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10話 「誅殺ブラザーズだろ? 敵には容赦ないっていう」

よく考えたらこの作品って、追放系?

 





「お引っ越し!」


「お引っ越し!」


「「あそれ! あそれ!」」


 翌日の朝、俺達はシンクの迷宮に引っ越す事にした。

 身軽だから、簡単にこういう事ができる。

 死渉は代々続く一軒家だったから、引っ越すとかそういうのは無かったし、テンション高めだ。


 《いきますよ》


 ダンジョンマスターは、何処からでも自分の迷宮には転移できるらしい。

 つまり、シンクがいる限り一瞬で家に帰ることができる。


『迷宮に住む人なんて、初めてですよぉ』


「いいじゃん! 前例を作ったってことで! 巴、忘れ物はないか?」


「ない」


 《てをつないで》


「「はーい!」」





 視界がぼやけると、次の瞬間には、昨日ずっといた迷宮の中だった。


『つきました……』


「相変わらずただの洞窟のだな」


「リフォームしよう」


『り、リフォーム?』


 何を驚いているんだ?こんな所で布団を敷いたら寝心地最悪だろ。


「よーし、シンク。お家迷宮を作るぞ」






 昨日聞いたところによると、ダンジョンポイントとは要するに魔力で、迷宮は魔力量の豊富な地脈のある場所にしかできない。迷宮の石は、その地脈から魔力を吸い取ることができる。

 ここの迷宮は、生まれたてで迷宮の石の容量も大きくなく、地脈もギリギリ並みのようだ。

 他には、迷宮の中で生物が死んだらポイントになるらしい。

 シンクの操っている俺には見えないものは、ダンジョンボードという。これで、ダンジョンポイントと色々なものを引き換えたり、ダンジョンの様子を見たりできる。

 沢山貯まると、迷宮を洞窟型から城型に……なんて事もできるようだ。


「よし、これが計画表だ」


『ひえぇ、そんなの昨日のうちに作ってたんですか……?』


 言っただろ? 俺達の引っ越しに対する情熱は無限大だって。

 幸い、この迷宮の石がある場所はそれなりの広さがある。

 俺と巴が余裕で生活できるだろう。



 まず、部屋を3つ確保する。俺の部屋と巴の部屋とシンクの部屋だ。

 別の部分には水回り専用のスペースと台所、食卓、リビングに迷宮の石は置く。


「できるか? この通りにここを区切るんだ」


『それくらいならできますよ』


 そう言って何やら弄ると、たちまち場所が区切られた。


「あ、悪い。ドアも付けてくれ」


「あっ」


『あっ! はい……忘れてた……』


「よくあるよくある」


『ううう』


 シンクが赤面した。


 のっぺらぼうの壁に、扉がついた。


「ここ、ぜんぶ洞窟の石で出来てるけど、木とかにできないの?」


 巴のが聞いた。このままでは落ち着かないだろう。


 《できます》


「ポイント足りる?」


 《サイショからあるクウカンは、やすくかえられます》


「へー、そうなんだ」


 そして、日本家屋さながらの木造建築となり、俺達は床に寝転がった。


「おおお! 木だー!」


「おうちっ! おうちっ!」


『気に入ってもらえてよかったです』


「よし、全体の迷宮も弄るか!」


「よしきた!!」


『ええええええ! そこまでえ⁉』


「当たり前だろ? このままだったら誰ががここに入ったときに俺達のプライベートはさようならだ」


 今は、洞窟を無理矢理に部屋にしただけだ。迷宮の入り口から真っ直ぐ歩くと丸見えになってしまう。


『それは嫌だぁ』




 てれれーてれーれれーてーれーれー。


 ヨルタル王国、“南の森”に、問題を抱える一つの迷宮がありました。


『人が住みにくい迷宮』


 前に立ってみると、なんの変哲もない洞窟型の迷宮です。


 ここに住んでいるのが、陰陽師、死渉 満と天才少女、死渉 巴。そして、満の式神にしてダンジョンマスターのシンク・ラビリンス。

 お金が勿体無いから、この家に引っ越すことにしたのですが……。


 この家には、重大な欠陥がありました。

 一歩入れば、暗くて見えない足場。

 ガタつく地面。

 転がっている石ころ。

 湧き出る魔物………


 そして、一番の欠陥は………。


「人が、勝手に入ってくる事ができるんですよ」


 巴さんが言うには、家が開放的過ぎてプライベートが丸見えらしいです。

 どういうことなのでしょうか。


 見てみると、玄関から住居スペースまで一直線の長い廊下で、扉のようなものはありません。

 もしも迷宮の最奥にたどり着いた場合、すぐに誰にでも家の中が丸わかりです。


 最低限、プライベートの守られる綺麗な家に住みたい。


 そんな願いに立ち上がったのが、なんと住む張本人達。


 “紙使い”の二つ名の通り、護符と呪符を使う陰陽道の匠、死渉 満。

 天才の名をほしいままにし、それでも鍛錬を怠らない“奇術師”、死渉 巴。彼女は戦闘の匠だ。

 アホだけど、唯一迷宮を操作する能力を持つ、迷宮の匠、シンク・ラビリンス。


 自分たちの依頼を自分たちで受ける、正気の沙汰ではない集団です。



「ふむ、雑魚しか沸かない……」


 匠たちは、深刻そうな顔をします。


『うう……』


「折角迷宮なのに……」


 しかし、ダンジョンポイントが足りない今、中を迷宮っぽくする余裕はありません。


「まあ、なんとかやってみるか!」


「おう!」


 さて、家はどのように変わるのでしょうか。




 1章“玄関”


「名目上は迷宮だから、入り口は変えられないか……」


 どうやら、迷宮という建て前上ここはこのままのようです。


「次、いくよ」


 おや、玄関は変えないようです。匠たちの作戦でしょうか?





 2章“長い廊下”


「無駄なものはいらない」


「魔物は仕方ないが、無駄に長い道はいらないだろう」


 二人の匠の指示により、無駄なものが消えていきます。

 さて、何が消えたのでしょう──?




 3章“入り口”


 さて、最大の問題の入り口。陰陽道の匠が迷宮の匠に耳打ちをします。

 何やら魔法陣のようなものが浮かび上がりますが、これは一体何になるのでしょうか?

 そして、部屋を増やしていますが……?







 数時間後、家のリフォームを完全に終えた一行は、何も知らないような顔で生まれ変わった家の前に立ちます。

 熾烈なじゃんけん大会の結果、陰陽道の匠が案内を務めるそうです。





 ビフォー


 薄暗く、足場の悪い廊下。なんのうま味のない上に湧く魔物は全部ザコ。

 そして唐突の魔法陣トラップ。面倒くさい廊下でした。



 アフター


 以前より少し明るくなった廊下。ずっと短くなり、トラップは完全に取り払われただの道としか呼べない仕上がりになりました。魔物も相変わらずザコです。

 生暖かい廊下を渡り切ると、少し広い場所にたどり着きます。


「ここは?」


「ラスボス部屋だよ」


 何ということでしょう! 以前はおざなりにファイアー・ドレイク(劣化種)を置いていただけの廊下は広くなり、一般人がラスボス部屋だと勘違いする仕上がりになっていました。


『あ、あれは!』


 そして、その奥に何の変哲もない石が用意されていました。


「偽物の“迷宮の石”だよ。汚い色をしてるって流れてるからバレないはずだ」


 何ということでしょう! 適当な石を置くことで完全に相手の目を欺こうとしています!


「私達の住居スペースは?」


 そう聞かれると、匠は不敵に微笑み……。






 ビフォー



 開放的で、生活が丸見えだった住居スペース。これでは安心して眠ることはできません。


 アフター



「俺達3人にしか反応しないんだ」


 そう言って匠が前に立つと、まるで観音開きの冷蔵庫のように壁だと思われていた場所が開かれました。

 何ということでしょう! あの時仕掛けていた魔法陣はこのためのものだったのです!


「そしてこちらが……」


 そう言って、戦闘の匠を隣の壁へ立たせます。


「ま、まさか!」


 何ということでしょう! そこには外のように明るい空間があります!


『物干し、部屋……?』


 迷宮では服は干せません。しかし、これがあればいつでも好きなときにお日様の香りのする場所でものが干せます。



 さて、気に入っていただけたでしょうか───?






「「ありがとうございまーす」」


 長年の夢が叶った! 一度はやってみたかったんだよビフォ○アフター! 何ということでしょう! も連発できたし、もう悔いはない。


 《なんですか? これ》


「「ビ○ォーアフターごっこ!!!」」


 シンクが変な顔してるけど気にしない。ともかく、お家が完成した。

 家具などは、買ったり作ったりポイント消費したりした。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










 それから暫く経ったある日……




「あの、ヒーラーは必要っすか?」


 ギルドで今日も依頼を受けた。

 今はギルドで駄弁っている。ギルドにはイートインみたいなのがあり、冒険者がよく飲むお酒や、普通の飲み物も安く注文できるのだ。

 死渉式兵糧丸をアテに、果実水を飲む。俺達の年齢だとこの世界だったら酒は飲めるけど、なんとなく酒を飲むのは決まりが悪い。今は18歳だから、あと二年待とう。

 でも、この果実水美味いな。レモンスカッシュみたいだ。


 すると、キャラメル色の肌をしたゴツいお兄ちゃんが声をかけてきた。でかっ。

 死渉にもこういう見るからに強くてゴツい人いる。黒怪(こっかい)のおじさんとか。


「どちら様……」


「おい、あれ……」


 周りがざわめく。


「オイオイ、完璧な円(アブソルートサルコウ)じゃねえかよ」


俺達も有名になったのかな?


「何処の馬鹿がちょっかい出してんだ?」


「誅殺ブラザーズだろ? 敵には容赦ないっていう」


 え、待って何そのあだ名。だっさ! カズンズだし!


「獲物を横取りしようとした奴が全身腫らして帰ってきたらしいぜ、どんな仕打ちをしたってんだよ……」


 イヤイヤ、それはたまたま蜂の群れがそこにあって……俺と巴は逃げ切ったけど、あの人勝手に遅れたんだよ。

 獲物を横取りしようとするのも悪いことだしね。

 よく考えたらあの蜂魔物だったな。


「狂犬のトモエ……大人しいと思って胸に手ぇ出したら全治5ヶ月だってよ」


 いや、それは当たり前だろ! 殴るだろ! あのエロ爺それでも触ろうとしてきて恐怖感じたからな! 巴の絶壁に何を感じたんだよ! 怖い!

 それで狂犬なの⁉ 倫理観おかしいよ! 日本でそれ言ったら五分で炎上だわ!


「一度やると決めたら容赦なく、その腕は最高。死んだ目で睨みつけられたら誰も逃れられない………伝説の剣士の隠し子って噂だけどな」


 ちげぇよ。巴の父親は遠距離担当だよ。


「ウラバンのミツル……狂犬を唯一止められる人間だ……」


 ダサくない? ウラバンって。ねぇ、ダサくない? 異議申し立てたいんだけど。


「虚空に向かって独り言を呟いているらしい」


 たまに間違えちゃうのよね、死者と生者。見える人の悲しいあるある。


「しかし、奴は陰険で姑息だ」


 んな訳あるかい!


「知ってるか? 一度敵に回したら、徹底的に精神を砕いてくるらしい」


「知ってる。アイツに絡んだ奴も可哀相にな……」


「そして、気分によっては狂犬を止めなかったりもする」


 なんでいちいちこっちが下手に出なきゃならんのよって事だ。


「慇懃無礼で、ギルドマスターにも当たり前のように対等に会話する奴だ」


 礼儀は弁えてたよね⁉


「そして恐ろしいことに……」


「漆黒の翼のお気に入り……」


「F級がA級パーティの後ろ盾を得るとは」


「あいつからが再会の約束したらしいじゃねえか」


「相当気に入ってるぜ」


 付き合ってみると、いい人たちだよ~漆黒の翼さん。食わず嫌いは良くないぜ?

 という気持ちを込めてヒソヒソ言ってる人たちの方を見て微笑む。


「見ろ。何か企んでる顔だ!」


「目を合わせるな!」


 そろそろキレるよ? 巴と俺が君のお家に突撃してひと暴れするよ? 1分以内に全てが砂塵へと帰すからな。


「ひっ」


「こわっ」




「あ、あのっそれでヒーラーは……」


 あ、忘れてた。


「まずはお名前を」


「自分、修道士のアキルクっす。治癒魔法が得意っすけど、自力で戦えもするっす」


 モンクか。見た目的にそうだな。スキンヘッドの厳つい顔をしていて、めちゃくちゃでかい。

 服は、ノースリーブの修道服みたいなやつ。貫頭衣っぽい。

 首からは、大きな珠が連なった首飾りをかけている。

 硬そうな筋肉から、魔法の技量は知らないけどそれなりに強いことはわかる。



 お忘れかもしれないが、俺達は“クラン”を作りそれを大きくして世間に名を轟かせたい。メンバーは積極的に増やしたいところだ。


 巴とハンドサインで話し合う。


(どう思う?)


(メンバーは必要)


(彼は悪いやつではなさそうだ)


(それに)


((鍛え甲斐がある))


(話だけ聞こう。そして、お試し期間をするか)


(OK)


(OK)


「なんで俺達なんですか?」


「自分、実は南の方にある少数民族の出身なんっすよ。

 治癒魔法もそこに伝わるもので……この前冒険者になれたんっすけど、誰もパーティを組んでくれないっす。

 見た目が怖いのと、使う魔法が意味わかんないらしいっす。

 もう、お二人しかいないんすよ」


 アキルクは本当に困った顔をしている。

 冒険者は、職業上どうしても危険と遭遇する事になる。

 だから、信頼できる仲間を作り役割を分担して命の危険を少しでも少なくするのがパーティ制度だ。

 ソムリラーさんみたいなソロの方が珍しい。

 『群れてちゃ強くなれねーよ!』とか言ってる奴から死んでいくのだ。

 ソロには適切な判断力か必要だ。

 聞いたところ、アキルクは冒険者になったばかりだしパーティを組まなければ不安だろう。

 新人冒険者が先輩のパーティに入ることは難しいから、同期と組むしかない。


 俺達のペースについて来れるなら、パーティに入ってもらったほうがいいかもしれない。

 それに、俺達だって常に無傷じゃないのだ。回復要員は是非欲しい。

 問題のある人間じゃ無かったら、是非仲間になって欲しいところだ。

 あと、鍛え甲斐がある。


「じゃあ、お試し期間をしましょう。3日間だけ。

 それで、双方納得がいったらパーティを組む、というのは?」


 しかし、安易に諾と言うのは良くない。俺と巴はこの世界の人間じゃないし、メンバーになるんだったら今住んでいる、シンクの迷宮の事も言わなきゃならんだろう。

 信頼できる仲間が欲しい。このお試し期間は、アキルクへの信頼度のお試し期間だ。


「うっす。それでいいっす。よろしくお願いするっす!」


「よしっ! じゃあ自己紹介しますか。  

 俺の名前は死渉 満。称号は“紙使い”  

 完璧な円(アブソルートサルコウ)のパーティリーダーです」


 この世界では、よっぽどでない限り称号も自己紹介と一緒にするそうだ。

 それにしても、称号って補正がかかるらしいけど、実感がない。何故じゃ。異世界の人間だからか。

 それとも、紙使いという称号がそんなにショボいのか。


「死渉 巴。称号は“奇術師”」


「アキルクっす。名字はないんすけど、故郷ではダドワジグーのアキルクって名乗ってたっす。称号は“祈る者”っす。

 あと、むず痒いんで敬語はやめてほしいっす」


「わかった。俺達のことは、気軽にミツルとトモエって呼んでくれ。

 よろしく、アキルク」


「よろしく」


「よろしくっす」


 3人で、握手する。


 こうして、俺達のお試し期間が始まった。














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