黒守という男
紅木 黒守ーあかき くろす
超一流占い師。言うことがそのまま未来に反映されるような占いぶりから付いた通り名は
『未来の設計者』
しかし、人にふりかかる災難に関して特に鼻が効く事から
影で、『死神』とも揶揄されている。
そんな人が身内にいたことなんて、姉に聞かれるまですっかり忘れていた。
保育園に行っていた頃、除雪機の発射する雪が直撃する未来を
「雪に関して、不運な事があるだろうな…」
などとキメ顔で的中させた、あの人だ。
今日はその人に会うために出かけた。母から貰った地図とにらめっこしながら、やっとたどり着いた。
西洋風の豪邸が、そこには佇んでいた。
インターホンがドアの横ではなく門についている時点で、少し怯む。
恐る恐るポチッとな。
「どちら様かな?」
インターホンから聞こえた声は、昔会った時より少し老けたように思える。40代くらいだろうか。
「あの…炯人です。」
「…やぁ、炯人くんか。随分久しぶりだね。今出るから、ドアの前までおいで。」
門を開けると、楽園のような綺麗な庭が広がっていた。占いで相当稼いでいるのか。
ドアの前まで来ると、キィ、と言う少し軋んだ音を立てて、ドアが開いた。
「さ、どうぞ入って。」
低い声の似合う紳士が顔をのぞかせた。
促されるまま、椅子に腰掛ける。
家中どこを見ても高級感の溢れるものばかりだ。その全てが真っ白な壁に映える。
「紅茶はレモンかい?それともミルク?」
「えっと、ストレートで。」
「ははっ、大人になったね。」
慣れた手つきで紅茶を入れる黒守さん。まるで貴族だ。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
手に取り香りを吸い込む。
いい匂いだ。
「おいしいです。」
「それは良かった。」
もう40代半ばのはずだが、顔は随分若々しく見える。
「久しぶりに会ったんだから明るくお喋りを楽しみ たいところだが…」
黒守さんは悲しげな顔でため息をついた。
「…サチちゃんの事は、残念だったね…。」
「…。」
「今日は、黒守さんに聞きたい事があって来たんです。」
「…うん、なんでも聞いてくれたまえ。」
「黒守さんは、未来が視えるんですか?」
難しい事を聞くね、と、黒守さんは少し考え込んでしまった。
「視える…というのは少し違う。私に出来るのは、導き出す事だけだよ。」
「導き出す?」
「数式から答えを導き出すのと一緒さ。与えられた情報を式に当てはめて、答え…未来を導き出すのさ。」
「へぇ…」
「だけどね、人間が導き出せる答えなんて、大抵曖昧なんだよ。占い師だろうと一緒だ。
真面目にいちいち問いを解いているだけ。何も視えはしないのさ、私の眼はね…。だけど…」
黒守さんが僕に目を合わせる。
「どうやら君のそれは…そんな安物ではないようだね。」