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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界学校、体験です?

早めの更新。

陽一郎の口から出て来た発言に、一瞬瞑鬼は自分の耳を疑った。確かに元の世界基準ならば、十七歳の青年が高校へ行くのは当然だろう。しかし、この世界では違うはずだ。


瞑鬼が以前に聞いた話によると、この世界の高校への進学率は大体70パーセント程度らしい。魔法を使って一発稼ごうとする者や、魔王軍討伐の部隊に志願する人も多いとのこと。


だから、突然学校へ、なんて言われたら、黙ってしまうのも無理はない。


「……学校、ですか」


「働くのも悪くないけどな……、行ったほうがいいと思うぞ。お前魔法学知らないだろ?」


「……えぇ、まぁ。でも、学費とか、俺のバイト代じゃ厳しいって思いますし……」


どうにも煮え切らない態度の瞑鬼。陽一郎の話が唐突すぎたという事もあるだろうが、それ以上に瞑鬼は迷っているのだ。


異世界で学校となると、当然のごとく出てくる問題として、学費のことが挙げられる。いくら天道高校が公立の学校とはいえ、それでもかかる授業料は瞑鬼のバイト代をゆうに超えている。


奨学金なんて制度もあるそうだが、それでも貰える額はごく少量。教科書も使えないとなると、当然全て買い直さなければならない。制服のズボンと体操服代を抜いたとしても、最低諭吉五人はいる。前借りとしてはギリギリの範囲だろう。


「あ、お金なら心配ないと思うよ。特別魔法支援金あるし」


「……そんなのあるのか」


横から会話を聞いていた瑞晴が一言。救いの船らしきものを差し伸べてくる。


字面から察するに、何かすご今方を持ってる人にでも送られる金なのだろう。確かに瞑鬼が貰える可能性は高い。しかし、瞑鬼が学校へ行かない理由はそれだけではなかった。単純に学校が嫌いなのである。


毎日毎日誰もが同じ格好をし、同じことを同じ方法で学ぶ。個性を殺す日本ならではの教育方法だが、瞑鬼はどうにも性に合わないのだ。協調性が限りなく低く、自分でなんでもやろうとする瞑鬼にとって、集団行動を前提とされる学校はストレスが溜まる場所でしかない。


瞑鬼が求めているのは真の意味で充実した日常。毎日部活を遅くまでやり、テスト勉強を頑張ってもそれは得られるものではない。


それでも元の世界なら行かなければならないから行っていた。がしかしここは行かなくても何も言われない異世界だ。行けと言われれば行くが、わざわざ自分から行きたいと懇願するほどのものでは無い。と、瞑鬼は心の底から思っている。


「でもそれだと、バイトの日数減っちゃいますし、それだと住み込みの意味が……」


「まぁ、言ってしまえば俺一人の時でも回ってたわけだからな。店の心配してくれんのはありがたいが、お前まだ学生の年齢だし。あんま気にすんな」


「……そうですか。……ありがとうございます」


足りない頭を総動員し、学園生活をおくった場合を予測してみる瞑鬼。きっと今ごろ脳内では、さぞ楽しげなスクールライフが妄想とともに繰り広げられている事だろう。一度も体験したことのないことに憧れを抱くのは、どこの世界でも共通らしい。


うーん、と瞑鬼は頭をを抱えて悩む。メリットデメリットを考えているのか、食事の手は止まっている。


せっかく勧めてくれたのだから、少しだけ行きたいという思いもある。それは確かだ。行ったら行ったで、それなりに楽しい生活が送れるだろう。


何せ、瞑鬼は憧れの転校生ポジションなのだ。それも、特別魔法支援金なんて、魔法世界においての最高レベルの肩書きもある。きっと、本ばかり読んで過ごしていた時とは違い、夜一や千紗ともさらなる交流が望めることだろう。


できるならば一晩ほど悩ませてほしかったが、ことは呑気に構えれることじゃない。編入できる期間は一年のうちごくわずかのみ。その締め切りというのが、既に三日後まで迫ってきているのだ。できるだけ早くの精神に越したことはない。


「まぁ、とりあえず体験だけでもしたら?そっちはタダだし」


こんな時期に体験だと、確かに中学生に紛れれる可能性もある。考えてみれば、メリットがデメリットを若干上回っている。従って、瞑鬼が次に取るべき行動は一つ。


「そうだな……。それじゃ体験やってみるか」


どこか遠い目をして瞑鬼は言った。彼方にある高校を見たのか、それともその先の生活を垣間見たのか。しかし、不思議と嫌そうな顔はしていなかった。当たり前で気づかなかったが、どうやら学校は行かなかったら行きたくなるらしい。


「瞑鬼入れるの?試験あるんだよ?」


「お前……、馬鹿にしてんの?」


「……馬鹿じゃないの?」


「…………メネラウスの定理で数え尽くすぞ」


「……何それ?」


大人げのない会話を小学生と繰り広げ、高校生は高校へ行くことを誓った。


七時の鐘がなると同時に、店のシャッターをオープン。適当に道行く人を眺める仕事が今日も始まった。いつも通りそこそこの人がいる商店街通り。10人に一人くらいの割合で果物を買いに来てくれていることを考えると、思ったよりも人気はあるらしい。


すっかり慣れた手つきでレジを捌き、営業スマイルが飛び交う社交場に行く人たちを元気付ける。ネットで聞いた話によると、接客業は心を病むとの事だが、瞑鬼は全くそんなそぶりを見せていない。元から少しネジがおかしいというのも有るのだろうが、とにかく瞑鬼はこの仕事に適性があるのである。


行ってきますという朋花の声を受け、半ば自動的に返答をする瞑鬼。少しばかり時間が押しているのか、朋花は表の方から出て行った。こちらの方が微妙に早いのである。


それから約十分後に、今度は瑞晴が出陣の声をあげる。


「……あ、体験の話だけどね、お父さんが校長先生に話しといてくれるから、来たい時に来ていいらしいよ」


「……何者なんだあの人……。まぁわかった。多分お昼頃に行くと思う」


「りょうかーい」


軽い口調でそう言うと、瑞晴は颯爽と自転車を漕いで行く。夏の薄い制服でひらりと乗られたものだから、スカートから覗く生足に目がいっても仕方ない。健全なる男子高校生である瞑鬼には、夏というのは危険がいっぱいなのだ。


思い出したので追記。

瞑鬼の両親は、もともと仲が悪かったです。不倫こそなかったですが、ちょくちょく別居にもなりました。

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