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51話  「巴! お前のことは俺が絶対守るからな!」

気づいたのですが、この章では登場人物のIQが、全体的に下がります。


 







「この後、どういう予定なんすかね?」


 食事中、アキルクがふと言った。


「恐らくだけど、残りの獣人達を迎えに行って、大儀であったって言われてさようならじゃないか?」


「わかったっす!」


「ぼくら、どこに住むのですか?」


 ブッカが聞く。俺にもわからん。


「村は、もう住めない。どこに保護されるのか、明日話し合う」


「そうだな。できるだけいい場所を貰えるようにしようぜ」


 トールフの言葉に、ミーユもコクコクと頷いた。


「悪い人じゃなさそうだったし、大丈夫だろ」


 巴の可愛さが分かる奴に悪い奴はいない。王様は知らないけど、第一王子が助けてくれるはずだ。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「おはよう! 朝だよ! 朝が来た!」


 意識が覚醒した瞬間飛び起きる。隣で寝ていた巴もムクリと起き上がる。


「あさだー」


 今日も今日とて特訓だっ!! 訓練場を使う許可は昨日貰ったんでな!





 死渉式兵糧丸を食べながら外に出る。そこには、ほかの皆もいた。

 アキルクとクラリーヌはいつも通りだし、獣人の3人も訓練したいと前から一緒にしてたのだ。

 獣人は強さを尊ぶからな。


「みんなおはよー」


「おはよう」


「おはようっす」


 ブッカがトテトテと近づいてきた。このネズミさんはやたらと俺に懐いている。


「おはよう、です! ミツルさん、今日もかっこいい……」


 この少年は俺の何に当てられたんだ? まぁ、かっこいいと言われるのは悪い気がしない。


「かわいいは死ぬほど言われたもんね」


「そうそう……って黙らっしゃい!」


 巴は全部知ってるよな。常に一緒にいたから……。


「そう。体育のとき、先生が真顔で『女子はあっちの列だぞ〜』って言ったのも知ってる」


「あれは傷ついた。その後『あ、え? あお、男……? へーはーほーふーん』とか言ってきたもんな」


「正直笑ったわ」


「そんなぁ」


「はいはい、いい子いい子」


「わーい」


「おはようございますわ。本日はどういたします?」


「クラリーヌは巴と組手。それ以外は基礎練習をするのじゃ」


 巴とクラリーヌがやっている事は、護身術の延長線のようなものだ。どうやら本格的に冒険者を目指し始めたミーユとブッカには足りない。


「わかったのじゃ」


 巴は最近、教えるのが上手くなった。前までは『ドーンといってバーンだよ』みたいな感じだったけど、今は『こうやってこうするんだよ』と論理的に説明できるくらいに進化した。

 ありがとうクラリーヌ。巴の友達になってくれて。ほんと少なかったからな、友達。


「よっしゃお前ら! まずは準備運動だ!」


 サボったら怪我するからな!





「はぁー、どんな体力してんだよお前ら」


 準備運動……すなわち体操筋トレ走り込みだ。この後、反復横跳びとか試合とか待ってるよ。


「続けてたら自然とついてくる」


 別に俺も、生まれたときからこの体力だった訳では勿論ない。ぶっちゃけ、体力だけの話をすれば、死渉でも小さい頃は普通とそこまで変わらない。練習あるのみだ。


「はぁはぁ、ちょっと、待つ、ください」


 ブッカが息を切らしている。ミーユも、何も言わないが相当疲れているようだ。


「よし、休憩!」







 獣人というものは、特徴が元となった動物に似せられるらしい。狼であるトールフは鼻がいいし、力も強い。それは狐であるミーユも同じだ。トールフには劣るが、普通の人間以上に素質がある。鍛えればいくらでも育つだろう。

 ブッカはネズミの獣人らしく非力だ。普通の人間よりは力はあるが、人並み。しかし、それを補う俊敏さがある。

 動くとき音がないし、“盗賊(シーフ)”向きではないだろうか。

 俺はシーフではないが、隠密なら得意だ。暗殺もどきもできる。ブッカに教えられることは沢山あるだろう。


 どうやら皆の息も戻ってきたようだ。水筒の水を飲む。


「そろそろ始めるか」


「はい! ぼく、何しますか?」


 やる気もすごいな。


「んー、じゃあトールフとアキルクは試合。ミーユとブッカはこっち来い」


 ミーユの剣の型を見ながらブッカに忍び歩きを教える。二人ともカンがいいから、そこまで苦労することはない。


 それにしても、さっきから視線を感じる。強いプレッシャーだ。でも、害意は感じないからいいや。







「ミーユ、もうちょっと小刻みに」


「はい」


「そうそうそうそう……で、足にも意識を集中させて。できればべつの動きも──」


「要求水準高くねぇか?」


 トールフよ。なに甘いこと言ってるのだね。


「ミツルさんは、無理はさせないけど限界の一歩手前は要求してくるっす。鬼畜ってやつっす」


 失礼な。


「アキルク後で俺と組手な。容赦はしない」


「ヒイイイイ、ごめんなさいっす!!!」


 途端にアキルクが震えだす。


「俺は女の子でも妥協しねぇ……」


「それでいいっ!」


 そう言ったのは、ミーユ本人だ。


「よぉし、本人にやる気があるのが一番だ」


「そんでブッカは何してんだ」


「気配を消してる。まだ気配があるぞ! 自分が石になったと思え! 誰の気にも留められない石ころ!」


 死渉にも、戦闘能力は微妙だけど気配消しだけ凄い人がいた。“透明人間”という二つ名のその人は、例え目の前に立たれても気づけない。例え女子更衣室であったとしても堂々と入っていけると本人は豪語していた。実際、国家機密がたっぷり入ってる金庫のある部屋にスタスタ入って気づかれなかったという。

 ………ウチの当主なんだけどさ。


 まぁいいや。


「一朝一夕で身につくものじゃないけど、訓練あるのみだから」


「そうか」


「ん?」


 その時、前から感じていた視線がより強くなった。

 背中で気配を探る………窓だ。窓から覗いているのだろう。これだったらそっち向いても偶然を装えるか。


 ふと、といった体を装い窓を見上げる。


「うわ」


 視線が合った……あれは……。


「獣王?」


 獣王がめっちゃ怖い顔でこっち見てる。こわっ。悪意とかは感じないけど、ただひたすらにこちらを観察するような、ある意味無遠慮な視線だ。

 獣王は俺達を見回すと、フッと笑いまた窓を閉じた。



「どういう事だ?」


 たまたまだろうか。しかし、それにしても観察し過ぎだ。俺達が珍しいのか。

 いや、じゃあ何で最後笑った? あれはどういう意味だ。

 こういうのは俺の領分だ。巴は他人の機敏な感情変化に気づけない。

 笑ったのは理由があるはずだ。何か面白いものを見つけたとか面白いことがあったとか……。


 その時、なんの前触れもなく俺の頭の中に第一王子声が響いた。昨日の一言だ。


『かわいい……』


 獣人、強さ、巴かわいい、家族、権力……。


「………そういう事かぁぁぁァァァァァァァ!!!!」


「どうしたんすか!?」


「ミツルさん?」


 皆が心配するがそれどころではない。


「俺は重大な事実に気づいてしまった」


「さ、さすがミツルさん!」


「ありがとうブッカ」


 どうする? 獣王の狙いは巴だ。きっと昨日のうちに、第一王子が根回しをしていたのだ。

 こういう感じだろう。


『父上! ぼくは一目惚れをしてしまいました! どうしても彼女を后にも迎え入れたい!』


『言ってみろ』


『あの天才美少女冒険者、トモエ・シワタリです!』


『ふん、問題外だ。人間の、それも冒険者を王家の血筋に入れることはできない』


『父上のいけず! でも獣人は強さを重視する! トモエたんの強さなら認められるはずだ!』


『ふん、ほざけ』




 そして今日………。



『どれ、あれがトモエか。余興ついでに見てみるか』


『なに! あの強さはなんだ! それに可愛い! あれは認めざるおえない! 后決定だ!

 フッ、面白いものを見た』


『わーい父上ありがとう!』






「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 巴の意志なく決定しただと⁉ 許さん!


「満? 大丈夫?」


「巴! お前のことは俺が絶対守るからな!」


「不覚にもきゅん」


 巴は第一王子如きに似合うようなタマじゃないんだよ!


 ………絶対に、巴は渡さない。












 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











 はぁ〜。推せるわ。


 獣王は、窓から訓練場で朝早くから活動する満たちを眺めてため息をついた。そのだらけ切った顔には、恐ろしさは欠片もない。


 恐ろしく冷徹で、そして圧倒的な力を持つ覇王。彼の周りからの印象は、常にそういうものだ。暴君ではないし、信頼できるいい王だが、恐ろしい。

 それは、力を尊ぶ獣人を治める上ではプラスだ。しかし、親しい者を作る上ではマイナスだ。


 事実、彼には友人と呼べるような人物はほとんど居ない。后にも恐れられ続けている。息子たちとの関係も、ギクシャクしている。


 しかし、彼は本来そのような周りが想像するような猛者ではない。

 どちらかというと、内向的で生き物やかわいいものが好きだった。趣味は人間観察と妄想だ。

 だが、次期獣王という立場がそれを許さなかった。


 国一番の強者で、果断に富んだ頼れる王。


 聡い彼は、それが周囲の望みだど感じ取り、そうなるよう生きてきた。生来の真面目な性格が、その道から外れることを良しとしなかった。

 元々の才能があったのも幸いして、彼は獣王を演じきることができた。

 顔だって作っているのだ。眉間にはシワを作り、口元は厳しく、元々恐ろしい細めの釣り目にも力を込める。

 時には皆を騙しているようで罪悪感に駆られるが、皆がこれを望んでいるのだ。最後まで演じきろう。


 しかし、本当の自分を封印しきる事はできず隠れてコソコソと可愛いもの集めをしたりしている。


 話を戻そう。



 彼は“完璧な円(アブソルートサルコウ)”をひと目見たときから気に入っていた。

 彼の趣味は人間観察だ。面白い人間を見たり、それで妄想したりするのが好きだった。妄想は自由だ。仲の悪い者同士が仲良くしている妄想をすると、その二人が喧嘩をしている姿を見かけても微笑ましく感じたりする。そして、そこから妄想が更に広がるのだ。


 そして、完璧な円は彼の性癖ドストライクだった。下品で不潔な冒険者とは思えない洗練とした身のこなしとしっかりした敬語だけでも興味を引かれるのに、ひとり一人のキャラが濃い。


 ヒーラーなのに筋肉ムキムキで強そうなアキルク。彼が一番冒険者らしいが、聞くところによるとかなり温厚な性格らしい。ギャップの塊ではないだろうか。

 錬金術師という冒険者にしてはかなり珍しいクラリーヌ。貴族から冒険者という経歴だけで妄想が捗る。あれだけ美しいのだ。何かあったに違いないという根拠のない妄想をしている。

 そして、ミツルとトモエ。クラリーヌと同じで冒険者に見えない。クラリーヌは戦闘要員ではないが、この二人は前線担当というのが驚きだ。しかし、それは浪漫(ロマン)だ。

 昔から、非力そうな者が剣を振り回したり強かったりするのは浪漫なのだ。異論は認めない。

 それだけでも推せるのに、2人の関係性が興味深い。

 従兄妹らしいが、それにしては距離が近い。しかし、恋人同士という訳ではない。同じ部屋で寝泊まりしたらしいが“そういうこと”はしていないという。天井に潜ませた密偵に聞いた。


「え、どういう事? 過去になんかあったの? 恋人とかそういうの超えた愛で繋がってるってことしんどい」


 早口でそう言う獣王の妄想は止まらない。もっと妄想の材料が欲しいと窓から訓練場を観察する。


「え、つっよ」


 強い。ミツルがミーユという狐の獣人に剣の捌き方を教えているが、その扱いが完璧だ。まるで人生を剣の道に捧げてきたかのような動きだ。

 クラリーヌに体術を教えているトモエも、人とは思えない反応速度でクラリーヌの投げた石ころをはじき飛ばしている。

 トールフやアキルクも強いが、それが霞んでしまう。

 身のこなしが獣人でも難しいようなものだ。数々の戦闘を義務として熟してきた獣王には分かる。彼らは強い。自分でも勝てるかどうか……。

 彼らは何者なんだ? 個人としての興味と王としての興味が累乗する。

 あれだけの強さなら、自分の国に引き抜くのもいいかもしれない。


 思わず窓を開ける。この距離ならこっそりやれば気づかれないだろう。


 その時───。




「えっ」


 視線が、合った。満の焦げ茶の瞳と獣王の獅子の如き瞳が合わさる。


(ど、どどどうしよう⁉ えー、でもミツルくんと目があっちゃった。わあぁぁぁぁぁぁぁ)


 驚きとそれに勝る喜び。推しと目があった。少しニヤけ、そんな顔見せられないと窓を閉めて早々に退散した。


 胸に確かな喜びを秘めて……。












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