Lobelia-ロヴェリア
銃口から漂う煙を、黒守さんはフッと吹いた後、深〜い溜息を吐きながら深〜く椅子に腰掛けた。
あまりの衝撃に言葉が出ない。
殺そうとしたのか?俺を?
「許してくれ、決して君を殺そうとしたわけじゃない。試さなければならなかった。」
「….試す?。」
「完全な不意打ち、相手を見てからの反射じゃまずかわせない。」
そこまで言われて気づく。
「つまり…君にみえる未来は、少なくとも変えられる可能性のある未来なわけだ。」
やったじゃないかと言わんばかりの笑顔だ。
しかしこちらとしては素直に喜ぶ事ができる状況ではない。
だってもし視えてなかったら…しんでたじゃないか。
「Lobelia-ロヴェリア、君の妹を撥ね飛ばした組織の名だよ。」
唐突に告げられた言葉に、理解が追いつかない。
「…組織?」
「君の妹を撥ねた二人組はロヴェリアという組織の人間だ。裏の世界ではその名を知らない者はいないだろう。」
「…何故あの二人組が、そのロヴェリアとか言う組織の仲間だと分かるんですか?」
「内通者がいるんでね。調べてみたのさ。」
ドヤ顔でそう言い放たれる。裏の世界ではその名を知らない者はいない組織、そんな組織に内通者がいて、当然のように情報を得る事ができる…。
「あなたは…何者なんですか?」
「…ただの占い師だよ。」
占い師のくせに胡散臭さが無いところがこの人の特徴だ。
それでだ、と黒守さんが持っていたティーカップを置く。
「敵は大きい。普通の中坊を殺すのなんて、ハエを払うより簡単だろうね。ちょっと手を出しただけで謎の死を遂げるのがオチさ。」
「…」
「戦うには何かしらの起爆剤が無いと話にならない。だから、君が死を予知し回避できるかどうか試したんだ。それくらいできないと懐に入る事すら出来ないだろうからね。」
復讐を成し遂げられないのなら死んだほうがマシ、そう言った俺はここで死んでも文句は言えないというわけだ。
「あなたは…その組織の事をどこまで知ってるんですか?」
「さぁね。でも、君が望むなら出来る限りの協力をするよ。僕もあの組織には…少し因縁があってね。」
何か思い返したのか、黒守さんが顔をしかめる。因縁については詮索するべきでは無いだろう。
「何あったらここに掛けたまえ。」
黒守さんがシュッとカードを投げる。
何とかキャッチしてみると、死神利用権と書かれたカードに電話番号が記載されていた。
「死神…利用権?」
「僕に調べごとを頼めるカードだ。オークションに出せばそれなりの値段が付く代物だが…君ならうまく使えるはずさ。」
外にはすでに巣に帰るカラスの群れが飛んでいた。
「今日はもう遅い。気をつけて帰りたまえ」
そう言われ俺は黒守邸を後にした。
〜同日夜、黒守邸〜
月夜の下、黒守は一人、写真立てに立てかけられた写真を眺めていた。写真には、黒髪の少年とその両親と思われる男女が写っていた。
「…」
どこか悲しげな表情で、黒守が写真に手をふれる。
「時は…満ちた。」
黒守は夜空を見上げ、そう呟いた。