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21話  「「「迷宮! 迷宮! 迷宮!」」」

今回はひたすら移動と迷宮探索をしますよん。

 






「皆の衆ー! 準備はいいかー?」


 俺は、『わくわく! 迷宮初心者の為の役立ち完全ガイドブック!!』を掲げた。


「荷物は!」


「忘れ物なーし!」


「トイレは!」


「済ませたっす!」


「意気込みは!」


「有り余ってる!」


「それでは、今日の予定は!」


「「「迷宮! 迷宮! 迷宮!」」」


 多分、何も知らない人が見たらテンション高くてやばい集団だろう。避けて通られるかもしれない。こんなのが目の前にいたら、俺も避けて通る。

 だが、ここはお家だ。好きなだけ騒ぐといい。

 今日の完璧な円(アブソルートサルコウ)はテンションが高い。

 だって、初めての本格的な迷宮だもん。それと、テンション高くしとかないとやってられない現実がある。


「ここで1つ、諸君に言っておかなければならない事がある」


「「「……………」」」


「巴とクラリーヌは迷宮に行けない!!」


「ぶーぶー」


「仕方ありませんわ」


「これも勝つための布石っす」


 そう、俺達が迷宮に向かう真の理由は、なんちゃらペンペンとかいうダンジョンマスターをボコボコにする下準備だ。作戦の為、巴とクラリーヌは行けないのだ。今度、別の迷宮にみんなで行こうな。


 《ありがとうございます》


 それまで、俺達を眺めていたシンクが黒板を見せる。


『よろしくお願いします』


「お前も頑張れよ」


 俺とアキルクが迷宮に行ってる間、三人はこの迷宮をどうするか作戦を立てるのだ。

 ピョコン、とシンクが出したのは、にっこりマークが書かれた紙のついた棒。

 姿の見えないシンクが、少しでも意思の疎通がしやすいようにと作ったものだ。喜怒哀楽、ビックリはてなと揃っている。


「巴」


「満だけ行くなんてずるい」


 巴が可愛らしい頬を膨らませて俺を見上げる。


「いいだろー。次は一緒に行こう」


 その頬を潰す。楽しい。


「うん。いってらっしゃい」


「いってらっしゃいませ」


『お気をつけてー』


 《いってらっしゃい》


「いってきます」


「情報集めてくるっすからねー」


 さーて、因縁の地に因縁の敵を調査しに行ってくるか。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「走ってく? 馬車で行く?」


「馬車一択っすねー」


「じゃあ走ってくで」


「ちょ、冗談っすよね!」


「そんなに言うんだったら………俺は馬車でお前はダッシュな」


「ええ〜」


 まぁ、冗談は置いといて。


「検問もあるし、ふつーに馬車で行くぞ」


「うっす」





「アキルク〜」


「嫌っすよ」


「なんで! まだ何も言ってないのに!」


「どうせ、振動が嫌だから膝に乗せろとかそういうんすよね?」


 よく分かってらっしゃる。


「集中して本が読めない」


 ガタンガタンする。やっすい乗り合い馬車を選んだせいで、乗り心地は最悪だ。


「よく本を読もうと思ったっすね」


「ほら、迷宮の本だし」


「文字がブレてるけと読めてるんすか?」


「動・体・視・力」


 文字を追うだけならできるんだよ!


「ポテンシャルは凄いっすよね」


「褒めてんの貶してんの」


「褒めてるんすよ……でも、この歳になって人の膝に乗りたいとか……」


「巴は乗ってる」


 場合によっては膝に乗せていい派と駄目派の全面戦争だぞ。アキルク。


「聞きたかったんすけど、トモエさんとミツルさんってどういう関係なんすか?」


「どういうって?」


「だから……その……」


 あぁ、はい。何となく察した。人生で100回はされたわこの質問。


「巴は俺にとって最高の相棒で自分の命より大事だけど、恋愛関係になる事はこの先一切、天地がひっくり返ってもあり得ない、と宣言しておく」


 そう、『で、死渉って付き合ってんのかよ』『えー、付き合ってないのー? で、ホントは好きなんでしょ?』

 みんな幼馴染系の漫画とかに影響度され過ぎだって。つーか従兄妹だし。幼馴染より一歩踏み込んでるし。殆ど兄妹みたいなもんだから。『俺……巴のこと……トゥンク』なんて展開ないから! 期待しないで!



「そ、そうすか……」


「ちなみに、5月のスーパーロング休暇を潰して“恋愛感情は無い”という検証までしたんだからな!」


 巴に壁ドンして見つめ合うという最高に意味のない30秒を過ごしたりした。巴は相変わらず可愛かった。


「よく分かんないけど、とても馬鹿なことに休暇を使ったってのは分かったっす」


「逆に聞くけどさ、お互い散々恥ずかしいところ見せあってオムツ目の前で変えあったような奴と付き合える?」


 俺は無理。


「うーん」


「そういう事だよアキルク君」


「なるほどっす」


 よしよし、アキルクが理解した。クラスの連中は、何度言っても理解しようとしなかった。






「ひーまー。ねぇ面白い話して〜」


 よく考えたら、4時間は掛かるのだ。もう一冊本を持ってきても良かったんだけど、こういう時はアキルクとの親睦を深めたほうがいいだろう。


「ええーと、そうっすね。とある冒険者パーティのリーダーが女と間違えられてナンパされた話とか」


「やめようよ」


 こころが、いたくなるから。


「トモエさんも笑ってたっすよね」


「巴は爆笑しながら慰めるという高等技能を取得してるからな」


「それ慰めてんすかね」


「慰められる」


 巴が慰めてんだからな、慰められるだろ。


「お前も女に間違えられればこの気持ち分かるよ」


「無理っすね」


「だよなー。女に見えないもんな」


 いくらアキルクが乙女の夢をいっぱいに詰め込んだようなフリフリの服を着ようと、ニメートル超えの色黒筋肉もりもりスキンヘッドなのは変わらない。


 ほわんほわん……と、そんなアキルクの姿を想像する。いや、言葉だ。大事なのは言葉だ。なんか楽しいこと言わせてみよう。


『おかえりなさいませ、ご主人様♪』


 ひっくい声でスカートの裾を……


「グワァァァァァァ悪夢ぅぅぅぅぅぅ」


「自分を使って自爆するのはやめてほしいっす」


「うっ、うっ、うええん……」


 頭を抱える。別のこと考えて中和しよう。







「暇っすね」


「暇だな……俺がお前を抱っこして走った方が速くない?」


 俵担ぎになるけどさ。


「朝ご飯戻しちゃうんで却下っす」


 馬車は、そんな俺達を気にせず走る。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












「つーいーたぁー! ギルド周辺!」


 ぐうっと伸びをする。はー、エコノミー症候群になるところだった。

 はっはー! 骨の髄まで調べ尽くしてやるからなパッパラパーめんめんとやら!! 名前忘れたけど、ペコペコオナカスイターみたいなのだったと思う!


「こっからちょっと歩いたら迷宮かー。便利な位置にあるよなぁ」


 うちの迷宮はちょっと遠いのだ。


「じゃあ早速……」


「武器屋さんに行くぞ」


「武器屋、っすか?」


「なに意外そうな顔してんの。これから硬い魔物に挑むんだし、お前の武器をどうにかしないとな」


 腕力で全てを破壊できるってなら話は別だけど、そうじゃないだろう。


「あざっす」


「いや、気を回さなかった俺も悪かった」


 最近はそうでもないけど、アキルクは遠慮している。武器がどうこうとか言い難いに決まってるだろ。








「よし、早速行くか!」


「うっす!」


 アキルクは結局、ガントレットとナイフを買った。剣術の心得は無いらしい。


「ミツルさんは普段棍棒を使ってるっすけど、他にはどんな武術ができるんすか?」


「体術、剣術、棒術、槍術、弓術、諜報術、変装とかも……陰陽師ということもあって気配読みはめっちゃ得意。大まかに言ったらこれくらい」


 細かく言ったら、空手とかなになに流剣術とか分けられるけどな。


「すごいっすね!」


「ただまぁ、問題があってだな……」


「問題?」


 これは、俺の短所でありともすれば長所とも言えるとこなんだけどな。


「器用貧乏なんだよね、俺。どれも、頑張れば一流くらいにはなれると思うけど、どう頑張っても超一流とか1番とかにはなれない。なんか足りない」


 習得も早いし天才肌なんだけど、天才()ってのがミソなんだよな。決して天才ではない。


「それは……」


「でも、巴は違う。あいつは器用がどうとか抜きにして大天才だし、努力家だ。全部で1番になれる。

 でもまぁ、巴も戦闘以外は苦手なこと多いし、それも含めて俺が器用になればいいから」


 バカみたいな事言うようだけど、俺は巴と()()でいる努力だけはやめない。


「だったら、この迷宮の調査も完璧にしなくちゃなんないすね!」


「だな!」


 そうして、俺達は迷宮に潜った。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











 おっぺけぺーの作った“重装の迷宮”は、荘厳な洞窟型だった。シンクの迷宮が埼玉の田舎にポツンとある住民にすら気付かれてないようなショボい古墳だとすると、これは大仙陵古墳だ。


 ま、これからそれを蹂躙しに行くんだけどな。







「結構広いな」


 付いたのがお昼どきだからか、迷宮の近くに人はいなかった。つまり、心置きなく調査ができる。


「あ、魔物」


「おお、でかい」


 出てきたのは甲冑を着たゴーレムだ。アキルクよりデカい。ただ、のろい。


「いいか、アキルク。こういうのは関節を狙って……ええい!」


 足を掴んで人体ならば曲がってはいけない方向に曲げると、ビキッ、と嫌な音がする。


「へし折るんだよ!」


「次は?」


「そして、敵が怯んだところでトドメを刺す」


 怯んだ、というかバランスを失ってよろめいたて転んだゴーレムの魔石を踏み砕く。なんで魔物って魔石を壊されたら死ぬのにおでこなんかにつけてんだろうね。訳がわからないよ。せめて隠せよ。



「素早く動けるなら、魔石だけ狙ってもいいかもな」


「でも、このゴーレム魔石を守る設計になってるっすけど」


 石で、魔石を被っている。安心設計だ。もろとも砕くけど。


「それごと砕け。後はあれだな、ナイフとかで少しだけ露出してる部分だけ狙う」


 多分、巴ならそうする。


「頑張って砕くっす……ところで、踏み砕いた時に靴は駄目にならないんすか?」


「鉄板仕込んでるから大丈夫だろ」


「え」


「え」


「鉄板仕込んでるんすか?」


 靴買った日に仕込んだよ?


「うん……みんなやってるんじゃないの?」


 カカトとつま先に仕込まない? 鉄板。


「そうなんすかね……」


 え、俺うわばきにもやってたけど。寧ろ、鉄板入りのうわばきをおじさんに貰ったけど。


「今からでも間に合うよ。帰ったらしよう」


「うっす」


「あ、クラリーヌがいるから、武器の幅とか広がるかもな」


 ほら、魔石を使ったりして。色々できるんじゃないか?








 その後、着々と攻略は進み情報とデータも増えた。


「深くになると、ほんとに重装歩兵というか、騎士みたいになるっすね」


「だな。そろそろ馬とかに乗ってるのも出てくるかも」


 ほら、騎士とかって馬に乗ってるイメージある。


「そうっすかねー」


 アキルクが、そう言いながら天井から落ちてきたヤドガニをパンチでふっ飛ばした。


 すっ飛んでいったヤドガニは、地面に接着した瞬間爆ぜる。次降ってきたら回収しよう。


「怖いっすよね、あれ。緊張しちゃうっす」


 あのヤドガニは、衝撃を与えると数秒後に爆発するのだ。他にも、鋏の部分が肥大化したザリガニとかがいた。


 あと、わかったぞこの迷宮の“特長”。それは()()()()()()()()()()()()()()ということだろう。

 それは大きな利点となる。例えばほら──




「グギャギャ!」




 鎧を着たゴブリンが、()()()()()()()()俺達をねめつける。その奥にはもっといる。まだ気付かれてないけど。


 ゴブリンは普通、こんないい装備していない。でも、この迷宮ではこれがデフォなのだ。これが召喚される。

 一卒兵の末端にまでいい武器を与えられるのは、有利になる点だ。ウチのゴブリン10匹とここのゴブリン10匹とが戦ったら、ウチの負けだ。


「でも関係ないか」


 ここに来るまえに立てていた作戦を頭の中でおさらいする。うん、今の所関係ないな。


「アキルク、疲れただろ。休んでろ」


 15匹いるけど、大丈夫だ。奴らが一斉に剣を抜き放つ。


「あざっす」





 これまでの戦闘で、棍棒が歪んでしまったため素手で参戦だ。

 別に、舐めてるとかそういうんじゃないよ。素手でも実力を余すとこなく発揮できるよ。

 それにほら、そこまで広くない空間に15匹も配置するとか馬鹿かな?

 戦場ならば、単純に考えて味方の数は多ければ多いほどいいだろう。しかし、一定の閉鎖された空間では話が別だ。

 わかりやすく言うと、普通の大きさのテニスコートで100人が集まってテニスするの、逆にやりにくくない?って話だ。ミスってラケットで味方の顔をぶん殴るのがオチだ。


 俺の目の前でも、3匹のゴブリンがフレンドリーファイアして脱落した。アホか。


 その間、俺もぼーっとしていた訳ではない。


 ゴブリンの腕を捻り折り、蹴りをかまし、締め上げる。奴らは本当に連帯を知らない。

 俺の背後を狙ったつもりだろうけど、俺は避けるから仲間に剣がヒットするだけだからなそれ。

 その背中にいるゴブリンに肘鉄。からの首パッキン。

 奴らも生物だから、怯みもするし逃げもするけど逃さない。

 逃げるゴブリンの背骨を折り、剣を奪って隣にいたやつの頭を切り裂く。

 悲鳴を上げながら剣を振りかざしてきたやつの手首を掴み、投げる。壁にぶつかってるから即死だろう。


 残り5匹は、戦意すら失った顔でノロノロと挑んできた。つまらないな…………。




「終わった。この剣とか回収しようぜ」


 この為に、わざわざ武器を破壊せずにやったのだ。なんかの足しにはなるだろう。


「うっす」


「あとさぁ」


「なんすか?」


「俺、笑ってた?」


「完全に笑ってたっすね」


「そっかぁ……」


 死渉(しわたり)の一族は“死”に興奮する。これは“死狂(しぐる)い”なんて呼ばれることもある。

 死の感覚に興奮し、死の気配に吸い寄せられ、戦闘に悦びを覚える。

 それはいい。もう個性みたいなもんだし、制御もまぁできる。

 だが、俺は自分がこの狂気と興奮にすぐに深く嵌りやすいことを自覚している。あと、極度の“死狂い”の後は記憶がぼんやりしている。最近は無いけど。

 ……ここだけ聞いたら俺がヤバい奴みたいだな。


「修行が足りんなぁ」


「そうっすか?」


「うん。足りない」


 精神統一の時間を増やそうかしら。







 その他にも、完全武装のレッドキャップやオークなどの難敵をくぐり抜け、トンテキを食べ休んだりしながらも、ラスボスにたどり着いた。

 早く帰らないと巴が心配する。さっさと片付けよう。


 本によると、ここがラストらしい。それに、迷宮って奴は急激な成長はしないらしい。魔力の関係がうんぬんって書いてあったけど、どう考えてもダンジョンポイントとの兼ね合いだろう。


「さぁて、ラスボスさまはどんなんでしょうねぇぇ」


 ラスボスに続く扉を蹴破る。


「行くぞアキルク!」


「うっす、どんとこいっす!」


 観音開きだった扉の先にいたのは、物々しい鎧を身に纏った真っ白な騎士だった。












扉には可哀想なことをした

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