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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界自宅、ガサ入れです。

インフルエンザウイルスがパンデミックを起こし、既に大量の犠牲者が。

しかし、僕はたとえ病気になろうとも書き続けますよ。ええ。

徐にそう言うと、瞑鬼はベンチから腰を上げ、段ボールを手に取った。


既に関羽は元に戻っている。その関羽を連れ、瞑鬼は公園を後にする。


灼熱の太陽に灼かれ歩くこと数分後、瞑鬼達の足は、一軒の家の前で止まっていた。


その一軒家は、古くも新しくもない感じで、街に溶け込んでいる。よもやここに殺人犯が住んでいるなんて、道行く人の誰一人として知らないだろう。


この家の住人がそういう人種だということを、瞑鬼は嫌というほど理解している。そして、自分がつい最近まで、その住人に殺意を向けていた事も覚えている。


一見すると手入れの行き届いた庭、窓ガラスの一枚も割れてない外観は、気持ち悪いまでに普通だった。もう、二度とここには来たくない。何度もそう思った。


家に火をつけようと思った事も、ないと言えば嘘になる。


思春期に入れば誰でもそんなもんだよ。


誰だったか忘れたが、瞑鬼の中学校の時の同級生がそんなことを言った。その時内心瞑鬼は相手の顔面を殴ろうと思ってしまった。


何だ?お前が何を知っている。親がクズだってことの辛さも、そのクズが露見していないことの苛立たしさも、味わったことがないくせに。


世界の全てが憎かった。眼に映る人間全てが死ねばいいと思った。きっと、瞑鬼と同じ状況に陥れば、誰だってそう思うだろう。


それ程までに、神前瞑鬼の心は歪んでいた。人の手によって、瞑鬼ではない誰かの手によって、歪められていた。


「……鬼退治だ」


一度は救われた身。どうせ放って置かれたならば、数ヶ月と生きられない状況だった。だから、瞑鬼の生殺与奪は陽一郎に委ねられている。


しかし、瞑鬼は今その縛りを解き、自分自身で行動しようといていた。


己の体を蝕んでいる憎悪に身を任せ、瞑鬼は神前宅へと足を踏み入れる。


駐車場に車がないことを確認し、玄関へ。何度かインターホンを押す。当然の如く中からの反応はない。さすがにこの時間は仕事に出かけているようだ。


今日の朝から考えてきた作戦を頭の中で反復させ、ゆっくりと細い息を吐く。心臓はしっかり動いている。寧ろ、少し早めの4ビートを刻んでいる。


関羽と段ボールを、家から少し離れた場所へと置く。この際に重要なのは、車が通れない道に配置しておくということだ。これが無ければ、後々かなり面倒な事になる。


「……いいか関羽、俺が連絡したらさっきの配達人に変身して、あの家のインターホンを押してくれ。もちろん、段ボールも持ってくるんだぞ」


「…………??」


額からはてなマークを浮かび上がらせる関羽。言葉は理解できるが、一度に言うと困難らしい。この世界の動物の言語理解限度は、精々日本語を覚えたての外国人といったところだ。


だからと言って、関羽の協力無しでは瞑鬼の作戦は成功しない。従って、瞑鬼が取るべき行動は一つ。迅速なる関羽への教育である。


何度もなんども同じ言葉を繰り返し、成功するまでリハーサルなんてまるで運動部じみたことを行う事で、漸く関羽は瞑鬼の作戦を理解する。ここまでかかった時間は30分。くそ暑い夏の陽光に灼かれながらでは、中々に体力を奪われる。


ふぅ、と伝る汗を拭うと、瞑鬼は再び神前宅を仰ぎ見る。つい一週間前までは、当たり前に帰っていた家。当たり前にいた両親と、当たり前に喧嘩を繰り広げていた自分の家も、異世界に来ると随分と変わって見えた。


なるべく足音を立てないよう、瞑鬼は庭の方へと足を向ける。


誰もいない家の鍵が開いているわけがなく、また瞑鬼がその鍵を持っている事もない。元々は持っていたのだが、両親が離婚したの際に鍵を取り替えられたのだ。


そして、その新しい鍵を持っているのは明美と義鬼だけ。実の息子であるにも関わらず、瞑鬼は合鍵すら使ってもらえなかったのだ。


だが、瞑鬼には秘策がある。扉はオートロックだが、それはあくまで玄関にある一つのみだ。金が無いからと、他の窓や勝手口をそのままにしていたのが、バカ両親の愚かな間違いだと言える。


そもそも、こんな田舎で玄関の戸をオートにする自体間違っていたのだ。そんな事をすれば、当然他の場所に対する注意は疎かになる。


微妙に手入れされてないとも言い切れない庭に足を踏み入れ、家の裏へと回る。自宅に帰るだけだと言うのに、はたから見たら完全に不審者だった事だろう。平日の昼に、高校生と思しき男が子供もいない夫婦の家にいる。こんな怪しさが有頂天な所を見られれば、瞑鬼のご近所内での評判は最悪になる。


だから、足音を立てず人に見られないよう、身を低くしコソ泥のように侵入するしかなかったのだ。なんとも情けない自分の姿に、思わず瞑鬼は涙を流しかける。


裏の勝手口までやって来て、そっとドアノブに手をかける。どうせだれも見ていないだろうが、念には念をの精神だ。


瞑鬼はいつもこのドアから朝学校へ行っていた。玄関がオートロックとはいえ、田舎者として鍵をかけなければ気が済まない質なのである。そして、幸運なことはこのドアの鍵が壊れていたことだ。石で少し鍵穴を押してやると、簡単に開いてしまう。この家に来た時からの事なので、異世界だからといって治されているとは考えにくい。


ここに来て、瞑鬼がこの不備を両親に伝えていなかったことが幸いした。


今までは、両親が家にいる時はどんなに嫌でも鍵を開けてもらっていた。そうしなければ、なぜ瞑鬼が家に入れるのか、と勘ぐられてしまう。必然的に家中を調べられ、故障が見つかっていただろう。そうなれば、瞑鬼は家に入る手段がなくなってしまう。


「……開いててくれ」


実の親の至らなさに希望を込め、ドアノブをぐいっと回す。すると、予想通り鍵は壊れていた。

軋む音を抑え込み、半分ほど開けて体をねじ込む。


「…………っし」


なるべく音が鳴らないよう、そっと扉を閉め、室内の気配を確認。どうやらご同業の人はいないようだ。

これぞ、パラレルワールド系作品の最大の面白さ。自宅探検。

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