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16話 「実際、視界を奪われてアホみたいに腕を動かすことしかできない奴は弱い」

 






「ブヒィ!」


「おらぁっ! もっと根性見せろっ!」


 オークの重い一撃を避け、棍棒でその顔面を叩く。豚を無理やり人にしたような顔面が歪み、赤い鮮血が散る。魔石と肉が無事なら何でもいいんだ。

 そして、次のオークも同様の方法で沈めた。


「アキルクっ! 無事かっ!」


 一匹とアキルクが戦っている。互いの攻撃は重い。それを避け避けられ……アキルクの足技がオークをぶっ飛ばした。


「うっす。平気っす」


「そりゃ良かった」


「あれ、トモエさんは?」


「ここ」


 巴がブンブンと手を振った。


「3匹も……流石っすね。他のオークはもういないっすか」


 アキルクが周囲を見回した。確かに、()()()()()()()()


「残念ながら、もう一仕事だぜアキルク。デカイのが来る」


 もしかしたらオークキングとやらかもな。


「は? でかいの?」


「ブヒィィィィィィィィィィィ!!!」


 アキルクの疑問を遮るように()()は来た。


「お、オークキングっ!」


 アキルクが悲鳴に近い声を出す。


「先手必勝! いけ! 舞え!」


 その姿を完全に確認する前に、俺は懐に隠し持っていた呪符をばら撒いた。最近使ってなかったからな! 陰陽術! スキあらば使うぜ! そうしないと自分でも忘れかける!


 人形を模した紙は、一直線にオークキングに張り付く。

 煩わしげにオークキングが腕を振るうが、全く意味ない。ベタベタと顔に張り付き視界を奪い、関節に張り付き自由を奪う。


「な、何すかこれ!」


「ひみつ!」


 そうか、アキルクは見るのは初めてか。これはオリジナル技だからな! 伊達に陰陽術以外にも仙術から怪しげな占いまでかじってないぜ!


「おりゃ」


 そして巴が首をへし折る。


「す、凄い。オークキングを赤子みたいに……」


「実際、視界を奪われてアホみたいに腕を動かすことしかできない奴は弱い」


 せめて、相手の気配を読んで殴りかかるくらいしてくれないと。


「えー」


「アキルクもできるようになってもらうよ」


 大丈夫、できるようになるから。そんな気持ちを込めて微笑みかける。


「うっす。頑張るっす」


「よしよし」


 アキルクが気骨のある奴で良かった。


「ねーねー、オークキングっておいしい?」


 巴がオークキングを持ってきながら言った。


「確かにそれ大事」


「ねー、美味しくないと困る」


「うーん、どうっすかね。実は、オークキングってかなりレアでそういう話は出回ってないんすよ。

 自分も、オークなら食べたり倒したりしたっすけど、キングは伝説上っていうか……出会って倒したら周りに一目置かれるような存在なんすけどねぇ⁉ パキッて、パキッて……他のオークのついでみたいな!」


「どうしたアキルク」


「どした」


 急に元気になったな。


「いえ、自分が早く追いつけばいいだけの話っすし……何でもないっす」


「そうか、困ったことがあったら何でも言ってくれ」


 できるだけ善処しよう。


「あざす」


「とにかく、あとはオークを鞄に入れてここを壊せばいい?」


 そう言いながら、巴がオークを鞄に詰め込んでいく。


「おー、そうだな」


 俺はオークの家を蹴り飛ばした。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「こんにちは〜」


 オークも狩ったのでギルドに入る。


「今日は何をやらかしたんですか?」


 受け付けのお姉さんの先制パンチ。


「あらやだ辛辣。聞きまして、奥さん。こんなに品行方正なのになんて言い草なんざましょ」


 コソコソと、巴に話しかける。


「そうざますねぇ。まったく、やらかした事なんてないざますのに」


 巴がそれに応じた。


「なんだかキザで自慢しいの息子がいそうな喋り方やめてもらえません?」


 お姉さん、いつも的確で冷静だぜ。


「そこに痺れる憧れるぅ!」


 巴がタイミングよく俺の心の声に答えた。


「ブレませんね、二人とも」


「そういえば、話変わるんですけどお姉さんとの遭遇率高いですよね。運命ですか」


 ディス イズ ディスティニー⁉


完璧な円(アブソルートサルコウ)のテンションについていけるのが私くらいだからです」


 折角、運命だと思ったのに……そうか、テンションについていけないのか。


「見た目も子供だし発言もふざけたものが多いのに着実に、規格外の成果を出す落差についていけないと、多くの職員が言っています」


「えー、そうなの」


「はい」


「慣れると案外楽しいっすよ」


「アキルクっ! 心の友よ!」


 嬉しいことを言ってくれるなぁ!


「ちょ、ミツルさん! 抱きつかないでほしいっす! いたいいたい!」


「めんごめんご」


「アキルクさんの気持ちは分かりますけどね……今日は何をしたんですか?」


「オークを6匹とオークキングを1匹やったっす」


 アキルクがお姉さんに言う。なんか今、とっても嬉しいことをお姉さんも言ってくれた気がしたけど話が進んでしまった。


「嬉しいね」


「うん」


 巴と確認し合う。


「取り敢えず出してください」


「これです」


 オークキングを取り出した。


「何ですか? この大量の紙は」


 おっと、取るのを忘れてた。


「もどれもどれ」


 小声で指示すると、オークキングを縛り付けていた紙がハラハラと落ちていった。


「何ですか? これ」


「飯のタネなんで勘弁してくだせぇ」


 うっ、お姉さんの視線が痛いっ。


「一応納得しておきます」


 セーフ!


「オークキング、おいしい?」


 巴がじっと、お姉さんを見つけた。


「はい。とても」


「美味しい部分をお願い」


 今日は、肉とオークとオークキングの魔石を一つずつ自分たちで持っとく事にした。


「……合計、金貨2500枚です」


「うっわすげー」


 最近、金貨100枚単位が普通になってきた自分がいる。やばい、思い出せ普通の金銭感覚。


「銀行に入れておきますか?」


「そうします」


 パーティ内でのお金の割り振りについて考えとかないとな。



「オークキングは非常に危険な魔物です。討伐していただき、ありがとうございました」


「どうしたんです? 急に改まって」


「いえ、オークキングを持ってきたら、これくらいかそれ以上の賞賛が普通です。いつもとんでもない魔物を狩ってくるので失念しておりました。申し訳ありません。

 それに、これだけの事をしていながら自然体なんて、おかしな方達だなと思いまして。これからも頑張ってください」


 そして、お姉さんがふっと笑った。


「? 分かりました」


 なんだかその笑顔が、とても印象的だった。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「シンクー、でてこーい」


『はーい。お疲れ様です。クラリーヌさんの準備もできてますよ』


 路地裏でシンクを呼ぶ。すると、赤毛の美少女がふわりと出てきた。


「そりゃ良かった」


 《もどります》


 手を繋いで、迷宮(お家)に帰る。そこでは、クラリーヌが待っていた。


「さっきぶり〜」


「お怪我がなくて何よりですわ」


「なんかあった?」


 巴がクラリーヌの服についていた糸くずを払った。


「ありがとうございますわ。ええ、作業も順調に捗ってよ」


「あの鞄、よかったっすよ」


「あのような物……お恥ずかしいですわ。今日、もっと高性能なものを作ったので、よかったらお使いくださいまし」


 何の変哲もない鞄だが、今の物よりずっと容量が大きいと嬉しそうに語ってくれたり


「おお、ありがとう」


「すげー」


「その他にも、なにか提案があったら何でも言ってくださいませ」


 錬金術について語る彼女は、とても楽しそうだった。ほんとに好きなんだな。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 迷宮から、王都へ。商店街の前で邪魔にならないように話し合う。


「まずは……どこに行けばいいんだろ巴。何をすればいいんだろう」


 あれ、そもそも食べ物がある店なら知ってるけど、家具屋とかどこにあるか知らないや。

 でっかいフライパン売ってる雑貨屋しか知らない。


「私に聞かれても」


 そうだった。巴も似たようなもんだった。


「わたくしもこの辺りはよく分かりませんの。このような準備も分かりませんわ」


 だよなー。森で見つかったもんなー。お嬢様だもんなー。


「自分も、故郷から出てきたばかりっす」


 寧ろ、アキルクが家具屋に詳しかったら意外だわ。


『うぅ、私もこればっかりは』


 迷宮入り娘のシンクには期待するほうが酷だろう。


 どうする、じゃんけん争いの結果とはいえ完璧な円(アブソルートサルコウ)のリーダーは俺だ。織田信長の如く鮮やかな采配を振るわなければならないだろう。


「調理器具の類はある。家具も、棚くらいか食器も買いたさなきゃな。あと、服もいる。リビングにソファとかも要るのかな…………。個々人で欲しいものもあるだろうし……。

 うん、考えても分かんないから商店街の先頭からそれっぽい店を見つけていこう。それでも無かったら人に聞こう」


「だね」


「了解っす」


「わかりましたわ」


『そうしましょう』


 ふぅ、大変だ。





「でもさ、一番最初に見つけた店がいいとは限らないんだよね」


「さすが俺の相棒、痛いところをついてくるぜ」


 そうなんだよなー。土地勘のない場所で目についた土産物屋でなんか買って、別の店でその買った商品が安めに売ってたり、『無理してあそこで買わんともっとええのあったやん』ってなるあの現象が起こりかねない。

 土産だったらまだいいけど、家具は簡単に買い換えられない。しかし、ここを一周してリサーチするのは面倒くさい。体力は保つけど気力は保たない。


「うーん。親切でこの辺りにも詳しい人(そして知り合い)がひょっこり出てこないかな」


「かなり難しいっすよ、それ」


「だよな……そんな偶然あるわけ無いか」


 よーし、真面目に頑張るぞー……。



「あ、あれは何ですの!?」



 その時、強者の気配がした。



 漆黒を身に纏い、鳥をモチーフにしたハーフマスクを装着した5人組が堂々と歩いている。

 その気迫に押されたように、人混みがモーゼの如く割れた。


「いたー!」


 巴がぐりん、と首を回す。


「親切でこの辺りにも詳しい人(そして知り合い)いたー!」



 思わず叫んだ。ナイスタイミングです。漆黒の翼の皆さん。





「漆黒の翼さーん! こんにちは!」


 漆黒の翼さんに駆け寄る。


「またもや理に導かれたようだな仔羊よ」


 孤独の鷹さんがマントをはためかせる。


「はい! お久しぶりです!」


 相変わらずの実力派中二病だ。


「えっと………」


 おお、アキルクが戸惑ってる。そりゃそうか、濃すぎるわこの人たち。


「アキルク、こちらは漆黒の翼の皆さん。とある件でお世話になったんだ。

 こちらはアキルク。最近、完璧な円(アブソルートサルコウ)の仲間になったヒーラーです。

 後ろにいるのが、錬金術師のクラリーヌ。まだパーティには入ってないけど、仲間です」


 取り敢えず、互いに紹介をしておく。


「“漆黒の翼”リーダー、闇に舞いし背徳の剣、“孤独の鷹”!」


「“漆黒の翼”サブリーダー、不断に構えし暗黒の盾……“虚無の鷲”」


「“漆黒の翼”シーフ刹那を()びし妖艶なる瞳“狡猾な百舌鳥(もず)”」


「“漆黒の翼”のヒーラー、深淵に堕ちし悠久の黒い光(ブラックライト)“禁断のブラックスワン”」


「“漆黒の翼”の魔術師、闇の叡智を極めし破壊の杖“混沌の梟”!」


「「「「「闇夜の支配者、ここに参上!!! 何も知らぬ雛達よ、真の闇を知るがいい!!」」」」」


 初めて会った日と同じポーズで自己紹介する漆黒の翼さん。爆発はないけど、ノリノリだ。周りの視線がすごい。


「じ、自分アキルクっていうっす。姓は無いっすけど、ダドワジグーのアキルクって故郷では名乗ってたっす。

 ミツルさんとトモエさんにはまだまだ追いつけないっすけど、足引っ張んないように頑張るっす」


「ふむ、ビーダンファス族か」


 孤独の鷹さんが顎を撫でながら言った。


「え、知ってるんすか?」


「ふっ、忘却の彼方に置き去りにされていたが理に導かれ、闇の虜としたのだ」


「え、え?」


「そういえば昔、たまたま会ったことがあるんだって。仲良くなったらしいよ」


 漆黒の翼さんの操る言語は心をピュアにして聞いたら案外理解できたりする。


「それは満だけだと思う」


「えー」


「わたくしはクラリーヌと申しますわ。冒険者ではないのだけれど、錬金術師として皆さんを支えられるようになりたいですわ」


「錬金術師か、珍しい」


 混沌の梟さんが前に出た。魔法使い的にもきょうみがあるのかもしれない。

 アキルクも、いつの間にやら禁断のブラックスワンさんと話している。ヒーラー同士仲良くなったのだろうか。アキルクの成長に繋がると嬉しい。


「二人とも、慣れたみたいだね」


 巴が、しみじみと言う。友達と友達が仲良くなると感じる、寂しいような嬉しいような感じがするのだろう。


「元気出せよ」


「うん」


「ところで、何をしていたのだ」


 虚無の鷲さんが聞いてきた。


「実は、皆で住む場所の家具とか買いたいんですけど、どこに売ってんのか分かんなくって……いい店、知りませんか?」


「ふむ……では()()()でいいだろうか、リーダー?」


「よかろう。仔羊共よ、陽の者が集いし場所へ導こうではないか」


「紹介してくれるんですか? ありがとう御座います!」


「ありがとうございまーす」


 やっぱ聞いてみるもんだなぁ。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「ここが陽の者が、集いし場所だ」


 孤独の鷹さんがらマントをバサッとはためかせながらその場所を示した。看板には“ヒノトリのカグヤ”と書いてある。

 他の店の倍以上の大きさで、二階まである。ワンフロアのサイズは……ア○シェくらいか。アルシ○。


「あったんすね。こんなとこ」


「俺も、初めて見た。な」


「うん。知らなかった」


『おっきい〜!』


「道の罠が張り巡らされし地にあるからな。致し方ない」


「確かに、道が入り組んでましたよね。ありがとうございました。わざわざ教えてくれて」


「フッ、他愛ない」


 狡猾な百舌鳥さんが、気にするなというように言った。


「それより、新たなる可能性を創造した祝いだ」


 禁断のブラックスワンさんが、何か包みを渡してきた。


「これは?」


「つまらぬ物だ。しかし、新たなる館には必要だろう」


 なんだろう……? ずっしりと重量感があり、匂いもないため食べ物では無いことがわかる。

 箱状の物なので、中身の形は分からない。でも、必要だろうって言うから重要な物なのだろう。


「ありがとうございます。何から何まで」


 とにかく、皆で頭を下げる。迷宮の時からお世話になりっぱなしだ。


「では、次の邂逅は世界が闇に包まれたときだ!」


 孤独の鷹さんが指を鳴らすと、漆黒の翼さん達の姿が消えた。混沌の梟さんの転移魔法だろう。


「「ありがとうございました〜!」」


 その姿に、もう一度手を振り家具屋に向き直った。


「さて、買い物開始だ」


 取り敢えず金貨100枚持ってきたけど足りるだろうか?











 完璧な円は生活能力低めです。現状↓



満→ 一通りの家事はできるけど、全て揃った現代日本だけでの話である。食器洗いが下手。(力加減が苦手)何をすればいいのか分からないけどパーティリーダーだから、丸投げも難しいと思っている。しかし、無人島に放置されても一ヶ月は生きていける。


巴→ 一通りの家事はできるけど、全て揃った現代日本だけでの話である。洗濯物を畳むのが下手。(なんかセンスない)何をすればいいのか分からないけど、今まで何とかなってきたし満もいるので、どうにかなると思っている。しかし、無人島に放置されても一ヶ月は生きていける。


シンク→ 前提条件として人間じゃないから、人間の生活について考える事が難しい。生粋の迷宮入り娘。産まれたとき色々あって、ダンジョンマスターとしての知識も殆ど無い。現在、家事勉強中。


アキルク→ 地元は未開の地。そもそも食事に関しては焼くか、生で食うくらいしか選択肢が無かったし、椅子に座って食べるとかいう概念も無かった。サバイバル能力なら高い。現在、家事を勉強中。


クラリーヌ→ 子爵家生まれのお嬢様。今まで錬金術の道具より重いものを持ったことがない。流石に魚が切り身が泳いでると思うほど無知ではないが、食材は最初から下味がついてると思ってた。お茶会開くのは得意。また、この中で一番家具については詳しい。現在、家事を勉強中。

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