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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界ご飯、堪能です。

平日の休みってありがたいですよね。


瑞晴から仲裁が入ったことにより、二人の冷戦は一時締結。その後、平和協定が脳内で結ばれ、とりあえずは食事ということになった。


お風呂道具一式を持って、瑞晴が湯浴みへと向かう。その様子を、瞑鬼は麦茶を飲みながら眺めていた。


その後ろの台所では、朋花が晩御飯の準備中だ。なんだかんだ言いつつも、朋花も心配していたのだ。


「……そう言えば、陽一郎さんは?」


部屋の中を見渡し、陽一郎の存在がないことに気づいた瞑鬼。そう言えば、玄関から靴がなくなっていた気もする。


部屋の隅には仕事の時につけるエプロンが放置されているので、まず仕事ということはない。この時間に配達はありえないだろう。もう時計は10時を軽くすぎた時間を指している。


コップの中の氷が崩れる。クーラーが効いた部屋なのに、瞑鬼の汗はなかなか引いてくれない。


朋花曰く、陽一郎は9時過ぎにどこかへ向かったらしい。なんでも、仕事の話が来たのだとか。あの親バカが、娘の帰りを待たずに出て行ったのは驚きである。


それだけ瞑鬼が信用されているという事もあるだろうが、それでも意外であることに変わりはない。


晩飯も風呂もまだだったらしいから、そうそう遅くはならないだろうとのこと。


朋花一人だけを残していくのは躊躇っていたらしいが、それだけ重要な仕事だということでもある。


親が帰ってこない日はハッピーだった瞑鬼とは違い、この家では誰もが陽一郎の不在を惜しんでいる。いたらいたで五月蝿いのも事実だが、瞑鬼にとってはそれすらもご褒美だ。


こんなに幸せな日々を過ごせていることを、毎日神に感謝してもいいくらいだった。


「何してたの?」


じゅうじゅうと何かが焼ける音を漂わせながら、朋花が訊ねてくる。目は瞑鬼に向けられていない。


「……勉強だよ」


「…………あっそう」


だから瞑鬼も、朋花の方を見ずに応える。そして恐らく、朋花は瞑鬼の嘘に気づいているだろう。演技力にはそこそこの自信がある瞑鬼だが、この台詞のチョイスは失敗した。


いい匂いが流れてくる。鼻が告げる料理名はチャーハン。子供から大人まで、誰でも簡単に作れるかつ美味い、至高の中華料理である。


二人の間から会話が消える。場には再び沈黙が訪れた。蝉の鳴き声も聞こえない。時折響くご飯を炒めるパラパラ音と、テレビから聞こえるくだらないバラエティーだけが二人の耳に届いていた。


次第に後ろからの音が収束してゆく。もうすぐで完成するようだ。


校長先生から渡された入学案内の書類を見ていると、風呂場からガラガラという音が聞こえてくる。どうやら瑞晴が終わったらしい。女子高生にしては、少しばかり短い風呂である。


公立高校のパンフレットは至って下らなく、漫画や小説が好きな瞑鬼が好んで読むような内容じゃない。


魔法科の進学率やら、部活動がどうのの興味を持てない情報ばかりが記載されている。


部屋の扉を開き、適当な服に着替えた瑞晴が戻ってくる。今度の服も挑戦的だ。


バスケットの時に履くようなズボンに、ダサい英語のロゴが入ったシャツ。完全にオフの格好である。


「あぁ〜。涼しいね〜」


普段は見せる素ぶりすら無い緩んだ表情の瑞晴。そんなのを見せられては、無意識のうちに瞑鬼の心に邪な感情が芽生えてしまう。


3人が揃ったところで、本日のディナーが開幕する。メニューはチャーハンと冷凍のお惣菜。いかにもなお手軽飯である。


瞑鬼が一口食べようとすると、ふんわりとした何かが足の周りに纏わりつく。この感触、温度に瞑鬼は覚えがある。


机の下を覗くと、案の定そこには関羽とチェルがいた。二匹とも朋花と一緒に風呂に入ったのか、毛並みがつやつやになっている。


ご主人様のお帰りを待っている間に、夢の世界へと誘われてしまったらしい。誰しもが一度は経験することだ。それに、疲れた体にこの可愛すぎる寝顔は十分なエネルギーチャージになる。


半眠りの眼をなんとか開き、関羽が瞑鬼の足に乗る。今ではすっかり慣れたこの重さも、一度死んだらまた違った良さが見えてくる。


桜家のちゃぶ台は、旧世代式の丸型ではなく四角型。それも長方形と、とても座りにくい形になっている。


二人の頃は向かい合えば良かったのだろうが、こうも人数が増えてしまっては多少窮屈に感じる事もある。


瞑鬼の隣は瑞晴。正面には朋花の配置だ。これに陽一郎が加わると、瑞晴の前の席が埋まるというのが、桜家のデフォルトの席順となっていた。


「……遅いな、陽一郎さん」


沈黙に耐えかねた瞑鬼が、当たり障りのない会話で牽制球を投げる。下手なことを言えば、眠たい朋花の気付けにされる事が目に見ている。


「……そうだね。たまにあるんだよ、こんなこと。まぁ……、仕事だし仕方ないって思ってるけど……」


「私も別に寂しくなんて無かったし。関羽とチェルと瑞晴がいれば完璧だし」


「……お前な」


相変わらず朋花の心の閉じ具合は、瞑鬼にとってキツイものがある。いくら二人が相いれない存在同士とは言え、女の子から嫌われて平気でいられるメンタルなど持ち合わせていないのだ。


会話が弾み、食事が進む。その間朋花は猫たちと戯れていた。走り回ったりではなく、大人しく首を撫でるような、静かな接し方。こうして見ると、案外朋花も普通の子供なのだ。


瞑鬼の目線からだと、朋花は同年代の子供と比べて随分と大人びているようだった。両親を亡くし、そのことを知らずに生きている朋花。瞑鬼はそんな朋花が凄いとさえ思っている。


何気なく様子を見ていると、不審な視線に気づいたのか、朋花が猫たちを使って瞑鬼の目をガード。首を掴まれたチェルは、抵抗虚しく空中に吊るされている。


「……チェルに恨まれても知らんからな」


冷たくそう言い放つと、瞑鬼は目の前の食事を再開する。


朋花が作った品を心から褒めるのは心外だが、そんな瞑鬼のプライドを打ち砕くほどにチャーハンは美味かった。絶妙な油加減と、それに折り合うように若干の芳ばしさが口の中を暴れまわっている。


十数分で完食すると、今度は瞑鬼のお風呂タイムだ。ちょっとだけ腹を休め消化を促進。その後は、瑞晴に臭いと思われる前に早めに退散するのが得策だろう。


朋花が寝ると宣言したのを皮切りに、3人ともそれぞれ自分のことを開始する。朋花は就寝。瑞晴は明日の試験の勉強。瞑鬼は風呂の後に編入試験の予習だ。


居間で眠る猫たちを、振り返りながら気持ち悪いくらいニヤニヤした顔で眺める瞑鬼。現在瞑鬼は後片付けを終えて食器を洗っている。


当たり前だが、この家の家事の5割は瞑鬼の仕事だ。ただでさえ働いている時間が短いのに、業務時間が終わったからといって家でゴロゴロなんてしてられない。


飯は女性陣のが強いから仕方ないが、洗濯と掃除は主に瞑鬼の仕事となっていた。


みなさんも、子供とご飯食べたくなりません?

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