これ”のせいで王子様は政ができなくなるかもしれない」


 やはり恋にうつつを抜かすのは駄目だな。というか、第一王子の女ってつまり……巴じゃねぇかこの野郎。


「つまり、“それ”が邪魔だから排除したいと?」


 努めて声を平常に保つが、腰に回された巴の手を思わず強く握りしめる。

 やばいやばいやばいやばいやばいやばい。最悪の場合、巴が死ぬ。そんなの絶対に許せない。巴を守れ。できるだけ穏便に、傷が少なくなる方法で。


「そうだ」


 クソッ、どうすればいい。


「別に命を奪わなくても、王子に近づかなければ良いのでしょう? その人物の立ち位置的に殺せば王子を煽ることになる可能性がありますよ結果的に。国外追放が妥当かと」


 ロミオとジュリエット現象だ。難敵があればあるほど恋は燃え上がる。勝手に燃え上がってろ第一王子。


「その人物の立場からして、それが関の山だろうな」


 そうだ。巴はこの国の民を救った英雄の一人であり、殺す必要はない。あちらも穏便に済むならそうしたいだろう。


「それなら、僕に任せてくれませんか? 悪いようにはしませんし、僕にとってもそちらのほうが都合がいい」


「そうか。協力くれるのか」


 頷く。


「なら、誓え。黒の勇者の名に」


「勿論。黒の勇者の名と僕の相棒巴の名に誓おう」


「それは……信じよう。そして、成功した暁にはお前にこの国の屋敷でも与えようか。女か、それとも武器か」


 いや、どれもいらないな。邪魔だし、屋敷とか。


「無事にお家に帰れたらそれでいいですよ」


「! そうか……」


「ええ。十分です。ところで僕らはどうすれば? その人物の罪を認めて国外追放で?」


 巴が罪人となれば、第一王子の諦めもつくだろう。


「そうだな。証拠くらい持っているのだろう。それを持って我らに同調してくれればいい」


「了解。というかあなたも誓ってくださいよ。僕らを裏切らないって。王妃様に」


「……よかろう」



 よし、これで寝れる。そろそろ帰ってくれ。


「さらばだ」


「はい。おやすみ」


 その後二三話して、やっと、去っていった。


「ごめんね、巴」


 この作戦の問題は、巴に不名誉を背負わせてしまうということだ。

「んーん。大丈夫だよ。満が考えたんだから、間違いない」


 巴が俺の首に顔を埋める。どうやら巴は許してくれるようだ。


「眠い」


「寝よっか」


 改めてベッドに戻る。これ、みんなに伝えとかないとな。











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