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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界警察、聴衆です。

そろそろダレるかも。


猫に戻った関羽を抱き抱え、いつも通りののほほんとした顔を見て一言。こんな重大なミッションを成功させてくれたのだ。今夜は瞑鬼の自腹で高級なディナーに招待してもバチは当たらないだろう。


ゴロゴロと喉を鳴らす関羽を片手に、瞑鬼は段ボールを回収、そしてそのまま公園の粗大ゴミ置き場へ投げ捨てる。今日は月曜日。定期の回収便が、夕方あたりに来るはずだ。


携帯を確認。そろそろ警察署へ向かわなければならない時間だ。お昼ご飯は道中で食べればいいだろう。関羽の上出来加減を祝し、少しばかり高いものでもいい。


早速飯のことを考え、瞑鬼は足取りを警察署へと向ける。署があるのは川を超えた向こう町。ちょうど、天道高校の近くである。


「……賭けて良かったな」


自分が考えた作戦が、まさかここまでうまく運ばれるなんて当人も予想だにしなかったことである。


瞑鬼の作戦としては、関羽を家の外に配達用のダンボールと一緒に配置し、その場で待機。中に入った瞑鬼の連絡が入ると同時に、インターホンを鳴らしてお届けものを持って来るという寸法だった。そして、当然のごとく中身は空。だが明美がその荷物を受け取ることはない。何せ宛名が違うのだから。


配達員の姿をした関羽が、自分と違う名前の配達物を持ってくれば、思うことは一つ。単純な届け間違いだ。近所では子煩悩な夫婦で通っている明美からしたら、そんな事はトラブルだとは思わないだろう。きっと、この住所だとあの路を曲がって、などと懇切丁寧に説明したに違いない。


瞑鬼が欲しかったのは明美の注意を引ける十数秒だけ。それだけならば、こんな簡素な作戦でも十分に事足りるのである。


徐々に夏へと向けてシフトしてゆく自然を視界の端に捉えながら、瞑鬼は今日手に入れた情報を脳内で整理していた。


まず初めに、聞いたことがない単語の復習だ。


《黄金条約》《円卓の使徒》いずれも瞑鬼の居た元の世界にはなかった言葉である。となると、考えられるのは魔法関係の単語であるか、瞑鬼が知らない義鬼の造語であるか。


可能性の話でいくならば魔法関連、それも、魔女サイドに関わりが深いと考えられる。明美の発言を思い返すに、義鬼が殺人や誘拐の依頼を明美に渡していたのは間違いない。闇の商人か、それとも単なる魔女特区からの指令なのか。


詳細については知る由もないが、推理だけなら瞑鬼にもできる。


帰ったら瑞晴に教科書を借りて、それらしい単語を探すのが一番の近道だ。そう考えた瞑鬼は、これ以上予測のしようもない情報を頭の中の引き出しに押し込み、昼飯のことだけを考える。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



外でカラスが鳴いている。夕暮れ時に赤く染まるその羽は、普段は真っ黒なそいつの身体を朱色に染めていた。


「……長すぎる」


警察署から出てきて一番、瞑鬼が口にした言葉がそれだった。それに呼応するように、関羽も長い息を漏らす。どうやら両者ともにグロッキーらしい。


瞑鬼が少し豪華な一食千円のランチを食べた後、関羽には報酬として贅沢ミルクなる代物と、高級煮干しなる食物が与えられた。お値段は二つで六百七十円。瞑鬼が食べた天ぷらセットの、天ぷらだけの値段である。


それでも当猫からしたら相当の高級品のようで、普段の果物地獄に嫌気がさした関羽は久々の魚類にご満悦だったようだ。


上々な気分で警察へ行き事情を説明。すると瞑鬼の聴衆役として、一人の警官が当てられた。そしてそこからが地獄の始まりだった。


まず最初に身分証明書提示の指示。これは陽一郎から事前に預かった魔法証明書というのを見せたら事が済んだ。何でも、この世界での最低限の身分証らしい。


それからやれ犯人の顔を見たかだの、特徴はだの何で現場にいたかだの、昨日の時点で聞かれた事の大半をもう一度質問されたのである。


正直に明美のことを話そうかと提案する瞑鬼もいたが、しかしこれは自分で決着をつけるべきだと反論する瞑鬼もいる。結果として瞑鬼の結論は、犯人は三十代後半の女性、だった。


仮に本当のことを話しても、そしたらそしたでなぜ瞑鬼が生きているかという疑問に結びついてくる。


犯人に出会った直後に気を失い、気づいたら家に入れられて放火されていたという解答も、魔女相手なら話が変わってくるのだ。


魔女が魔女特区以外で悪行を人間に見られたら、その人間を生かしておくはずがない。そう考えるのが自然だからだ。


それに、警察が逮捕に向かってハイそうですかと捕まる二人でないことは、瞑鬼が一番よく知っている。恐らく、追いかけてくる警官を皆殺しにしてでも逃げようとするだろう。更に瞑鬼が見た上では義鬼の魔法はかなり強力な部類。ノーコンテニューが前提の警察官たちでは敵う可能性が低すぎるのだ。


それに、瞑鬼にはもっと大きな理由がある。警官の心配をしているわけでも、二人の心配をしているわけでもない。


ただ、あの二人に裁きを下すのは自分だけでいい。

それが、瞑鬼が根底に抱いている恨みと言う名の結論だ。だから瞑鬼以外の人間が二人をどうこうしようとすれば、その時点でそいつらは瞑鬼の敵になる。


「そろそろ瑞晴も帰ってるだろうな」


足元をうろつく関羽に上から声をかける。やはり言葉を理解してくれているようで、ゴロゴロと喉を鳴らした。まだ一週間程度しか経っていないというのに、随分となついている。


今から何をしようかと悩む瞑鬼。学校に行って瑞晴を迎えに行くのは他の友達がいる以上アウト。かと言って、家に帰ってもどうせ働くだけだ。つまるところ、瞑鬼は暇だった。


気ままに街を闊歩する関羽の後を、何気なく追いかける瞑鬼。こんなにぼんやりとした夕方を過ごすのは久方ぶりだ。ここ最近なんて、夕陽にろくな思い出がない。


関羽の後に従っていると、自然とその足は学校へと向かっていた。


ここからなら5分もあれば着くだろう。そのせいか、やけに下校途中の生徒が目についた。


実際の警察の事情聴衆も、このくらい長いらしいですよ。


…………マジかよ。

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