初めて救えた人
自分でも信じられない程の跳躍力で、俺は跳んだ。いや、飛んだ。
そのままの勢いで委員長を抱える。
間一髪軽自動車を躱し、道路脇の茂みに突っ込んだ。
幸い、茂みがクッションの役割を果たし、軽い擦り傷以外怪我はなかった。
「…いてて、無事か?委員長。」
「紅木くん…」
いまだ何が起こったかを飲み込めていないのだろう。
俺が背になるように飛んだため、先に起き上がった委員長が俺に手を差し伸べる。
「全く、ひったくりなんてふざけた事する奴、まだいるんだな。」
忌々しげにそうこぼしつつ、委員長の手を借りて立ち上がる。
「…ありがとう、紅木くん。」
「礼なんていいって」と返しつつ服に付いた葉を払っていると
「警察には電話しといた、もう直ぐ来ると思う。」
流石はヤマ、すべき事をちゃんと分かってるいい奴だ。
「ああ、ありがとうヤマ。」
到着した警察に事情を説明すると、今日のところはもう帰っていいとの事だった。
「紅木くん、今日は…ありがとね。」
去り際、委員長は二回目の礼を残した。
俺が、初めて救えた人。
この眼で…初めて救えた人。
今俺が抱いている感情は…なんだろう…。
警察によって、ひったくりは程なくして確保された。
委員長の元にバックも戻ってきたらしい。
「お前…すげぇ奴だな。予知能力でもあんのか?」
「ねぇよ。」
ヤマが真剣な顔でそう聞くので、咄嗟に嘘をつく。
「だって、自転車が俺らを追い越すより前にもう走り出してたろ。なんで分かったんだよ。」
「…なんていうか、直感?」
ほえ〜、と咄嗟のデマカセで納得してくれたらしい。デマカセと言っても、直感というのはあながち間違いでもないが。
「…で、どうなのさ。」
「ん?」
「委員長だよ、お前、どう思ってー」
ヤマの頭に俺は無言で手刀を落とした。