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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界生活、満喫です。

とうとう僕にもウイルスと言う名の魔の手がやって来た。

平たく言えばインフルエンザです。

瞑鬼の魔法談義は、実に三時間にも及ぶ大論争を引き起こした。夜一が二つ同時に使う方法を模索しろといえば、今度は千紗が一つづつ極めた方がいいと。挙げ句の果てには、瑞晴からもっと魔法を増やしたら?などと言われる始末である。


しかし、瞑鬼はその三時間中、殆どを自分との対話で終わらせていた。話を振られた時の返事といえば、気の抜けた「あぁ……」の一言だけである。それと言うのも、全ては今日起こりまくった連続重大事件のせいである。


魔女が人の魔法回路を食べるところから始まり、ひいてはこの世界の瞑鬼的ポジションの人間がいるということまで。一日で無駄に大量の情報を得てしまったからには、その処理にかかる時間もまた膨大だ。忘れないうちにノートなりにメモでも残しておかなければならないだろう。


いくら夏とはいえ、流石に7時半を過ぎれば日も落ちる。野郎だけなら問題は無いのだろうが、ここには千紗なんていう一応の女子がいる。それに、明日も学校は通常営業だ。


陽一郎の帰れの一言で、やっとのことこさ本日の絡みは終了した。


帰る二人を玄関先まで見送る瞑鬼と瑞晴。今まで友達が家に遊びにきたことなんてない瞑鬼にしてみれば、それはさぞかし新鮮な体験だったことだろう。いつも漫画で見ていた、憧れの世界。ずっと憧れるだけだと思っていた世界は、案外近くにあったのだ。


「それじゃ、晩御飯作ろっか」


「……おう」


二人の姿が見えなくなると、瑞晴は家へと戻っていった。材料も買いに行ってない事だし、今日の晩御飯はさぞかし悲しいことになるだろう。


けれど、瞑鬼はそれでも大満足だ。現役女子高生の手作り料理が食べられるなんて、人生でそう何度もある事じゃない。


一度星を見上げると、瞑鬼も瑞晴の後に続く。居候の身分だと、おいそれと座って飯を待っているわけにはいかないだろう。


扉を閉め、鍵をかける。一日の疲れがどっと出てきた。今日手に入れた情報の量は、ゆうに瞑鬼の許容量を超えている。


居間に戻るも、陽一郎の姿はなかった。さっきまでいたのは確かなのに、どこかへお出かけでもしているのだろうか。


朋花は帰ってきてからずっと部屋に篭ってしまっている。何でも、明日テストがあるらしい。だからと言って頼んでもないのに勉強を教えに行くのも、瞑鬼的には微妙なところだ。下手に部屋に行ったらまたロリコン扱いされる可能性が高まってしまう。


学校に行ってない瞑鬼には、仕事が終わってからすることがなかった。予習も復習もしなくていいのは有難いが、無いと無いで何か物足りないのだ。


せいぜいやることといえば、猫たちのストレス解消のために一緒に遊ぶことくらい。それにしても、晩御飯前だと毛が飛び散るからと自重する脳くらいは瞑鬼にもある。


「…………手伝おうか?」


とんとんとリズム良く包丁を扱う瑞晴の背後に一言。正直言って料理は得意では無いが、何かしてないと気が落ち着かないのだ。


「……それじゃお願い。神前くんハンバーグ作れる?」


「…………レシピがあればな」


何やかんやと言いつつも、二人して作業を始めてゆく。こうしているのを見ると、知らない人は夫婦だと言うかもしれない。仲の良い幼馴染ともとれる。


自分を客観視していると、なぜか瞑鬼は心が落ち着くのがわかった。これも、瞑鬼が求めていた理想の生活の一つだったのだ。


異世界に来たところで、特に変わったことはない。毎日毎日バトルをする訳でも、為政者となるため奮闘する訳でもない。瞑鬼の他に異世界送りにあった人物がいたら、そいつはきっと魔法と剣の世界で英雄にでも祭り上げられているかもしれない。しかし、そもそもそんなのはおかしいのだ。


現代日本から突然異世界に送られて、魔法やら魔王やらと言われても、普通なら何もしない。自分が毎日生きるので精一杯のはずだ。それは、瞑鬼自身の体験によるものだった。


とにかく今は日常を送り、その内過去も精算する。瞑鬼の当面の目標はそれだった。


小難しい事を考えていると、思ったよりも時間が過ぎるのは早いようだ。気がつくと瞑鬼の眼前にはいくつものハンバーグが積み上げられていた。どうやらよほどひき肉が余っていたらしい。


「……めっちゃ多いな」


「……まぁ、お父さんが食べてくれるはず……」


どこへ消えたのか当てもない陽一郎のことを考えて、瑞晴がため息を洩らす。


二階の朋花を呼び降ろし、三人で食事をとる。

高校生が二人に、小学生が一人。親の帰りが遅い兄妹や、少しワケありの家族。見るものによってでてくる結論は様々だ。


しかし、瞑鬼は思う。これこそが正しい異世界生活なのだと。


異世界なのにこういう日常系。最高ですよ。

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