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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界バトル、ボコられます。

土日は毎日、平日は隔日で行きます。

「…………あぁ」


言い終わるとほぼ同時に、瞑鬼の大ぶりな蹴りが夜一の胴体を捉える。普通ならばどう考えてもありえない、脇腹へのハイキックである。


夜一はアドレナリンで活性化した脳をフル回転させ、紙一重で瞑鬼の攻撃をいなしてみせる。


両足が地面に着くと同時に、瞑鬼は間合いを詰めるべく身体を弾く。ヤンキー相手に特攻し、相手のリーダーだけを確実に仕留めるために発達した技術である。


流石の夜一も、開幕二発目からタックルが飛んでくるのは予想外だったらしい。逃げるスペースを潰され、いやおうなく二人は組み合う形となる。


瞑鬼が夜一の肩を抑え、それを夜一が力で押すような状態が形成される。ここまでは概ね瞑鬼の予想通りだ。


打撃を打っても意味がないとわかっている以上、できることと言えばせいぜい関節技くらい。それも、全く技の型を知らない瞑鬼には、クリンチが関の山なのだ。


「……っ!」


組み合ったままの形から、瞑鬼が膝蹴りをお見舞いする。しかし身体を逸らしかわす夜一。


もう抑えるのは限界だと判断したのか、瞑鬼が肩から手を離す。もちろん夜一にダメージは一度たりとも入っていない。それも、殆ど最小限の力で躱してきた夜一と違い、瞑鬼のスタミナ消費量は半端ではない。


たった数度の攻撃で、すでに息が上がってしまっている。


「……はは」


瞑鬼の息が弾むと同時に、変な微笑が生じ出す。


「……まだ当たってないが?」


「……当ててないんだよ」


口元に薄っすらと笑みを浮かべる瞑鬼。夜一が瞬きをした一瞬を狙い、右のストレートを容赦なく顔めがけて炸裂させる。が、夜一はそれをいとも容易く手で弾く。


攻撃一片でフェイントという言葉を知らない瞑鬼。当たり前だが、素人の喧嘩ではフェイントなんてのは極珍しい技術なのだ。それも、瞑鬼が喧嘩をしていたのは主に中学生時代。それも相手は純然たる不良であるため、お互いの拳にはスポーツマンシップなど微塵も載っていない。


ただただ怒りに任せて拳を振るう中坊の喧嘩しか知らない瞑鬼にとって、夜一のもつ「いなす」という技術は初見だった。今までは、かわすか当たるかの二択しかなかった所に、突如として新しい技が加えられたのだ。


ゲーム好きの男子高校生が、そんなのを目にすれば起こる感情は一つ。すなわち、未知の技に対する興味である。


無駄にラッシュを打つ瞑鬼。夜一はそれらを反射ゲームのように捌いている。


「……まぁ、こりゃ夜一優勢だね」


「……でも、神前くんも慣れてるっぽくない?」


ギャラリーの声など瞑鬼には入っていなかった。一対一をするバスケ部のように、スパーリングをするボクシング部のように、ただ瞑鬼は目の前の相手だけを見ている。


そこに感じるのは、自分との圧倒的な壁だ。まだ夜一は魔法を一度も使っていない。魔力だって解放してないに等しいのだ。


それなのに、魔法回路全開の瞑鬼の攻撃を一度たりとも喰らわない。ここにある差に、歩んできた道の距離に、瞑鬼の心は踊っていた。


思い返せば、今まで戦ってきた時は全て相手を倒すのが目的だった。ヤンキーや義鬼は言わずもがな。魔獣や明美だってそうだ。


しかし、今は違う。どれだけ攻撃しようが、どれだけ刺激しようが自分に来るフィードバックは疲労だけ。それも、目的は身体を動かすことで倒すことじゃない。


初めて味わうスポーツという感覚。これは瞑鬼にとっては最高に楽しいことだった。


だから当然、頭も使って相手取る。


「……なぁ、夜一」


急に手を止める瞑鬼。開いた魔法回路からは魔力がふわふわと溢れ出し、クーラーがガンガンだと言うのに汗が流れ出ている。


流石の夜一も、あれだけ暴れれば汗の一つもかくらしい。首筋をしっとりと湿らせ、口からテンポよく息を吐いている。


格闘技に疎い瑞晴ですら分かるほどに、二人の差は歴然だ。


「……どうした?よもやもう疲れたのか?」


「……すまん。言っただろ?慣れてないんだよ」


荒々しく息を弾ませ、瞑鬼は汗を拭う。運動用のシャツでは無いから、動きにくいのもあるのだろう。


シャツは背中にぴっとりと張り付き、ゴツゴツとした体のラインを浮かび上がらせている。


「……ならば仕方ないな。少し休むか……」


「甘いっ!」


完全に魔法回路を塞ぎ、もうマットから降りる気満々だった夜一に、瞑鬼が渾身のミドルキックをお見舞いする。狙うは人間の急所の一つである水月。いわゆるみぞおちである。


いくら夜一が頑丈だとは言え、ノーガードで蹴りを打ち込まれて無事なはずがない。同じ高校生なのだ。差があると言っても、インチキされてもチャラにできるほどの実力の開きはない。


ごすっという鈍い音とともに、瞑鬼の足が夜一のみぞおちを捉えた。完璧な一撃だ。ガードも間に合っていない。


「きったねー」


「……私もそう思う」


なにやら女性陣から瞑鬼を冷めた目で見る視線が送られるも、そんなのに動じる豆腐なメンタルは持ち合わせていない。今は、確かに打ち込んだのだという感触を足から確かめている。


しかし、徐々に瞑鬼は異変に気付く。普通ならばモロに水月に蹴りなどをくらえば、速攻でうずくまるはずだ。強そうなヤンキーですらそうだったのだから、夜一にしても同じでないといけない。


しかし、夜一は倒れない。それどころか、不敵な笑みまで浮かべている始末だ。そして瞑鬼は気付く。


自分の足から、登ってきてはいけない物が上がってきていると。


「……ってぇぇぇ!」


最初に叫びをあげたのは、他でもない瞑鬼だ。それはもう可哀想なくらいに大きく、裏返りそうな声だった。


地面に倒れる瞑鬼。よほど痛かったのか、足の裏を必死にさすっている。


「……あぁ。すまんな。咄嗟だったから」


瞑鬼の攻撃は確かに夜一の肉体に当たった。間違えても鉄板を蹴ったりなどはしていないはずだ。


しかし、あの夜一の体の感触は、どう考えても人間の身体の限界を超えている。鋼と称したほうがしっくりと来るくらいに、硬すぎたのだ。


「言ったろ?俺の魔法は筋肉効果。力を込めれば込めるほど硬くなるんだよ。多分鉄くらいなら余裕で壊せるくらい」


夜一の言葉を焼ききれそうな脳で聞き、瞑鬼はなんとか処理をする。鉄以上の硬度を誇るというのだから、鉄以下の瞑鬼が攻撃を当てれば当然ダメージは瞑鬼にある。全身全霊を込めて鉄板を蹴れば、それは骨だって悲鳴をあげるだろう。


ようやくバトル。久々ですね。

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