53話 「う、うぅ……ここはどこ? わたしはだれ?」
「だからやめておけって言ったんすよ……」
アキルクが倒れ伏した兵士たちを治療する。その目には、諦めと同情があった。
「仕方ありませんわよ」
「そうだな。自己責任ってやつだぜ」
クラリーヌとトールフは割り切っている。
「ごめーんね?」
巴がコテンと首を傾げた。とっても可愛いが、その小さな手に握られた棒のせいで不穏な感じになっている。
それに、勝者からの謝罪はかなりの煽りだぞ。
「かわいい! 許す!」
可愛いからなんでもいいか。これは無条件で全世界から肯定されるレベルの可愛さだろ。
「楽しませてもらった。こちらがまだ鍛錬不足だっただけだ」
クマのおじさんがノソリと起き上がった。流石隊長、回復が早い。
「こちらも楽しませていただきました」
巴が頭を下げる。
なんてったって、俺らは脳筋。殴り合って友情を深めるのが作法なのだ。
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事の始まりは、鍛錬していたときの事だ。俺達の噂を聞きつけた獣王国の兵士たちが、ワクワクしながらやってきて、一緒に試合したいと申し出てきたのだ。
べつに、俺達が気に入らないとかじゃなくて、強者を好む獣人の好奇心だ。彼らは強そうな奴らを見ると、殴りかかるのが習性だ。そのきもちわかる。
「じゃあ私やる」
と出てきたのが巴さん。短槍程の長さの棒を担いでやってきた! ヒュー、かっこいい!
見た目の弱そうな巴に手加減気味だった兵士たちの態度は、一人の兵士のこめかみを巴の棒が一瞬で打ち付け昏倒させて変わった。
どうやら彼は、かなりの実力者だったらしい。
しかし、どれだけ本気になっても巴には敵わない。
ある者は足を引っ掛けられ転んだところを狙われ。
またある者は鳩尾をしたたかに打ち据えられ。
ある者は回し蹴りを喰らった。
1分以内でボコボコにされて今に至る。と言うわけだ。
「う、うぅ……ここはどこ? わたしはだれ?」
「しっかりしてくださいっす。あなたはここの兵士さんっすよ」
「わたし、へいし、おうじょうの……わかった」
怪しい。フラフラしてるもん。その他にも、獣人語でブツブツ何かを呟いている。
いいや。アキルクとクラリーヌに任せよう。隊長さんと雑談する。
この国では、一番広まっている言語である人の国の言葉を喋れないと駄目らしい。少なくとも、国では働けないという。
隊長さんも、かなり流暢な日本語(?)を喋っている。どこの世も世知辛い。英語みたいなもんなのだろうか。
「それにしても見事な腕前。どのような訓練を……?」
「3歳頃から色々とやってました。無人島に放置されたりした以外は、特に変わったものはやってませんでしたけど」
あれ許さんからな。なーにが『自力で帰ってこい』じゃ。巴と一緒じゃなかったら、ぜってー許さなかったからな!
「無人島⁉」
「島といっても、ほんと小さいんですけどね。俺達も幼かったんで、それなりに苦労しましたよ」
確かに自力で帰ってこれたけどさ。普通にいじめだよね。いかん、愚痴っぽくなった。
「……それは、すごい訓練をしたものだな……我が隊もすべきだろうか……」
「あ、いや。うちの家系ちょっとだけ力が強いっていうか特殊なんで、辞めたほうがいいと思います」
これで死なれて、文句でも言われたら困る。
「そうか」
「はい」
「満」
すると、巴の声が聞こえてきた。
「お、巴」
巴を引き寄せる。そして、その頭を撫でる。目の前に、隊長さんがいるから抱きしめたりはしないが。
「頑張ったなぁ。偉いぞ! めっちゃかっこよかったぜ!」
「やったぁ!」
隊長さんが微笑ましいものを見るような目で俺達を見る。
「仲がいいのだな」
「「はい!」」
その後、兵士たちとも交流して別れた。
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そんで、昼頃に王様によって集められた。
村の残りの獣人たちを連れてくるよう命令されたのだ。明日、出発だ。
メンバーは、ここに来るときの三人の獣人と“完璧な円”と、数人の兵士たち、それに…………我が宿敵第一王子だ。
良いやつだとは思っていたけど、無理やり巴を我が物にしようとするなら話は別だ。俺は国1つ敵に回してでも、それを阻止する。
「明日から宜しく頼むぞ!」
その後、隊長さんが俺の肩を叩いてきた。
「はい! こちらこそ」
「「「「「明日からよろしくお願いしまーす!!」」」」」
兵士たちがゾロゾロとこちらに寄る。実はあの後、色々訓練をしたりしてかなり盛り上がったのだ。
「皆さんが一緒とは心強いです。明日から頑張りましょうね!」
「「「「「はい!」」」」」
「ぼくも! がんばります!」
「お、偉いなブッカ」
ポンポン、とブッカの頭を撫でる。最近、ブッカが犬に見えてきた。鼠だけどさ。
「えへへ」
「あ、第一王子様」
そして、視界に入った第一王子に声をかける。くっそイケメンじゃねぇか。第一王子はライオンというより豹のようだ。
「ミツル、か」
「はい。明日はよろしくお願いいたします」
ふかーく深く頭を下げる。
「こちらも宜しく頼む」
「第一王子様のご迷惑にならないように……何かありましたでしょうか?」
害意を感じないし、一応目上の人間だから無視したけど、なんでこの人は俺の頭を下げる掴んでるんだ?
お? ケンカ売っとんのかワレ。俺が自分よりチビって言いたいんか? 確かに170cmだからお前よりちっちゃいけどさ。買うぞ? 言い値で買うぞ? そのケンカ。
「すまない。何でもないんだ……ただ、俺のことはレグナムと呼べ」
「はい。分かりましたレグナム様」
「それでいい」
そして、彼は満足そうに去っていった。
これは……あれだ。『俺と対等にケンカする事を許してやる』みたいな意味だろう。
フッ、そのケンカ買ったぜ! 巴は絶対渡さない。うちの娘は最高の男に嫁ぐという予定があるのだ。それは少なくともお前ではない!!!




