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11話 「それが普通だったら世界は今頃、世紀末っすよ…………」






 次の日、アキルクとのお試し期間初日だ。


 朝ご飯を作り、みんなで食べる。いいベットで寝たから気分がいい。

 何処でも眠れるけど、場所は大切だろう。

 ご飯の材料は昨日買った。冷蔵庫が無いので、毎日買いたさなせればいけない。ひんやりした倉庫みたいなのを作ってみたけど、冷蔵庫欲しい。

 錬金術師を仲間にしたら作ってけれるだろうか。ま、それはおいおい。




『これがパン? 美味しいぃ』


 ダンジョンマスターは食事が必要ないらしく、シンクは今まで物を食べたことが無い。

 初めて食べた日は、そう言って感動していた。食べることはできるのか。


「食べて大丈夫なの?」


 と聞くと


『魔力に還元? されるようです……よくわかりませんけど』


 と答えられた。ダンジョンポイントになるらしい。


「すごい、無くなってく」


 シンクが見えない巴にとっては、食べ物が次々と齧り跡をつけながら消えていくという謎の光景だ。どん引いてる。

 食べ物は、シンクの口の中に入った瞬間、見えなくなるようだ。





「「ごちそうさまでした」」


『ごちそうさまでした』


 ごちそうさまの習慣はシンクにも根付いている。


「いただきますと一緒だよ。食べ物と農家の人に感謝する」


 と言ったら、えらく感心していた。


 今日も美味しかったぜ!!


「今日の皿洗い当番は満」


「へーい」


 因みに、皿洗い当番は一日ごとに変わる。洗濯と掃除もそうだ。




 その後、朝のトレーニングをして迷宮を出る。

 この迷宮に限れば、魔物は俺達を襲わないし、俺達も魔物を見かけてもスルーだ。


「「いってきまーす」」


『うう、早く帰ってきてくださいね……』


《いってらっしゃい》


 寂しそうなシンクに見送られ、俺達はギルドに向かった。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「今日はよろしくっす」


「ああ、よろしくな」


「よろしく」


 今日の俺達の格好は、この前買った武器に、新調した冒険者っぽい服。

 それにリュックサックだ。この中にお弁当やらなになら入れている。

 このリュックサックは前の世界の物だけど、そこまで目立たないだろう。

 アキルクは、昨日と同じ服に革の背嚢を背負っている。随分使い込んでるな。

 それにしても、でかいなこいつ。



 俺達は全員F級の冒険者なので、薬草つみの依頼を受けた。

 今の俺達は臨時パーティという形で、一緒の依頼を受けることができる。





「アキルクってどれくらい戦えるの?」


「拳闘士?」


「そうっすね。自分の民族に伝わる体術っす」


「へぇ」


 おお、巴のスイッチが入った。普段は死んでいる瞳が、一瞬輝く。


「見せて。あの鹿で」


 遠くに、鹿の魔物がいる。こちらには気づいていない。


「どこっすか?……あんな遠くに? あ、いる。よく見えたっすね」


 茂みでよく見えないけど、確かに額に魔石をはめ込んだ鹿がいる。体毛が紫だと⁉ ロックな色をしてやがるぜ。


「大丈夫か?」


「あれならイケるっす。倒してくるっす」


 そう言って、アキルクがそっと歩き出した。


 森の中で音を立てずに素早く歩くのは、実はかなり訓練がいる。

 それができているアキルクは、狩りなども得意なのだろう。


「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 そして、鹿に距離を詰めるとその腹を一発で殴った。

 ドサリ、と音を立てて倒れる鹿。


「おお、噂の身体強化?」


 その時、アキルクの体は腕の筋肉が盛り上がり、今までより()()なった気がした。



 アキルクが鹿を引きずって来た。


「こんな感じっす」


「瞬間的な身体強化?」


 巴がアキルクを不思議そうに見た。


「そうっす。でも、力の持久力はないんすよね」


 そこが弱点か。


「お二人はどういう?」


「じゃあ、アレでやってみるよ」


 俺が指差した上空には、でかい鳥がゆうゆうと飛んでいた。

 ロックバードというでかい手羽先だ。


「え、ロックバードっすか? アレ、ここらへんでも上位の魔物っすよ⁉」


 そんなに強かったか? まあ、この森に出る魔物自体そんなに強くないんだろう。


「からあげ」


「そう、あれはからあげなのです」


「えええええ」


 アキルク、あれはからあげなんだ。ヤバイやつ見たみたいな顔をするんじゃない。


「とりゃ」


 巴がトランプで挑発する。ロックバードの顔に、ペちんとトランプが当たった。

 遠目から見てもムカついている事がわかるロックバード。


「あぁあ! 来たっすよ! 来ちゃったっすよ⁉

 街にアレが降りたら災害級なんすよ! 何考えてんっすか⁉」


 アキルクがキレキレだ。そう慌てるなって。余裕がない奴はモテないぜ。


 ロックバードがその尖った爪で、俺達を捕らえようと足を伸ばす。

 迫力あるなー。


「じゃあ私もアキルクの真似して拳でやる」


 巴が一瞬でロックバードに距離を詰め、飛びかかる。同時に、砂ぼこりが上がった。逃げよう。

 俺はアキルクを引っ掴み、砂ぼこりから逃げた。

 アキルクは半狂乱で叫んでいる。


「無理無理無理無理無理ぃ! 防御力が強すぎる………あー! ああー! トモエさーん! あー! 死なないで! 即死はやめて! 応急処置はできるっすから!」


 そんな大袈裟な……アキルクよ、落ち着いて見るがいい。


「生きてるっすよ。巴があの程度で死ぬわけないじゃん」


「夕ごはん、げっと!」


 不自然な方向に首を曲げて息絶えたロックバードを抱えて、巴が宣言する。


「へぇ……? ホントだ…………」


 呆けた顔で巴を見つめるアキルク。


「嘘じゃないっすよね?」


「じゃないっす」


 巴が答える。


「す、すごい……」


「もっと褒めるがよい」


「巴さんマジ最強」


 率先して俺が褒める。


「へっへーん!」


 そして、いつものやり取りをする。


「え、えらいえらーい?」


 アキルクがめっちゃ戸惑ってる。これからパーティを組むなら慣れてけろ……。


「じゃあ俺も魔物狩ろ……」


 みんな魔物を狩ったのに一人だけ手ぶらとか仲間はずれで悲しいじゃん。





 でかい狸をゲットだぜ! ビッグラクーン・ドッグっていうらしい。名前のまんまだな。

 棍棒でボコボコにした。美味しくはないらしい。残念。


「二人とも、凄いっすね。びっくりしたっす。

 自分、ついていけるっすかね……」


 どうやら、この狸もこの森では結構な魔物らしい。


「君には鍛え甲斐がある」


 巴が唐突に言った。まったくこの子は、思った事をそのまま言う。


「そっすか?」


 アキルクが嬉しそうに言う。


「うん。我が家の練習方法をこなしていけばもっと強くなれる」


「是非、よろしくっす」


 おう、アキルク。そいつぁ死渉地獄訓練のフラグだぜ? もう字面でヤバイ。

 巴、何がなんでも殺すなよ?


「地獄訓練はやめとけ」


 一応、巴に囁いておく。

 それ以外だったら死なないから。ノーマルなやつだったら疲れる程度。


「えー」


「えー、じゃない」



 というわけで、お試し期間が終わったらアキルクは弟子入りするらしい。死なせるんじゃないぞ。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「アキルク、いる?」


 みんな大好きお弁当タイム。今日はハムとレタスのサンドイッチだ。

 パンが硬すぎるのが減点ポイントだけど、フランスパンだと思えば問題ない。

 勿論、それだけでは全然足りない。死渉家の人間はやたらとエネルギーの消費が激しいのだ。つまり燃費悪い。大食らい。

 腹に溜まって高カロリーで栄養満点の死渉式兵糧丸がないとやってけない。

 これは毎日ストックを貯めている。

 今、俺はアキルクに死渉式兵糧丸の布教をしているのだ。


「な、なんすか? これ」


「「死渉式兵糧丸」」


「し、しわたりしきひょーろうがん? 食べ物………………っすよね?」


 確かに、でかいねり消しだけどさ。美味しいから。


「美味しいよ」


「くっ、ここで食わねば、男アキルクの一生の恥っす! この試練、乗り越えて見せるっすよ!」


 試練じゃないから。普通にガムいる?ってのと同じ話だから。

 そんな決意しないで? なんか、俺達がいじめてるみたいじゃん?



「えっ………おいしい」


 アキルクの、決意を秘めた表情が驚きで和らぐ。よっしゃ。


「だろ!」


「だしょ!」


「おいしい!」


「おいしい!」


「おいしい!」


「「「おいしい! おいしい!」」」


 三人で手をつなぎくるくる回る。やべえ、アキルク順応力高すぎ。ワクワクする!

 やはり異世界でもおいしいは正義だな。








「自分、他の世界を見てみたかったんすよ」


 その後も、依頼の薬草を摘みながら色々話した。アキルクの民族は南の密林の中にあり、時たまくる行商人や冒険者の話を聞いて、故郷とは違う世界への憧れを持ったらしい。


「言葉も、その人たちに教えてもらったっす。

 で、成人ノ儀も無事終わったんで他種族多民族に理解のあるこの国にきたんすよ」


 ヨルタル王国は、他種族多民族の優秀な人を積極的に呼び寄せる事によって大きくなった国だから、他の国には根強く残っている差別も殆どない。


「へー。アキルクの民族って何ていうの?」


「ビーダンファス族っす。大いなる獣を母、天に(たなごころ)つく巨人を父に持つ一族っす」


 かっこいいな。神話をバックに持つ部族って。


「だからアキルクはでっかいんだな」


「そうっすよ。こっちの人達は全部がちっちゃくて、店に入るとき頭ぶつけちゃうんすよ」


「そりゃ大変だな」


「身長分けろ」


 それは無理だ。


「二人こそ、本当に人間っすか? 速さといい、筋力といい……何者っすか?」


「人間だよ~。遺伝的に強いだけのね。死渉はそういう一族なんだよ。

 脳筋を先祖に持ち、死に狂いを父に持った、ただの人間だよ。普通のね」


 頑丈で強いだけで、あとは普通だ。常軌を逸した思考回路をしている訳でもない。


「ふつーふつー」


 俺はともかく、明らかにお前は普通じゃないぜ、巴。


「それが普通だったら世界は今頃、世紀末っすよ…………」


「そうかなー?」


「まあいいっす。それより、こんなもんっすかね? 薬草」


「いいんじゃね? こっちも結構採れたし」


 薬草の束を出すと、アキルクが驚いたように言った。


「すごい量っすね。どうやって見つけたんすか?」


「コツ!」


「コツ!」


「コツ……」


 一朝一夕で身につく技術じゃないのだよ。ふふん。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「では、ロックバードのお肉と合計金貨1300枚です。お確かめください。

 内訳はアキルクさん400枚、完璧な円(アブソルートサルコウ)さん900枚です」


「「ありがとうございまーす!!」」


「あざっす」


 いやー、感謝感謝。どうやったらこんなに素早く美味しい部分をキレイに解体できるんだろうね?




 魔物は儲かる。絶対金貨100枚はくれるしでかいのだと、一匹金貨500枚以上する。破産しないよね? 冒険者ギルド。

 それだけ、戦えない人にとっては魔物が脅威なんだろう。

 聞くところによると、絶滅するレベルで狩っても、何事も無かったかのように湧いてくるらしい。魔物ってやつは。


「それにしても、凄いですね! 冒険者になって1ヶ月も経っていないのに、もうこんな凶悪な魔物まで狩って……」


「このからあげと狸、強かった?」


「ロックバードをからあげ……ふぅ、完璧な円(アブソルートサルコウ)のお二人には魔物の強さについて把握してもらわないと困ったことになりそうです」


 さっきまでテンション高かった受付のお姉さんにため息をつかれてしまった。


「と、いうと?」


「アキルクさんに無茶をさせてしまうかもしれませんし」


 アキルクと俺達が仮パーティを組んだのはもうギルド職員なら知っているらしい。


「「いやいやそんな、しないしない」」


 アキルク強いし、これから鍛えるから。


「本当ですか? 大丈夫ですか? アキルクさん」


「うっす。大丈夫っす。自分、己の実力理解してるっす」


 それまで黙っていたアキルクが、口を開いた。


「ならいいですけど、一般の方や実力のない他の冒険者の方が勘違いしても困ります」


 あー、大して実力も無いのに、新人冒険者俺達が狩ってるから自分もできるかもって思う馬鹿がいるってこと?

 バカヤロウ、俺達は地球でしこたま訓練積んどるわ。


「そういうのがもう?」


「幸い、大事には至りませんでしたけど。無理に危険な魔物に挑む新人冒険者の方がチラホラと」


 あったんかーい。


「自分のせいだって思ったら目覚めも悪いですね」


「……ご飯が美味しくないのは困る」


「冒険者は基本自己責任なのでお二人は悪くないんですけどね? 魔物については、いつかは理解しなければならないでしょうしってギルドマスターがこれを……」


 お姉さんが紙をスッと差し出してきた。なになに……?


「地図?」


 それは、店のチラシの端っこについているような、限定的な場所だけを示す地図だった。


「ここから近い本屋の地図です。魔物についての本は事前にキープしてあるから、今日の帰りにでも寄れとギルドマスターが。

 これだけ稼いでおいて余裕がないとは言わせませんよ?」


「自分も、二人は魔物についてもっと詳しくなったほうがいいと思うっす」


 うぅ、お姉さんとアキルクに同時に言われる。そうだったのか……。


 ギルマスさんにもこんなに気をかけてもらって、行かないわけにはいかないだろう。

 確かに、本や知識は必要だ。有難く本屋に行くとしよう。


「ご迷惑かけてすいません。今日の帰りに、早速向かいます」


 召喚されたとき、あの王城で見ることができた本は殆ど無かった。別の本も見てみたい。


「いえ、こちらこそ余計なお節介かもしれませんが……。

 ミツルさんが礼儀の正しい方で良かったです」


 気性が激しくて、荒くれ者の多い冒険者だ。きっと助言を聞いてくれなかったりした事もあるのだろう。


 こんどギルマスさんに会ったらお礼、言っとこう。











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