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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界ドッヂ、開幕です

死にそうでしなない瞑鬼くん。

生命力はもはやゴキブリのそれであった。

痛みで霞む目を、限界ギリギリの魔力を振り絞ることで活性化させる。既に内在分は尽きかけている。陽一郎曰く、常人より若干多いらしいが、今はそんなものなんの役にも立たなかった。


圧倒的なまでに開きすぎた実力差。相手は陸海空の軍を持っているのに、自分は木の棒しか持たずに戦争を仕掛ける。瞑鬼のとった行動は、それほどまでに愚かしいことだった。


「いやぁん。怖いじゃない」


明美が言った。


その瞬間、瞑鬼の足に力が入らなくなる。直後、瞑鬼は再び襲ってきた刺すような痛みと共に、床に倒れ伏していた。


目で確認はしていない。しかしわかる。自分は足を切られたのだと。


目にも留まらぬ早業というのは、きっと今のようなことを言うのだろう。完全に動体視力が劣っていた。


迸る鮮血を尻目に、瞑鬼は明美を見上げる。もう足は動かない。アキレス腱は生きているようだが、残念ながら痛すぎてそれどころじゃないのだ。


出涸らしの魔力を振り絞り、魔法回路を無理やりこじ開ける。そこまでして、何とか意識を保っていられるほどの苦痛が、瞑鬼を襲っていた。完全に明美の手の内である。


「この……、クソ魔女が。……ぜってぇ殺す……」


既にその身は憤怒に満ちていた。身を委ねたなら、人間など捨ててしまいそうなほどに、相手のことを憎んでいる。これで7つあるうちの一つだと言うのだから、大罪は名ばかりではないようだ。


しかし、明美はそんな瞑鬼の目を見ると、さらに嬉しそうに悦に浸る。


「いいわぁ。いいわね貴方。お礼にいいこと教えてあげる」


絶対内緒なんだから。最後に明美はそう付け加えた。


それが意味するのはただ一つ。殺す者が、殺される者に告げる最後の言葉ということだ。


死人に口なんてあるわけがない。しかし、喋ることはなくても伝えることはできる。それがあって、初めて火曜サスペンスが成り立つのだから。


既に瞑鬼はダイイングメッセージの準備に取り掛かっていた。


明美にバレないように、何とか左手に血をつけ、いつでも床に書き留めれるよう待機。ぬちゃっとした感触は、自分の血だとわかっていても心地よいものではない。


それに、瞑鬼の服は貰い物なのだ。いくら陽一郎のお古とはいえ、たった二日でゴミになるなんて、陽一郎も思っていなかっただろう。


「早く教えろよ。もう限界なんだよ」


これは本心だった。もうあと五分ともたないだろう。その後は、ゆっくりと死に向かうだけである。だから、瞑鬼は一つでも多くの情報を後の人間に伝える必要があった。


それが、異世界に呼ばれた瞑鬼の最初にして最後の勇者的な行為だ。


「私の魔法、知りたいでしょ?伝えたいでしょ?あと数分だもんね。わかるわぁ」


「……バレてんのかよ」


「あらぁ、当たり前じゃない。ガキの考えることなんてお見通し」


焦ったく時間を伸ばす明美。それを瞑鬼は思い切り睨みつける。もう死ねと宣う気力すら残っていない。できるのは、ただ黙って睨みつけるだけである。


にやにやと明美が笑みを浮かべる。それは、時間を伸ばそうとしている様にも、瞑鬼を挑発しているようにもとれる。そんな顔だった。


瞑鬼には時間がない。放っておけば、あと五分ほどで失血死だろう。そんなのは本人も分かっている。


だから、決まってしまった死を避けるよりも、託すことに頭をシフトさせている。それなのに。


「ほらほらぁ、ヒントあげてるじゃない。このナイフとか、あの魔獣とか」


血液が足りてない脳を全力回転。なんとか謎を暴こうとする瞑鬼。


これまでに出されたヒントから察するに、能力は簡単なものらしい。魔女の魔法に予備動作が必要なのかはわからないが、生憎明美の魔法はそんなの関係なく発動できるようだ。


ナイフとライオン。どう考えても接点なんて見つからない。精々、どちらも使い方次第では人を殺せるということくらいだろう。


しかし、人を殺す道具がどうしたというのか。例え断片的なことがわかっても、それが瞑鬼の中で繋がらなければ意味がないのだ。


「……おい、くそババア」


会話のキャッチボールをする気は無い。瞑鬼はただ、ドッヂボールをしたいだけだ。


「なによ?貴方可愛く無いわねぇ。もっと媚びなさいよ」


はぁ、とため息をついて、明美は瞑鬼から視線を外す。そして、興が削がれたのか、くるりと踵を返す。


その様を見て、瞑鬼はしまった、と後悔する。


簡単な話、瞑鬼は相手の神経を逆なでし、魔法を使わせようと思ったのだ。


けれど、実際のところは明美はそっぽを向いただけ。これが普通の状況ならば、殺されなくなったと安心もできただろうが、今の瞑鬼にそんな余裕はなかった。放っておいても死ぬのだから、せめて命一つ分の働きはしなくてはならない。


それが、この世界で唯一瞑鬼という存在を認めてくれた、陽一郎と瑞晴への恩返しになるのだから。

次こそは殺るか……。

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