異世界異能、確認です
もう一年が終わる……。
「強盗かなって思ったら、その、魔獣ってのがいたんですよ。……そいつが、朋花の両親を……」
状況を思い出し、一瞬顔を曇らせる瞑鬼。当たり前といえば当たり前だ。何せ、目の前で死体を見たのだから。
警察から聞いた話では、まだ火災の事については詳細が出ていないとのことだった。目撃者が圧倒的に少なく、生還したのも瞑鬼だけ。その瞑鬼も、放火時の意識がないとなれば、操作が難航するもの無理がない話だ。
朋花の両親については、事件後に警察から陽一郎に電話が入ったらしい。何でも、事件が解決するまでの間、朋花を預かって欲しいのだとか。
祖父も祖母も早逝だった五衣家にとって、親戚との繋がりは限りなく希薄だったとのことだ。
そして、肝心の二人の安否については、把握しているのは瞑鬼だけだ。火災での家屋の崩壊がひどく、未だに中を掘り出せないでいるとのこと。
顔を上げる瞑鬼。正面には、優しい顔をした陽一郎が、心配すんなの意味を込めた視線を瞑鬼に注入している。
「……そうか、魔獣か」
「それで、その魔獣は倒したんですけど、操ってた魔女の方に遭いまして……」
一瞬迷った瞑鬼だが、この世界では二人を信用すると決めた後だ。今更警戒する必要はないと判断したのか、トップシークレットを口にする。
「……それで、その魔女に……その……殺されました」
いやに奥歯に何かが引っかかったような言い方だったが、何とか最後まできちんと発音する。
瞑鬼の発言を聞いた瞬間、陽一郎の顔からお気楽オーラが完全に消え失せる。そして、目の奥にわずかに光る眼光を残しながら、それでいて表面上は穏やかっぽい表情をしている。
話の意味がわからないのは瞑鬼も承知の上だ。そもそも殺された本人だと言うのに、その実感すら湧いていないのだ。これを他人に話したところで、理解できないのは当然のことだった。
それでも、瞑鬼には期待があった。希望だってあった。ひょっとしたら、万が一、何かの偶然で、陽一郎がこの現象を知っているのではないか。そんな限りなく薄い幻想が。
けれど、現実は、この世界は瞑鬼に甘くない。
「……殺された……か」
訝しげな目をして、陽一郎が瞑鬼を睨む。
別に、本人に疑う気持ちはないのだろう。魔法が横行する世界だ。人が一回生き返るなんて、数は少ないけどありうる事じゃないのか。
そう、瞑鬼は思った。だからこそ真実を告げたのだ。
「……神前くんは……、殺されたって自覚はあるの?」
「…………ある」
瑞晴からの質問に、瞑鬼は少し考えてから答えを返す。
死んでから生き返ったなんて実感はないが、死んだと思える実感はあったのだ。あの怪我の痛み。今でも鮮明に思い出すことができる。
もし、瞑鬼が本当は殺されておらず幻覚か何かを見せられていただけだとしたら。きっと、瑞晴はそう考えたのだろう。確かに、人が死んで生き返ることよりも、人に、自分が死んだと幻覚を見せる方が、はるかに簡単だ。
しかし、瞑鬼には確固たる自信がある。自分は死んで、生き返ったのだ、と。
もし仮にあの能力が幻覚を見せるものなら、明美は魔法二つ持ちという事になる。そうでなければ、あのライオンを運ぶ手段がないからだ。
何らかの魔法を使わなければ、あんな馬鹿でかい生き物を運ぶなんて不可能だろう。空を飛ぶでも、小さくするでも、もう一つ魔法が必要なのだ。
それに、魔法二つ持ちの貴重さ。明美が魔女だから二つでもおかしくないと言われればそれまでだが、本を読む限りはどの生物も原則は一個。瞑鬼のような特殊例でなければ、二個持ちは限りなくゼロに近いはずなのである。
だから、瞑鬼は結論付ける。明美の魔法は幻覚ではなく、自分は何らかの魔法によって殺されたのだと。そして黄泉帰ったのだと。
「……魔法、だよね。……でも、そんな魔法って……」
ちらりと、瑞晴が助け舟を求めるように、陽一郎に視線を注ぐ。
「……確かに、そんな魔法は見たことねぇな……。いや、でも瞑鬼には……」
そこまで言って、陽一郎の言葉が詰まる。
陽一郎も分かっているのだ。まだ一つ、考えてなかった可能性があることを。確率の話で行けば、確かにあるはずもないくらいに低い。人が黄泉から帰ってくるなんて、今この瞬間に隕石が桜青果店を直撃するレベルの確率だろう。
しかし、この場にいる誰もがその確率に賭けようとしていた。部が悪いのは明白だが、それでも確かめる価値はある。そう思ったのだから。
「……確かめる価値はあるな」
陽一郎が、そっと言葉を漏らす。それに呼応するように、瞑鬼も首を縦に振った。
「んじゃ……、やってみるか」
陽一郎が手を伸ばし、その手が瞑鬼の顔を捉える。テーブル越しに顔を近づける二人。それを見守る瑞晴の顔は、さぞや汚いものを見る目だっただろう。そんな事は二人も承知の上だ。
迫り来る陽一郎の顔。瞑鬼の足元では、不安そうな顔をした関羽が、その顔を上げている。
そして、二人の顔が極限まで距離を詰める。恐らく、今瞑鬼が少しでも顔を動かそうものなら、最高に最悪な感触が唇を襲うだろう。それほどまでに。
陽一郎の瞳に、瞑鬼の姿が映る。それを確認すると、ようやく陽一郎は魔法回路を開放する。
溢れ出る漆黒の粒子。それが瞑鬼の視界の端に映った瞬間、陽一郎の目が赤く染まる。それと同時に、瞑鬼の体は糸を失った人形のようにばたりと崩れ落ちる。その上には、同じ状態になった陽一郎というオマケ付きだ。
その光景になれたように、さも当然のごとく瑞晴は座布団を準備していた。
重なり合う二人の体。はたから見れば、何やら掴み合いでもしていた二人が、いきなり寝落ちをしたような格好である。
今年の締めくくりは瞑鬼くんの異能確認です。来年もまたよろしくお願いします。




