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第三章 054.5 見学

書籍版に向けて追加しましたが、結局削ることになったエピソードです。

もったいないのでWeb向けに改稿して投稿します!


書籍版「春、ひとり暮らし。隣に住むのはお姉さん。」もよろしくお願いいたします!

「あら、早かったわね。いらっしゃい」


「すみません、お邪魔します」


 ここはモールの裏手にある撮影スタジオだ。学校の帰りに黒川と二人で見学に来ているところだ。なぜこんな状況になっているかというと、まぁ一言で言うならば黒川にお願いされたからなんだけれど。


 入り口近くで監督が待っていてくれたみたいで、入ってすぐに声を掛けられた。奥のステージではフラッシュの光が瞬いていて、どうやら撮影中らしい。


「お、お邪魔します」


 いつも強気な黒川が珍しく、おっかなびっくりな態度なのがちょっと面白い。僕も最初は緊張したけれど、菜緒ちゃん本人に会えるという緊張が黒川にはあるのかもしれない。


 どうやら黒川は相当な菜緒ちゃんファンらしい。最初に『お願いがある』と言われたときは何が出てくるのかと思ったけれど、変なお願いじゃなくてよかった。しかも監督に連絡を取ったら、たまたま今日菜緒ちゃんの撮影があるというのだからびっくりだ。


「見学は関係者の付き添いがあれば大丈夫だけど、撮影は禁止なので気を付けてね」


「は、はい! わかりました!」


 いつもはからかってくる黒川の今の様子に、思わず笑いがこみ上げてくる。なんとか耐えつつもステージ近くへと移動すると、ステージ上で撮影されている菜緒ちゃんが僕たちに気付いたのか、手を振ってくれた。


「な、なま菜緒ちゃんだ……!」


 僕も軽く手を振り返したけれど、隣にいる黒川が感極まっている。両手を口元に持っていったかと思えば、握りこんだ拳を上下に振っていたりと落ち着かない。いつもと違う黒川を見ているのも面白いとは思う。でも僕は僕で菜緒ちゃんの様子を観察するのも勉強になりそうだ。




「お疲れ様でした」


「ありがとう」


 休憩に入り、僕たちの近くまで菜緒ちゃんがやってきた。ちらりと隣を見ると、黒川は硬直したように動かなくなっている。


「どう? 何か参考になったかしら」


「えっと、そうですね……」


 今日は黒川の付き添いという感じが強かったけれど、撮影風景を見ていると、黒川を放置してそちらに集中してしまっていた。初日の前半、雑用として仕事していたときも、こうやって見学する時間があった。でもその時には感じられなかった参考すべき点がたくさんある。


 照明の向きを考えたステージ上での位置取りだったり、衣装に合わせた表情の作り方だったり。神原さんや監督の指示で、菜緒ちゃんの雰囲気が変わるところは本当にすごいと思った。


「初日は何も考えずにただ見てただけだったなぁって思い知らされました」


「あはは。最初はモデルやるとは思ってなかったんだろうし、しょうがないかもね」


 ひとしきり笑い合ったところで、菜緒ちゃんが黒川へと声を掛ける。


「こんにちは」


「あ、ひゃい! こ、こんにちは」


 もしかして声を掛けられると思ってなかったのか、声が裏返っている。


「き、今日はありがとうございました! 写真より、直接見る菜緒ちゃんのほうが素敵です!」


 硬い表情ながらもなんとかお礼を言葉にする黒川。でもやっぱりいつもと違うからか、思わず笑いそうになってしまう。


「ありがとう。……そういえば黒塚くんとはクラスメイトだったかしら?」


「あ、はい! 同じクラスです!」


 返事のひとつひとつを元気よく答える黒川に、菜緒ちゃんが何か思いついたような表情になる。


「……もしかして黒塚くんの彼女?」


「はい?」


「ち、違います!」


 何を聞いてくるのかと思わず疑問形になってしまったけれど、黒川は慌てて否定している。


「あら、そうなんだ」


 まったく残念そうでない口調で残念がる菜緒ちゃん。というかなんでそうなるんですか。たまたまお願いされて見学に来ただけなのに。


「そうですよ。私は自分より背の低い男に興味はないので!」


「えええぇぇぇっ!?」


「あはははは!」


 大爆笑する菜緒ちゃんだけれど、僕は笑えるはずもない。なんとか表には出さずに、心の中でがっくりと膝をつくしかなかった。

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