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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界超人、殴り合いです。

名前の読み方で、わからないのがあったら言ってください。

今、瞑鬼たちの前には一人の人間がいた。街灯の光が及ぶ範囲を挟んで、ちょうど反対側に立っているそれは、全身をフードで覆っている。


しかし、一応は人型であった。全身からは魔力が溢れ出しており、その少しばかり尋常ではない量に思わず瞑鬼の口は綻んだ。


四人が歩みを止める。まだサイレンは鳴っている。という事は、未だ犯人は捕まっていないという事だ。


瑞晴が黙って携帯電話をカバンに戻す。それに続いて、夜一が魔法回路を開いた。どうやらこちらは臨戦態勢が万全らしい。そして流石は魔法使い。こんな状況にも、夜一は慣れっこだ。きっと、ヤンキーの襲撃やらでさぞ鍛えられた事だろう。


暗闇の中で、何かが動いた気配がする。フードの端がちらりと上がり、その薄黒い顔が闇の中で光る。


「……王よ」


嗄れたような、掠れたような声が絞り出される。


喉が焼けているのか、地を這う様な声はうまく瞑鬼たちの耳に入ってこない。


《なにか》は繰り返す。ただひたすらに、同じセリフを何回も。


「……千紗」


夜一が千紗とをちらりと見る。その視線を肌で感じ取ったのか、千紗が一つ頷きを返す。


いつもやっているような動きで夜一のカバンを受け取り、瑞晴とともに二人して数歩後ずさる。その動きに《なにか》が反応し、より一層の緊張が場を満たしてゆく。


ある程度距離が出来ると、今度は千紗が魔法回路を開く。瞑鬼が聞いた話では、千紗の魔法は目を見開くと透視するというものだ。そしてそれは、暗闇だろうが御構い無しに使えるらしい。


という事は、今この場で千紗は相手の戦力を計っているのである。


千紗が武器か何かを持ってないか確認し、夜一に伝える。そして夜一が素手でボコると言うのが、今までのこのパーティーの戦い方だ。


そして、今は瞑鬼もいる。そこそこだが戦力になる以上は、いつもと比べて多少は楽に戦いが進んでくれる事だろう。


そして、瞑鬼も瞑鬼で臨戦態勢に入っていた。カバンを下ろし、チャックを開けて中に手を突っ込んでいる。全く使ってなかったが、そう言えばこの鞄の中には新品の包丁が一つ入っているのだ。


ここでそんな物を出せば、四六時中包丁を持っている奇人として友人たちに語られることになるが、この場合では仕方がない。


相手が魔王軍と言うのに、たかが千円の刃物がどのくらい役に立つかはわからない。それに、魔法使い相手ではなおさらだ。


「……王よ……王よ……ぜだ」


《なにか》が焦がれるように喉を鳴らす。懇願するように、祈りを請うように。


「……光るやつ、あと何発いける?」


すでに夜一と《なにか》との間には、見えない眼光での戦いが始まっていた。こうして瞑鬼たちがゆっくりと準備しているのに、相手がなにもしてこないのは、恐らく夜一が睨みをきかせているからである。


残りの魔力量を直感で感じ取り、瞑鬼は答える。


「……二発くらいだな。音が出るのも同じ」


「……ならば、タイミングは任せる」


もう限界だと言わんばかりに、夜一の体からは汗が出ていた。緊張からくる冷や汗が、整った顔を湿らせている。


その直後、痛みに悶えるような仕草をする《なにか》が、その肢体を畝らせる。


「王よぉぉぉ!!」


嗄れた喉で絶叫し、《なにか》の体が大地を蹴る。


一気に間合いを詰められ、夜一の顔からは余裕が完全に消失していた。瞑鬼と戦った時とは違う。完璧なる戦闘モードである。


《なにか》の体が街灯の光の範囲に入った瞬間、それまで黙って魔法回路を開いていた千紗が叫んだ。


「夜一!そいつ堅い!」


次に瞑鬼が見たのは、自分の隣にいた夜一が瞬間的に吹き飛ばされた絵だった。迫ってきた《なにか》から3人を守るため、魔法を発動して縦になったのだ。


瞑鬼と拳を交えた時は一度たりとも膝すら付かなかった夜一が、いともあっさり蹴り飛ばされた。それも、何メートルか後方の塀まで。


夜一の身体が当たったコンクリートの塀が、ずごんという激しい音を立てて崩壊する。夜一の身体が魔法で硬化されていたのもあるだろうが、驚くべきは蹴りの威力だ。


あの肉体を鋼にする夜一の魔法が発動しているのに、《なにか》は痛がるそぶりを見せない。しかも、当たった瞬間には金属同士がぶつかり合う音がしたのだ。


そしてもちろん、夜一を蹴り飛ばしたからと言って《なにか》の進撃が止まるはずがない。


瞑鬼の真横にいた《なにか》は叫ぶ。それにつられたように、瞑鬼も叫んでいた。大声を出して注意を弾くためである。


そしてそれが功を奏したのか、《なにか》の次のターゲットは瞑鬼になったようだ。


相手のごつい掌が瞑鬼の頭を掴む。反応する前に、瞑鬼は壁に熱いヴェーゼをかましていた。がはっという苦悶の声とともに、瞑鬼の口から少量の血が溢れる。歯も何本か折れたようだ。


明美の時とは違い、鈍く長い鈍痛が瞑鬼の顔を襲っていた。


「……っの!」


魔法回路を開き応戦しようとするも、すでに《なにか》の手は瞑鬼の頭をつかんでいる。


強制的に正面を向かされる瞑鬼。ごりっという音がした。


ここにきてようやく、瞑鬼は敵の顔を間近で見ることができた。フードはもう被れていなく、長身な肉体が白々とした街灯の下に晒されている。


それは、普通の人間だった。色白で外人で、少しばかり血管が浮き出ているが、まぎれもない白人だ。


しかし、なぜかはわからないが相手もダメージを負っている。喉元に焼かれたような痕、手足からはどす黒い血が滴っていた。


そして何より、《なにか》は魔法回路が異常に発達しているのだ。瞑鬼たちの持っているような、細くてか細い針金の様な物ではなく、一本一本が鉛筆ほどの太さをしている。


足りない頭をフル回転させ、瞑鬼は相手のことを観察していた。と言うよりは、今はそれしかできないのである。首を掴まれ魔法もロクに使えない状況では、非力な瞑鬼にできるのはせいぜい威嚇程度。もちろん、相手を怯ませられるほどの効果は期待できない。


「なぜだ王よ!なぜ我を……!!」


苦しむ瞑鬼を意に介すこともなく、《なにか》は一人で叫んでいる。


手に力が込められる。だんだんと瞑鬼の意識は遠のいて行く。


魔法回路から溢れ出る魔力が、瞑鬼の鼻腔に侵入して来た。でもとてもじゃないが魔法なんて使えない。痛みと苦しさで、手を動かすのも精一杯だ。


鬼の形相をした《なにか》が何かを叫ぶ。もう瞑鬼に聞く耳はない。血流が爆発しそうだ。


瞬間、瞑鬼の脳内に甲高い音が鳴り響く。例えるのなら、金属と金属が衝突したような。そしてその直後、瞑鬼の首をつかんでいた《なにか》の手が離れた。同じくして視界から姿が消える。


「……なにが、王、だ」


いやぁ、やっぱバトルですよね。

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