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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界格闘、ボコボコです。

異世界なのに肉弾戦とは、これいかに。

人混みをかき分けて進む瑞晴の背中を追いかけながら、瞑鬼は周りの景色も目に焼き付けていた。誰がどんな魔法を持っていて、それをどんな風に使うのかを記憶しておこうと試みているのだ。


この場にも、ひょっとしたら魔女が潜んでいるかもしれない。あの明美ですら社会に溶け込めているのだ。学校に一人や二人魔女がいたところで、なんら不思議ではない。


「……なぁ、瑞晴」


一通り会場内を見終えた瞑鬼が、前を行く瑞晴の背中に声を投げかける。


「……ん?」


「もしかして、瑞晴のグループに俺の知らない人いる?」


この場面で何を思ったのか、瞑鬼の人見知りという最低なスキルが発動してしまう。さくさくと瑞晴に先を行かれると、色々と不安にもなるのだろう。


「いや、夜一と千紗だけだよ」


「……よかった」


自分の家で暮らすコミュ障が安心したところを見て、瑞晴が思わず笑ってしまう。


瞑鬼本人からしたら、知ってる人だけと言うのと知らない人もいるというのでは大分違うのだが、どうやら瑞晴にそんな心配はないらしい。


瞑鬼のすぐ横で何かが破裂する音が聞こえる。どうやら魔法が暴発したようだ。久々に使おうとしたら、魔力の量でも間違えたのだろう。


誰かが笑う。それにつられて、グループ内の全員が大爆笑しだした。なんと、失敗した本人まで笑いの渦に巻き込まれている。


なんとも不思議な光景を見て、瞑鬼は懐かしい気分に浸ることができた。


ふと油断していると、立ち止まった瑞晴に気づかずに後ろから追突してしまう。ギロリと瑞晴の目が向いた瞬間、瞑鬼の頭はすでに下を向いていた。


「ほう……。なかなかに早業じゃないか、瞑鬼」


顔を上げると、そこには体操服姿の夜一と千紗が立っていた。気のせいか、瑞晴の顔が紅いようだ。


体育館の端であり、倉庫の真ん前に我らがチーム桜は陣取っている。少し小さめの体育マット一つ分が、ここの領域らしい。


「あれあれ神前くん。どうしたの?瑞晴のおお迎え?」


にやにやとした目線を向ける千紗。その視線は、瞑鬼と瑞晴の両方を行ったり来たりしている。それが何を意味するのか、聞かなくても二人はわかってしまう。


「いや……。俺は学校の見学に来ただけで……」


「見学……?転入でもするのか?」


あぁ、と首を縦に振る瞑鬼。こればっかりは隠す必要も嘘をつく必要もないだろう。


四人揃ったが特にすることも無いので、瞑鬼は黙ってマットの上に腰を下ろす。それに従うように3人も腰を下ろした。ただ一人、夜一だけがどっかのジジイのようによっこいしょと言っていた。誰もそれに触れなかった。


周りでは色んな音がなっている。金属と金属がぶつかり合うような音、炎が燃え盛るような音。まるで魔法高校の体育祭である。


この世界に来て初めて目の当たりにした、いかにもな魔法たち。瞑鬼に与えられた、しょぼくれた力とは似ても似つかない魔法が、そこら中にある。


話を聞いた当初は参戦しようかとも思った瞑鬼だったが、こうまで差を見せられると参加する気にもなれなかった。それ以前に、まだ生徒でない瞑鬼がここに居ていいのかという疑問もある。


黙って端から様子を眺めていると、何を思ったのか唐突に夜一が立ち上がる。


「なぁ瞑鬼よ。少しやってみないか?」


「……マジ?」


そういった夜一の目は、心なしか少年のような輝きを持ってしまっている。まるで、新しいサンドバックを目の前にした格闘家のような目だ。


そしてもちろん、その標的となるのは瞑鬼であり、戦ったらぼこぼこにされるのも瞑鬼である。


まだ夜一の魔法を見てはいないが、ここまで自信があるということは相当に戦闘に御誂え向きなのだろう。


それに、よくよく見ると夜一の筋肉は発達している。それも、近所に住んでいる大工のおっちゃんが仕事でつけたような筋肉でなく、恐らくは格闘技などで培われた養殖の筋肉だ。そう言えば、元の世界でも夜一はそこそこ運動ができるやつというイメージがあったような気がする。


そんな夜一から、直接やろうぜなどと迫られて、断る勇気を持ち合わせている瞑鬼ではない。それに、瞑鬼だって実戦経験を積んで損はないのだ。


まだ夜一がどれだけ動けるかはわからないが、明美に対抗できるくらいのセンスがあれば練習として十分機能を果たすことになる。


頭の中でいくつか条件を考えた末、瞑鬼は提案に乗ることにした。


「……いいけど、夜一ってなんか格闘技とかやってる?俺あんま慣れてないんだけど」


もちろんこれは瞑鬼の交渉術であり、真実とは異なる話である。現実には瞑鬼は喧嘩慣れしている方であるし、死んでも蘇る時点でかなりのアドバンテージを持っている。


それでも尚、己が安全のために相手の力を割いて行くのが瞑鬼流だ。


「昔空手をやってたくらいだが、瞑鬼は未経験か……。ならば致し方あるまい。俺は攻撃しないから、瞑鬼が一方的に打ち込んでくれ」


「……いいのか?」


「……これは勝負じゃないからな。俺は自分が体を動かせれば構わんのだよ。あ、魔法も使っていいぞ。俺も使うがな」


「気をつけなよ神前くん。夜一の魔法は素手だと危ないよー」


千紗が部外から野次を飛ばしてくる。それに次いで、瑞晴までもが何かを言ってきそうな雰囲気だ。


完全にやる気満々の夜一。そんなところを見てしまったら、いくらニート思考が強い瞑鬼だろうとやらなければならないだろう。もう心配する事はない。相手からの攻撃がないとわかった以上、瞑鬼はただ夜一に向かって拳を放つだけでいいのだ。


それではあまり実戦的な練習にならないと思った瞑鬼だが、下手に夜一に反撃を許可したら瞑鬼が虐殺されるだけになってしまう。いくら魔法の世界だからと言って、肉弾戦が無意味になるわけではない。魔力が多くても、魔法を二つ持っていても、結局弱い奴は弱いのだ。


Tシャツの第一ボタンを外し、瞑鬼も重たい腰をあげる。もう瑞晴と千紗はマットの上から退去済みだ。


自然な流れでそのまま拳を握った瞑鬼だが、ふと一つ違和感を覚える。と言うのも、この場にいる誰もが防具をつけていないのだ。


普通の格闘技ならば、ヘッドギアや脛当てなどを着用の上でスパーリングを行うのが常識である筈なのに。これでは古代の決闘である。


「……なんもつけないのか?」


「……あぁ。俺の魔法は筋肉硬化だからな。防具はかえって邪魔になる。瞑鬼も手を魔力で覆えば当たってもそんなに痛くないと思うぞ」


瞑鬼の予想外ではあったが、一応夜一の魔法を聞き出すことには成功した。戦う前から相手の情報を知っておいて、その後に損するなんて事は滅多にないケースだろう。


しかし、だからと言って瞑鬼が不利であるという状況に変わりはない。どれだけ瞑鬼が頭の部分で頑張ろうとも、最後にモノを言うのはやはり力なのだ。それは瞑鬼が一番欲しいものであり、一番遠くにあるものでもある。


もう夜一は完全に臨戦態勢に入っている。ど素人の瞑鬼ですら分かるほどに、緊張が伝わってきた。夜一も、得体の知れない相手に対し、警戒心を抱いているのだ。


それに、瞑鬼は夜一の事を知っているが、夜一は瞑鬼の事を殆ど知らない。側から見ていただけだが、一年とそこらも同じクラスで過ごしてきたのだ。クセや行動パターンの把握については、瞑鬼の方に圧倒的に分がある。


二人して魔法回路を開く。薄っすらとした黒い粒子が、周りの空気を薄黒く染めてゆく。


瞑鬼は思い出していた。ヤンキーと殴り合った日のことを。義鬼と命を削りあった日々のことを。

無意識のうちに魔力が手に集まってくる。魔力操作なんて初めての瞑鬼だが、それほど難しいことではないらしい。


二人から発せられる緊張感に当てられたのか、気づくと瑞晴のほおには一筋の汗が伝っていた。クーラーが効いた体育館であるにも関わらず、喉が乾きそうだ。


「…………来い」


「…………あぁ」


さあ、レッツバトル。

ここ最近ごぶさたでしたからね。

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