異世界制覇、第一歩です。
死んで死んで死にまくる。いきなり異世界に送られて、とんだ災難だった瞑鬼。
そんな彼が出した結論は……。
「……ほう。魔援金か。いいじゃねぇか。もらっとけよ。いろいろサービスあんだぜ」
「へぇ……。どんなのですか?」
「確か……毎月7万くらい貰えるぞ。まぁ、その代わり、魔王軍と戦争になったら真っ先に駆り出されるけどな。後はなんか、カードみたいなのが貰えて、それ出すと医療費がタダになる」
陽一郎の話では、特別魔法支援金とは、国が出している魔法使いの育成制度らしい。この戦況下で、子供は貴重な戦力だ。そしてこの世界は、昔の少年兵のような制度も導入されている。
詰まる所、瞑鬼は国から戦力として換算されるほどの魔法を持っていることになる。そしてそれは、始めて瞑鬼のこの謎の力が認められた瞬間でもあった。
「うちの学校だと、神前くんともう一人だけしか貰ってないし、かなり凄いよ」
「まぁ……、俺の場合は事情が事情だからな」
「あぁ……。あの死んだら魔法が増えるってやつ……?確かにね。……まぁでも良いんじゃない?」
良いんじゃない。その一言が瞑鬼の心を軽くしてくれる。やはり、瑞晴の観察眼には相当の性能が詰まっているらしい。瞑鬼が言いにくいことを、一から全部当ててくれる。
もう一度全員で乾杯し、その後は解散で各自風呂に入ることになった。一番風呂は朋花。どうやら、瞑鬼の合格を素直に祝うのが照れるらしい。
今頃は、一人浴槽で遠くから祝ってくれていることだろう。
入学書類にペンを入れていく瞑鬼。一年前にも、全く同じものを書いた記憶がある。こういう書類は、大体に保護者の判子が必要であるから、よく覚えていた。
義鬼には期限を守る気がさらさらなかったので、瞑鬼は自分で判子を押したのだ。寝ている部屋に忍び込み、そっと盗んだ判子はじつに最悪な押し味だった。
やたらと記入欄が多い書類に一通り文字を書き連ね、とりあえず瞑鬼が書く分は終了した。後は陽一郎からの判子一つで、晴れて瞑鬼は天道高校の生徒となることができる。
「なんか……、保護者欄が自分の苗字と違うって新鮮だな」
「確かにねー。でも、最近は増えてるみたいだよ?」
「……超絶な傾向だな……」
入学書類を封筒に収め、瞑鬼はお茶をすする。グラスの半分ほどが氷で占められた麦茶は、喉を越してきんきんに冷やしてゆく。
テレビから流れる、下らない芸人の大して面白くもないネタを聴きながら、二人して部屋にいる。もうこの家の匂いには慣れきっていた。
初めこそ、家に入るたびに、女の子の家ということを意識していた瞑鬼だったが、今では仕事場として折り合いをつけれるくらいには成長しているのだ。
陽一郎は、いつものごとく何処かへ出かけてしまっていた。何でも、連日連夜仕事の電話が入っているようだ。
関羽もチェルも、今は朋花と風呂にいる。そして、朋花の湯浴みは基本的に長時間だ。最低でも30分はかかると見ていいだろう。
瞑鬼の心臓が高鳴ってくる。自分でもわかるくらいに、どくんどくんと脈打っていた。
「……なぁ、瑞晴」
頭を侵食しつつあった邪念を振り払うため、瞑鬼は適当に話題を見繕う。
「ん?」
くるりと振り向く瑞晴。何だか、少し前から瞑鬼の目はおかしくなってしまっていた。
瑞晴の一挙手一投足すべてに、自然と目がいってしまうのだ。もちろん、完全に無意識かと言われれば嘘になるが、それでも半分以上は体が勝手に動いてしまっている。
高鳴る心臓を気合いで押さえ込み、瞑鬼は一枚の紙を取り出した。入学案内の封筒に入っていた、最後の一片である。
「……ここの、魔法名って何?」
最後の紙に書いてあったのは、魔法名と魔法効果を書けという内容だ。
魔法効果はわかるとしても、魔法名というのが何かわからなかった。それというのも、この世界には面倒臭いことに魔法の分類なんてものがあるのである。
瑞晴のような、体から何かを出すのは生成型。夜一や千紗は構築型とされ、瞑鬼の第二の魔法は発展型に位置付けられている。
しかし、瞑鬼の死んだら能力を増やして生き返るなんて魔法は、どう考えても分類不能なのだ。
「あぁ、それはね、 魔援金受けれる人だけのやつでね、自分の魔法に名前つけれるの」
「……普通はつけないのか?」
「……昔は付けてたらしいんだけど、今は殆どやってないかな。使う機会ないし……、恥ずかしいし」
少しばかり顔を緩めて話す瑞晴。この分だと、後者の理由が名前をつけない大きな要因となっているのだろう。
しかし、瞑鬼の魔法は確かに名前をつけておいた方が良いかもしれない。一人一つならば、誰かが魔法を使う時その魔法が何なのかわかるが、瞑鬼の場合は違くなってしまう。
区別をつけやすくするためにも、ここは一つ、瞑鬼が恥ずかしい思いをするのもありだろう。
あぁ、とだけ返し、瞑鬼はしばし考え込む。きっと、今瞑鬼の頭の中では真っ黒な脳細胞がさぞかし必死に働いていることだろう。
想像力には自信があった方だが、いざ考えろと言われると、案外とっさにはでてこないらしい。
取り敢えずは、魔法タイプの欄には不明と書き込んでおく瞑鬼。こうすれば教師陣が勝手についきしておいてくれるだろう。
玄関から扉を開く音とともに、陽一郎のご機嫌な声が聞こえてくる。酔っ払っているわけでもないのにあのテンションになれるのは、この家の誰もが感服していることだ。
それとほぼ同時に、風呂場の方からも騒ぎ声が聞こえてくる。どうやら関羽が瞑鬼に変身してしまったらしい。あの関羽のことだ。どれだけ言っても、結局服を着ないくせは治っていないだろう。
後から朋花にビンタされる未来を予測して、思わず瞑鬼はため息をつく。けれどそれは、やれやれなんてマイナスな思考からくるものじゃない。
楽しい時に、ほっと一息つく時に出る、そんなため息だった。
「おおーう。できたか?」
「……ええ」
「瞑鬼ぃぃ!なんてもの見せるの!」
「……修羅場だねぇ」
夜になろうと朝が来ようと、この家は変わらない。最高の家族がいて、最高のガキがいる。そしてその中には、しっかりと瞑鬼の姿もあるのだ。
つい何ヶ月か前までは、こんな生活が送れるだなんて夢にも思っていなかった。異世界も、瑞晴も朋花も、何もかもがありえなかった。
しかし、瞑鬼はそんな黒い感情を上書きし、この世界にたどり着いた。この道にたどり着いた。
これは、間違いなくすべてが噛み合ってくれたからだ。瞑鬼一人の力じゃない。
瞑鬼は学んだ。この世界に来て、死と生とを。まだその正解にはたどり着いていないが、慌てることはない。
こんな楽しい世界なら、きっとそこらに夢がある。そして、ひょっこりと答えの方から現れてくれるだろう。
「…………決めました」
馬鹿みたいに騒ぐ、馬鹿みたいに最高で、馬鹿みたいに大好きな人たちに向けて、瞑鬼は言葉を放つ。
外では蝉が鳴いている。夜になっても、一向に止む気配がない。どこかでフクロウが鳴いた。
瞑鬼の頭の中には、一つの答えが出ていた。考えに考え抜いたわけでも、悩みふけったわけでもないが、会心の出来と言えるだろう。
視線を注ぐ三人に向かって、瞑鬼は明るく言い放つ。
「俺の魔法名は……、【改上】にします」
全てを改めて、昔の自分を上書きする。
この世界の出来事を、上書き保存で追加する。
それが、曲がりねじれた神前瞑鬼が出した、瞑鬼なりの結論だった。
はい。と言うわけで、これで第1章は終了です。
ほんとに序盤も序盤。フルマラソンで言えば、まだ水泳も終えてないくらいです。
これからどう物語が進展していくのか。復讐は?その他のよく分からない伏線らしきものは?
それらの全ては続きにあります。では第2章にもご期待ください。
因みに、明日も普通に投稿します。




