表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
89/252

異世界バトル、アフターケアです。

バトルが普通じゃない世界だと、やはりこういうことが起こる模様。

「まぁ、そうだけどさ……」


当然ではあるが、千紗はあまり瞑鬼の意見に靡いていない様子だ。こんな見た目ギャルっぽいのに、瞑鬼よりもはるかに常識人らしい。


かと言って、四人が警察に行っても意味がないことも事実だ。こうも綺麗に消えられては、調べるものも調べられない。周りの塀がぶっ壊されているものの、派手に崩壊していては調査のしようがない。


「……まあでも、夜一は病院行っといた方がいいと思うぞ」


「あ、あぁ。それは心配ない。帰ったら調べる。ウチは病院だからな」


初めて聞いた夜一からの驚愕の情報に、瞑鬼は一瞬驚いた。元の世界でも、恵まれたやつだとは思っていたが、まさか実家が病院だとまでは思ってなかったのだ。


思い返してみれば、小さい頃に柏木医院という所に行ったかもしれない記憶がある。


あの時は、まだ瞑鬼には母親と呼べる存在がいた。十年前ともなれば、かなり記憶は薄くなっているが、それでも思い出せるくらいには鮮烈な時期だった。今を除いて瞑鬼の中で一番人生が濃かった時である。


詳細については覚えてはいないが、確か優しいお母さんだった。少なくとも、保育園にいた時は、美人と評判だったほどだ。


浸りたくもない過去の記憶を思い出し、思わず瞑鬼は頭を叩いてみせる。こんな記憶は、この世界には必要ない。


「……取り敢えず、今日は帰るか」


「だね。明日はテストだし」


その瑞晴の一言で、本日の仲良し帰宅クラブは終了を告げた。


もう夜一はこの件については特に深く思っていないらしく、悩む千紗を連れてハキハキと帰って行った。


はたから見たら、完全に仲良しカップルである。アレで付き合っていないと言うのだから、瞑鬼にとって世界は何とも不思議なのだ。


包丁をカバンに収め、肩で担ぐ。何も入っていないスクールバッグは、入学式のことを思い出させそうになる。


腹の虫が鳴ったので、何気なく腹をさする瞑鬼。


すると、お腹の部分にぽっかりと穴が空いていることに気づく。せっかく陽一郎から貰った古着だというのに、これではあまりにも奇抜なファッションすぎる。


仕方なく、瞑鬼はティーシャツを脱いでカバンにぶち込んだ。代わりに、一応予備として持ってきた、天道高校の体操服を着る。この前と違い、制服の瑞晴と一緒なら部活帰りの生徒として見てもらえるだろう。


瑞晴が逆を向いてくれている間に素早く着替える瞑鬼。もういいよ、と告げると、待っていたかのように瑞晴が振り向いた。


二人同時に目を合わせる。ぱっちりと開いた瑞晴の目と、飼育されているヤギのような、半開きの瞑鬼の視線がぶつかり合う。


あんな事があった後だからなのか、それとも単純に二人に話す事がないからなのか。どちら共が言葉を発しないまま、二人は歩き出していた。


ぽつんぽつんと街灯がある街を歩く瞑鬼と瑞晴。


同じ方向に行ったはずの夜一たちの姿は、もうすっかり闇に溶けてしまっている。


ひょっとしたら、夜一はこの状況になることを見越して二人で帰ったのかもしれない。瞑鬼の頭には一つの懸念が浮かんでいた。


考えてみれば、普通の高校生が謎の人間と殺し合いをした直後に、普通の態度でいろという方が無理な話なのだ。それも、多分こういうのは実際に拳を交えた人間よりも、見ていただけの人間の方が罪の意識は強い。


実際に怪我を負ったのは夜一だけだが、その後に瞑鬼は一度死んでいる。それを見てしまった精神的なショックに関しては、瞑鬼は誰よりも知る事ができない。


だから、人の死に目を見るのがどれほど辛いのかわからないのだ。ましてや、それが友達の死となれば尚更だろう。


あれだけ頭を抱えている千紗を見れるのは、今生で一度限りの貴重な体験だろう。そんな唯一回のサービスを、こんなに早くに使ってしまったのはもったいない気がしてしまう。


コンビニでも寄ってくかと提案する瞑鬼。瑞晴も、冷や汗をかいた分の水分を取り戻したいのか、あっさりと了承した。


商店街の一番最初にあるコンビニに入る。かいていた汗が、一瞬のように消えて行った。

「……安いもんなら奢るぞ」


正直金はあまり持っていないのだが、瞑鬼だって一応は男子高校生。女子の前だと見栄くらい張りたくもなる。


ジュースを持って待機していると、瑞晴がミネラルウォーターを買い物かごにそっと入れる。やはり遠慮はするらしい。


「……言っとくが、俺だって金はそれなりに持ってんだからな。心配しなくていいぞ」


「……それじゃこの店全部で」


「……そのうち買ってやるよ」


冗談を言えるくらいには回復したらしい。これは瞑鬼にとって朗報である。


このまま家に帰れば、様子がおかしいなんて一発でバレてしまう。少し鈍そうな陽一郎でさえ、簡単に感づいてしまうだろう。


その上家には朋花がいるのだ。ただでさえ他人に興味津々な女子小学生。瞑鬼たちの異変には即効気づくに違いない。


そして、そんな気まずい空気が流れれば、当然何かあったとかという話になる。この時間まで帰って来ず、瞑鬼の服は着替えられて瑞晴は消沈。


ここまで出揃っていれば、嫌が応にも答えが導き出されてしまう。すなわち、瞑鬼と瑞晴の間に何かがあったのだ、と。


自分で注意喚起していた陽一郎だが、恐らく思いつくことは瞑鬼とそう違わない。まず間違いなく瞑鬼が考える最悪の結果を提示してくるだろう。


そうなっては、瞑鬼が思い描いていた最悪の未来へ一直線だ。本当のことを話したら、それはそれで面倒なことになる。


「……神前くん。今日のことさ、四人だけの秘密にしない?」


店の前で水を飲んでいた瑞晴が、体操服の変人に話しかける。


「……まぁ、やっぱそれが一番いいよな」


瞑鬼としては、願っても無いチャンスだった。まさか瑞晴が自分から提案してくれるとは。


瑞晴だって、陽一郎に話したらどうなるかはわかっている。瞑鬼よりも十七年先輩なのだ。性格は熟知している。


「……ほんとに生き返るんだね。すっごいびっくりしたよ」


「……だろうな」


「なんかね、こう、時間が戻るみたいな感じで」


瑞晴は手を使って必死にジェスチャーをしている。そのあまりの天然っぷりに、瞑鬼の顔は自然と緩んでいた。


やはり、瞑鬼の調べ通り生き返る際に巻き戻る系の能力らしい。それにしても、一体どうしたらこんな魔法が備わるのか。瞑鬼は甚だ疑問だった。


昨日ネットで見た情報によると、この世界で魔法は遺伝子と才能によって決まるそうだ。魔法回路に個人の魔法の情報が備わっているとのこと。


簡単に言えば、この世界では染色体の中に魔法の情報も含まれているのだ。


そのため、生まれてくる子供の魔法はある程度事前に知ることができる。例えば瑞晴の場合だと、お母さんは呼吸をすると特殊なフェロモンを出す魔法を持っていた。そのため、瑞晴の魔法もそれに似たような形になったのである。

日常に戻りつつある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ