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6話 「巴、何も言うな……俺も我慢している」

 






「“漆黒の翼”のリーダー、闇に舞いし背徳の剣、“孤独の鷹”!」


 黒いマントを纏い、腰には漆黒の鞘の剣を刺した、鷹をモチーフとした目元だけ隠すタイプのかっこいい仮面、つまりハーフマスクを付けた男がポーズをとった。

 パーティメンバーいる時点で孤独じゃないと思うんだ。


「“漆黒の翼”のサブリーダー、不断に構えし暗黒の盾……“虚無の鷲”」


 その隣にいた、身体の大きい、しかし孤独の鷹さんと同じような服を着た鷲をモチーフにしたハーフマスクを被った男も、ガバッとポーズをとった。


「“漆黒の翼”のシーフ、刹那を()びし妖艶なる瞳“狡猾な百舌鳥(もず)”」


 次は女の人の声だ。やっぱり黒い服に鳥のハーフマスクをつけてポーズをとっている。


「“漆黒の翼”のヒーラー、深淵に堕ちし悠久の黒い光(ブラックライト)“禁断のブラックスワン”」


 この人も女性だ。格好については、想像できるだろう。


「“漆黒の翼”の魔術師、闇の叡智を極めし破壊の杖“混沌の梟”!」


 最後に、真っ黒なローブを羽織った男の人がポーズをとった。梟のハーフマスクをしている。


「「「「「闇夜の支配者、ここに参上!!! 何も知らぬ雛達よ、真の闇を知るがいい!!」」」」」


 そして、背後が特撮のヒーローみたいに爆発する。ここが草原じゃなかったら大惨事だったよ。手が込んでるなぁ。


「満……」


「巴、何も言うな……俺も我慢している」


 今、俺達の顔は色々堪えてるせいで大変なことになっているだろう。キャラが濃すぎる。


 しかし、この人たちの怖いところは『厨二病w乙www』と馬鹿にできない身のこなしだ。さすがはA級パーティだと納得できる、洗練された動きだ。


「このあとに恥ずかしいな……えー、ソロのD級冒険者のソムリラー・リッパーです。

 大して強くはありませんけど、経験だけはあるんでよろしくお願いします」


 次に出てきたのは、30代くらいに見える、古びた剣を背負った、気の良さそうな普通の男の人だった。

 アレを見たあとだと、彼がものすごい常識人に見える。


「F級パーティの完璧な円(アブソルートサルコウ)のリーダー、ミツル・シワタリです。

 今日は無理を言ってお越しくださってありがとうございました」


 昨日、熾烈なじゃんけん大会により俺がリーダーになるのが決定してしまった。ちくせう。


「トモエ・シワタリです。よろしくお願いします」


「いーよいーよ、ぶっつけ本番のほうが怖いもんな。

 新人のうちは警戒心のある方が生き残りやすいからいい事だよ」


 このソムリラーさんは、話しやすくていい人だった。


「ふんっ、遥か遠くから来た憐れなる仔羊共よ……愚凡よりは些か賢い貴様らには解るだろうが、そのような襤褸(ぼろ)切れではか弱き身を守ることは出来ないのだ。

 ついてこい。特別に我らの闇の工房を紹介しよう。そこの矮小な男も共に来い」


 孤独の鷹さんが、指パッチンをしてマントを靡かせながら歩き出した。

 ええーっと、これはつまり……


「俺達の装備が貧相だから装備屋を紹介してくれるんですか? ありがとうございます!」


「そうなの……? ありがとうございます」


 今の俺達の格好は、この世界では標準的な綿の服だ。

 召喚されたときに着ていたスーツは仕舞っている。

 いくら性能が良くても、あのスーツは目立ちすぎるからな。

 したがって、今の俺達は実に貧相に見えるだろう。


「ふんっ。魔獣の跋扈する地、迷宮に赴かないにしても、冒険者として大切だからなっ」


「ついてくるがいい!」


 この人たちも、いい人なのかもしれない。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「ここが我らの……」


「闇の工房だ………」


 漆黒の翼の5人につれて来られたのは、意外にも地味で、言葉を選ばなかったら廃屋とも思える小屋だった。

 煙突からあがった煙が、唯一ここに人がいることを示している。




 道すがら、この世界の武器について色々聞いた。

 地球と同じように、沢山の種類の武器があるらしいけど、銃などの機械類は無い。

 そして、特別な“魔器(まき)”と呼ばれる武器がある。

 それは、冒険者が迷宮で武器を落とし、それが長い間迷宮内の濃い魔力をその身に染み込ませ続けることでできた特別な武器である。ゲームでいう、ドロップアイテムだ。

 どこが特別かというと、普通の武器にはない性能──例えば剣から炎が出る──があり、そのどれもがレア物だ。

 魔器は人工的に作ることもできる。

 武器に魔力を人工的に染み込ませるのだ。長年使い続けるというのもある。

 しかし、それでは尋常ではない年月がかかるので、中に魔石を埋め込んだり、魔力の染み込みやすい、ミスリルやオリハルコンという希少金属を使う事が多い。錬金術師がそのような仕事を一手に引き受けているようだ。

 故に魔器はとんでもなく高額だ。金貨が何百枚どころか何千枚もいる。

 “漆黒の翼”さん達は持っているけど、ソムリラーさんは持ったことが無いという。冒険者にとって、憧れの武器のようだ。





「さあ、真の闇へ招待しよう! 開いてるか? 入るぞ!」


「ひゃいれ!」


 ちゃんとノックした後に、孤独の鷹さんが、ボロい扉をギシギシと開けた。





 中にいたのは、でっぷりと肥ったオヤジだった。店内は酒臭く、店主の顔も赤い。


「あのー、ここって……」


 とてもじゃないけど、武器屋に見えない。


「我らの秘密の武器屋だ」


 虚無の鷲さんが言うけど、武器一つも置いてないから!


「武器無いけど……」


 巴も困惑している。その気持ち、よーく分かるぞ。


「ふっ、まさかこの闇の武具をおいそれと凡人共に渡すわけにはいかないからな! 我らが認めた人間にしか出せないようになっているのさ!」


 混沌の梟さんがドヤ顔(雰囲気)で説明してくれた。

 つまり、一見さんお断りの会員制ってことか。


「へー、長いこと冒険者やってるけど、知らなかったなあ」


 ソムリラーさんも、知らなかったようだ。


「ふっ、当たり前だ。この事はごく一部の人間にしか教えていないからな」


「そんなの教えてもらっちゃって……ありがとうございます」


「礼はいらん。店主、客だ」


「ひゃく? あー、まってろ。おーい! ひゃくだひゃくー! ひっくうっぷ」


 そう言うと、店主はバタッと後ろに倒れ込んでしまった。

 それからすぐ、いびきが聞こえてきた。


 寝ただけかーい!


 とても不安だ。



「あー、はいはい。すいませんね、オヤジ、寝ちまったみたいっすわ。

 昨日、大作が終わったばっかでやっと禁酒解除したんですよ」


 すると、奥からガテン系の青年が出てきた。店主とどういう関係なんだ? 親子とか?


「そうか、この仔羊と矮小な男に武器をいくつか見せてやれ」


「あー、はい。でも、貴方が人にここを紹介するなんて珍しいですね。なんかあったんですか?」


「…………時が来ればわかる」


 孤独の鷹さんが静かに言う。


 どっち? どっちなの!? ガチッぽいけど、この人は厨二病入ってるからなんとなくカッコイイのを言っただけって可能性も十分あるからね! 気になって夜しか眠れない!!


「そうですか。まあ、深くは聞きませんよ………。

 どんな物が欲しいですか?」


「投擲見せて。あと、刀身が短い剣。

 予算は……どうする?」


「あんま使いすぎるなよ」


「んー、じゃあ金貨10枚以内で」


 巴が一番最初に言った。

 現在持っている金額は、金貨604枚。俺と巴で、302枚ずつ持っている。

 他人の物でない大金など産まれてこの方持ったことが無いので、実はいま、ちょっとだけ緊張している。


 俺が今持ってる武器は、俺は陰陽術に使う符と普通のナイフと十得ナイフ。

 巴はトランプとナイフだ。

 今まではこれで何とかなったけど、全然不十分だ。


「はいよ、じゃあこんな感じかな」


 巴の傾向として、大きな武器よりも小さいものを選ぶというものがある。

 だから、トランプやナイフを使う事が多い。

 大剣やライフルも一流レベルで使えるけど、使わないのは巴の戦闘スタイルがスピード重視の体術を基本としたものだから、小回りの効かない武器を好まないためだ。

 単純に、身長が小さくて大きい武器は邪魔だというのもある。持ち上げるぶんには問題ないんだけどね。

 あと、普段は持ち歩けないという日本の法律の壁。

 だから、巴の選んだものは、小さな投擲ナイフがいくつかとグラディウスみたいな厚刃の短い剣だ。


「これを選ぶとは珍しいっすね。若い人はもっと派手なのが好きだと思ってましたけど……。これ、いい武器なんで大切にしてやってくださいね。

 値段は、“漆黒の翼”割引で金貨6枚です。

 あ、試し切りした後にします? それ、結構重いんで」


 縄文杉より軽かったら巴は振り回せるよ。たぶん。


「うん。試し切る」


 巴が向こうで試し切りをしている間、俺とソムリラーさんは武器を選んだ。





「ソムリラーさんは、剣士ですよね」


「うん、ごく普通のね。

 それにしても、ここの武器は凄いね。質がいい。

 他の武器屋だと、これくらいの値段だったら、鉄を潰しただけみたいな、切れ味が最悪なのも多いんだよ。

 あ、これなんかいいな」


 ソムリラーさんが感心して言った。選んだのは、両刃の片手剣だ。お値段は漆黒の割引で金貨7枚。


「へー。あ、俺鈍器が見たいです」


「はいはーい。鈍器ですねー」


 俺の戦闘スタイルは、対人だと陰陽術はあまり使わずに改造した警棒で殴っていた。剣も使えるけどね。

 便利だよ、警棒。殴れば敵が沈むもん。それにうっかり刺し殺しちゃったなんていう事態になりにくいし。警棒とは言わないけど、そんなかんじのやつないかな。


 出されたのは、メイスやモーニングスターが多かった。でかすぎる。

 モーニングスターとか迷宮じゃ使えないよ。フレンドリーファイアしちゃう。


「お、これは……」


 金属でできた腕の長さほどの棒だ。持ち手は革になっている。分類は棍棒なのかな?

 この中で、一番いい。太さといい、長さといい、理想的だ。


「これにします」


「それにするっすか。漆黒の割引で、金貨6枚です」


 それも、予算内だ。今日はついてるな。





 試し打ちをしに行くと、“漆黒の翼”の5人が巴の相手をしてくれていた。

 少し見学しよう。俺は、側にあった椅子に座った。


「ふふっ、思わず最終奥義を使いそうなったよ」


 と言う狡猾な百舌鳥さんは巴に負けている。どうやら、武器を叩き落とされて首に剣を持っていかれたらしい。さすともだ。


「使っても良かったのに」


 巴が残念そうに言う。


「条件が揃ってたら使ってたのだ」


 狡猾な百舌鳥さんの足をよく見ると、バイブレーションみたいに震えていたが、それを見なかった事にするのが優しさだろう。


「使ってくれたら私も本気出せたのに」


「えっ……フッ、また剣を交えるのを楽しみにしている」


 冷や汗を垂らしながら狡猾な百舌鳥さんは言う。


「うん、楽しみ。いつにする?」


 巴は狡猾な百舌鳥さんの虚勢にに気づかない。やめてやれ。

 そんなキラキラした目(当社比)をしないであげてくれ。


「ちょっ……と、時が来ればわかる」


「そっか。余りにもゆっくりだったから、そんなもんかって思ってたから、よかった」


 巴が嬉しそうだ。(当社比)


「あぅ! そうに決まっているだろう! 我は“狡猾な百舌鳥”! 最初から本気など出すわけがないっ!」


 巴に悪意はない。許してやってくれ。他人の表情を読むのがびっくりするくらい苦手なんだ。天才故にそこら辺が分かってないのだ。

 昔よりはマシになったから、ね。しみじみと、巴の成長を感じる。


「狡猾な百舌鳥は我らが最弱。帰ったら鍛えなくてはな。

 自分の予想外の事が起きると必要以上に混乱する癖がまだ抜けていない。

 それにしても貴様らは、ただ者ではないようだな、昔、何かしていたか」


 孤独の鷹さんがこっちに来た。俺の隣に座る。

 そうか、狡猾な百舌鳥さん最弱なのか……え、ヒーラーより弱いの? ヒーラー強すぎかよ。


「まぁ、そんなところです」


「………そんな事より、変わった武器を使うのだ、なっ」




 うおう、びっくりしたぁ。

 孤独の鷹さんが振りかざしてきた鞘付きの剣を俺は避け、孤独の鷹さんの腹に正拳突きを叩きつけようとしたところで止まった。あっぶね。殴るとこだった。


「びっくりしました」


「なに、この仔羊はどれ程の強さかとおもってな。

 ふっ、冒険者でもこの様な状況で攻撃をしたら何もできないのだがな……面白い」


「プロですから」


 前の世界では、護衛業が多かった。いつ襲撃されるか分からない状況で、『急に殴られたから反応できませんでした』とは言ってられない。死渉家失格だ。次の日から、きつーいシゴキが待っている。生きていたらな。


「ふっ、そうか。実に面白い。

 気に入った。迷宮には潜るのだな」


「巴が良ければ参加するつもりです」


「楽しみにしている」





 そして、俺達は武器屋を出た。



 明日、ギルマスさんに参加の旨を伝えに行こう。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「「参加します」」


「いや、急すぎないか⁉ トイレで待ち伏せされたのは初めてだ……」


 次の日、俺達は朝一番にギルマスさんのところに寄った。

 トイレはゆっくりしてもらう事にした。

 俺達は、トイレの扉をバーンと開けて急に戦いを挑んでくる非常識極まりない叔父とは違うのだ。


「だって、トイレに居るって満が……」


「ギルドマスターの気配だったから……」


「こわっ」


 ギルマスさんに引かれた。

 俺は、巴より弱いが、こと“気配”を読むことに関しては巴を上回る。陰陽師だからな。


「怖くないですよ~。とにかく、迷宮の探索へは参加します! それを伝えたくって」


「……わかった。ありがとう。受理しておく」


「「ありがとうございまーす!」」





 さて、今日はどんな依頼を請けようか。


「どうする?」


「んー、迷子の猫探し」


 金貨3枚か。


「その後、薬草の依頼して、夜ご飯狩るか」


「うん。なに食べる?」


「見つかる獲物次第だな。できれば牛」


 すきやき食いてえ。


「すきやき」


「それ」


 依頼用紙を取り、受付に持っていく。




 なお、その日はビックブルという巨大な牛を狩った。

 かなり凶暴な種類らしく、また驚かれたけど、肉がしっかりしてて美味しかったな。

 調味料が無さすぎて、すきやきは見送ることになったけど、ステーキ最高とだけ言っておく。










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