表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
68/253

異世界教科書、初読みです。

糖分不足は頭脳労働の敵ですね。

初めて入った女の子の部屋というのは、瞑鬼の予想の斜め上を行っていた。


様々な媒体を通じて女の子の部屋というのを見てきた瞑鬼だったが、瑞晴のはそのどれにも当てはまらない。ベッドシーツはピンクでも星でもない。少し薄い水色で、その上にかかっている毛布もじつにオーソドックスなものだ。


部屋の中を見るにしても、いかにもな女の子という印象は受け取れなかった。確かにぬいぐるみも二つくらいはあるが、どちらともオブジェクトとしての役割しか果たしてない。間違っても、夜眠れない時に話しかけるなんてしてないだろう。


これならば、朝に見てきた元瞑鬼の部屋の方が、よほど女の子っぽかったと言える。


しかし、漂っている匂いは本物だ。魔法回路によって嗅覚が敏感になっているのか、瑞晴からはシャンプーの匂いがほんのりとする。それに、気のせいかしら部屋もいい匂いがした。


中心にある小さなテーブル。そのサイドにあった座布団に腰を下ろし、何気なく瞑鬼は部屋を見渡した。


「あんま見ないでよ?いきなりだし、片付けてないし」


「…………十分だろ」


瞑鬼的観点からいうと、片付いてないというのは足の踏み場がないことを言う。従って、瑞晴の部屋が汚いなど口が裂けても言えなかった。と言うよりも言ったら口が裂けていたかもしれない。


瑞晴が勉強机の上から鞄を下ろしてくる。瞑鬼がいつも見ていた、学校に行く用のものである。部屋を見る限り、リュックと呼べるのはこら一つだけだ。てっきり、女子高生というのはどこへ行くにも違うバッグだと思っていた瞑鬼からしたら、瑞晴の部屋は本当に衝撃だらけだ。


「何がいい?数学?英語?」


事前情報によると、この世界の高校は魔法を使うことが前提でカリキュラムが組まれている。瞑鬼の世界の人間だと厳しい量でも、魔法回路で脳を活性化させれば可能らしいのだ。


「世界史か地理でお願いします」


知りたいことは二つ。義鬼の部屋にあった書類に書かれていた、《円卓の使徒》と《黄金条約》である。しかし、正直なところ見当はついていた。


文字的な意味だけを察するに、黄金条約というのは恐らくはどこかとどこかの国家間に布かれた、強力な条約を指しているのだろう。だとしたら、アメリカとその他の世界で施行されていると考えるのが自然だ。


円卓の使徒というのについては、一応考えてはいたものの、よくわからないというのが瞑鬼の結論だった。恐らくは円卓の騎士とキリスト十三の使徒をかけたものだろう。となると、構成員の数は十三人。その末席が義鬼だと言うのだから、それほど大した組織とは思えない。


カバンの中をがさごそと漁り、瑞晴が二冊の本を取り出す。新書世界史と、高校指定地理というのがタイトルだ。


「ノートもいる?」


心優しい瑞晴の気遣いに、思わず瞑鬼は心にくるものを感じる。人の家に来てこんなに優しくされたのは、一体いつぶりだっただろうか。幼い日から友人との思い出が希薄な瞑鬼にとっては、これは十七年間でかなり幸福な瞬間と言えるだろう。


「……あぁ、うん。あると有難いな」


教科書を机の上に置き、再び瑞晴は鞄を漁り始める。どうやらノート派ではなくルーズリーフ派のようで、指定の教科を探すのに手間取っているらしい。


そんな様子を尻目に、瞑鬼は目の前の教科書に手を伸ばす。慣れ親しんだはずのその本。表紙にしても、相変わらずナポレオンが馬でウィリーをしているというのだから、案外歴史というのはどこへ行っても変わらないものらしい。


適当に数ページめくってみる。まだ二年生に入ってからそんなに経ってないため、進んだ範囲は少しだけのようだ。


ペラペラとページを繰ってゆく。序盤は見たことのある名前が多い。なんとか大王やら、なんちゃらかんちゃら第四世だとか。しかし、やはりここでも歴史に魔法による改変が加わっていた。


本来ならば戦略と兵法で勝ったはずの戦争も、指導者の魔法ありきなんて言われてしまっているのだ。と言うことは、少なくとも魔法は有史以前からある事になる。瞑鬼が来たから世界が変わったとか、そもそも異世界じゃなくて現実世界がねじ曲がっただとかの余計な可能性が排除される。


歴史の教科書曰く、人類と魔王軍との戦いは紀元前から行われているらしい。しかし、未だ嘗て魔王の姿を見た者はおらず、魔王の正体も不明。更に魔族はとてつもなく長生きの種族とのことだ。


そして、答えは思いの外あっさりと瞑鬼の前に現れた。それは、今から大体二百年ほど前。人類と魔族との戦いが鎮静され、お互いに牽制しあっていた時に生まれたものだという。


曰く、《黄金条約》とは、相互不可侵を定めた永久に侵すことのできない七つの条約からできている。魔族の領地を奪わず、また魔族は領地を広げない。そんないかにもな内容から、領事裁判権に至るまでびっしりと書かれている。


「……これか」


義鬼の部屋にあった指令書。あれが指しているのは間違いなくこの条約のことだ。


そして、書かれていた命令は《黄金条約》の撤廃。つまりは、その円卓の使徒なる集団が、再び人類と魔族の戦争を引き起こそうとしているのだ。


ありえるかもしれない大戦の未来を考えると、瞑鬼の胃が痛くなる。何よりも、誰にもこの事を話せないのが最大の問題だ。陽一郎やその他の誰かに話してたとして、冗談としてあしらわれる可能性が半分、もう半分は、例え義鬼の捕獲に動いても殺される可能性が高いという事だ。相手の得体が知れない以上、下手に手を出せば痛い目を見るのは明らかである。


熱心に教科書に目を落とす瞑鬼を、瑞晴が不思議そうな目でみつめる。ここは魔法の世界だ。学校に行ってなくとも、そこまで珍しいことではない。その筈なのに、瑞晴の目は稀有な存在を見た時のそれに酷似している。


手にとっていた漫画の本を置き、柔らかな口調で瑞晴が訊ねる。


「……そんなに面白い?教科書だよ?」


「……あぁ。知らん側からすれば、それなりに面白いな」


歴史自体は同じものの、その時に起こったであろう出来事は違う。まるでおとぎ話の世界に入ったような感覚を、瞑鬼は嫌という程味わっていた。


もともと世界史は好きな方だった瞑鬼だが、この世界の歴史書はかなり興味をそそられる。全てが魔法準拠のため、まるで小説を読んでいるような感覚で勉強ができるのだ。ある意味これが異世界転移の最大の特典なのかも知れない。


こういうイチャコラを書いている時が、何気に一番楽しかったり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ