異世界事件、報告です
寒くなってきましたね。
不器用には不器用なりの伝え方がある。この世界に来て、瞑鬼が学んだことの一つである。
「……帰るぞ」
「…………はい」
見送りの警察官に一礼をし、瞑鬼たちは帰路に着く。ここから自宅までの所要時間は十数分といった所だろう。弛んだ身体をほぐすには、なかなかにいい運動と言える。
夏の太陽が残した暖かみが全身を包む。蝉はもう床についたのだろうが、今度は木兎が囀り始めている。街に休憩なんて概念はない。
しかし、陽気な空気の中、瞑鬼は肩を落としていた。
事態の把握ができない。謎が多すぎる。そんなことを考えては、仮定を作り、消化する。謎が謎を呼ぶこの状況に於いて、圧倒的に瞑鬼は知識が足りなかった。
「……今日の晩飯は何がいい?」
「そうですね……、肉以外でお願いします」
適当な会話を繰り返し、二人して肩を並べて歩く。陽一郎なりに気を遣っているのはわかる。けれど、今の瞑鬼はそれに構っていられるほどの余裕が無かった。
多少早歩きをしたためか、思ったよりも早く四人は家に着いた。シャッターは降ろされていて、電気が一つもついていない。
哀しさも寂しさもある。しかし、今はそれよりも安心が優っていた。命があり、ここに帰ってこれたこと。瞑鬼の居場所に帰ってこれたことだけを、今は感謝していた。
夕食には、瞑鬼の要望通りに肉なしの炒飯が出された。当たり前のように4人でそれを喰らい、その後はフリータイム。
一番風呂を陽一郎がリリースしたことにより、現在は朋花が一日の汗を流しに行っている。
「……そんじゃ瞑鬼、ちょっと話でもするか」
夕食後のお茶をすすっていたところ、陽一郎が何気なく話を切り出した。
その言葉に、瞑鬼の眉間がピクリと反応する。
「……はい」
そう言って、瞑鬼はちゃぶ台まで接近し、足を組んでいかにもな緊張空間を作り出す。しかし、膝の上に飛び乗って来た関羽より、一瞬にして空気が和やかオーラを増してしまう。主人の心、猫知らずと言ったところだ。
瞑鬼と対面した陽一郎は、あまり神妙な面持ちでは無かった。まるで、これから瞑鬼が話すことの全てを、予め理解している。そんな表情だった。
自室で勉強していた瑞晴を呼び、三人でちゃぶ台を取り囲む。瑞晴も、呼ばれた理由を理解しているようだ。いつもと同じ穏やかな顔をしながらも、一応は緊張感を持参していた。
「朋花が上がってくるまでだから、あんま長くはない。簡潔に頼むぞ、瞑鬼」
はい、と言って、瞑鬼はもう一度気持ちを締め直す。これから回想することは、おそらく瞑鬼の精神に大きなストレスを与えるだろうから。
ずずっとお茶を啜り、ようやく瞑鬼は口を開く。
「えっと……、まずはどっから話せば……」
自分の脳から記憶を引き出し、編集作業に入る瞑鬼。もともと警察に話すように情報をまとめていたつもりだったが、こうも改まった状況となると、さすがに緊張の一つもするらしい。
十秒間ほど硬直し、なんとか拙いながらに言葉を紡ぐ。
「俺が……、朋花の家に配達に行った時なんですけど、その、家に鍵かかってて、なのに朋花の両親も全然出てこなくて、おかしいなって思ったんです」
「……おう」
「それで、朋花が庭を見に行ったら、窓が割れてて、事件性があるって思ってそこから家に入りました。そしてそこで……」
瞑鬼の科白が滞る。状況を映像としてイメージはできているものの、それを言葉にできないのだ。
陽一郎だって、瞑鬼に小説家並みの国語力は期待していないだろう。ある程度話がまとまっていて、意味が通じればいいはずだ。
しかし、瞑鬼にはこの次に起こった出来事を正確に明確に伝えれる自信がなかった。
ライオンが出て来て、それを殺して、自分の義母に殺されました。
こんなことを話せば、待っているのは呆け顔だ。
一応は信じるだろうが、その後の瞑鬼の扱いが非常に残念なものになるだろうと言うことは、瞑鬼自身も予期している
しかし、話さなければ続かない。こんなところで途切らせてしまっては、なんとも続きが気になる幕引きとなってしまう。
だから、瞑鬼は何とか事実を小説よりも奇怪にならないように説明する。
今回からしばらく日常します。




