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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界知人、発見です。

期待されると出来なくなる。そんな普通の高校生の物語。

周りで瞑鬼の奇行を見ていた人間も、公開処刑と言う名のデモンストレーションが終わると各々自分の世界に戻ってゆく。何もいってくれないのがかえって幸いだ。こんな所で下手にお世辞などを言われれば、瞑鬼の顔面からは炎が吹き出てしまう。


「ま、まぁ、神前くんの本領はもう一つの方だから」


気まずい雰囲気の中に、瑞晴がとんでもない言葉を撃ち放つ。


この微妙なバランスで保たれている空気の中、そんなことを言われればでてくる答えは一つだけ。すなわち、もう一つの魔法への期待である。


「そ、そうか。もうに一つの方がメインなのだな。あ、あぁ……、わかっている」


秒速で悪くなってゆく雰囲気。漂う気まずさ。


きっと、以前までの瞑鬼ならこの時点で場から逃げ出していた。目立ちたがらない人間がこんなことを求められれば、ごくごく当たり前の結果である。


「……じゃあ、もう一つの方使うから、魔法回路開いてくれ」


「り、了解した」


もう羞恥心に耐えれれそうにない瞑鬼は、作業をこなす係員の人のような態度で夜一に迫る。その無機質な目を見たからか、夜一の目からは初めて焦りというものが感じられた。


魔法回路を開いた夜一から魔力を吸い、瞑鬼は三人から距離を置く。もう夜一はスマホをポケットに戻していた。


自分から頼んでおいた手前、辞めるというわけには行かずにせめて撮影だけは遠慮してくれたらしい。


魔法回路を再び開き、お昼にやった通りに拳を握る。そして口に当て、呟いた言葉はこうだ。


「やってくれたな」


「おわっ!!」


瞑鬼の言葉を聞いた瞬間、夜一が飛び上がるような声をあげる。よほど驚いたのか、声が裏返ってしまっていた。


とは言っても、動揺を表したのはほんの一瞬だけだ。初見ならば防げそうにない瞑鬼の魔法も、さすがに二度目からは対抗策の一つも打てる。


「……すまない」


「…………おう」


随分と居心地が悪そうなめ目をする夜一。自分から振っておきながらこの態度。瞑鬼の血管が少しばかり浮き上がる。


しかし、瞑鬼だって鬼ではあるが鬼ではない。わかってしまうのだ。夜一が目を伏せたくなる気持ちも、千紗が見なかったことしようとしてくれている心遣いも。だから敢えて何も言わなかった。


「まぁ、私てきには二つ持ちってだけで羨ましいけどねー。やって見たくない?コンビネーションとかさ」


「かくれんぼ系の遊びは強そうだよね。うん」


濁りに濁った空気を、千紗とと瑞晴が浄化にかかる。正直言ってこれ以上話す話題のなかった不甲斐ない男子二人からすれば、さぞ二人は女神に見えたことだろう。


「ならば今から桜の家で会議をしよう。神前の今後の魔法の活用についてだな……」


「いいの?神前くん」


あれよこれよと瞑鬼が黙っている内に、どうやら問題は解決を迎えたようだ。さっきまでの暗い空気はどこへやら、三人して色々とアイデアを出し合っている。


「……行くなら行こう。陽一郎さんも……、大丈夫だと思うし」


思いもよらぬ瞑鬼からの提案。真意は瞑鬼のみぞ知ると言った所だが、それでも成長は見て取れる。


これが瞑鬼の欲していたものだったのだ。ずっと焦がれて、しかし絶対にたどり着けなかった場所。少しばかり変な友人と、信頼できる大人。生意気な後輩なんかが居てもいい。そんな飽きない程度の刺激と、死なない程度の危険が入り混じる生活こそ、往年の瞑鬼が欲して居た世界だったのだ。


生まれて初めて友人と言える友人を手に入れたことに、思わず瞑鬼の感情が沸き立ってしまう。それは、まるで初めておもちゃを与えられた子供のような、純粋にして無垢なものだ。


ずっと自分の中には澱んだドロドロの感情しかないと思っていた瞑鬼だが、どうやら思い違いだったらしい。


「神前も考えるのだ。君の魔法の事なんだぞ」


歩き出す三人の後を追い、瞑鬼も足を動かし始める。どことなく関羽もご機嫌のようだ。主人の気分がいいと、飼い猫の気分も良くなるのだろうか。


大勢の人が校門を行き交っている。部活のランニング。忘れ物を取りに。屋上へ告白に。


理由は人それぞれだが、今の瞑鬼にはその煩さも夏の暑さも纏めて心地よく感じた。


瑞晴が誰かとすれ違う。バイバイなんて別れの挨拶をしている。そういえば、クラスにあんな人がいたかもしれない。


問題は解決していない。山盛りだ。両親への恨みを忘れたワケでも、理不尽な異世界を許していたワケでもない。ただ、少しの間幻想に浸りたかったのだ。


校門の前を通る時、一人の生徒とすれ違う。ネクタイの色から察するに、同じ二年生のようだ。


「………………っ!」


しかし、幻想とは得てして本人の意思とは関係なく冷めてしまうもの。そして、その現実に戻るまでの期間が長いか短いかも人それぞれだ。


瞑鬼はこの瞬間思い出した。自分は世界に、心の底から嫌われているのだと。


「ん?どうしたの神前くん」


前を歩いていた瑞晴が、立ち止まった瞑鬼に不思議そうな目を向ける。しかし、その声は瞑鬼の耳を通り抜けてどこかへ行ってしまう。


「…………あ、いや」


反射的にそう返していた。でないと、ここにいる三人に悟られることになる。


再び四人で歩き出す。しかし、どうにも瞑鬼の首はさっきから後ろを振り向いてばかりだった。何かを警戒するような、何かに怯えているような。


帰路の途中、瞑鬼は何度も何度も考えた。さっきすれ違った一人の女子生徒のことを。


見覚えがない顔だったから、恐らくはこの二年間で一度もあってない人だ。そんなのはたくさんいるだろう。瞑鬼の顔は限りなく狭い方だ。


特段可愛かったわけでも、人目をひくような格好をしていたわけでもない。普通に自然に、一人の生徒として学校から帰ろうとしていた。


しかし、瞑鬼は見てしまった。カバンの端に刺さっていたノートを。一冊分がギリギリ入らないことはたまにある。教科書を持って帰る量が増えると、たまに起こることだ。その気持ちは大いにわかる。


最大の問題は、そのノートに書かれていた名前。


他にはいるはずもない、多分世界にひとつだけの苗字。


彼女の名前は、神前瞑深。この世界の神前瞑鬼である。


ついに来た、この世界の瞑鬼くん。二人は未だ合間見えていない。


しかし、いずれこの先で出会うだろう。その時、世界は交叉する。

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