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2話 「そして、死渉家の名を異世界にも轟かせる」

 






「貴様らには失望した。さっさと出ていくがいい」


 ある日の朝、じしょゆうが興味を失ったように言い放った。

 奴を直接見るのは4日ぶりか?


「……………………」


 俺は何も言わない。静かに肩を震わせるのみだ。


「どうした。不満か」


「いえ、お役に立てず申し訳ございません。

 俺達にとって荷が重かったのです。どうぞ、俺達の事はお忘れください。エドワード・グラッセン第三王子様」


「ふん、出ていけ。二度と僕様に付きまとうなよ」


「……はい」


 頼まれてもやらねーよ。いつ、付きまとったってんだ。





 それから、俺達は城から追い出された。申し訳程度の食料と金銭と共に。



 よっしゃあ! あっちのほうから追い払ってくれたぁ!!










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「「ヒャッホーイ!!!」」


 俺達は城下町を抜け、隣国へ続く森の中でテンション高く走り回った。



 やってやったぜ!


「すごいうまく行ったね! 満!」


 巴も珍しく笑顔だ。満足に体の動かせない一週間に、フラストレーションが溜まっていたのだ。


「ああ! お、うさぎがいる!」


「捕まえて食べよう!」


「よし来た! いけ、巴!」


「えいっ」


 巴が投げた小石は、狙いを外さずうさぎのこめかみを貫いた。


「「いただきます!!」」


 こういう風にしてあるものだけで生活するなんて、高2の夏休み、無人島に巴と一緒に置いて行かれたとき以来かな。

 お陰で宿題終わらなかった。せめて、宿題持って行かせてくれればよかったのに。





 ふぅ、人心地ついたところで、特に面白い事も無かったから、これまでの一週間を、ダイジェストでお送りします! つまんなかったら飛ばしていいよ!





 まず、一日目。



「貴様らの魔力を測る」


 そう言われて魔法陣みたいなものの上に立たされた。そうしたら魔法陣が淡く光った。


「王子様! 並以下の魔力しかありません! これでは攻撃魔法一発で枯渇してしまいます!」


「くっ、使えないな。適当に訓練しておけ」


「はっ」


(陰陽師としての“気”の力と魔力って別なんだ)


 と思いながら俺は心にも無い謝罪をした。


「申し訳ございません。お捨てになられてもよろしいので、どうかお命だけは……エドワード・グラッセン第三王子様」


「申し訳ございません」


 二人で頭を下げる。こうして俺は陰陽術を使い、じしょゆうの俺達への関心と期待を削いでいった。


 夜は城に忍び込み情報収集をした。

 てか、この城は侵入し放題だな。警備がクソだ。


 そして驚いたことに、文字はカタカナと平仮名と漢字だった。文字を覚える手間が減った。なるほど、俺達みたいに召喚された人間がたくさんいる証かもしれない。

 でも、日本と違うのは平仮名とカタカナが主流で、漢字は特別な時にしか使わないらしい。普段感じで書いている部分をカタカナにしているといったらわかりやすいだろう。つまり『それは鉛筆だよ。知ってるかい? チャーリー』は『それはエンピツだよ。シってるかい? チャーリー』となる。チャーリーって誰やねん。名前を書くときはカタカナが主流だ。

 だから、俺の名前を書くときは死渉 満ではなく、ミツル・シワタリだ。


 少し調べると分かったけど、どうやらこの国の王子は三人いて、皆んなボンクラらしい。王妃も似たようなもんで、豪遊を繰り返している。頼りの王様は体調を崩していて、王子に構っている余裕など無い。




 二日目。


 この世界では、“称号”というものがあることがわかった。

 じしょゆうが勇者とか自称している理由も、“選ばれし者”という“称号”を持っているせいだ。自称とか言ってゴメンネ。改めるつもりは無いけど。てか、どつちにしろ自称じゃねーか。じしょゆうでいいよ。


「そういえば称号の診断をしていなかったと王子が仰せられた」


 文官みたいな人がそう言って、また、魔法陣みたいなものの上に立たされた。

 暫くすると、文字が浮かび上がった。


「むむ………か、“紙使い”? 何だこのフザケた称号は」


 俺の二つ名です。


「んぐふっ」


 巴が吹き出した。笑ってられるのも今のうちだぞ。

 俺がこれならお前は多分…………


「“奇術師”⁉ なんだこの使えない称号はっ!」


「ふふっ」


 ほら、一見したら非戦闘要員な二つ名なんだから。


 その日は怒られて帰された。理不尽な。


 その後調べて分かったことだけど、この世界で“称号”とはとても重要なもののようだ。

 “料理人”の称号を持っていれば練習すればするだけ料理が上手になり、“剣士”や“戦士”などの称号を持っていればちょっと訓練すれば、称号を持っていない者が敵わなくなる程、強くなるらしい。

 それを考えたら俺達、使えないな。



 三日目


「では、剣術くらい覚えてもらう」


 そう言って下級兵たちと一緒に訓練場に連れて行かれた。

 魔力と称号で期待を失ったらしく、扱いが非常に雑である。






(巴、我慢だ)


(わかってる…………)


 俺達は頑張って我慢した。そして激怒した。必ず、かの邪知暴虐のじしょゆうを除かねばならぬと決意はしていないけど、我慢した。

 扱いの悪さに怒ったんじゃない、兵の練度が低すぎてイライラしていたのだ。下級兵といえど、これはあんまりだ。

 はとこの山吹(やまぶき)ちゃん(10歳)の方がいい動きするぞコラァ!

 基本からやり直しじゃあっ! 全員走り込みからぁっ! 何度その言葉を飲み込んだことやら。

 最近戦争が無いから実戦経験がないとかいうのは甘えなんだよぉ! 実戦経験は大事なんだけどここまで酷いのは流石に甘えだろ! オラ、そこのデブ! なんで兵士がデブなんだよ⁉ 案の定息切れしてやがる。動け! 痩せろ!


 その上、俺たちが戦える事を秘密にするために、わざと模擬刀でよろめいたり、疲れてへばったふりなどをしなくてはいけなかった。

 体力は失わなかったけど、神経を使って疲れた。秘密が多い分、体育よりも気を使う。


 夜の探索では、この国の状況について知ることができた。

 かつて大国と謳われたボネゼ王国は今や、腐敗と奸臣の人外魔境らしい。

 その権力で豪遊する后に、アホな王子達にすり寄って私腹を肥やす貴族たち。王子ーズもあほあほだから、自国の危機に気が付かない。

 頼みの王様も、体を崩して食事すらままならない。

 きっと、国民たちも苦しめられているのだろう。

 過去の栄光で何とか成り立っている自転車走行のようだ。早く出ていきたい。



 四日目。


 昼は特に何も無かった。意味のない訓練をした程度だ。

 日を追うごとに貧相になっていく食事には閉口したけれど。


 そして、そろそろ逃走の計画を立てようという事で地図を眺めたりした。

 この国に留まるのは不味かろうという訳で、隣国のヨルタル王国に逃げることにして、この国について調べたりした。

 仲良くは無いらしいから、もし、万が一正体がバレても協力して追い回されるみたいな事は無いだろう。

 政治屋さんの考えることはわかんないから俺達の出自は基本的に秘密にしておこう。


 逃げてからは、ファンタジー世界ではお約束のあの職業、冒険者になる予定だ。

 というか、身元不明でもなる事ができる職業が冒険者しか無かった。



 五日目


 いつものように剣を危なっかしく振り回していたら、やたら派手な男が二人来た。若いが、俺より年上だろう。


「あれがエドワードの召喚した奴らか」


「ふん、大したことないな」


 遠くから俺達の悪口を言う。聞こえてるぞ、死渉は耳がいいんだよ。

 そして、巴を一瞥すると、小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 くっそ、腹立つ。巴を馬鹿にすんじゃねえ! 巴がその気になったらお前らなんて一瞬で全治三ヶ月の重症だからな!


 夜は、脱走の準備を着々と進めた。食料を台所からすこーしだけ拝借して、死渉式兵糧丸(ひょうろうがん)をつくったりした。それも沢山。

 美味しくて栄養満点! 食欲旺盛な死渉キッズも大満足のひと粒だ。

 脱走中にもぐもぐ食べよう。



 6日目


 ようやく、魔法について習った。魔力量が少なくて教える気が無かったらしいけど、駄々をこねたら教えてもらえた。

 だって魔法だよ? 陰陽術があるとはいえ、触れてみたいと思うじゃないか。

 だけど、正直期待ハズレだった。

 もしかしたら、講師が悪かったのかもしれない。やる気のなさそうなオッサンだったから、わざと魔法が下手なやつを寄越してした可能性がある。

 何が期待ハズレだったかというと、詠唱が長い割には威力がそんなでも無いことだ。

 このおっさんがムニャムニャ詠唱している間に、俺は10回おっさんを殺れ……殴れる。

 この世界で魔法とは、基本的に効率が悪くて選ばれし者しか実用的に使えないという。

 なーんだ、という感じだ。でも、上級魔法まで書いてある“基礎魔法読本”を貰った。

 俺は陰陽術があるからどうでもいいけど、巴が使うかもしれない。

 俺も、もしものために飲み水を出すくらいはできた方が良いだろう。


 夜はやはり、準備をした。これから荷物は肌身離さず持つ事にする。

 そして、じしょゆうが俺達を召喚した詳しい理由もわかった。

 この世界には2つの大陸がある。魔族の住む魔大陸と、人族や亜人の住む大陸だ。

 大昔に魔族と戦争した際、お互いが別の大陸に住むということで戦争は終わったらしい。

 そして、“選ばれし者”の称号を持つ人間は、魔族の身体を消滅させる魔法を使う事ができる。

 つまり、じしょゆうもそれが使えるようだ。

 で、じしょゆうは王様になりたい。そこで、選ばれし者としての力を最大限に使い、魔大陸を支配して有効な切り札にしよう! と考えたそうだ。馬鹿め。

 だから、自分だけの戦力を増すために俺達を召喚した。絶対に自分に逆らわない強力な奴隷を得るために。

 迷惑だよ! アイツだけは許さねえ。



 そして7日目


 俺達はあっさり追い出された。ひゃほう。

 逃げるより円満に追い出してくれたほうが後腐れが無い。

 俺が術で興味を削いでいったから、思い出して追いかけるなんてことも無い。

 そもそも無能と思われているから削がなくてもそんな事は無いだろう。

 だから、奴隷にしようとした計画も忘れている。


 うええええええい!


 荷物は肌身離さず持っていたから忘れ物もない。







 回想終了。


 うさぎを食べ終え、それでも食料が足りなかったので兵糧丸を食べながらのんびり森を歩いていった。

 ヨルタル王国までの地図は記憶している。


「冒険者になったらどうする?」


「んー、最強を目指す」


「志が高いっ」


 でも、巴なら目指せる。


「そして、死渉家の名を異世界にも轟かせる」


「いいかもな」


 なんだかそれも、楽しい事のような気がしてきた。

 ご先祖様のやった事をまたやってみる。


「じゃ、決定」


 なし崩しに、俺達のやる事が決まった。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「ほー、ここがヨルタル王国かー」


「でっかいなー」


 俺達は城下町の前にある大きな壁を見てお上りさん的発言をした。

 仕方ない、こんなのヨーロッパからの依頼でも無いと見られないのだから。

 これくらいだったらわざわざ門を通らなくても飛び越えられるかな。

 入り口の門の前には人がたくさん並んでいて、並ぶのかーと思うと億劫になってしまう。


「………イケる」


 巴も同じ事を考えていたようだ。だが、それをしたらマズイ気がする。

 真剣に飛び越える算段を立てていた俺は、正気に戻った。


「…………辞めとこうか」


「えー」


「並ぶの面倒だけどな」


「うん」


 巴の手を引っ張って列の最後尾に並んだ。





 と、その時───



「シャァァァァァァァ」



「キャァー!」


「ま、魔物だぁー!」


「逃げろぉー!」


 森から魔物が現れた。真っ黒な鱗に覆われた、巨大な蛇だ。額には大きな宝石がある。


 それを見た瞬間、俺と巴は走り出した。死渉の性だ。


 いないとされてはいるけど、前の世界にもこういう生き物はいた。

 人間の業は深く、人工生物を頭のおかしい科学者が作ったりするのだ。そして、その大半は暴走してしまう。

 そういうのを秘密裏に倒せるのは死渉くらいだ。俺と巴もやった事がある。

 それとは別に、俺は陰陽師だから“鬼”や“妖”を始末することもあった。じいちゃんが連れてってくれた時だけだけどね。


 つまりこの程度、簡単に倒すことができる。


 俺は懐にある呪符を手にした。呪を唱えて飛ばし、蛇の身体に当てる。別に人じゃないからこれくらい使っていいのだ。一瞬、蛇が硬直したと思ったら、蛇の首があっけなく落ちた。首を跳ばしたのは俺ではない。巴だ。


 首の前には巴がいる。手には剣が握られていた。そこら辺から奪ってきたのだろう。巴がこれで、蛇の頭を刎ねたのだ。


「死んでる?」


 たまに頭を落としても元気に動き続ける化け物がいるのだ。


「死んでる。一瞬で終わったね」


「そっかー。きっと低級のやつなんだよ」


 警戒しながら蛇に近づいた。

 流石は巴、その時切り口は美しく、首が落ちてから血が吹き出るまでに時間が掛かった。


 さて、どうしようか。


 この蛇は、学校の机ほどの太さで、長さは成人男性ほど。

 俺達で運べなくはないけど、デカくて嵩張るな。


「食べる?」


「ギルドに行ったら、食えるか聞こうな」


「うん」


 未知の毒があったら大変だ。お腹を壊してしまう。

 蛇って美味しいのかな? わざわざ食べるようなものでもないけど、昔は食卓にも上がったらしい。


 あと、その人が倒したものはその人のものらしいけど、こんなデカイ蛇を持って歩かれたら迷惑だろうな。血抜きはしておこう。


「よいしょっと」


 うーん、でかい。血抜きも骨が折れるな。


「満、肩車して」


 あ、なるほど。オレが、蛇を持った巴を肩車したら万事解決だ。


「さすが巴、略してさすとも」


「へっへーん」


 暫く血抜きをしていると、門番っぽい格好をした人が来た。

 きっと、国の兵士なのだろう。沢山いる。



「魔物はどこだっ!」


「あ、あそこに………」


 魔物ってこの蛇の事だよね?


「こっちでーす」


 魔物が出たと住人から通報があったに違いない。


「えっ」


「ひいっ」


 兵士の人がこっちを見た瞬間、前に立っていた数人が顔色を失った。


「どうしました?」


 あ、もしかしたら態度が不味かったのかもしれない。

 こういうのってほら、下級兵ほど態度が横柄みたいな事を書いてある本があった。マンガだけど。

 『跪かないとは、ええい! 無礼者っ!』みたいな事を言われるかもしれない。


 しかし俺達は“死渉”だ。権力に媚びない。


「こんな格好で失礼します。お探しの魔物はこちらでしょうか」


「あ、ああ」


「何か問題でも?」


「いや、問題というか……それを倒したのは君たちだね?」


「そうですよ。なんなら周りの人に聞いてください。見ていたはずですから」


「そ、そうだね。ちょっと話を聞きたいから来てくれるか?」


 身構えていたら、感じのいい人だ。横柄じゃないし、言葉遣いもしっかりしてるし。


「巴、どうする?」


「行ってみる……カツ丼出るかな」


 巴が即答した。わかったよ、腹減ってんだな巴。

 俺は袋に入れていた兵糧丸をひと粒、投げた。巴が器用に口でキャッチする。これで暫くおとなしいだろう。


「じゃ、行きます」


「じゃあ、着いてきてくれ」



 やったー! 並ばずに中に入れたぜ!今日はラッキーな日だな。









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