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24話  「楽しそうなお顔で『ともえともえ〜、見て〜』とおっしゃってたので興味が出たのですわ」

 






「ハッハッハ、見ーるがいい! こーのあたらーしい陰陽じゅーつをっ! どやぁ!」


 さーて、色々あった。日は飛んで、明日はとうとうカチコミかける日である。というわけで、ついさっき開発した陰陽術を披露する。


「これまでにない位ウザいけど、話だけ聞いてあげる」


 むうっ、巴よ驚きで腰を抜かすことになるけどいいんだな? そんな斜に構えてて……え? 絶対に腰抜かさないから大丈夫だって?


『いつもと話し方が違うけど、どうしたんですか? “いめちぇん”ですか?』


 なんかこう、受け入れられたら受け入れられたで恥ずかしいっていうか……。


「あらあら、ミツルさんてばまた面白い事を考えつきましたの?」


 好意的に取られても恥ずかしいな。


「この間から紙に書いたりしてたッすけど、それが完成したんすか?」


 アキルクも純粋な瞳でこちらを見てくる。


「ブルル……」


 早くしろ、とでも言うようにマーレイが鳴いた。





「……てかさ、なんで皆ここに集合してんの?」


 俺、巴を呼んだだけなんだけど……。


「楽しそうなお顔で『ともえともえ〜、見て〜』とおっしゃってたので興味が出たのですわ」


「右に同じくっす」


 《みぎにおなじく》


「なるほど訳がわからん」


「いいから早く見せてよ」


「はぁい」


 ちえっ、巴が1番冷たいんだあ。いいもん、いいもん。


「勿体ぶってみたけど、つまり陰陽術と魔法が極めて近いものだと気付いて作ったもので……」


 紙を1枚取り出す。


「これが水の札」


 霊符や呪符のように文字の書かれた札が崩れると、そこから水が溢れる。


「おお……」


「まだまだ」


 その水が、俺の想像通りの形に動き出す。そうだな……


「イ」


 日本で始めてテレビに写った文字は“イ”だという。

 水でできた“イ”が、でかでかと宙に浮かんだ。


「「「『おおおおぉ』」」」


「どやぁ」


「他のもできるの?」


「うん。今回は安全性の観点から水にしたけど、火と土と水と金なら操れる」


 あー、木が欲しいなぁ。紙のなる木が欲しい。どっかに売ってないかな。そうしたら“木”を操れるかとか知れるのに。今度、花屋とかに行ってみようかな。


「うふふ、わたくしに魔法陣の事を聞いてきたのはそれで、でしたの」


 これを成功させるには、魔法の知識も必要だったからクラリーヌに本を借りたりした。


「うん。協力してくれてありがとな」


「とんでもございませんわ」


「ミツルさん、前に魔力が少ないって言ってたっすよね。大丈夫っすか?」


「えっとね。使ってんのは厳密に言うと魔力じゃなくて、陰陽師としての力の方だから大丈夫」


『変な文字が書いてある紙にしか見えないけど……うわぁぁ、か、漢字だぁ!!』


 この世界で漢字とは、皆が知っているものではなく高等教育の扱いだ。

 今度、シンクに漢字でも教えてみようか。




「よく頑張りました。偉いえら〜い」


 巴が俺の額をペチペチ叩くから、頭を撫でやすいようにしゃがむ。


「ありがとう」


「異世界に来て、陰陽師の仕事が無くなっても頑張ったね。

 魔法みたいだから、色んなことができるよ。すごいねぇ。偉いねぇ」


 頭だけでなく、顔を撫で抱きしめ、褒める。言葉では足りない部分は態度で、巴なりに全力で褒める。


 巴に優しく撫でられながら思う。


 あぁ、やっぱり巴に褒められるのが1番嬉しいな。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「……………」


 手についた小説をめくる。しかし、そこに書いてある活字は一つも頭の中に意味をもって入ってこない。

 別に、今は本を読みたいという訳ではない。俺にとって活字を追うことは、まるで呼吸をするかのように日常に溶け込んでいる。何もしていない、誰もいない時は目の前にある活字を追ってしまうのだ。今のように。



 頭の中は明日のことでいっぱいだ。


 罠の位置、迷宮の全体図あちらの魔物の情報。できる限りの事はした。

 想定外の想定外まで折り込み。5人の知恵を振り絞れるだけ振り絞った。三人寄れば文殊の知恵とはよく言う。だから、5人寄れば文殊を超えるだろう。

 それは、信じている。俺達はできる限りの事をした。防衛はできるだろう。


 しかし、“勝つ”為には攻めなければならない。そして、今回の作戦は巴に全て掛かっていた。


「巴……」





 巴は明日、単身で迷宮に乗り込む。





 決死の玉砕などでは無い。この場合、これが1番勝つ見込みのある行動だからだ。



 巴は強い。他者など超越している。

 いつもの戦いは、巴にとって目隠ししてあくびしながらでもできるようなものだ。常に手加減している。

 手加減している巴に挑んでも、勝つことは出来ない。全力で舐めて掛かられても俺は1分保たない。本気でやられたら3秒で俺は死ぬ。


 そして、巴は明日()()()()()()()()あの重装の迷宮を攻略する。

 そうなったら、付いてこれる者など一人もいないのだ。悔しい事に。もし、俺が一緒に行っても足枷になるだけだ。

 こんな体たらくでなにが相棒だと情けなくなるが、巴が俺を必要と言うのだから精進するのみ……話が逸れた。


 だから、巴は心置きなく迷宮攻略をする為に一人で行くしかない。


 俺は巴を信じている。毎日本気で挑んであっけなく潰されてるのだ。巴の強さは誰よりも知っている。


 重装の迷宮は、シンクを侮っている。つまり、難易度はそこまで高くないだろう。

 この前迷宮を攻略した時の感触では、巴は難なく成功する。かすり傷ひとつ負わないだろう。


 だけど…………





「怖い……」


 巴を失うのが怖い。頭ではそんなこと無いと理解していても、感情が怖いと叫ぶ。自分が知らない間に巴がいなくなっていいのかと喚き立てる。

 記憶が、信じていたものは急に無くなるぞと囁きかける。



 気を紛らわせるためにベットに寝転がり、小説の文字列を目で追うがそれらが頭の中を掻き乱して何もできない。




「満、いる?」


 ドアの向こうから巴の声がする。


「いるよ」


 ガチャリ、とドアの開く音。身体を起こして巴を出迎える。


「何か用………おぼぉっ⁉」



 ラリアット仕掛けられた。反応できない。






 勢いをつけて、ベット押し戻され馬乗りにされる。吹っ飛ばされてる間に両腕を取られたので、今なら三途の川遊泳コース片道チケットを簡単にゲットできる。足をバタつかせても、意味はない。殺そうと思ったらいつでも殺せる大勢だ。

 うん、お前は世が世なら伝説級の殺し屋(ヒットマン)になれるよ。


「どうしたの。入室が刺激的すぎるよ」


「ひどいかお」


 巴が俺の頬を撫でながら言う。開口一番にディスられた。


「そうかな」


「うん。満は怖いんでしょ」


「よく分かったね」


 巴にだけは隠し事ができない。


「何年満と一緒にいると思ってるの……私は強いよ」


「知ってる」


 それは、俺が誰よりも知っている。


「産まれてこのかた、戦闘において行き詰まりもスランプも無い。

 同世代は勿論、教えてくれた人達もすぐに抜き去って置き去りにした。

 死渉の仕事を請け負ってからも、敗北が一度も無く苦戦も殆どしていない」


「改めて聞くとすげーなお前。全部知ってるよ」


 その時、隣にいたのはいつも俺だ。


「うん。1番褒めてくれたのは満だもんね」


 そして、巴を知らない人なら死んだ目としか表現できない静かな目で俺を真っ直ぐに見つめる。


「んぐ⁉」


 そして、鼻をつままれた。


にゃにしゅんだ(何すんだ)


「でも、満は理解していても怖がっている。だから、不安を解消しに来た。

 どうせ部屋に篭って気持ちを落ち着けるために本を読んで、でも活字が頭に入らないくらい混乱してると思ったから」


 ぜんぶ当たってます。頭が上がりません。


「ありがと」


 嬉しいけど、なんで鼻をつまむの?


「私は強い。満のお父さんみたいに戦った末に死んだりしない。百人敵ができたら全部返り討ちにして満の所に帰ってくる。

 満は寂しがりだからすぐに忘れちゃうけど、私は満が寂しくならないように強くなった」


「うん」


 そうだったね。忘れてないと思う。


「だから、明日も勝ってくる。私なら勝てる」


 なんの気負いもなく言い放つ。巴の傲慢ではなく、事実だ。それを1番信じなくちゃいけないのは俺なのにな。


「そっか。ありがとう」


「なんくるないさー」


 急に沖縄弁になる巴に笑う。


「俺も、守り切るよ。この迷宮を」


「いい志だ。褒めてやろう」


「有り難きお言葉」


 いーこ、いーこ、と頭を撫でられる。そして、俺は気持ち良くされるがままになっていた。

 俺の不安と恐怖を一瞬で霧散させるなんて、流石だな、巴。俺の相棒だ。








「でもさ、なんでラリアットかましてきたの?」


「もしかしたら満が私の実力を疑ってるかもしれなかったから」


「そんなあり得ない」


 もしそんな事があったら、俺を一発殴って正気に戻してくれ。


「うん。だから、力の差を見せつける為に」


「いやん、ワイルド」


 こんな美少女にラリアットされたら、余程の熟女好きでもない限り心が揺れ動いて惚れてしまうだろう。

 俺? 俺は例外だ。相棒だから、惚れるなんて事はないのだ。


「あと、今日は一緒に寝ようと思って」


「お前も寂しいかったんかい」


「いいじゃん。ちょうどいいし」


 年頃の男女が寝所を同じくするのは、どう主張しても世間体が悪かろうということで、寝室は分けている。全く、頭の硬いこった。でも、大事な勝負の前日くらいはいいだろう。


「そうだね。枕は?」


「同じの使う」


「わかった」


 布団に巴が潜り込み、同じ枕の上に頭を乗せる。巴の小さな手が俺の顔を撫でた。


「いーこ、いーこ」


 愛おしくて、嬉しくて大切で、巴を抱き寄せるとそのまま唇を重ねた。巴もそれに応えてくれる。


「んんっ……」


 

 そして、眠りについた。夢は見なかった。









 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










『明日はとうとうダンジョンバトルね』


『ええ、無能の出来損ない程度かんたんに蹴散らしてやりますよ』


『あたしはダンジョンバトルに手出しはできないけど、見守っているわ』


『ありがとございます』


 “重装”の迷宮は、頭を下げながら笑う。彼は、勝利を確信していた。

 それまでに、親役から貰った大量のダンジョンポイント、迷宮のノウハウ。

 全力で挑まずともスマートに勝てると思っていた。


『ねぇ、本当にあれで良かったの? 出来損ないじゃあ勝っても大して泊は付かないわよ?』


『いいえ、これも僕の作戦です』


 彼は、自分が同世代の中でも頭一つ飛び抜けていると理解していた。

 特長は使いやすく、生まれながらにして名前持ちで純粋な力が強い。

 これで泊が得られなくとも、別のダンジョンマスターに勝利し、それで評価されればよい。


(これで手に入れる事ができる……!)


 彼は、出来損ないと呼ばれる少女を気に入っていた。ひと目見た時から欲しかった。つまり、本当に欲しかったのは今はシンクと呼ばれる少女のみだ。

 彼は、欲しいものは手に入れないと我慢ならない質であった。

 今の状況は絶好のチャンスである。親役に、泊をつける為にダンジョンバトルで勝利しろと言われたのだ。自然に少女を手に入れる事ができる。





 しかし、彼は知らない。明日、彼の迷宮にやって来るのは魔物ではない。人間だ。







 しかし、ただの人間ではない。




 ある世界での話をしよう。


 とある国の軍事組織が少女を殺そうとした。しかし、その作戦は成功しなかった。


 それどころか


 殺さずに相手を圧倒する術を持つその少女は一夜にしてその組織をたった一人で崩壊させた。


 一人も死んでいない。だが、100人をゆうに超えた組織を人員不足による機能停止にしてみせた。


 その日の朝、組織があった場所を見た人間は語る。


「建物の外見は殆ど変わっていなかった。しかし、一歩中に入ると、戦争でもあったのかと思えるほどの銃弾の跡、散乱した武器に家具。ここにいる全ての人間が一斉に狂って暴れたらこうなるだろうと思った。

 そして、うめき声をあげる事すらなく横たわる人々。壁に刺さったトランプ。異様な光景だ。

 ……死んでない。死んじゃいない。しかし、完全に伸ばされていた。きっと、うめき声をあげる暇なく転がされたんだ。


 全ての部屋を回ったさ。リビングから便所までな──それが仕事だ。

 …………無事な奴なんて一人もいなかった。

 調査するうちに、これの元凶は実に効率よくここを潰していった事がわかった。そういう跡が残っていた。

 そして、手をくだしたのは一人だという事も。

 そんな事ができるのは……イギリスのウィッチキラー家、チャイナの武家、ロシアのイエニーエン家、ジャパンの死渉家、どれかの血を引く人間だろう。そして、その中でも名の知れた人間だ。そう思った。

 そして、手を出したのは一人だが、もう一人倒れた人間を“手当て”している人間がいる事に気がついた。

 具体的には、気絶し奴が舌を巻き込んで呼吸困難にならないように舌を引っ張りだしたり、ひとりひとり死なないようにした形跡があった。

 その為だけについてきたようだったさ。なんでそんなことしたのか未だに分かんねぇ。

 で、最終的に屋上にたどり着くと……」


 それまで調子よく語っていた男は唐突に黙り込み、そして、決意したように言った。


「信じちゃくれないだろうな。自分でも信じたくないことだが………そこにいたのは10歳かそこらのガキが2人だった」


「ジャパンのガキだったよ。2人で朝日を浴びながら。黒髪のガキが茶髪のガキのほっぺに絆創膏を貼っていた。黒髪のガキは頭に包帯巻いてたな。

 何故か、状況が状況じゃなかったら暫く見惚れていたいと思ってしまった。

 今考えたら、あの無慈悲で異常な場所を目にしたあとで久し振りの優しい光景だったからだろうよ。

 でも、状況的に考えてこの惨劇を生み出したのはこのガキだ。そして、話を聞こうと思って一歩近づくと、靴を抉られた。

 トランプで………あぁそうだ。おもちゃのトランプだ。

 靴の先っぽだけキレイに取られた。怖かったよ。この仕事始めて1番怖かったかもしれねぇ。

 なんとか話を聞き出すと、やはり奴らは死渉家の者で、下の惨劇は自分らがやったと悪びれもせず言ったよ」


 そして、男はそれきり黙りこくってしまった。


 つまり、その組織は()()1()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





 組織の人間は、病院に運び込まれて少ししたら目を覚した。

 しかし、話を聞いても震えるばかりだった。そして、何とか聞き出したのは──誰に聞いてもこの言葉だった。前後の言葉は違えど、必ず出てくる単語。

 そして、彼女と敵対した人間は一度はその言葉が脳裏を通り過ぎる。

 “奇術師”という、通称などではなく彼女に殺気を向けられた人間だけが共有できる言葉。








 “化物(モンスター)





「化物だ」「化物が来た」「仲間が倒れた。子供の姿の化物だ」「なにをされたんだ、おれは」「死んだ目をした化物だった」「ただの子供にあんな目ができるわけない」「化物の子供だ」「化物だ。モンスターがおれの手をぉぉぉぉぉぉ……………」「腕を掴まれた。目の前が真っ暗になって、目が冷めたらここにいた」「なんで生きてる?」「一人も死んでない? 嘘だ」「あの化物は機械的に人をこわした」「触れられたら死ぬんだ。そういう化物にきまっている」「くるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるな」「神に見捨てられた」「理に逆らう」「苦しさすらかんじなかった」「おしまいだ」「生きてる。助かった」「死にたくない、死にたくない」「あれに赤い血が流れているわけない。人じゃないから」 「あの化物と同じ世界でいきているのか、ぼくは」









『本物の、化物(モンスター)を見た』










 一夜にしてその名を裏の世界に轟かせた、その化物の名を死渉(しわたり) (ともえ)という。




 化物が、迷宮に牙を向く。
















今回出てくる家とか組織はぜんぶ創作です。実際の組織とかには関係ありません。その場で考えました。作者も、ウィッチキラー家ってなんだよって思いました。

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