38話 「計算上、こうしたら風に負けないということが判明しましたの」
短いです。修学旅行のノリで話してるだけなので全く話は進まず
「うん、それでワームの死体を燃やしてたんだよね。だから遅くなった。ごめんねー! あ、魔石もちゃんと取ってきたよ!」
「今、満は静かに壊れてるから」
巴が、俺をお姫様抱っこしながら言う。フゥー! 巴さん男前! さすとも!! 最高大好き!!
……って、失礼な。壊れてないからー! ちょっとテンション爆アゲなだけだからー!
「なんかテンションおかしいと思ったら……」
「どれくらいしたら戻るっすかね?」
「んー、少なくとも今日中には」
「テンション高いだけで他に支障はねぇのかよ」
「うん。何の脳内麻薬が出てんのか知らないけど、身体能力は若干上がってるから。少しだけ本能に忠実になるだけだよ」
「ふーん、そうかってうわっ! 待て! あっ……」
いえーい、トールフの耳がもふもふだ。よーしよしよし、ここか? ここなんだな?
「あふん……………じゃなくて止めろ!」
今、変な声出たよね? 出たよね?
「あー」
「本能に忠実って」
「そういう」
「事ですのね」
アキルクとクラリーヌが交互に言った。仲いいな!!
「そろそろ出発しないといけないから止めるよ」
俺は自制できる冒険者なのだよ。フッ!
自分の馬に跨る。よし、忘れ物なし異変なし。周囲の準備もオッケー! 巴いるー! うぇーい。
「行くぞー!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今日はここでキャンプだな」
叩きつけるような強い風に、馬が進めずここで野宿するしかない。シンクが、マントを吹き飛ばされないようにしゃがみこむ。
「クソッ、風のせいでテントが立たねぇ」
「お任せくださいまし」
クラリーヌが、自作のテントを広げる。錬金術師って何だろうって最近思うけど気にしない。
「計算上、こうしたら風に負けないということが判明しましたの」
「クラリーすげぇ」
「クラリーヌすげぇ」
「中で火を使っても宜しいですわよ」
おいおい、完璧じゃねえか。完璧な錬金術師じゃねぇか。
「トールフもおいでよ」
「悪いな。世話になっちまって。こういうのはオレが容易するべきだってのによ」
「困ったときはお互い様だよ」
『あぁぁぁあぁぁあぁ……吹っ飛ぶ〜』
「掴まれ!」
俺も、シンクを担いで中に入った。こいつも軽いな。
テントの中は思ったより広くて快適だ。魔法の鞄から、鍋を出す。あったかい状態だ。
「はぁー、この鞄はそういう使い方もできるのかよ。しかも、状態を保つなんて並の錬金術師じゃねぇなお前」
「うふふ、ありがとうございますわ。皆さんが上質な魔石を取ってきてくれるから、できる事でしてよ」
「へー。魔石の質なんだな」
「えぇ」
「よし、ポトフだぞー」
「パンもあるっすよ」
いつもより質素な食事だが、野宿でこれだけできたら上等だろう。今日みたいに風がアホみたいに強い日じゃなかったら、もっと色々できたけどな。
「まさか、野宿でこんなめしが食えるとはな。ありがてぇ」
「おかわりあるよ」
トールフが目を輝かせている。猫舌じゃないのかな。そこら辺は人寄りなんだな。
「あぁ、そうだ。言わなくちゃなんねぇ事がある」
「なんだ?」
「村のことなんだけどよ」
「掟とかっすか?」
「そうだ。オレがお前らを連れてきたら、みんな振る舞い料理を出すけどよ……その中にある黄色い果物だけは食うなよ」
「なぜに」
それってレモン? レモンなの?
「死ぬ」
「「「「『こわっ』」」」」
「あと、耳も触んない方がいいけど、尻尾だけは触るなよ」
「なにゆえ」
「求婚の合図」
あっぶねー。あのとき、俺が触ったの耳でよかったぁー!
「「「「『了解しました』」」」」
「だから、お前らもケツ触られねぇように気をつけよろ」
「それって……」
「求婚の合図」
気をつけよ。
「ねぇねぇ」
「なんだ?」
「あの時……満のテンションがおかしかった時にトールフの尻尾触ってたらどうなってたの?」
何を聞くんだ巴ぇ!!
「気になりますわね」
クラリーヌまでぇぇぇ!!
《わたしも》
シンクぅ⁉
「オレは別に、どうともしねぇよ」
「えー」
「意識してしまったりしませんの⁉」
「ねぇみんなやめようよ」
その団結力なに?
「どうだろうな。そん時になってみねぇとわかんねぇけど、獣人の風習しか知らねぇ奴は変な勘違いするかもな。オレも、一瞬はビビるかもしんねぇ」
『ふーん』
「ねぇ満、触ってみてよ」
そんな上目遣いしても駄目だからな⁉ うっ、かわいい。トールフが本当に一目惚れしちゃったらどうするんだよ!
「トールフが惚れちゃうでしょ?」
「いや、惚れねぇし」
「えっ」
薔薇なのペドなの熟女好きなの?
「落ち着けよ満。すぐ人をペド嗜好にしないで」
「もしかして……熟女好き?」
「ちげー!」
「え、じゃあ何? 言ってみなよ。お? お? お?」
「お? お? お?」
煽る煽る。トールフを煽る。
「もしかして〜好きな人がいるの?」
「誰?」
「ちなみにアキルクはぁー」
「あー、あー、やめてくださいっす!」
いいじゃないか、初々しい初恋。お前しかそのネタ持ってる奴はいないんだから。このパーティに。
『ペドってなんですか? ミツルさん』
「お前にはまだ早い」
「満、シンクになにを教えてるの……?」
「教えてねーよ」
シンクに教えるわけないだろ。
「ちなみに俺の好きな人はぁー、巴」
「私の好きな人は、満」
やったぁ! ふふふん。
「「きゃー、相思相愛!」」
ウチらズッ友だよね!! マジ卍!
「こいつら付き合ってんのかよ」
「それがなんと、付き合っていませんのよ」
「恋愛対象としては見てないらしいっすね」
そうだよ、家族愛だよ! 家族愛!
「意味わかんねぇな……」
『わ、私もミツルさんのこと、好きですよ……?』
「かわいい事言ってくれるなぁ!」
よーし、なでなでしちゃう!
『み、みんなの事も好きですし……』
「シンクがめっちゃ可愛い事いってる」
「え、マジ?」
「うん。『みんなの事が好き』だって」
「かーわーいーいー!」
「ほら、みんな言っただろ? お前も言っちゃいなよ。からかわないから」
トールフが赤くなる。
「す、すすすすすす好きな女なんていねぇし!」
「もしかして、村の中に好きな人がいらっしゃるのですわね!」
「ち、ちげーよ!」
クラリーヌご名答! この感じは幼馴染が初恋!
「あ、あああ、あいつはそ、そういうんじゃねぇ!」
この言い方はそうだろう。もう真っ赤だよ。シンクより赤いよ。
「あっそ、じゃあ俺がその幼馴染に求婚してもいいんだな?」
尻尾触っちゃうぞコラ。もふもふしちゃうぞ。
「やめろっ!」
顔が必死だ。好きなんだなぁ。
「すきなんでしょ?」
「そうだよ! 悪いかよ!」
「「「「『悪くない悪くない!!』」」」」
寧ろ応援しちゃうよー!
「え? どういうとこが好きなの?」
そこまで言うと、トールフはポツリポツリと語りだした。
「いつの間にか好きになってたんだよ」
「どういう方ですの? お相手は」
「向こう見ずな奴だよ……いつも明るくてさ」
「ふんふん」
「だぁー! なんでオレばっか話してんだよ! 恥ずかしいだろ!」
「俺、巴の好きなとこなら2000個くらい言えるけど」
「なんなんだよお前ら!」
『あはは』
「あはは」
そして、夜は更けていった。




