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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界自宅、ご帰還です。

世間では卒業シーズンです。

この作品もいつか、学校卒業を迎えるのでしょうか。

しかし、瞑鬼の能力にはそんなのが一切関わっていない。異世界転移をしたのだから、当然この世界に瞑鬼を生んだ人間は居ないはずだ。


それなのに、瞑鬼には反則級の魔法が与えられた。死んでも生き返る魔法使いなんて、そこいらのお伽話の登場人物並みである。


そもそもこれは魔法なのか。それすらも瞑鬼には分からなかった。ひょっとしたら、元から瞑鬼に備わって居た能力なのかもしれない。


少しばかり特殊な環境に陥ると、高校生の脳はこんな風に解釈する傾向にある。


あまり外にいても暑いだけなので、とっとと帰ることにする二人。帰り道にちびちび買ったジュースを飲みながら、他愛のない会話を繰り返す。


今にして、やっと瞑鬼は夜一の意図を理解していた。


あの不器用な夜一が伝えたかったこと。瞑鬼と瑞晴を二人きりにしたのには、明確な理由があったのだ。


瞑鬼曰く夜一は、自分の担当は千紗だから、瑞晴は任せると言いたかったらしい。あんな事件が起こった後だ。瞑鬼や夜一と違ってまともな頭を持っている二人には、それ相応のケアがいる。


しかし夜一一人では千紗の面倒を見るのが精一杯だった。だから瞑鬼にまかせてとっとと帰ってしまったのだ。


これは完全な瞑鬼の考察であるが、恐らく明日夜一に聞いたら似たような答えが返ってくるだろう。


商店街に入ると、思ったよりも大量の灯りが二人を照らしていた。どこの店もまだやっているようで、前を通ると少しだけ中に人がいるのがわかる。


「ねぇ、神前くん」


星の降る夜空を見上げて、瑞晴が呟く。それに続いて、瞑鬼の首が横を向いた。


「ん?」


「神前くんのその、死んでも生き返る魔法ってさ、今何回使ったの?」


「……三回くらい?一回目があれだし……、うん。三回ジャスト」


「私思ったんだけどさ、ね、聞いて」


「……聞いてるよ」


「ひょっとしたらだけど、神前くんの魔法って、死んだら能力が増えるとかじゃない?」


とんでもない瑞晴の発言を聞き、思わず瞑鬼は自分の耳を疑ってしまう。


驚いた顔をする瞑鬼をよそに、瑞晴はまるでどこぞの名探偵よろしく、考えるポーズをとっている。きっと、今瑞晴の頭の中では灰色の脳細胞がさぞご活躍なのだろう。以前にも一度見たことがある光景だ。


今にして思い返すと、瑞晴の部屋の本棚には推理小説と思しき本がぎっしりと詰まっていた。


ホームズだとか、D坂だとかの、瞑鬼でも知っている有名なのから全く知らない作家まで。元からそう言うのが好きな人なのである。


そして、瞑鬼が過ごしてきた十七年間でわかったことが一つ。曰く、推理小説を読む者は自分も推理をしたがるのだ。それはちょうど、ヒーローに憧れる少年のように、お姫様に憧れる少女のように。


しかし、瑞晴の考察はそれらの幻想とは違い、信憑性があった。普段からの瑞晴の行いを見ていれば、それがギャグじゃないことくらいは瞑鬼でもわかる。


「……まぁ、確かにその可能性はあるな。……帰ったら陽一郎さんに視てもらうか」


「当たってたら、また奢ってよね」


そう言うと瑞晴は、光の踊る路を背に、瞑鬼に微笑みかける。その顔からは、すでに心配する要素なんて感じなかった。


もう心配はない。瞑鬼は確信を持って言える。


瑞晴だって、一人の女の子だ。心に衝撃が奔れば、落ち込んだりもする。


これまで瞑鬼は、瑞晴のいい部分しか見てこれなかった。家でも学校でも、瑞晴はいつでも気丈に振る舞っていた。


しかし、ベールを一枚無くせばそんな事はない。ただの普通の、魔法が使える高校生だったのだ。


「…………おう」


瞑鬼は頷く。夏だからなのか、妙に心が踊ってしまう。


これは、何なのだろう。変に芽生えて来た、この謎の感情は。


答えを知らない瞑鬼。答えが出かけている瑞晴。そんな二人の元にも、光は平等に降り注いでいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「お帰り、瑞晴ぁー」


いつも通りの平常運転で、朋花がお出迎えをしてくれた。流石に10時を回ったら小学生はお眠の様で、パジャマ姿で目をこすっている。そしていつもの如く、お帰りの言葉に瞑鬼の名前は無い。


瑞晴が朋花に抱きつく。まだ靴も脱いでいないのに、これではまるで出張から帰って来たオヤジである。


しかし、女子高生と小学生の絡みを見るのは目の保養だ。それは瞑鬼にとっても例外でない。


もう外は涼しいが、それでも夏は夏。あと一週間後には夏休みが始まる時期にもなれば、いつ何時でも外に出ただけで汗をかく。


若干湿った肌の瑞晴を、朋花が必死に避けようとしている。風呂に入った身としては、さぞかしやめてほしい事だろう。その気持ちが痛いくらい瞑鬼に伝わってくる。


一日分のエネルギーを補充し終えた瑞晴は、今度こそ大人しくなり家に上がる。その後を追うように靴を脱ぐ瞑鬼。


「どうする?神前くん先にお風呂?ご飯?」


くるりと瑞晴が振り返る。肩までかかった髪の毛がさらりと揺れた。そして、女子高生特有の汗の匂いが、瞑鬼の鼻腔を刺激する。


思えば、この家の匂いは危険だ。ただでさえフルーティーだと言うのに、それに混じって二人も女の子がいる。


思春期真っ盛りの男子高校生にとって、女子の匂いはバイオ兵器レベルの危険を示す。それに、唯一のおっさん源である陽一郎も、囲まれたフルーツのせいでいい匂いがする。


自分は変態ではないと思いたい瞑鬼だが、このままだと新たな扉が開いてしまいそうだった。


「……瑞晴先いいぞ。べたつくだろ」


「……瞑鬼、目が腐ってるよ」


氷のような目をした朋花の視線が、豆腐のような瞑鬼の心臓を貫いた。しかし、瞑鬼にはそんなことを言われる覚えがない。


きりっ、と朋花を睨みつけるも、朋花も瞑鬼を睨んでいる。二人の視線の間に火花が散る。それを見ていた瑞晴がくすりと微笑む。


もうこの景色は桜家の日常となっていた。例え何があろうと、家に帰ってくれば救われる。心が安らぐ。


瞑鬼にとって、ここは帰る場所になっていた。


お久しぶりの帰宅です。やっぱ、ここが落ち着くって場所があるといいですよね。

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