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【涙の魔法 ~本編ダイジェスト~】

【はじめに】


 ここでは「涙の魔法 -彼女の終わりと恋の歌-」(以下、「本編」とします)の派生作である次ページ以降のお話をお読みいただくにあたり、20万字規模の本編の内容を5000字程度にまとめてご紹介します。


 核心に迫るネタバレは本編をご覧ください、なんてことはしません。本編を読まなくてもストーリーを理解していただき、どの派生作品でもお楽しみいただけるように設けたページですので、オチまで全部載せます。いずれ本編をじっくり読んでみたいと思っていただいている方は、このページを飛ばして次のページから読むことをオススメします。


 とはいえ、本編は是非ともご一読いただきたいというのが本音です。ご興味のある方はどうかそちらもご覧ください。







【涙の魔法 -彼女の終わりと恋の歌- ~ダイジェスト~】


 かつて同じ職場に勤めていた先輩後輩の、5年ぶりの再会。それをただ懐かしむよりも、御崎(みさき)菜々(なな)は自身の離婚話に付き合わせるのが目的で、先輩だった豊島(とよしま)裕太(ゆうた)を飲みに誘ったのだった。


 職場恋愛を堂々と周囲に打ち明けていた、彼女と野田(のだ)朋也(ともや)が別れた。相当仲睦まじく交際していた、かつての後輩達のそんな顛末を聞かされ、衝撃を隠せない豊島だったが、それを受けた彼には一つ気がかりなことがあった。


 茂松(しげまつ)(かなめ)。豊島の同期であり、学生時代から20年来の付き合いを重ねた親友だ。菜々も野田もまだ同じ職場にいた頃、共通の趣味で繋がりを持ったこの4人はプライベートでも仲がよく、菜々と野田が交際を始めてからも、2人が職場を去るまで変わらず交流は続いていた。


 だが、かねてから密かに菜々の恋愛相談を受けていた豊島は知っていた。数年ぶりに再会した今でもその事を覚えていて、だからこそ拭えない憶測がにわかに浮かぶ。


 菜々が想いを寄せていた相手は、野田ではなく、茂松だ。そして野田と別れた今、彼女の中で茂松に対する未練が再び顔を覗かせているのではないかと推測しながら、豊島は菜々の愚痴に耳を傾けていた。




 ところが、推測は見事に破綻した。二軒目に訪れたカラオケ屋で、何を思ったのか菜々は、かつて仲間内で披露するのが恒例となっていたとある歌を「豊島さんのために」と言って歌い始めたのだ。


 その歌は、かつて想いを寄せていた茂松にリクエストされるのを心待ちにして、彼がいる前でしか歌わないものだと思っていた豊島は、彼女の言葉の意図を図りかねて困惑する。


 そして菜々は、歌っている途中で突然泣き出した。


「豊島さんを好きになったりしたら、駄目なのに」




            *   *   *


 一夜明けて、豊島は件の一部始終を茂松に明かした。黙って耳を傾けていた茂松は、菜々の本心を真剣に模索することからさりげなく逃げて、豊島が聞いた離婚の詳細やらを尋ねてくる。そんな彼の態度に軽く憤りを覚えたりもしたが、ふと彼が漏らした本音に共感してしまった豊島は、強く責められなくなった。


 誰かを好きになる感覚が、よくわからない。恋愛に疎い茂松と同じ境遇にある自分が、彼をとやかく言う資格などないと思い直した豊島は、菜々の心を案じるしかなかった。




 波乱の再会の夜から数日後。一仕事を終えて会社に戻ろうとして、休憩がてらコンビニに立ち寄った豊島と茂松に、今度は偶然の再会劇が、二つ同時に起こる。


 そのコンビニは、菜々の現在の職場だった。知らずに店内で鉢合わせた豊島は戸惑うが、あの夜のことをすっかり気にしていない様子の菜々にひとまず安堵する。すぐに休憩だから外で一緒に煙草を吸わないか、という菜々の提案に快く応じたものの、外で茂松と一緒に待っていた豊島の前に、菜々は現れなかった。


 その理由は、再会、とは言い難いもう一つの偶然が原因なのではないかと、後に茂松は推測する。菜々を待つ間に見かけた、見覚えのある男の姿。にわかに浮かんだ疑惑を確かめようと、茂松は豊島に黙って行動を起こす決意をする。




 男の正体は、野田だった。菜々との縁を切ったにも関わらず何故あの店を訪れていたのかと、野田を呼び出した茂松は真剣に問いただす。彼女に嫌がらせをするためか。かつての先輩である自分達を見かけたから、彼女との接触を悪戯に妨げようとしたかったのか。野田はどちらも否定を返したが、茂松の不信感は拭えなかった。


 そして、あろうことか野田は茂松に向かって、菜々の恋人になってほしいと懇願する。己の立場をわきまえないその発言に、感情的になって茂松は野田を責め立てたが、茂松に対する本音をこれまで堪え続けてきた野田もまた、感情を露わにして返してきた。


 誰かの支えが必要な菜々が求めているのは、豊島でも茂松でもない存在だ。野田は最後にそう言い残して、茂松の前から去った。




 結局、豊島に一連の出来事を打ち明けた茂松は、身勝手な行動を取ったことに対してきつい叱責を受ける。かつて菜々の告白を拒んだことを負い目に感じる必要などない。豊島の真摯な説得で自身の迂闊な行為を反省してみせるも、突飛な行動をしがちな茂松は、今すぐ菜々をカラオケに誘おうと提案してきた。


 妙案は呆気なく叶った。運良くヒトカラに興じていた菜々と合流した二人は、かつての調子で和気あいあいと語らい、互いに心から笑って再会の喜びを共有し合えたことに安堵する。


 ほどなくして菜々が中座した隙を狙い、豊島は『例の歌』を菜々に歌わせないようにと茂松に警告する。その理由を図りかねた茂松は、自身も警戒を怠っていると地雷を踏むことになると豊島に警告で返す。人一倍鈍感な豊島を魔法使い(※ネットスラングの一種。女性経験のない男性を指す。すなわち童貞)と揶揄してからかっているところへ、運悪く菜々が戻ってきた。


 からかっていた茂松も、そして豊島も魔法使いであることが、菜々に知られてしまった。どうして恋人が出来ないのか、恋愛事に縁がないのかと、出口の到底見えない問題に三人は真剣に頭を悩ませる。やがて見かねた菜々は、彼らにとんでもない提案を発した。


「あたしが二人の彼女になってあげましょうか」




            *   *   *


 こうして恋人の関係になった三人は、今の状況を果たして交際と呼んでいいものかと、それぞれが疑問に思いながらも交流を続けた。といっても、三人で飲み歩いたり、三人でカラオケで遊んだりと、単なる遊び仲間として付き合っている感覚しかなかったから、特に違和感はなかった。


 不思議な交流がようやく習慣付いてきた頃、三人は交際するようになって初めてのクリスマスイブを迎える。いつものように酒盛りに興じ、ほどよく酔って気分よくカラオケで盛り上がろうという、いつも通りのデート。ところが急用が生じた茂松が一時的に抜け、デートは中断してしまう。


 菜々と二人きりになったのを機に、豊島はかねてから伝えるべきか迷い続けていた言葉を、彼女に伝える決心を徐々に固め始める。奇妙な関係を続けてようやく見えてきた、菜々の本心。これから先の身の振る舞い。菜々が今度こそ幸せになれるならと、豊島は決意した。


 恋人という立場から身を引きたい。茂松を唯一の恋人に選んで、幸せになってほしい。そう豊島に告げられた菜々は、当然戸惑いを見せた。だが、豊島が覚悟していたほど取り乱すことはなく、菜々はあっさりとその想いを受け入れる。やがて再び合流した茂松と共に、三人は予定通りカラオケ屋に向かうことにした。


 道中、菜々が通りの光景に気を取られている隙を狙って、豊島は菜々の恋人から退いたことを茂松に打ち明ける。このまま菜々の恋人でいるか、恋愛関係から一歩退いた関係を選ぶか、選択を迫られた茂松は、苦悩の末に豊島に向かって「もう逃げない」とだけ宣言した。茂松の意志を信じ、二人が聖夜に相応しい顛末を迎えることを祈って、豊島はひとまず胸を撫で下ろした。


 その矢先、すっかり話し込んでしまった二人は、菜々の姿を見失ったことに遅れて気付く。慌てて行方を追い、ほどなくして探し当てた先にいた彼女は、何かから逃げるようにして二人の前から再び姿を消した。何事かと訝しむ視線の先で、逃げた彼女を追いかける男の姿を捉えた二人は、すぐさま彼らの後を追いかける。




 駅の駐輪場に逃げ込んだ菜々は、走った疲れと精神的負荷により、過呼吸を起こす。苦しさに身動きが取れなくなっているところへ、追いかけてきた野田にとうとう追い詰められ、必死に抵抗した。菜々を助けたい一心の野田を懸命に拒み、助けられるくらいなら目の前で死んでやる、と菜々は言い放つ。


 そこへ駆けつけた豊島と茂松によって野田から解放された菜々は、気を張っていた反動で失神してしまう。深刻な症状ではないと落ち着き払う野田に憤る二人は、菜々を追い詰めた理由を言及する。執拗に迫った野田はやはり、菜々に未練を残していた。自分ではなく、豊島でも茂松でもない、別の誰かに想いを寄せていたらしい菜々に。


 時たま浮上する菜々の本命の存在に心当たりがあるのか問おうとしたところで、菜々は目を覚ました。その話だけは、豊島と茂松の前で明かされたくない。これまで純粋に笑い合って過ごした三人の関係が、何もかも駄目になってしまう。菜々は必死になって野田に縋り付き、復縁だろうと、他のどんな望みだろうと従う代わりに、二人に真実を明かさないでいてほしいと懇願した。


 菜々の悲痛な想いを受け止め、野田は確信する。彼女が想いを寄せる『本命の男』は、豊島か茂松のことなのだと。途端に冷たく菜々を突き放した野田は、二人のどちらが本命なのかと声を荒げて問いただし、とうとう二人の前で『本命の男』の通称を明かしてしまう。それによって豊島と茂松がすべてを理解したのを悟った菜々は、たちまちその場から逃げ出した。




 何もかも終わった。豊島と茂松に真実を伏せ、彼らを騙し続けてきた罪悪感に苛まれた菜々は、自身と彼らに縁の深い会社の屋上に逃げ込んだ。これまでの出来事を振り返り、一人静かに懺悔を繰り返しているうちに、ふとあの歌を口ずさみ始める。


 彼らに聴かせられなかった。そしてもう、二度と聴かせることは出来ない。強い想いを込めた歌は無情なほどに、悲嘆に暮れる彼女を苛む。


 誰かを想うこと、誰かに想われること、それらに思い悩むことに疲れた菜々は、静寂の中に断罪の言葉を遺して、暗闇にその身を投じた。




            *   *   *


 人生というドラマのラストシーン。屋上から身を投げた菜々の脳裏に甦る記憶は、紛れもなく走馬灯であると言えた。


 菜々も野田も、まだ豊島や茂松と同じ会社にいた頃。慰安旅行として、彼らは海を訪れていた。周囲が羨むほど仲睦まじく交際していた菜々と野田は、二人きりの時間を満喫する。


 もっと二人きりでいる時間を増やしたい。唐突にそう告げた野田は、今より勤務時間の安定した仕事に就き、今の仕事を辞めてほしいと菜々に懇願する。そんな風に請う理由は、未だに未練が残る茂松から菜々を遠ざけたいから。菜々が口にした推測も肯定した上で、自分達の将来を考えて出した結論なのだと、野田は菜々との結婚を真剣に考えていることを打ち明ける。


 野田の想いを受け入れるべきなのか。夜も更けた暗い海辺で一人、菜々は頭を悩ませる。時間を掛けて物思いに浸っているところへ、不意に彼女に呼びかけてきたのは、豊島だった。何があったのか、何をしようとしていたのか、慎重に尋ねてくる豊島に答えようと、無意識に海へと進み入るところをさりげなく制された菜々は逡巡する。


 自分さえいなくなれば、みんな幸せになれる。意図せずそう結論づけていたことで、体が勝手に動いてしまったのだろうと、菜々は自嘲する。孤独に悩む菜々に同情を募らせるばかりで、心から彼女を救えるだけの術と勇気を持てない豊島は、せめてもの気休めの言葉をかけて彼女を慰めようとした。


 豊島の想いに思わぬ動揺を受けた菜々は、溜め込んでいた想いが一気に溢れ出して、堪らず泣き崩れた。ありったけの感情と、ありったけの涙を豊島の前で絞りきった菜々は、その時を境に自由に涙を流すことが出来なくなったのだった。




            *   *   *


 自らの意志で終わりを迎えたはずの、菜々の人生。奇跡的に彼女を助けたのは、やはり豊島だった。今回ばかりは鮮明な意志を持って命を絶とうとしていた菜々は、二度も命を救ってくれた彼の傍らで、未だ生きている不思議な感覚をしみじみと実感する。


 やがて菜々は、豊島を本命に選んでいた真相を、とつとつと語り始めた。相手が豊島であることをほぼ把握した上で、己の人格を偽って、長きに渡って菜々は豊島とネットで交流していたのだった。それが菜々の心の支えになっていたこと。知らぬ間に、菜々にとって決してささやかとは言えない存在となっていたことを知り、豊島は葛藤する。


 弱い彼女を支えてやるには、確実に救うには、自分は何をするべきなのか。豊島は仮想の人格で交流していた時の、本音を垣間見せてきた彼女の言葉から導き出した答えに賭ける。


 菜々をまっすぐに見据え、豊島は歌を聴かせた。それはあの再会の夜に、菜々が最後まで歌えなかった歌。想い人に告白する時に歌うと、恋が実るといういわれを持つその歌で、菜々に対する自分の想いを確かめようとした豊島は、確信した。


 自分は菜々のことが、好きなのだ。確かめた想いを素直に告げられた菜々は、満たされた想いで豊島の告白に応じる。嬉しさのあまり感極まった目から自然と涙が溢れて、これまで自由に泣くことが出来なかった理由を、菜々はようやく理解した。


 魔法使いである豊島に、涙の魔法をかけられていたせいだと、菜々は断言した。それを素直に信じようとしない豊島に対して、今度は菜々が魔法をかける。不意打ちで豊島の唇を奪い、異性との口づけを経験させることで、魔法使いの資格を奪う魔法。涙の魔法を使えなくさせたと話す菜々に対し、こみ上げてきたものが堪えきれなくなった豊島は、堪らず笑い飛ばした。


 菜々の大真面目ぶりを、豊島は笑う。調子に乗った菜々の悪態にツッコミを入れる豊島を、菜々は笑う。聖夜の静かな雪空の下で、二人はいつまでも楽しげに笑い続ける。


 涙の魔法を解かれた彼女は、幸せな終わりを迎えた。かけがえのない存在と、恋の歌を紡ぐ喜びに満たされながら。







            *   *   *


 ――以上、涙の魔法本編のダイジェストでございました。


 引き続き、次ページ以降のお話もお楽しみいただけると、幸いです。

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