61話 「満、人に気に入られるの得意じゃん」
ちょっとずつ誤字修正や書き直しなども行っております。内容が変わる事は無いのでご安心ください。
『只今戻りました』
『よく戻りました。どうでしたか?』
『民は無事なようでした。調子はどうですか?──母上』
『代わりありませんよ。相変わらずあの人は私のもとになど来ませんが。居てもつねに機嫌が悪そうです』
『父上にもお考えがあるはず……』
『あるというならば、何故メイド如きにうつつを抜かすのです。あぁ、嘆かわしい。子を産んだら私は用済みですか』
『そんな……』
修羅場なう。
トールフに言葉を訳してもらいながら聞く。
俺が陰陽術を使ったりシンクと話したりするのはもうスルーされるようになった。
第一王子は、母上……つまり王妃に会いに行ってるらしい。それにしてもなんだ、この親子なのに緊張感のあるつまらない会話は。普段からこんななの? それともこれが普通? 親のいた経験が殆どない俺にはわからない。
というかあの王様、メイドに手ぇ出してるのか。意外だな。そういうの興味なさそうなのに。
それとも、王とはメイドに手を出さざるおえない種族なのか? だったらなおさら、巴を第一王子にやる訳にはいかない。
「んー、特にいい情報ナッシング」
俺達についての話題は無いな。まぁ、この空気で思い出話とか自分の意見とかは出しにくいな。あんまり聞いてくれなさそうだ。
『ところで、どうなのです。あの人の客人たちは』
あっ、王妃様から話を振ってくれた。
『中々に面白い者たちです。なんでも、黒の勇者だとか』
『ふん、馬鹿らしい』
だよな。俺もそう思う。何なんだよ、黒の勇者って。
「黒の勇者ってなに?」
「獣人なら一度は聞いたことのある御伽話だな」
それ信じちゃったってこと?
『しかし、余りに共通点が多いのです。容姿だけでなく、その全てが』
何言ってんだこいつ。
『仲睦まじい勇者と女戦士、蛙が守護神として憑いています』
やめとけやめとけ、いい年こいて夢みんなって言われるぞ。
『なるほど……今度連れてきなさい』
えっ!?
「えっ」
「どうしたの?」
「王妃様に呼び出される」
「えっ」
どうしたもんだか……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「モヘンジャロモ」
「何言ってんだこいつ」
巴よ、今それどころじゃないんだ。
「あ~。困った」
「満、人に気に入られるの得意じゃん」
「得意そうですわね」
そんなこと無いぞ。
「マジで得意だよ。満」
「へー、そうなんすか」
「いーや、身分が高すぎる。それに、何の話する予定なんだ?」
声だけでよく分かんなかったけど、お后様も黒の勇者伝説に興味が出たのか? どういうことだ? 行ってみないと分からない。
「モヘンジャロモ」
魔法の呪文だよ。みんな言ってみよう。
「モヘンジャロモ」
「も、モヘンジャロモ?」
ブッカが首を傾げる。
「いいことが起こるお呪いだよ」
『そうなんですか!』
お、シンクが信じた。
「また嘘言ってるっすね!」
『そ、そうなんですか!?』
分かってないねぇ。シンクが俺のことをすごい目で見てるじゃないか。
「いやいやアキルク君。『病は気から』という言葉があるように思い込んでたら案外本当のことになるってあるんだよ」
そうやって噂話から誕生した怪談もあるんだよぉ? そういうのって割と厄介だったりする。信仰心があるからこそ神は力を持つしね。
「ほんとっすか?」
「信じなきゃ始まんないさ」
「適当に言ってますわね?」
なんでみんな信じてくれないのかな〜。
「普段の行い」
「そんな悪い?」
「どうだろ」
巴も分かんないんかーい。ブッカも混乱してるからやめよう。
「とにかく、信じたきゃ信じればいいさ」
「なるほど! 信じる!」
「いい子だ」
何この子めっちゃ純粋。そのまま育っておくれ。
『わ、私も!』
「よーし、お前もいい子だ」
「なぁ、その守護神ってやつ本当にいるのか?」
「いるよー。でも、この世界に姿を現せるのは少々の厳しい掟と制約とお約束を守んなきゃ聞けなくてね。条件も多いんだよ。それに本人の意志がないと駄目だし? だから残念なことにちょーっとお見せできないというか何というか──」
「失礼します」
およよ。早速お呼び出しか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「行っちゃったっすね……大丈夫っすかねぇ」
満と巴、そして何故かブッカが呼び出されたあと、アキルクがそわそわと辺りを見る。
「落ち着いてくださいまし。モヘンジャロモ、モヘンジャロモ」
しかし、クラリーヌは落ち着いている。
「モヘンジャロモ……」
「ミツルさんなら大丈夫ですわよ。人間関係で大失敗はしませんわ」
それは、クラリーヌのミツルに対する信頼にある。
「考えてみてくださいまし。種族も立場も違う獣人の方達とすぐに仲良くなりましてよ」
スルッと仲間に入り信頼を得たミ ミツルをクラリーヌは評価している。
「確かに、ウチの村も上手に説得してたよな」
「確かに! とても納得できた。私と、話すときも、悪くない……よかった!」
トールフとミーユも納得したように頷いた。
「なるほど、前に『交渉とか苦手』って言ってたんすけどね……」
「トモエさんが『対等な立場での交渉が苦手』って言ってましたわよ。『交渉が苦手っていうかあんまりやったこと無い。存在を自分の支配下に置くことは得意』って言ってましたわね」
それ以上は、教えてくれなかったらしい。
「物騒だな」
「でも“相手の心を折る”とかそういうのが得意って言われたら納得できるっす」
「そうですわね」
「あー、それなら分かるわ。オレも心折れそうになったな」
「トールフ、何されたの!?」
ミーユが驚愕するが、トールフの反応は要領を得ない。
「なんか酷かったの覚えてる……」
「トールフ!?」
「ま、オレも酷かったんだけどな」
「そうなの?」
「がー、まぁあとで話す」
あの日は、トールフにとって黒歴史のようなものだ。特にミーユの前では言い辛い。
「とにかく、無事に帰ってくるといいな!」
その言葉に、その場にいる全員が頷いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「面を上げよ」
「「「はっ」」」
すでに帰りたい。最近跪きすぎてない? 権力に尻尾を振らないスタンスの死渉としてはどーなのってレベル。でも、礼儀的にはこうしないと駄目なんだよな。なんでも逆らうだけがいい事じゃないし。そんな事を思いながら頭を上げる。
王妃様は既に椅子に座っていた。
ここは、ベランダのような場所でテーブルセットとお茶が用意してある。けっこういいやつなのではないか? これ。趣味もいい。
「これは私的なお茶会だから、そう畏まらずとも良い」
なるほど、第一王子は王妃様に似ているのか。豹のような耳をしている。顔つきは、厳しそうだが美しい。
「ありがとうございます」
こういうのってさ、どっからどこまでが社交辞令なのかわかんないよね。文化が違いすぎてもう帰りたい。迷宮に帰りたい。全て忘れて巴と読書したい。
俺から席につく。
「その、今回はどのようなご用件で?」
かしこまらずともよいって言われたんだから、ちゃっちゃと済ませちゃいましょー。
そう言うと、王妃様は身体を強張らせた。どういう事だ?
「そ、それより貴方は本当に男ですか?」
「男ですよ」
「失礼なことを聞きました……」
「いえ、よく間違えられるので」
なんでだろ~な。お母さんに〜似ちゃったから〜。コピーかなってレベルで〜似ちゃったから〜。
「これでも、それなりに強いんですよ」
力こぶをつくる。
「それは聞きました………」
気まずい沈黙。お茶を飲む音だけが響く。
ブッカは緊張でそれどころじゃないし、巴は喋る気がない。
うーん、もうちょっと打ち解けないとだめだな。
「いい香りのするお茶ですね」
「でしょう? 遠い国からわざわざ取り寄せたのです」
「そんな珍しいものを……ありがとうございます。美味しいです」
これは、お世辞ではない。このお茶めっちゃおいしい。
「僕、こういうのにはあんまり詳しく無いんですが……こんなに美味しいお茶を飲んだのは初めてなんでびっくりしちゃいました」
「そうかそうか。この菓子も食べてみるといい。私の一押しですよ」
そう言って、クッキーを勧めてくれる。食べてみよう。お、この世界で食べたお菓子系の中で一番美味しい。巴とブッカも、美味しそうにしている。巴が死んだ目を輝かせた。
「わぁ、花の香りがする!」
何の花だろう……。
「よく気づきましたね。冒険者は不粋な者が多いと聞きましたが、貴方はそうでないようですね」
「えへへ、ありがとうございます。殿下のセンスがよろしいので、僕でも気づけたんですよ」
調度品の一つ一つも派手さはないけどいいものばかりだ。
「初めて言われました。夫や息子にも言われたことなかった」
「そうですか? 意外です。
ほら、こういうベランダってすぐ汚れるじゃないですか。でもここはキレイだし……勿論、お掃除している人が頑張っているからですけど、持ち主がちゃんと見てないとどうしても駄目じゃないですか。だから、几帳面でちゃんとした人なんだなって思ってたし、ティーセットとかも、派手じゃないけどおしゃれなものを使っててセンスがいい方なんだなって感じました。
きっと、陛下や王太子殿下もそう思ってるはずですよ。恥ずかしくって言えないだけですよ」
おっと、喋りすぎた。
「すいません、話し過ぎちゃいました」
「そう、でしょうか……」
ん?
「夫は、私の事など興味ないと思います」
「え?」
「実は、あなた達にそれを相談する為にここに呼んだのです」
えっえっ、どういうこと!?




