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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界探索、始めます

今回から少しばかり長くしてみます。

いつまで続くかわかりませんが……。

擦り寄ってくる関羽の喉を一撫で。それから重たい腰をさっと上げ、関羽を抱き上げる。もふもふとした毛並みは、触れるとさぞや心地よい事だろう。


二階の部屋に上がり、自室にイン。陽一郎からもらったお下がりに着替え、その足で脱衣所へ。そんなに汗もかいていない店の制服を洗濯機にぶち込み、瞑鬼の準備は完了した。


「陽一郎さん、ちょっと出て来ます」


店の奥にいるであろう陽一郎に、玄関から声をかける。ここでお義父さんとでも呼んだなら、扉が開いて包丁の一本でも飛んで来ただろう。一応瞑鬼も学習していた。


「おーう」


店長の了承も得ることができ、無事瞑鬼は自由の時間を手に入れる。しかし、これからやる事は、きっと陽一郎が知ったら躍起になって止められるだろう。だから、外出の理由は適当にでっち上げた。


足元にいた関羽をつまみ、そのままガラガラと扉を開いていざ外へ。夏の太陽の光が、妙に眩しかったことを覚えている。


思い返すと、ここに来てから随分とありえないことを体験した。恐らく、元の世界では触れることさえ無かったであろう出来事に、瞑鬼は遭遇した。


それを経験だと言い張って、思い出だと主張するのも悪くはない。しかし、この理不尽な環境を許せるほど、神前瞑鬼は牙をもがれていなかった。


警察へ行くのは午後から。それも、2時過ぎとの指定だったので、今から大体四時間くらいは時間がある。その間にしなければならない事は一つ。


即ち、神前家に関する情報収集である。自分の親が何をしているのか、一応息子として知る権利くらいはあるだろう。


関羽と並んで街を歩く瞑鬼。見慣れたと思っていたが、やはり若干の違いはある。


目的が明美の討伐ではないため、装備品は財布と携帯のみ。それと、万一の時のために店から段ボールを一箱、つぶした状態で持ってきていた。もちろん、中身はない。


桜家から瞑鬼の家までの距離は、徒歩で十分といったところだろう。途中にある、あの憎っくき川を越えなければならない。だからと言って、さすがに配達用の自転車までは貸してもらえないだろう。


緊張感を抱えて歩くこと数分。瞑鬼の眼前に、以前立ち寄った公園が現れる。いつ見ても変わらないその姿に、どこか懐かしさを覚える瞑鬼。そう、ここはパラレルワールドなのだ。


ふと何かを思ったのか、瞑鬼の足は公園に向けられた。小さな入り口を跨ぎ、田舎の緑溢れる中を歩く。その中に、ポツンと一つ、時代から取り残されたようなものがある。


それを見た瞬間、瞑鬼の脳裏から焼きついた記憶が呼び覚まされる。


この世界に来て一度めの死。その最後に瞑鬼がいたベンチが、当然だがそこにはあった。


「なんか……、すでに懐かしいな」


まだ一週間程度しか経っていないが、それでもこの七日間の経験はなかなかに鮮烈だ。家族でネズミ王国へ行った時の百倍は脳にこべりついている。恐らく、ずっとこんな濃厚カルピスライフが続いたら、瞑鬼の脳は一年程度でパンクしてしまうだろう。


どすっと腰掛けたら壊れそうな長ベンチに、そっと腰を下ろす瞑鬼。ここに来て初めて気づいた事が一つ。どこを見ても、血痕のカケラすら残っていない。


考えてみれば当たり前のことだ。もしも道沿いに血が残っていたなら、その時点で警察が捜索するに決まっているのだ。この科学技術と魔法という二つの要素が成立している世界、DNAの一片でも見つかれば、特定は免れない。


「……血がないって事は……、死んだら巻き戻る的なアレか」


どれの事か見当もつかない発言を宙に吐く瞑鬼。関羽もそれに同調したのか、うにゃあと声をあげた。


一通り確認を終えると、瞑鬼は持っていた段ボールを開き、伝票を確認する。思った通り、受け取りの欄には何も書かれていなかった。


「関羽、ボールペンに変身できるか?ボールペンだぞ」


こんな感じだよ、と言って、瞑鬼は携帯の画面にペンを映し出す。至って普通の、ワンコインで買えるものだ。


それを見た関羽も、一応は意図を理解したらしい。小さいながらに魔法回路を展開し、尻尾をくるりと回す。


ぼふんという音ともに、薄黒い煙が瞑鬼の視界を覆う。一瞬にして晴れたものの、散乱した魔力が肺に入ったせいで、瞑鬼はむせ返ってしまう。


「……こりゃ近づきながらはダメだな……」


愚かな自分に言い聞かせるため、あえて言葉を口に出す瞑鬼。


見ると、関羽は見事にボールペンに変身していた。己が飼い猫ながら、あいも変わらず主人よりも優秀なペットである。


太ももの上に乗っているそれを拾い上げ、くるりと一度ペン回し。おそらく二回以上連続ですれば、関羽の目が回ってしまうだろう。だからくるくると回したい気持ちを抑え、瞑鬼はキャップをノックする。


白紙の伝票に今日の日付を書き連ね、ついでに自分の名前もつけたしておく。もちろん、中身は空だ。何を書いたところで、誰かに届けられるよう筈もない。


しかし、瞑鬼がわざわざこんな段ボールを持って来たのは、それなりに訳があってのことだろう。瞑鬼自身にしかわからないが、頭の中では使用用途は考えついているらしい。


「……差出人は適当に……、受け取りはっ……と」


さらさらと伝票を書き終えると、関羽に元に戻るよう指示。そして次は、もう一度携帯を開く。


次に見せたのは、一人の男性だった。芸能人でもなければ、テレビに出ているわけでも有名というわけでもない。ごくごく普通の一般人。


しかし、彼が来ている服こそ、瞑鬼が関羽に変身して欲しいものだった。


その男が着ていたのは、上下セットの制服だった。どこぞの黒い猫のマークが入った、配達屋のものである。


「今度はこれに変身してくれ」


指を画面に当て、再び関羽にお願いをする。何故に瞑鬼の意図が読み取れるのかは不明だが、関羽もそれに応じて魔法回路を開く。


どうやら、猫とは言え異世界では意思疎通ができるらしい。瞑鬼にとっては嬉しい収穫である。


今度はしっかりと距離を取り、関羽の変身を見つめる瞑鬼。散らばった小さな粒子の中から出て着た関羽は、紛れもなく先ほど見せた配達人の姿をしている。


しかし、案の定服は無し。どうやら本当に服を着る気がないらしい。


野太い大人の声でにゃあと鳴く関羽。正直この地獄絵図を見ているだけでも吐き気を催しそうだが、それでもめげずに瞑鬼は説得を続ける。


「頼む、服を着てくれ。これだ、これも一緒に変身すれば完璧なんだ」


おっさんの姿をした関羽に近寄り、何とか瞑鬼は服も変身させることに成功する。


陽一郎といいこのおっさんといい、どこか自分は筋肉男を呼び寄せる才能があるのではないか。暑さで眩む頭で、瞑鬼はそんなことを考えていた。


「……さて、行くか」

ドキドキワクワクの冒険?が始まる。

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