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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界魔法、新発見です。

一章が終わったら、縛りを変えようと思います。


十分間きっかり猫たちに体の上を占領されていると、不意に部屋の扉が開いてジャージ姿の陽一郎が登場する。赤と紺のジャージのラインが、無駄に隆々とした筋肉を強調していた。


「おぉ、なかなか気持ち良さようじゃん」


「……はは」


陽一郎が冷蔵庫を漁っている間に、瞑鬼は腹の上の猫たちを畳の上に下ろす。首根っこを掴み、そっと上にあげてそのまま横へ。


一日中遊んでいた身体は、全身の筋肉が疲労しているようだ。だらんとして、全く動こうとしない。


寝ていることに感謝し、二匹を下ろし終えた瞑鬼。猫の飼い主として思うことは一つ。ひっかかれなくて良かったという感情だけである。


「……それで、どうして見て欲しいなんて考えたんだ?新しい魔法でも発現したか?」


冗談めかした口調で、陽一郎がわらう。持ってきていた麦茶を仰ぐ。


どうやら陽一郎は、瞑鬼の考えがイマイチ読めてないらしい。突然自分に魔法を使ってくれ、なんて言われたら、それは困惑するだろう。ましてや陽一郎の能力は人体憑依。普通ならば疎まれるべき魔法だ。


実際陽一郎自身も、この魔法が嫌で嫌で仕方がなかった時期もある。それは初めて魔法回路を開いた時。当時は中学校で初めての解放となっていた。


さらに、陽一郎の世代は今とは違って直接的な魔法が多かったのだ。


手をかざすと火が出るだの、なんでも食べれるだのの能力が横行していた中で、陽一郎が持ったのは人の体を自分の器にするという魔法一つのみ。


あの頃は、ガタイがいいだけあってよく絡まれていた。当然、こんな魔法を必要とする人物は現れない。例え身体を乗っ取っても記憶は探れないのだ。


だから、陽一郎には新鮮だったのだ。瞑鬼という存在が、瞑鬼という人間が。


「……そうですね。発現しました、多分。あと、それともう一つも」


「……ほう」


半ば信じられないと言った顔をし、陽一郎が瞑鬼の顔を見る。その目には、当たり前だが若干の疑いが含まれていることを、瞑鬼は見抜いた。


「んじゃ、ちょっくら見てみるか」


よいっ、とテーブル越しに身を乗り出す陽一郎。


90キロは下らないであろう体重の、肘をかけられた机が軋んでいる。


伸びてきた陽一郎の手が瞑鬼の顔を掴む。思わず一瞬目を瞑る。そして恐る恐る開けると、いつも通りにそこにはおっさんの顔があるだけだ。


魔法回路が開く。やはり、何度見ても人間の魔法回路だと針金くらいの太さが限界なのだ。つい何時間か前に戦ったばかりの敵のことを思い出し、困惑する瞑鬼。


しかし、その思索は長くは続かなかった。何度も見た光景。陽一郎の目が赤く染まったのである。


そしてそうなってしまええば、もう瞑鬼の役目は終了だ。あとは意識の奥底で眠っているだけでいい。なぜ相手の体には入れないのかはわからない。しかし今、瞑鬼は文句を言える立場じゃない。


どさっと、二人して重なり合うように崩れ落ちる。意識がなくなった人間でも、最低限の受身は勝手に身体がとってくれるらしい。瑞晴のありがたさが、今になってようやくわかる。


野郎二人で折り重なること十数秒。ようやく瞑鬼が身体を起こす。


「……やっぱ、高校生の身体は最高だな。ちっとばかし筋肉痛だが、なんだ?スポーツでもしてきたのか?」


瞑鬼の中に入った陽一郎はそう言うと、何度か身体を動かし、軽い体操をしてみせる。バキバキとなる骨の音。


普通の観点から見るに、瞑鬼は運動不足などではない。むしろかなり鍛錬している方だ。毎日欠かさず続けているランニングと、朝と夜との筋トレ。


初めて一ヶ月じゃ筋肉なんてつくわけないが、瞑鬼も本人なりに努力はしているのである。


全身の痛みを、念入りに確認する陽一郎。心なしかその目には疑いの色が宿っている。


「……こいつ、何してきたんだ……」


陽一郎の顔が曇る。そして、瑞晴と全く同じポーズをとり何かを考える姿勢に。親子で同じポーズなのは、やはり遺伝的なもののせいだろう。


魔法回路を開いていることも忘れて、陽一郎は自問自答を繰り返していた。


瞑鬼の体にあった異変。それは案外、瞑鬼ではない人間だからこそ気づけたことなのかもしれない。


一先ず一旦お茶を飲み、陽一郎は自分を落ち着かせる。自分の使っていたコップを取ろうとするが、よくよく考えるとおかしいことに気づく。この状況なら、例え瞑鬼の湯呑みを使っても問題ないはずだ。


冷たい麦茶が口に入る。特に異変はなかった。どこかが切れているわけでも、歯が欠けているわけでもない。何度確認しても、筋肉痛以外は普通そのものだ。


「……まぁ、いいか」


そう言うと陽一郎は魔法回路を開き、そのまま畳の上に倒れこんだ。背中から突っ込んでしまった後悔が陽一郎を襲う。


目をつぶり、いつもやっているように精神を集中させる。その人間が持っている魔法を確認するためには、本人の身体を一旦無意識の下に置かなければならないのだ。


段々と感覚が冴えてくる。まず入ってくる情報は、魔力の量。そしてこれは陽一郎の予想を少しだけ上回っている。


瞑鬼の身体に宿っていた魔力の量は、常人のおよそ2倍弱だ。血統不明の高校生にしては、かなりの才能である。しかし、それ以上に気になることが一つ。それは、魔力の量が増えていたことだ。


通常ならば、魔力というのは生まれつきある身体の器に貯められるもので、成長によって多少変化したとしても、倍になることはまずありえない。


さらに、魔力の量は血統でしか大きくできないのだ。つまり、純血な大魔力一族じゃないと、2倍なんて量になるとは思えないのだ。


それに、疑問点はまだある。陽一郎は思い出していた。瞑鬼が言った、『能力が増えたような気がします』という言葉を。


これも、この世界では常識から外れた発言だ。魔法は基本的に一人一つ。あったとしても二つで打ち止めであるし、ましてや途中から気がつくなんてことはありえないのだ。


四十余年生きてきたが、今までそんな人間には一度たりともであったことがなかった。魔王軍や魔女ですら、三つなんてのはいないだろう。


しかし、それは本当に存在していた。感じるのだ。瞑鬼の魔法を。それも、これまでに見てきたものではない。全く新しい魔法の波長が、瞑鬼の身体には流れていた。


「…………マジかよ……」


はてさて、第三の魔法はどうなるのか。

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