26話 『くっ、どこまで続くんだこの迷宮……』
今回も視点が変わります。スプラッタあるから気をつけてください。
ゴブリンが、仲間の死体を投げる。あまりきれいなものではない死体が更に爆ぜ、ぐちゃぐちゃになる。気分のいい光景ではない。
「あー、大丈夫か?」
「うー、平気っす。獲物を捌いたりはするから平気っすけど……」
『ゴブリンか…………』
「キレイな状態で置いといてくれたらキメラも作れますのに……」
クラリーヌが1番つよい。
「でも、そう来たか」
「確かに、確実性はありますわよね一回爆発すればもう終わりですもの」
「少しずつ進めるっすよね」
もう終わった場所の上だけ歩けばいいもんな。多大な犠牲は要するけれど。
それに、魔物のやる気もどんどん無くなってゆく。
同じ風景の中、仲間の屍を投げながら自分がそうなる危険性に震え、どれだけ続くか分からない道を歩き続ける。
それは永遠にも思えるだろう。ゴーレムならばメンタル面の衰えは無いだろうけど、指示を出す側も楽しくない。味方が犠牲になる事が前提なのだ。
「もうちょっと頭のいい方法があったと思うなぁ」
鳥系の魔物を使うとかさ。それだと爆発しない。まぁ、天井に仕掛けた落石罠を使うだけだけど。それに、敵の迷宮に鳥系の魔物がいないのは調査済み。
「なんか、可哀想になってきたっす」
「彼らにも心があるんですわね」
「巴まだかなぁ」
巴が攻略したら、これも終わる。まぁ、気長に待つか。
それにしても、本当にこのゴブリンスプラッタ大作戦を続けるつもりだろうか。普通だったら、もっと強力な魔物を使うとか、工夫しないかな。
「守りにダンジョンポイントを使いすぎたんすかね?」
《いちりあります》
「それは無いと思いますわ。あちらはこちらと違って余裕があるダンジョンマスターですもの。貯金はあると思いますわよ」
「雑魚しか出せない理由があるとか?」
《もしかしたら、ゴブリンをつかいつぶして、キケンがなくなったとき、つよいマモノでイッキにせめるつもりかもしれない》
「「「あぁ〜〜」」」
一理ある。
「でも、罠は爆弾だけではないので大丈夫ですわよ」
「めちゃくちゃ丈夫なゴーレムとか想定したもんな」
「力持ちの場合とかも考えたっすよね」
《いまのところ、ダイジョウブです!》
「でも、そろそろレイスとか使ってくれて構わないのよ?」
シンクから聞くに、新人ダンジョンマスターには、一人でひとり親役がつくらしい(シンクは全員に拒否されいないが)だから、親役が自分の魔物を与えたり貸したりする可能性があるのだ。
重装の迷宮の親役の特長はなんとなく分かっている。
「そう、おばけ!」
『ミツルさん……?』
オーレムとマーレイは、親役の所にいた魔物だったらしい。
オーレムは、死者だ。中身ないもん。つまり、おばけだ。
「故に、重装の迷宮の親役は、おばけの迷宮だと愚考したのですよ。わかります?」
「おばけ……」
「もっと、“亡者”の迷宮とか、そういうのは無かったんですの?」
「おばけだよな! マーレイ!」
「ブルル………」
目を逸らすな、おい。
つまり、陰陽師の俺にとっておばけは得意分野なのですよ! わかります⁉
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『くっ、どこまで続くんだこの迷宮……』
オルスが忌々しげにシンクの迷宮の入り口を睨む。何も思い通りにならない。腹が立つ。思考が荒れる。じりじりとゴブリン共は減ってゆく。しかし、ゴールは見えない。
『お、オルス様………』
気の弱そうな声で、有象無象の一匹がオルスに話しかける。
『なんだ!』
『呪いの魔導師部隊をご主人様から借りてきました……』
『勝手な真似をするなぁっ!!!』
自分の指示なく低級の魔物が動いたことに怒りを抱く。まさか、大量の魔物を失ったことを主にバラされたのではと焦る。そして、感情のままに魔物を殴る。その魔物は地をバウンドしながら倒れ込んだ。
『申し訳ございませんっ、しかし……しかし……このままでは!』
『うるさいうるさいうるさいっ!!』
魔物を踏みつける。骨が折れる音がした。
『ぐぁっ…………申し訳……………ござい、ません…………しっ、ぱいは……わたしが、したと……お伝えしました…………』
つまり、オルスの失敗とはなっていないということだ。
『ふん、当たり前だ』
『はい………』
『薄汚い姿を我が前に出すな!!』
魔物を投げ捨てる。
『呪いの魔導師部隊! 進軍!!』
まさか相手は、こちらが物理無効の魔物を持っているとは思うまい。つまり、対処法はない。
『『『『………………………………』』』』
黒いローブを目深に被ったレイスの軍が、ゆっくりと進軍を始めた。
『ふん、薄気味悪い奴らだ』
しかし、これで終わるはずだ。
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「なにあれ」
不審者が沢山、やってきた。何だあれ、ネクラってレベルじゃねーぞ。
『れ、レイスですっ。どうしよう……』
「ほっほう」
「あ」
「あ」
「ヒヒーン」
「ヒャッハー!! シンク! 俺をレイスの前に転移ぃ!!」
『え……え?』
「あのレイスに用がある!」
『あ、はい!』
目の前にはレイスがいっぱい。俺に気がついたのか、魔法を放ってくる。
「青龍、白虎、朱雀、玄武、勾陳、帝台、文王、三台、玉女」
それを避けながら、九字を唱える………お、効いた。効いたぞ九字! 異世界で九字って使えるんだなぁ!
しかし、レイスは怯むことなく魔法を使う。炎、光線、水、土の玉エトセトラエトセトラ……。
縦横無尽に動いて、それを避けつつ腰からショートソードを抜いた。
巴のグラディウスより細くて、それより長い。
刃先で指をちょっと切る。
「“鬼殺しの血、我が願いに従い目覚めよ
悪しき鬼を殺す武者の血よ、湧き立て挑めよ
死は目の前にある
喰い尽くせ、我が糧となれ
死に魅せられ進め………死を渉れ”」
俺の母方の家は陰陽師の家系だ。昔はそこそこ栄えていたらしいが、今はもう名ばかり陰陽師だ。
だから、あっちのじいちゃんが教えてくれたことは少ない。
その代わり、有名な仙人や陰陽師、呪術師を紹介してくれたりした。
その中でも為になったのが、“鬼斬”家の人を連れてきてくれた事だ。
鬼斬家は、一言で言えば陰陽師(物理)だ。
先祖が悪くて強力な鬼を切り、神様に褒められたらしい。
それから、先祖代々、鬼や悪霊をぶった斬る仕事を生業としている。
その人に修行をつけてもらい。本来ならば一子相伝の技を教えてもらった。ありがたい。
さっきの呪文は、物理が効かない悪霊に武器が効くようにするための呪文だ。
本当はもっと違うんだけど、師匠が『お前はこの呪文を使えぇ〜』と教えてくれた。
死渉家を意識してくれたのかな。
ま、いいや。
とにかくこれで、『オレら物理無効だしw』とあぐらをかいている奴らを潰せる。
勝負は一瞬だった。流石は後衛。一気に突っ込んで、オロオロしている間に一気にぶった切った。
レイスの死体を見下ろす。
「よし、死んでる……来世は幸せになれよ」
ついでにゴブリンもやってこよっと。
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『どぉいうことだあっ!!』
呪いの魔導師部隊の全滅、あり得ない。
何があった中に何がいる。もう失敗は許されない。どうしてだ。栄光の道が。思い通りにならない。許せない。自分は悪くない。悪くない悪くない悪くない。作戦が。面子が。失望される。周りがグズばっかだから悪いんだ。だったら…………。
だったら!
『もういい! 一人でゆく!!』
オルスは、迷宮に向かって歩き出した。
そうだ。ゴミに任せてたから悪いんだ。最初から自分が行けは済んだ話だ。
これだから有象無象の雑魚共は…………。
その時、頭に鳴り響いた声。
『あなたちの、まけ』
オルスは膝から崩れ落ちた。
何ていうか、重装の迷宮は能力は高いんだけど、部下に恵まれなかった。




