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25話  「お、驚くほどうまく行きましたわ……」

視点が変わります

 






「シンク、ダンジョンバトルは何時から?」


 おにぎり美味しい。


『12時からです。それが?』


「そうか、じゃあお昼ご飯は11時からだな」


 おにぎりには鮭、おかか、昆布、ツナマヨ辺りをよく入れるが、どれもこの世界の市場には売ってなかった。

 米の時みたいにシンクがミラクル起こさないかな。

 塩むすびも中々に乙なのだが。そろそろ海のものを食べたい。鮮魚市場を見たこと無いんだけど、どっかにないかな。


『なるほど』


「じゃあ、手早く済ませられた方がいいっすね」


 おむすびとチキン南蛮(マヨネーズは無かったためニラソース)美味しいな。


「兵糧丸でよろしくて?」


「いーよー」


「それがいいっすね」


「だな」


 朝から肉というのは、珍しいらしい。こういう日の朝ご飯ほど肉にした方がよくない?

 おむすびだけ食べてるクラリーヌとアキルクは違うらしいけど……。


「よし、じゃあ食べ終わったら最終確認だ」


「うん」


「はい」


「うっす」


 《はい》


 それはともかく目の前の事に集中しよう。









「「「「『ごちそうさまでした』」」」」








「システムオールグリーンですわ。わたくしの罠は完璧でしてよ」


「よし、いつでも始められるな」


「自分もバッチリ仕上げたっすよ!」


 《こっちもモンダイありません》


「俺も、無問題」


「後どれくらい? バトルが始まるまで」


 俺を枕にしながら巴が聞いた。


 《30ぷん》


 《バトルがはじまると、めいきゅうどうしが“いくうかん”でつながれます。

 ソコから、ジブンのめいきゅうにもどったり、アイテのめいきゅうにいったりします》


「じゃあ、5分前くらいになったら移動するかぁ」


「だな」












 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「ねぇ満」


 ダンジョンバトル開始まであと5分。巴とはじまりを待つ。

 俺を背もたれにする巴が、ふと目を開けた。


「なに?」


「今日の夕ごはんはビーフストロガノフがいい」


「がんばってみる」


 材料的には作れないことはない。今日、1番大変なのは巴だろうから、俺にできるなら大抵のわがままは叶えたいと思う。


「あとね」


「うん」


「やっぱ内緒」


「すごく気になる」


 え、教えてよ。




「私が……私達が勝たないと」


「うん」


「だから、勝ってくるね」


 そう言う巴から、悲壮感は感じない。ちょっと散歩行ってくるねというような気軽さだ。


 泰然としている巴を、俺は、不思議なものでも見るように見ていた。


「そなたは、(つよ)いわね」


「……追い詰められたウナギに、(つよ)いも弱いもございません」


「なんでウナギ……」


 いいシーンなのに、頭の中に(あま)駆ける(うなぎ)が溢れだした。竪琴の音に従って自在に動く鰻……うーん、締まらない。あ、鰻食べたい。異世界にはいないけど。


「美味しいでしょ」


「そうだけどさ……」


 《いってきます》


「「いってらっしゃい」」


 迷宮が繋がれた。シンクはまず、あっちのダンジョンマスターと会って話す。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ」


 巴に頭を傾けられ、撫で回された。


「すぐに帰ってくるから」


「うん。待ってるよ。ここを守りながら」


「うん」


 その時、巴の手が微かに震えてる事に気がついた。


 ──巴も、怖いのか。自分がビビってて気が付かなかった。すまんな。

 巴を力いっぱい抱きしめる。


「俺はもう大丈夫だから──蹴散らしてこい!」


「わかった。待っててね」


「うん」


『トモエさん、そろそろ』


「いけ、巴」


「いってきます!」


「いってらっしゃい」




 戦いが、はじまった。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「見送ってきたよ」


「じゃ、自分たちもいくっすよ!」


 住居スペースに戻る。

 そこは、今までのような過ごしやすさ重視のリビングではなく、戦隊ものの司令部さながらの近未来的場所になっていた。

 設置された鏡には、防犯カメラ的な役割の“まるみえくん”から映し出された迷宮の映像がある。勿論、音声も拾える。つまり、敵の行動は俺達に筒抜けなのだ。


「第一ゾーンから第四ゾーン、異常なしっす」


「第五ゾーンから第八ゾーンも異常なし」


「うふふ、敵の皆さんがやってきましたわよ。ふふ………ビンゴ、ですわね」


 この迷宮の罠は殆どクラリーヌが作った。ゆえに、総司令官はクラリーヌだ。


「そうっすね」


「やっぱりな……」


『すごい、ミツルさんの言うとおり……!』


「俺の普段の行いがいいから」


 この前も本屋さんでバラバラになってたシリーズものを揃えたりしてたんだからな!


「水棲魔物がうじゃうじゃいる池に笑顔で他の冒険者突き落としといて……」


「『へーへー、そうなんだ。チャンスがあったら自分の方が俺より上ってこと? ふーん。そういう考え方もあるんだぁ。へへっ』って言いながら落としてましたわよね。可愛く笑っていたけど、わたくし達は騙せませんわよ」


『どの口が言ってるのか……』


「と、とにかく! 敵が来たんだから集中するよーに!!」



 そう、相手は思うように動いてくれた。


 ゴーレムの軍団がやってきたのだ。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










 前提として、あっちはこっちを舐めきっている。態度からわかるようにな。

 で、この前重装の迷宮に行った時、1番使われてた魔物がゴーレムだ。

 予想だが、使うダンジョンポイントの割には勝手がいいのだろう。でかいし硬いしな。

 で、それをメインに攻めてくるんじゃないかと予測した。


「お、ギッチギチじゃん」


 ゴーレムが動きにくいように、この迷宮は狭く低くできている。

 無策なのか、一列に大量のゴーレムを突っ込んでくる。オイオイ、それじゃあゴーレムは満足に拳を振るうことすらできないぜ?




 バンッ



 罠を踏み抜いたゴーレムの足下が爆ぜ、その足を崩していく。それに巻き込まれた他のゴーレム崩れ、ドミノ状に倒れていった。

 ずんどらがらがらがらがらがっしゃーん。


「お、驚くほどうまく行きましたわ……」


 トントン拍子とはこの事だろうか。


『わぁ、ゴーレムが一撃で……』


「どれくらいやったっすか?」


「5体に減った……後ろのは後退してったな」


 フレンドリーファイアも合わさり、ゴーレムの死体?は高く積み上げられた。後ろのゴーレムがこれを越えるのは難しいと判断したらしい。


「このゴーレムもやっとくっすね」


「おう」


 アキルクが罠を発動させる。ゴーレムは、巨大な岩の下敷きとなった。南無……ゴーレム脆すぎない?



「さぁて、つぎは何が来るか」


 ゴーレムでさっさと倒そうとしたんだけど失敗してご愁傷さま。ふふん。









 次に来たのは、ゴブリンとレッドキャップの混合部隊だった。身体が小さいから、瓦礫の山もやすやすと越える。




 そして、またもやボンッ。大爆発。


「おいでませ! 地雷天国ぅ!!」


 ふっふー。こっから先詰められるだけ地雷詰めたんだぜ? つま先立ちでダッシュするくらいしか逃げ道がない。


「ひゃひゃ、戸惑ってらぁ」


 あっちは、シンクが弱い+ダンジョンポイントしか使えないと思っている。

 しかし残念。超優秀錬金術師クラリーヌがいるおかげで、罠は無尽蔵に近い。ダンジョンポイントは、迷宮の改造に使った。


 錬金術ってなんだっけ? とよく思うけど、細かいことは気にしてはいけないのだ。


「ここまで想定外はありませんわね」


 一匹のゴブリンが壁に足をかける。賢い子だ。地面が駄目なら壁からってな。洞窟型だから、足を引っ掛けて進むくらいできる。


「でも、これも罠なんすよねぇ」


 アキルクがそう言った瞬間、ゴブリンがぶっ飛んだ。壁にも仕掛けてるよ爆弾を。

 クラリーヌによると、魔石がひとつあれば20個は作れるらしい。つまり、大量に作れる。へへっ、罠だけで仕留めてやるよ……。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











『くそ、くそっ!! どういうことだ!!』


 迷宮と迷宮を繋ぐ“混沌の空間(カオスゾーン)”にて、重装の迷宮の魔物の中でも比較的高い知能を持った魔物である首無し騎士(デュラハン)のオルスは、苛立ったように地団駄を踏んだ。

 オルスに報告をした魔物が怯える。それに更に苛立ったオルスが魔物を殴った。



 主が言うには、ここの迷宮のダンジョンマスターは特長すら持たない無能の出来損ないらしい。

 迷宮も貧弱で、『もしかしたらお前だけでもクリアできるんじゃないか』などと冗談を言っていた。

 だから、安くてそれなりに強いゴーレムと低級の魔物をいくつか主から貰って適当に攻めさせた。

 するとどうだろうか。ゴーレムは破壊され、ゴブリンとレッドキャップの部隊も全滅したとの報が入った。


『何故だ! 何があった!!』


 オルスは、ゴーレムやゴブリンのようにダンジョンポイントだけで召喚された魔物ではない。特別な方法で生まれた、選ばれし魔物だ。

 今まで、主の親役から貸し出された騎士気取りの老害の方が信を得ていたせいで、活躍の機会は無かったが、あの空っぽ野郎は死んだ。これからは自分の天下だ。

 これは、その一歩となる筈だった。今頃、笑いながら敵の迷宮の石を弄んでいる筈だった。

 しかし、オルスの予想に反して敵は厄介だった。

 報告では、床や壁の至るところに地雷や爆弾が仕掛けてあり、触れた瞬間発動するらしい。

 これは何処まで続くのか、他にも罠はあるのか……。


『失敗なんて、するわけないよな』


 主の声がこだまする。オルスの主は失敗に厳しい。選ばれしダンジョンマスターの魔物なのだから、完璧でいて当たり前だと常に言われてきた。

 彼も、出発前に大口を叩いて低レベルの魔物しか貰ってこなかった。それも、大量に失った。今更できませんは言えない。

 失望されるのが怖かったし、選ばれし魔物としてのプライドが、他に縋るのを邪魔する。

 普段から、他の魔物には上から接してきた。ダンジョンポイントのみで召喚された有象無象と特別な魔物の自分は違うのだと差別してきた。

 だからこそ、自分より慕われ信頼されているオーレムが憎かった。嫌われるのは嫉妬している証だと、更に嘲笑った。

 だが、これで失敗したらどうなってしまうのだろう。

 今まで散々馬鹿にしてきたのに、自分が嘲笑の的になってしまうのだろうか。それは嫌だった。



『ええい、2回目は爆発しないのだろう? 死体でも石でもなんでもいいから先に投げて歩け!!』


 命令を出した。主には援軍をたのみたくない。他の魔物も頼りたくない。今の地位を失いたくない。混乱とプライドで視野の狭くなったオルスは、最悪の消耗戦を始めた。











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