33話 「つまり、ビックビーフが欲しいんだな! やるもんか!」
3章始まりです!
「クセになってんだ、音殺して動くの」
巴が音を殺しながら近づいてくる……名ゼリフバトルがお望みか。
読みかけの本を閉じる。
「俺のものは俺のもの、お前のものは俺のもの」
「……あまり強い言葉を遣うなよ。弱く見えるぞ」
「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」
「安西先生……!!」
「バスケが、したいです……………」
膝をつく俺、立つ巴。名シーンの再現だ。
「何してるんすか」
限界までしごかれて疲れ果てたアキルクが、呆れたように突っ込む。
「「暇!!」」
「今日は土砂降りですものね……」
クラリーヌが何やら実験道具を弄りながら言う。
俺達は冒険者だが、毎日ギルドに行かなくてはならないほど困窮してはいない。一年くらい何もしなくても、生きていける財力はある。
本日はまるで、バケツの水をひっくり返したかのような土砂降りだ。だから、ギルドに行きたくない。故に行かない。
雨水の大きさおかしいもん。俺、か弱いから風邪引いちゃう。
こう雨がふっていては、いい依頼も無いだろう。魔物も休んでいるはずだ。しかし、何もないと暇だ。
訓練をしたり、本を読んだりしていたのだがそれも限界がある。
《トランプします?》
「「「「しようか」」」」
トランプ大会の始まりだ。
「はい、上がり」
「くっそ、ババ抜き5連勝とか強すぎだろお前……」
強い、巴さん流石強い。何だろうね。運がいいっていうかさ、勘がいいよね。戦闘における勘の良さの無駄遣いだよね、うん。1回休もうよ、勘。
結果は予想通り巴無双だ。こいつが苦手なゲームは、リ○ム天国くらいだろう。なんでも、他人のリズムを押し付けられてる感じが苦手らしい。
ちなみに、死渉家でゲームをすると全員が動体視力が良すぎて、全てがゆっくりに見えるから勝負にならない。寧ろ、こっちのスピードに機械が追いつけない事がある。
閑話休題
「ババ抜きもジジ抜きも7ならべも大富豪も神経衰弱も全部やった」
それから暫く経って、トランプも飽きてきた。
「うーん」
「やる事無いっすね」
「もう一回シャトルランでもするか」
走るか。
《いやです》
「難しいですわね」
そっかー。えー、じゃあ……。
「はい、アキルク! コイバナして」
俺と巴は無いし、シンクも無い。クラリーヌも無さそう。よってアキルク。
「えっ」
《しりたいです》
「聞きたい」
「それは気になりますわね」
「えぇ〜」
「無いの? 有るの?」
「な、無くはないっすけど……」
そんなぁ〜とばかりに困り顔のアキルク。皆の期待の視線に負け、ポツリポツリと語りだした。
「ちっちゃい頃の話なんすけどね──」
で、コイバナして遊んで、珍しく非生産的に一日を終えたのが昨日。
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「一目惚れした。オレの女になれ!」
そして、得体のしれないケモミミ男に巴がプロポーズされたのが、今日。
ビシッと巴を指差し、少女漫画にありそうな俺様な発言をする。狼みたいな耳が生えた頑固そうなイケメンだ。
「……だってさ、満」
「ナチュラルに俺に擦り付けんなや……だってさ、アキルク」
諦めろよ、女って言ったじゃん。取り敢えずアキルクにキラーパス。
「いや、自分の顔見て男って思えるの? 勘違いした可能性あるよ」
どう見ても女じゃんとでも言いたげだな! チクショウ!
「自分に擦り付けんのもやめてくんないすかねぇ⁉………そ、そうらしいっすよ……クラリーヌさん」
言いにくいんなら、無理して言わなくていいんだよ? キャラ的にクラリーヌには言いにくいけどさ。
「ですってよ、トモエさん」
「一周した………」
夏の訪れを予感させる少し暑い風が吹くなか、晴れときどき魔物の死体。ドキドキワクワクのプロポーズ・バケツリレーが始まる。
「無視するな! だから、オレの女になれ! 番になれ!!」
ケモミミが、更に言う。
「無理」
巴、当然の返答。
「なんでだっ! 結婚しろ!」
「そういう事は俺に勝ってから言えやワンころ」
「なんだと!」
自己紹介からだろうがそういうのは! ナメとんのかワレ、あぁん⁉
「ミツルさん、口調口調!」
「取り敢えず爽やかな笑顔で言うのはやめてくださいませんこと?」
「まずテメェは誰なんだよ」
名前を教えろ。そうしないと身元を調べられない。
「オレはトールフ・トーレース! 称号は“炎の戦士”! 冒険者だ!」
トールフ・トーレースね、覚えた。
「ランクは?」
「一年でC級だっ!」
あくまで叩きつけるように、吠えるように言う。
一年でC級って凄いのん?
「凄いのん?」
「凄いっすよ。確か、C級になるには5年くらいが平均っすね」
「ふむふむ、それじゃあウチの子をおたくにやる訳にはいきまへんわトールフはん」
「何故だっ、そもそもお前は誰だ⁉」
「君の名は……じゃなくって、俺の名前はミツル・シワタリ。称号は“紙使い”で1ヶ月でB級冒険者になりました」
「なっ」
トールフが驚きで顔を引きつらせる。
「嘘だ!」
「はい、どーぞ」
冒険者カードを見せる。冒険者カードの偽造は難しいから、信じるしかない。というか、事実だし。
「そんな馬鹿な……」
最初の勢いは無くなり、耳をペタンとさせながら呟く。
「でね、お前が結婚したがっているこの子も1ヶ月でB級。お前みたいな弱いやつに渡すわけにはいかない」
巴が結婚したかったら、モヤシでもチキンでも教育し直すからいいんだけど、今回は巴が嫌がっている。これを理由にお引き払い願おう。
「くっ……それは困るんだっ!!」
トールフが叫ぶ。切羽詰まった様子だ。
「結婚してくれっ」
「やだ」
即答の巴。
「それは困る……?」
「どうかしたんすか?」
「それは困るっておかしくないか?」
結婚したいんならもっとこう、あるだろう。
「結婚したいなら、『それは嫌だ』じゃございませんこと?」
「あっ」
「それ」
それは困るって、巴を手に入れなきゃならないような事情があるって事か?
さて、このケモミミがやって来るまでの経緯を思い出してみよう。
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『今日の夕食はステーキ一択』という信念の元、俺達は牛系の魔物を狩りに出た。
肉は、家畜より魔物の方が美味しいのはこの世界では当たり前らしい。
途中でゴブリンの集団を蹴散らしながら、ビックビーフというとても美味しい魔物を発見する事ができた。
ビックビーフは、遭遇率は高いのだが気性が激しいらしい。だが、問題なく仕留められた。
その直後くらいに、あのケモミミもといトールフが来たんだ。
「つまり、ビックビーフが欲しいんだな! やるもんか!」
「何言ってんすか」
「違いますわよ……巴さんの強さが欲しいんじゃありませんこと? アキルクさんはとミツルさんは男ですし、わたくしは殆ど戦闘に参加してませんでしたわ。そうすると、トモエさんしか“強い女”がいませんわ」
そうすると……。
「消去法で選びやがったな。帰れ帰れ!」
しっつれいな! そんな生半可な男に巴をやるわけにはいかん!
今の俺は、完全に嫁入り前の娘を持つお父さんの気持ちだ。俺に30連勝しろ! そうしたら考えるだけ考えてやろう! 2秒だけな!
「お前にお義父さんと呼ばれる筋合いは無い! お引き取り願おう」
首トンすれば意識は刈れる。はちみつ塗りたくってここらへんに放置しよう。
「満がなんかあくどい事考えてる」
「はっはっは、ちょっとしたイタズラだよ」
とにかく、このトールフとやらは巴に相応しくない。消去法で選ぶなんて、なんたる無礼。ケッ。
「帰って寝ろ」
「困る」
「帰れ」
「困る」
「帰れ」
「困る」
「帰れ」
「困る」
「ちくわ大明神」
「帰れ」
「困る」
「帰れ」
「困る」
「帰れ」
「困る」
「帰れ」
「困る」
「帰れ」
「困る」
「帰れ」
「困る」
だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「殴ったほうが早いんじゃねぇか? オラァ!!」
「それな」
巴! 分かってくれるか!
「お、落ち着いてくださいっすミツルさんっ!」
「お話しだけでも聞きませんこと?」
「えー」
「ね」
クラリーヌの上目遣い……うーむ。
「私も聞いたほうがいいと思う」
「よし聞こう」
ま、巴の事だしな。巴の意見を尊重しよう。ふん、まだお義父さんと呼ばれる覚えはないからな!
「即決っす⁉」
「話を聞こうではないかトールフ君」
「…………」
「お話ししてくださらないと、わたくし達もどうすればいいのか分かりませんわ」
「実は………」
そして、トールフは語りだした。自分の種族の掟と、故郷の村の現状を。




