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37話  「あぁ、あの2人すぐに会話が脱線するんすよ。脱線しながら爆走、みたいな……」

 






「──火の札」


 手に持った札が燃えるが、俺は熱さを感じない。ワームをじっと見つめる。


「キシャァァァァァ」


 そして、威嚇するように開いたワームの円状に広がっている口目掛けて燃えさかるそれをぶん投げる。

 陰陽五行的に考えたら、恐らく“土”のものであるワームには“木”が強いんだけど、木は操れないしワームは生物だからな。

 うーんでも、火を使うことでワームが元気になっちゃったらどうしよう……。火は土を生じるしなぁ、相生だしねぇ……。

 無難に水で殴っとくべきだったかなぁ。でも、どこまで関係があるかとか調べたかったし。そんときゃそん時。巴もいるしなんとかなる。


「ギジャァァァァァァァァ」



 めっちゃ苦しんでるじゃん。よかった。


「っしゃ!」


 そのスキを見逃さずに巴がワームに飛びかかる。頭に剣を刺し、背中を駆け抜ける。

 一瞬遅れでワームの背中から、体液だか血液だか分からないような液体が飛び出てきた。きもい。


「ギャァ、ギャァァァァァ……オオォ……」


 ワームがもがき苦しみ、とうとうチンアナゴの如く地中に沈めていた身体の全てを地上に出した。


「「イモムシ!!」」


 分かっていたけどイモムシ。超イモムシ。イモムシ7割ミミズ3割。きっも。


「魔石は高そうだから割らないでおこうぜ」


「了解」


 ワームの頭部だと思われる部分に剣を入れる。毛も鱗も無いから、抵抗なく刃が通るけどその感触がなんとも言えず気持ち悪い。ぶにゅぶにゅ? とした感触だ。


 だからこそ一瞬で終わらせる。


「うげぇ」


 頭部を切断し、勢い良く飛び散る体液を避ける。


「やったか⁉」


「それフラグ」




 ズドン!




 頭の無いワームの身体がのたうち回る。傷口からますます体液が溢れ出て地面を汚す。うえぇ……。


「「フラグだ……」」


 何そのエネルギー。どこから湧き出てるの? そのエネルギーをエコとかに使えよこんちくしょう。

 もうすぐ死ぬんだろうけど、自然破壊のレベルで暴れているから今どうにかするべきだ。


「巴議員、提案があります」


「聞きましょう」


「動かなくなるまで切り刻もうよ」


「可決します」


 火の札でもう一回燃やしてもいいんだけどね、ワームがその間暴れて放火魔になりかねないから、やらない。


 深呼吸をする。




「「さっさと死ねぇぇぇぇ!」」








「火の札、火の札、火の札ァ!!」


 終わった。無我夢中で切り刻んだ。もしかしたらヤケクソで死狂(しぐる)いになってたかもしれない。変な興奮状態になってたかも、俺。


 今、細かくなったワームだったものを燃やしている。

 この大きさの魔物の死体を放置すると、ほかの魔物が死肉に群がって二次災害になるし、普通に環境破壊な上にくさい。

 今も、ニオイがすごいから風下にいる。


「ある意味脅威だったね」


 巴が焚き火を眺めながらポツリと言う。


「それな。ある意味もう戦いたくない……あ、体液が靴に付いた……」


 最悪だ。なんか、生物にあっちゃいけない色してるもん。フハハ、炭となって消え失せるがいい。魔石は確保したからな、お前の死体などいらんわ。


「拭く?」


「ありがとぉ……」


 巴に布をもらって、無駄に粘着力がすごい体液の付着した靴を丁寧に拭く。よかった、革製にしといて。布とかだったら染み込んでたに違いない。

 これは、どんなにズボラな人でも見逃せないぐらい気持ち悪い。

 ……よし、キレイになった。


「他に付いてない?」


 服とかが無事かどうか気になる。


「だいじょーぶ!」


「よかった」


「私は?」


 巴も気になったらしく、両手を広げてくるくる回りながら俺に見せてくる。かわいい。


「んー、どうかなー?」


 ここまでかわいいと、からかいたくなるのが人間だ。にんげんだもの、仕方ない。


「ついてるかもなー?」


「えっ」


 心配そうな顔をして背中を確認する巴……かわいい。誰でも、これを見たらキュンとしてしまうだろう。恋愛感情ないけど、ときめいたぜ。


「大丈夫、付いてないって」


「満のいじわる」


 巴が背中に、抱きつくように寄りかかって体重をかけてくる。ははは、軽い……軽すぎない? え、ちゃんと食べてる?…………今日も朝、ご飯8杯おかわりしてたわ。食べてる、でも軽い。

 死渉の人間は、普通の人よりカロリーの消費が大きい。だから大食いだし、太ることは殆どない。でも巴さん軽すぎなーい? まぁ、こんなちっちゃい身体であれだけの出力あったら、脂肪を溜め込む暇なんてないか。


「あげる」


 なんだか心配になって、死渉式兵糧丸を巴の口に放り込む。死渉式兵糧丸は、簡単な材料で作れるから定期的にストックしている。


ふまい(うまい)


「そりゃよかった」


「あげる」


 巴に兵糧丸をもらった。やったー。美味しい!


「うまい」


「そりゃよかった」


「んー、5分で終わらせるとか言って結構時間くっちゃったな……」


 巴が俺の首筋に顔をうずめて悔しそうに言った。休んでた時とは逆の体勢だ。巴の髪の毛が耳に当たって少しだけくすぐったい。

 あーら、集中が乱れてワームを燃やす火加減が狂ってしまいましてよ……燃えすぎ燃えすぎ、草に火が移っちゃうだろ。そうそう、もっと左ね。

 くっ、巴の髪がさらさらだからっ!……はい、精進します。


「んん……倒すまでの時間が実質5分だったからセーフ!」


「そう?」


「うん……あ、そろそろいい頃合いだな。土の札!」


 土を操る。手の形を土で作ってその中に、ワームを炎ごと封じ込める。はい、鎮火。そして、それをそのまま地面に沈めて……。


「何事もなかったかのような風景ができマース!」


 ついでにワームが荒らしまくった地面も整備する。


「おぉ〜。すごい」


「へへん」


「いいこ、いいこー」


 わーい、巴に褒められた! わしゃわしゃと頭を撫で回される。んふふ、嬉しい。


「前より道も綺麗になったじゃん。すごいねぇ」


「気付いた? やったぁ!」


 そして暫く、抱きしめ頬ずりする巴のされるがままになっていた。ふはは、死渉家に生まれてよかったー!










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「5分で終わらせるとか言って全然来ねえじゃんか! ガダルマス(くそったれ)!!」


 トールフが頭を掻いた。満と巴にワームという強い魔物を任せてしまった事が不安なのだ。

 満と巴が強いのは知っているが、ワームは厄介な魔物だ。2人で大丈夫なのだろうか。


「大丈夫っすよ。すぐ戻っくるっす」


 しかし、彼らと同じパーティのアキルクとクラリーヌは飄々としている。


「心配じゃねぇのかよ!! 仲間だろ⁉」


 完璧な円(アブソルートサルコウ)は、仲のいいパーティだと思っていた。なのに、この冷め具合はなんだ。トールフの頭がカッと熱くなる。彼は、仲間を簡単に見捨てるのが嫌いだった。だからこそ、2人を置いていったことに罪悪感を感じている。


「わたくしたち、あのお二人の強さはトールフさんよりも、よく知ってますの。信じてくださいまし」


 クラリーヌが静かに、しかし強い意思を持った言葉で反論する。その気迫に気圧され、トールフも黙った。


「あの2人を、常識で測ったらダメッすよ。ロックバードを一撃で仕留めてたっす」


「ロックバードぉ⁉」


 アキルクは忘れない。まるで、スライムでも仕留めるような気軽さでランクの高いパーティが挑むような魔物を、いとも容易く殺した巴の事を。

 そして、『みんなも魔物を仕留めたから俺もやんなきゃね!』というノリであっさり魔物を見つけ出し、仕留めた満の笑顔を。


「オークキングも首をバキって……」


「オークキングぅ⁉」


 普通だったら、周囲に自慢しまくって讃えられるような功績をついでのようにやってくれるのだ、あの二人は。


 トールフが口をパクパクさせる。頭の中では様々な思考が飛び交っているが、驚きで言葉にならないのだろう。


「だから、安心してほしいっす」


 《しんじて、ください》


 それまで黙っていたシンクという奇妙な格好をした少女からも、圧倒的信頼感が溢れ出ている。


「そうか……」


 本当にそんなおとぎ話のような事を片手間でしたのなら、トールフの心配は野暮だ。


「それに、遅いのは脱線しているせいだと思いますわ」


「脱線?」


「あぁ、あの2人すぐに会話が脱線するんすよ。脱線しながら爆走、みたいな……」


「それって……」


 その時、声が聞こえた。


「おまたせ〜!」


 振り向くと、満を横抱きにしてこちらに向かってもの凄いスピードで走り寄る巴の姿があった。


「「普通逆では⁉」」


「「だってこっちのほうが速いんだもん」」


 やっぱこいつら仲いいわ。トールフはそっとため息をついた。










変な死狂い方をしたので、後半の満のテンションは割とおかしいです。安い酒に酔ったみたいな。

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