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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界絵本、開読です。

もはや毎日が当たり前になりつつある。

恐る恐る本を閉じ、元の状態に戻しておく。指紋を拭き取ることも忘れない。


本来ならばこの時点で明美の部屋の探索は終了の予定だったが、あろうことか瞑鬼はその場で動けないでいた。じっと虚空を眺め、浅い呼吸を繰り返している。


拳を握る手により一掃の力を込める。なにか周りのものを殴りたかったのだ。拳が壊れようと、骨が砕けようと、そんなのは気にしないほどに頭が沸騰していた。血がざわついていた。恐怖でもあり、怒りでもある。こんな感情を抱いたのはいつぶりだっただろうか。


何度か深呼吸を繰り返し、脳内で先ほどみた本の内容を反復する瞑鬼。


まず最初。主人公と思しき少女が数人、どこかの街で遊んでいた。これはきっと魔女特区とかいう所なのだろう。背景は割と綺麗に描いてある。


初めの何ページかは、魔女の暮らしぶりについて描かれたものだ。大人の魔女たちは、その強力な魔法を使い、狩をしたり他の種族と戦ったりする。こんな手書きの絵本の中でまで、人間は最弱らしい。主な相手は魔王軍だ。


食事のシーン、魔術の実験で失敗し、家ごと爆発するシーンなどがコミカルに描かれている。ここだけを切り取れば、ただの魔女の日常を綴っただけの本になる。この程度ならば、人間側でも出版は可能なはずだ。瞑鬼はそう思っていた。


しかし、ここからの展開が瞑鬼の感情を昂らせた。


当初年齢が一桁だった魔女たちが15になる。人間で言うところの、魔法回路の初解放の年だ。そして、魔女には魔女なりの魔法を使い始める儀式があるらしい。


大人の魔女たちが他の国へ行き、まだ魔法回路を開いていない子供を見繕う。そして誰にも見つからないように子供達をさらい、国へ持ち帰るのだ。


瞑鬼が読んだ本によると、魔女たちは単一生殖の生物。従ってよそから子供をさらって教育なんてする必要がない。そこで瞑鬼は気付くべきだったのだ。この本が示す最後の答えを。


持ち帰られた子供達は、15になった魔女っ子の元へと届けられ、そこで何日か共に生活をする。ここまでは良かった。むしろ、ここまでしか良くなかった。


本の最後の方のページ。残り2回もめくれば終わるでろあろうその辺りから、物語は急展開を迎えることになる。


曰く、魔女の子供は人間の子供を食べる。食べるといっても、体をそのままばりばりとではなく、未使用の魔法回路を、だ。


その絵を見た瞬間、瞑鬼の思考は一気に止まる。まさか、自分がそんな存在と戦ったなど思ってもいなかったのだ。


薬で眠らせた人間の子供の心臓に手を突っ込み、そこから魔法回路と思しきものを取り出す。薄黒く染まる幹状に伸びたそれは、あまりにも美しく儚いものに映った。


「……まずい……」


瞑鬼は一人呟く。見てくれは冷静だが、恐らく頭の中は大噴火レベルのはずだ。


これがただの物語ではなく、事実だと瞑鬼が考えた原因。それは、本の背表紙に綴られた言葉だった。


それは、魔女文字でも日本語でもない。世界の誰でもが読めるよう、英語で記されていた。


Dear our children. Follow this book.


基本的な文型だけを使った、シンプルな一文。だからそれは、英語の成績が芳しくない瞑鬼でも容易に和訳することができた。


ーー子供達へ。この本に従いなさい。ーー


この文が示すのは、魔女は人の魔法回路を食べて強力無比な魔法を得るということ。それも、一度開かれた中古のものではなく、一度も使用されていない新品のものだけ。


この行為がいつまで続くのかはわからない。一度だけでなく、大人になった魔女が己の魔法を強化するために、なんども子供をさらう事だって考えられる。


この本の最後のページでは、強力な魔法を得た魔女たちが世界各地へ飛び立って行く所で幕が閉められている。つまり、明美が幼い頃この本を読み、世界へ飛び去ったうちの一人ではないか。


瞑鬼は考えている。明美の目的。魔女の本質。


なぜ自分ばかりがこんな馬鹿げた話を背負い込まなければならない。ただでさえ一人だけで異世界に飛ばされ、今でも心は猜疑心で満たされそうだというのに。


そんな所まで来て、死んだら生き返るだの魔法が増えるだの、本当に下らない。瞑鬼はそんなことを求めてはいなかった。主人公になりたいわけでも、世界一になりたいわけでもない。


少しばかり変な事が起こっても、多少頭のおかしな知り合いがいたとしても、魔法があったとしても、そこで普通に笑って過ごしたいだけなのだ。


それなのに、世界は瞑鬼を許さない。


どれだけ祈っても希っても、瞑鬼に普通は訪れない。


最後にもう一度だけ表紙を見て、またもや瞑鬼は独り言を漏らす。


「……朋花がやばい……」


明美の狙いは十中八九朋花だろう。その為に家にいるであろう休日の昼下がりを狙い、親を殺してまで家に居止まったのだ。


しかし、目的を知っても尚瞑鬼は動く事がでいないでいた。明美の居場所もわからない。おまけに明美の魔法すら判明してないというのだから、これでは完全にお手上げである。しかし、朋花は今学校にいる。魔法がある世界の学校機関だというのだから、それなりに警備体制は厳重だろう。


それに、小学校にはまだ魔法回路を開いていない、いわば原石のような人間が目白押しだ。今までにそれを狙ったテロ事件が起きていてもおかしくない。その点を踏まえれば、下手に瞑鬼が守りに行くよりも、学校にいる方が安全だ。


一瞬にして自分が動かなくても良い理由を考え、なんとか瞑鬼は心を落ち着ける。クソだゴミだとは思っていたが、まさか自分の義母がこんな事をしていたとは。


不思議の国のアリス症候群に陥りそうな頭を振り、何とか瞑鬼は現実世界へと帰還する。これ以上こんな所で時間を無駄にするわけにはいかないのだ。


誰も知らない情報を手に入れた瞑鬼。恐らく近所の人も、明美が魔女だなんて思っていないだろう。つまり、瞑鬼は一つだけ手札を増やせたのである。


「……これじゃ足りない……、もっと情報がいる」


ぽつりと呟く。その瞑鬼の目は濁っている。怨みからか、それとも異常事態に頭が耐えられなくなったのか。


瞑鬼の心は淀んでいる。全ての世界の不条理を受けて。

魔女の本、シグナル朋花。結構パーツが出揃ってきましたね。

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