20話 「「「「おうふ」」」」
2章の始まりですよ! 章が作れない!
「まず、ダンジョンバトルってなんだ?」
《ダンジョンマスターどうしの、あらそい。ショウリジョウケンとか、えられるものは、そのたびにきめる。
どういがないと、ダメだけど、アレをつかえば、だいじょうぶみたい》
俺は、憎々しげにシンクにぶつけられた宝石を見つめた。雑にカットされた拳大の宝石だ。
シンクが調べたところ、本当にあのダンジョンマスターの言ったとおりの効果があった。だけど、実際は相手に少しだけ触れさせればそれで契約は成立するらしい。つまり、フルスイングでぶつける必要なんてどこにも無かったんだ。ホント、マジ、あいつ、許さない。
「相手が誰だか分かるか?」
《ジュウソウのダンジョンマスター、スウェラー・ヘビーナイツ》
「重装の迷宮?」
『私の同世代では期待の新人らしいです。“特長”も優れていますし……』
「そのたびたび聞く“特長”って何だ?」
《ダンジョンマスターがそれぞれもっている、ノウリョクのことです。
スウェラー・ヘビーナイツのジュウソウのトクチョウは、ブキもおれるような、カタいマモノがショウカンできるというもの、です》
「それだけ?」
「でも、硬いって結構厄介じゃないっすか? 単純だけど、嫌っすね」
「そうですわね。武器が折れるって魔具じゃないと対応できないんじゃありませんこと?」
「んーん、案外簡単だよ。名前的に重装歩兵みたいなのだと思うし。あーゆーのって、関節は柔らかいから。あと、武器が負けるなら殴ればいい」
巴の言うとおりだ。
「そうだな。重さがある分、どうしても遅くなるし捕まえたらこっちのもんだ」
寧ろ、よくその程度であれだけのデカイ態度取れたなあのダンジョンマスター。
「それが難しいんすよ⁉ 特に素手で壊すとか自分には無理っす!」
「アキルク明日から訓練追加ね。さっき言ったこと出来るようになってもらうから」
「余計なこと言っちゃったっすぅぅぅぅ!!!」
まぁ、一回そいつの迷宮に行ってみないとな。
《でも、わたしはトクチョウをもってません》
シンクの文字が震える。
「だから、出来損ないか」
『…………はい』
「だから何?」
『え?』
「特長が何? 重装歩兵か何? そんなショボいものでシンクの価値が勝手に決めるとかお山の大将すぎない? 井の中の蛙すぎー。
そのスウェウェウェなんとかべビーナイナイとやらは米を召喚できるの? 異世界の食物だぞコラ。
あいつがシンクの何を知ってんの? 人の価値がどうとか決める権利持ってんの?
冗談は永眠してから言ってよ。自分の主観だけでそういうのを決めるアホに付き合う暇は無いぞシンク」
「シンクは、単純だけどとても良い子」
「わたくし達、知ってますわ。シンクさんが頑張り屋さんな素敵なお嬢さんなことを」
「自分たちには、かけがえのない存在っす」
縮こまったシンクを見る。
「そういう事だ。お前は完璧な円のメンバーだ。オレの式神だ。自身持って前向いて……そんで、あいつを倒そうぜ」
俯いていたシンクが、やっと笑う。
『はい!』
「ほぅら、お菓子もやろう」
『わぁい……って飛びつくほど軽い式神じゃあないんですからね! もう』
「ははは」
良かった。お前はこうやって笑ってればいいんだよ。
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「でも、どうするの? そのフェフェフェフェフェとやらは、シンクに絶対勝てるって思って宣戦布告してきたんでしょ?」
「そうっすね。ファベファベさんは、期待の新人らしいっすし、自信もあるに決まってるっす」
「でも、そのフィンフィン様には想定していない事がありますことよ」
「あぁ、それは俺達だ。ふぁこふぁこはシンクが1人だと思っている」
そのアドバンテージを最大限に活かさなくてはならない。
「シンク、今出せる力でポイント使い切って迷宮を作ったらどうなる?」
《はじめてミツルさんがきたときよりちょっといいものくらいです》
「おうふ」
《それに、私はフフフフフにタイコウできるマモノは、ショウカンできません》
「というと?」
《トクチョウが無いので、ゴブリン、コボルト、マウスくらいしかショウカンできません》
ぜ、全部ザコの代名詞だ………!!
「「「「おうふ」」」」
よし、当たり前だけど純粋な迷宮の力だけで戦うのはやめようか!!
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「えへへ、見てみて〜。買っちゃったぁ」
相手の戦力が分からない限りは対策は難しいな、と昨日は寝た。
で、今日ギルドで買った本を見せたのだ。ギルド価格で安くなってたんだよ?
「『迷宮大全』? そろそろ本の人外魔境と化しかけてる満の部屋に本を増やすの? 迷宮の床が抜けるよ」
いや、まだ100冊もいってないから抜けねーよ。
「1回屋根裏は抜いたよね」
いやだってアレは天井の防御力の問題でぇ!
「いやだってアレは天井の防御力の問題でぇ!」
俺に読書をやめろと申すか裁判長!!
「別に、満が読書してんの見るのは好きだからいいけどさぁ。構ってくれなくて暇」
ぶーたれた巴がくっついてくる。
「じゃあ一緒に読書しようぜ」
「うーん、それは難しい」
「難しいか〜」
「でも一緒にいる事はできるね」
「そういえば、今までそうだったじゃん」
「そうだったわ」
「……そういえば、ミツルさんは読書熱心ですものね」
「暇さえあれば読書してるっすよね。トモエさんを膝に乗せて」
「まくじろうの時もありますわよ」
まくじろうとは、俺のだきまくらだ。製作時間1日。生息地は俺のベットの上!
巴が構ってくれないときは、まくじろうで悲しみを埋めている。
「ところで、それは何に使うの?」
「あー、昨日のダンジョンマスター対策。情報は少しでもあった方がいいだろ? これ、新しい迷宮ができる度に更新されて出版されるらしいから、載ってるかな〜って」
分厚い本をパーッと捲る。
へへ、絶対にボコるんだアイツ。少なくともメンタルはスプラッタにしてやる。
「………お、あった。“重装の迷宮”」
「行ってみようよ」
巴が俺の手元を覗き込む。
「そうだなー。どこにあるんだろ……」
え、マジか。
「あちゃー」
「どうしたんすか?」
「遠い国ですの?」
いや、そうじゃない。そうじゃないけどちとマズイ。
「「ボネゼ王国……」」
何を隠そう、そこに記されていたのは、俺達を召喚したあの因縁の国、ボネゼ王国だった。
「いや、ボネゼ王国にはちょっと思い出があってね」
「何やらかしたんすか?」
最初の反応がそれ?
「し、信じてますわよ! 犯罪はしてないって……」
クラリーヌよ、語尾がだんだん小さくなってるじゃないか。
「二人ともひどくない?」
「犯罪は取り敢えずしてないし、ただ……あまりいい思い出が無いっていうか……」
「そうだったんすね……」
「その、大丈夫ですの? 無理して行かないほうが……」
「うん。無理はしてない。行って大丈夫、ね」
「そうだな。平気」
おお、巴が弁解している。珍しい、珍しいよ!! ちょっと君たち! 何をぼうっとしているのだね! 拝んで見なさい、拝見しなさい!!
「だからさ、すぐ行こう」
「巴、偉いなぁ、成長したなぁ…………」
ウゥっ、感涙を禁じえない!
「褒めるのじゃ」
「すごーい! えらーい! 巴ってもしかしなくても天才じゃない? 神に愛されてんの⁉ 頑張ったねぇ、頑張ったねぇ……」
抱きしめ頬擦りしながら撫でくりまわす。偉いなぁ。
「んへへ……ふふん」
「じゃあ、いつ行くっすか?
いや、そんな自慢げに見られても悔しくないっすからねトモエさん。自分、ミツルさんに抱きしめられても嬉しくないっす」
「なんと、そうだったのか」
「俺も、アキルクを抱きしめて頬擦りしたいとは思わねーよ」
「ええー」
何を残念がってるの巴さん。『満は基本、誘い受けだからなぁ』とかいう呟きは聞かなかったことにする。ねぇ何処でそんな知識つけたの?
「ボネゼ王国といえば、隣国ですわね。迷宮の場所も国境のようですし、明日行きますこと? 時間も無いですわよ」
スルースキル高いなクラリーヌ。スルー界の新星だ。
「クラリーのスルースキルが……高い!」
「このパーティにいたら自然と鍛えられるっすよ」
「「なんと、そうだったのか」」
そりゃ初めて聞いた。
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「こういう時のために作っておきましたのよ」
まぁ、今日は魔物を狩ろうぜと森に入ったのだが、クラリーヌが土偶のような人形を取り出した。
「いや何だしそれ」
「魔物見つけるくんですわ」
「「「魔物見つけるくん……」」」
「ほら、お話を聞くとこのパーティってシーフの方がいないでしょう? ミツルさんとトモエさんは気配を読めるけど、遠くの魔物を見つける事は難しいですわ。
でも、この魔物見つけるくんでしたら……」
クラリーヌが見つけるくんを地面に置く。ゴトン、という重い音がした。
『ふぃやふぃやふぃや……あっちだよぉ〜』
「「「…………………」」」
キショいダンスをしながら、気持ち悪い声で右を示す見つけるくん。どういう原理をしているのか知らないけど、無駄に動きが滑らかだ。つまりキモい。
「どれくらい強いんですの?」
『ふぃやふぃやふぃや、よわい、たくさんん〜』
「もしかしたらゴブリンかも知れません。行ってみましょうか」
「「「お、おう」」」
だけど行ってみよう。魔物に会えるなら万々歳だ。
「マジでいた」
「何あの魔物…………」
巴が怯え……では無く、引いたような声を出す。俺も引いてる。
目の前には、口の端から泡を吹きながら、ポリスに取り上げられる系の薬をキメたような目の狼たちが、ぐるぐるぐるぐる走り回っていた。
「マッドウルフっす」
「あー、そういえば図鑑に載ってたわ」
「なにそれ」
お前はもう少し図鑑を読むのじゃよ。
「確か、病気で頭がおかしくなった狼が一定数集まっていつの間にか種族として、世代を重ねて定着しちゃったってやつでしょ?」
そーいえば、図鑑にそう書いてあった。
「発見した場合、可能なら必ず討伐しなきゃいけないっすよ」
「そうなんですの?」
「ええ、病気を広めちゃう可能性があるっす」
「なるほど」
「いけるか、俺達なら」
見た目のインパクトはAランクだが、それ以外はちょっと強めの狼だ。
「注意点は、ある?」
「触れないことあと、奴らには“恐怖心”が無い。怯ませて潰すみたいな戦法は無し……アキルク武器無いよね?」
アキルクは拳闘士だ。手甲みたいなのをしているが、これではマッドウルフに触れてしまう。
あー、失敗した。これまで何とかなってたからなぁ。
「うっす」
「じゃあ、アキルクとクラリーヌは今回は警戒だけ! ごめん今度武器屋いこうな!」
「うす」
「分かりましたわ!」
「行くぞ巴!」
草木を掻き分け、マッドウルフの前に躍り出る。
「うん」
「ちょ、ミツルさん! 注意点覚えてますか⁉」
「うん。触れちゃ駄目なんでしょ?」
だったら、話は簡単だ。触れなければいいだけなんだからさ。
「どうする、満」
「とーぜん半分な。16匹だから丁度いいだろ」
「はーい」
作戦も整った事だし、俺は目の前のウルフを棍棒でぶん殴った。
慎重に血飛沫を避ける。体術は使えないし、身体の動きに神経を使う。マッドウルフは戦うのには少しだけ面倒くさいと言えるだろう。
泡を吹きながら飛びかかってきた1匹の首を棍棒でへし折ると、口角が上がる。
「んふ」
でも、たまにやる縛りプレイって楽しいよね。
1匹の背骨を叩き折り、その勢いで飛び跳ねもう1匹の頭蓋骨を踏み砕く。
「あと4匹……」
チラッと巴を見る。げ、あいつ今ラス一取り掛かるところじゃん。相変わらず早い。でもこれ本気じゃないぞ。だって超、遊んでる。舐めプもいいところだ。
俺も、巴の動きを目視だけで判断するのは難しい。クラリーヌとかどうなってるか分かんないんじゃないかな? それに、動きがトリッキーすぎて予想できないだろう。
ま、俺くらいになると今までの経験則とかでどうとでもなるんだけどな! ふふん。でも10回に4回は予想できない気がする。
巴に追いつくにはまだまだって事だ。俺が1歩進んでる間に、アイツは100歩進んでる。
だから、俺は巴に追いつく努力を怠らない。這いつくばってでも喰らい付く。
巴が孤独にならないように、理解者でいられるように……というのもあるけれど、単純に俺が巴の側にいる自分が1番好きなんだ。ずっと、隣で笑ってたいだけなのだ。
俺みたいなのは努力を辞めた瞬間、巴の隣にいることはできなくなるだろう。そんな生半可な奴は巴の隣にいる権利は無いのだ。だって、そんな奴が巴にノコノコ寄ってきたら、俺がグーでビンタするからな。
毎日、一本取るくらいの気持ちで挑まないといけない(なお、戦闘で一本取れたことはない)。
ずっと一緒にいるって約束したのに、途中退場なんてできない。
おっと、自分語りをしている間に全て倒してしまったようだ。
「どうする? 死体は燃やす? 鞄の中に入れるのもなんかやだし」
それにしても、巴が殺った跡は傷口が鮮やかだ。
「あ、予備の鞄を使いますこと? 容量も少ない失敗作なので、捨ててもよろしくてよ」
「いいの?」
「ええ、こういう事もあるかと思って持ってきたのですわ」
クラリーヌが優秀すぎる。
「ありがとう」
狼の亡骸をそれに詰め込む。
俺はこの場の浄化でもしてようか。
「──────。────────、───」
死渉 満が、何かを唱えながら不思議な歩き方でマッドウルフの遺体があった辺りを歩き回っている。
普通なら気狂いと間違えられるだろうが、そこには決して邪魔してはならないような、一種の神聖さがあった。
それを、演劇でも見るかのように巴がじっと見つめる。
「ミツルさんは、何をしているんですの?」
「多分、浄化」
「ミツルさんは、聖職者なんすか?」
アキルクが、巴に尋ねる。
「違う……陰陽師」
「「おんみょーじ?」」
クラリーヌとアキルクが、異口同音に言った。
「……もう、陰陽師からもかけ離れてるらしいけどね」
巴が、満から目を離さずに言う。アキルクとクラリーヌの発言を聞いているかどうかは不明だ。
自分の友人のテンポは、他のものとは大分違う事を知っているクラリーヌは、特に突っ込みもせず黙って聞いていた。
「純粋な陰陽師なら知らないようなこと、沢山知ってるらしいし……純粋な陰陽師とは何かって聞かれると私も知らないけど」
どうやら、満のやっていることは巴でもよく分からないらしい。
霊符をばら撒きながら歩く満を見て、巴がふと言った。
「もうすぐ満が樹木を育成しはじめるかも。多分……ていうか絶対する」
「「??」」
そこから先は、巴は何も言わずに満の浄化が終わるまでそれを見続けていた。
明日は、迷宮に出かける日だ。
最近戦闘回と陰陽師要素が少なくね? と思えたので。




