60話 間に合ってると思いたいお正月番外編 「平和にコマ回しするっすよ」
あけおめことよろです!
「これで一年も終わり、か」
唐揚げをかじる。冷めてきたのでそこまで美味しくない。
今年も残すことあと数分。この世界にテレビは無いので、だらだらと語り合って過ごしている。
「色々あったね」
「そうだなー」
異世界に召喚されて……あれ、誰に召喚されたんだっけ? まぁいいや。冒険者になって仲間ができていろいろあったよ。ほんとに。
『み、みつるしゃん………あっ、駄目ですよ………おにくをばら撒いちゃだめー!』
コイツとの出会いも衝撃だったな。
シンク、今は俺の足を枕にして変な寝言を言ってるチョロ雑魚ダンジョンマスター。俺の名誉のために言っとくが、俺は肉をばら撒いたりはしない。
「去年の私はまさか、自分が貴族を辞めているなんて思ってもいませんでしたわ」
「人生何あるかわかんないよね」
巴がクラリーヌを見る。
「私も友達と仲間ができるとは思わなかった」
「そうですわね。わたくしも、心から友達と思える人ができるなんて、考えたこともありませんでしたわ」
この二人に友情が生まれたのは驚きだ。というか、女子三人で楽しそうに話しているのを度々見かける……さ、寂しいなんて思ってないんだからねっ!!
「自分、良かったっすよ。ここに来て、皆さんに会うことができて……ぐう」
う、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。なんかこっちが恥ずかしくなる。
「ほら、無理するなよ。もう寝るか?」
だから、その感想は言わない。
「はつひので見るっす……」
「あー、じゃあそん時になったら起こすから」
「ありがとうっす………」
早寝早起きのアキルクが寝落ちした。
クラリーヌがしんみりと言う。
「健康的ですものね。わたくしも見習わなくては。不健康はお肌にも悪いもの」
「そうだなー。てかクラリーヌっていつ寝てるの?」
これはいつも思ってた。徹夜多くない? この子。
「わたくし、元々そこまで寝なくても大丈夫な体質ですの」
「はー、ショートスリーパーなのか」
「ショートスリーパー?」
「あぁ、短い睡眠でも大丈夫な人のこと。逆がロングスリーパー」
「お二人はどうですの?」
「「短くても平気だけど、全部終わったら寝だめする」」
大体、依頼のときはおちおち寝てられないのだ。ねぼけてる隙なんて無い。
効率よく眠ることはできるけど、それはそれとして長ーく眠るのも好きだ。
「そうですの……」
「訓練でどうにかなるよ」
「なるほど……!」
そうやって、一年の終わりを過ごした。
「あ」
時計が鳴る。
「年明けですわ」
「明けましておめでとう、満」
「今年もよろしくな、巴」
仲間もいて、隣には巴がいる。良い年になりそうだ。
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さて、日本にも文化があるようにこの世界にもお正月の独自の文化がある。
だから、俺達の日本文化、クラリーヌのヨルタル王国文化、アキルクのビーダンファス族の文化の三つの混合でやる。
かなりシンクに頼った。日用品みたいなものだったら、少ないポイントで出せるらしい。どこぞのダンジョンマスターが毎月ポイントをくれるからガッポガッポだ。
門松の隣にはアキルク持参の人形。おせちの隣にはヨルタル王国で縁起が良いとお正月に食べられる料理が並んでいる。
「はつひので、いいっすね!」
「だろ? 今年初めての太陽だぜ」
「なんだか神聖な感じがしましたわ」
『きれいでした……』
このあと、ビーダンファス族のダンスを教えてもらってお正月遊びをしまくる。マーレイの手綱も放しておいた。最近にんじん食べすぎてないかマーレイ?
「に、人間じゃないっす……」
「失礼な……」
「確かに満がこれまでにした発言の中には鬼畜と思えるものもあったけど一応人間なんだよ、彼も」
巴がなんかひどいことを言う。
「いや、お前も含めて人間じゃない呼ばわりされてるからな!?」
そんな俺達の手には五枚目の羽子板が握られている。
「お二人の身体能力は知っていても驚愕させられますわ」
「そんなに?」
俺達はただ、羽子板をしていただけだ……目にも止まらぬ速さで。うん、異常だね。四枚板砕いちゃったもんね。
『わっ、よっ、ほっ!』
シンクは一人で羽つきをやっている。シンクにしてはなかなか上手い。
「巴……勝負は終わってない、ぞっ!」
出し抜けに羽を叩きつける。戦闘で巴に一本取ったことは未だかつて無いがこういうゲームだと、いけたりする。引き分けでは終わらせない。
「上等……!」
普通に対応されてしまう。この羽ももう何個目かだ。
スマッシュ、搦手、正攻法……。
「あー、つっかれた!」
とうとう、10個も板を壊してしまった。
『もー、自重してください!』
シンクに怒られてしまった。
「ごめんごめん。やー、しっかし引き分けかー」
「次は勝つ」
「俺が勝つ」
いくら巴でも、勝利は譲れない。それでこそ死渉だ。争い勝負に血が騒ぐ。
「平和にコマ回しするっすよ」
みんなとっくの昔に、羽子板以外の遊びを始めた。
「知ってるかアキルク。コマ回しでもできる勝負があってだな……」
「いい加減にしてくださいっす」
「はい」
いや、ついね。ついつい。
外の空気を吸いに、迷宮から出る。後半は、それぞれの正装を着ることになった。俺の式神であるシンクと俺と巴は着物。クラリーヌはいつもよりいい洋装だし、アキルクは民族衣装。
「いい正月だぁ」
「そうだな。やっぱ祝い事は騒がしい方がいいよ」
巴を見る。太陽に照らされて、きらきら光って……とても綺麗だ。
「どうしたの」
「いつもは可愛いけど、今日は一段ときれいだと思ってた」
「ありがと………あ、満」
「ん?」
「髪の毛、伸びてる。結んだげるから屈んで」
「はいよ」
そういえば、こっち来てからそんなに頓着してなかった。肩につくかつかないかくらいの長さになってしまっている。切らねば。
それはそうと、巴のちいさな手が触れる感触が心地良い。
「はい、ちゃんと男に見えるよ」
失礼な。俺はいつも男らしい。多分。
「いつもが男に見えないとでも言いたげだな」
「いつもは可愛いもん」
すごい複雑な気持ちになってる。褒めてるんだろうけどさ。可愛いもんって……巴の方が可愛いもん。
「ん、でも今日はかっこいいよ」
「ありがとう」
なんだか、照れてしまった。巴に褒められるのは、どんな事でも嬉しい。
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「明けましておめでとう! みんな、去年はありがとう。今年もよろしくお願いします!」
パーティリーダーである俺が音頭を取る。はい。リーダーなんです。アキルクじゃないんですよ。ウチのリーダー。
「昨日は言えなかったけど……俺も、皆に会えてよかったと思っている。ここに来て、出会って一緒にいるのが皆でよかった。そう思っている。これからも宜しくな!」
異世界に来て、幸せに暮らせているのは皆がいてこそだ。ここが大切な人たちがいる大切な場所だ。リーダーとして、皆を守っていこう。
「よし、今年も頑張るぞ!」
具体性のない目標。でも、このパーティはノリで動くのが似合うと思うんだ。破天荒に元気よく。
「「「「『おーー!!』」」」」
今年も1年よろしく!!




