異世界日常、復活です?
前書きに悩むこと十分……。僕は普段どれだけ無機質生活を送っているんだ……。
カビ臭くも、埃っぽくもない布団で、神前瞑鬼は眼を覚ます。
外は既に陽光がご活躍なさっている状況らしいが、このクソ暑い夏、そんな事では早起きの証明にはならない。
霞みがかった眼で、ゆるりと室内を見渡して見るも、特に異常は無し。今日も今日とて、外で魔法が使われている以外は、もっぱら普通の日常だ。
もはや恒例となりつつある関羽との触れ合い。どうやら踝は瑞晴、瞑鬼は膝の上がお気に入りらしい。
のっそりと布団から這い出し、携帯を回収。そのまま部屋を出て、目指すのは洗面所だ。一日の初めは気を引き締めることにあり。特に深い意味はないが、瞑鬼お気に入りの言葉である。
しかし、まだ時刻は午前5時半。いくら瑞晴が早起きとはいえ、学校がある日までこんな時間から起きていることはないだろう。そう思い、なるべく足音を殺して瞑鬼は歩く。
全身の筋肉に力を込め、そろりそろりと階段を降りる。そして無事洗面所の扉を開く。
関羽と一緒に顔を洗い、その足で居間へ。置いてあった食パンを適当につまみ、水道水で胃へ流しこむ。居候という立場上、冷蔵庫の中を開けるのは躊躇われるらしい。
店が開くのは7時を過ぎてからだが、その前にもやることは目白押しだ。やれ仕入れの準備だの、店内の清掃だので、住み込みバイトの一日は大体始業の二時間前から始まるのだ。
パジャマを脱ぎ捨て、いつも通りの制服を着用。更に箒と塵取りを装備し、せかせかと瞑鬼は店内を掃除し始める。
そうすること約30分。目に見えるゴミやホコリをあらかたゴミ箱にシュートし終えると、陽一郎の声が居間から聞こえてくる。どうやら瑞晴と一緒にお目覚めの様だ。
「早いな瞑鬼」
「……まぁ、一応住み込みですから」
などと朝の挨拶を交わし、適当に朝食をとる二人。その間の瞑鬼の仕事は、二匹の猫への餌やりだ。仕込みの時点で弾かれたワケあり品を、適当なサイズに切って皿に盛り付ける。
朝から豪勢なフルーツ盛りに、猫たちはご満悦。お互いにお気に入りの果物を取り合い、少しばかり喧嘩になる光景も、今では見慣れたものだった。
そうしてのんびりとした朝食タイムが終わると、今度は一変して家の中は静かな戦場と化す。
陽一郎が仕事の仕込みを始め、瑞晴が学校へ行く準備をする。瞑鬼が見たこともない世界が、そこには広がっていた。
どうやら朝の女子高生は色々と準備することがある様で、洗面台や自分の部屋を行ったり来たりを繰り返している。大方化粧でもしているのだろう。女の兄弟がいない瞑鬼にとっては、随分と新鮮な光景だ。
そもそもこの世界に来る前の瞑鬼は、尋常ではないくらいに朝が遅かった。家から学校まで徒歩十分程度の距離であることを最大限利用し、起きるのは七時半を過ぎた頃。瑞晴が家を出るであろう時間に、のっそりと起きて飯を食っていたのである。しかしそうでもしなければ、瞑鬼の朝は何よりも最悪なものとなっていただろう。
両親ともに朝方に仕事に出かけるのが通常の神前家にとっては、朝というのは6時から7時を指す。
だから、その30分後に起きれば、朝から父親と顔を合わせる必要がないのだ。ただでさえ機嫌が悪い寝起き。そこで義鬼明美とおはようなんて交わしたら、次の瞬間にはリアルファイトが始まってしまう。
夜型人間が、急に朝方へと変更を遂げる。その辛さは、他ならぬ瞑鬼自身が一番よくわかっていた。
「行ってきます」
「おーう」
ガラガラと引き戸の玄関扉を開け、瑞晴が学校へ向かう。時間はギリギリだ。今からなら、少し急がねばなるまい。
自転車のスタンドが挙げられる音を聞きながら、瞑鬼は営業を始めていた。
陽一郎の指示通りに果物を箱に詰め、温めてしまわない様に冷蔵庫に入れる。これが基本的な朝の仕込みというやつだ。未だ慣れた手つきとは言えないが、それでもなんとか足を引っ張ることだけは避ける瞑鬼。そのすがたは、さぞや健気な学生に見えたことだろう。
瞑鬼が店で品出しをしていると、家の奥からやかましい足音とともに、少し高めの声が響いてくる。
「もーっ!なんで起こしてくれなかったの瞑鬼!この時間じゃ完全に遅刻じゃん!」
どすどすと階段を駆け下りて来たのは、やっとこさお目覚めの朋花だった。どうやら時計を確認した時には既にアウトな時間だったらしい。目の恥に涙を浮かべながら、瞑鬼に文句を垂れている。
「……すまん、忘れてた」
「……っ!この鬼バカロリコン!」
朝っぱらから女子小学生の説教を受ける瞑鬼。これで瞑鬼が真なるペド人間なら、きっと大喜びの状況だろう。
しかし、瞑鬼はどちらかというと年上派。間違っても小学生の罵倒で興奮するなんて危険人物ではない。
だから、朋花のこの発言は、瞑鬼の神経を逆撫でるだけだった。
「知るか。自分で起きろバカ」
「くっ……!訴えてやる!ロリコンがいるって!」
ばーかばーか。そう言い残して、朋花は食パンを咥えたままけたましく家を出て行く。二階から降りて来た時から制服だったのは流石と言えるだろう。
朝の風景っていいですよね。




