異世界事変、激おこです
もうすぐ本格的な冬将軍の到来。またスノハレデイズがやってくるのか……。
「そこで死んでるの、私のペットなのよ。知ってるでしょ?魔女が魔獣を飼うって」
明美の口から出された衝撃の発言に、瞑鬼は思わず自分の耳を疑った。
明美は言った。自分のことを、魔女だと。それはきっと、比喩的なものではなく、そのままの意味なのだろう。つまり、明美は魔女特区から来た、本物の魔女ということになる。
そして、その回答が生み出された瞬間、瞑鬼は陽一郎の話を思い出していた。
ーー和晴、俺の嫁はな……ーー
返って来ない瑞晴の母親。目の前には、その元凶と思われる魔女が一人。瞑鬼は、ただこの事実が情けなかった。
友達の母親を殺した犯人のうちに、自分の義理の母がいる。今は、その事実が瞑鬼の頭の中で大反響を巻き起こしている。
この世界では、瞑鬼と明美はなんの関係もない。たとえ、本当に明美を含めた魔女たちが、桜和晴を処刑していた所で、そんなの瞑鬼の知ったことじゃない。
けれど、ただひたすらに、瞑鬼は情けなかった。
考えられずにはいられない。もし、自分が元の世界でもっと早くに明美を殺していたならば、瑞晴の母親は助けられたのではないか、と。
この世界と元の世界は違う。そんなのはもうとっくに分かっていた。割り切っていた。
それでも、そうだと分かっていても、瞑鬼には目の前の事実を黙って受け入れるほどの大きな器なんてない。
「……っ!この、クソ野郎が……!」
もう痛みなんて知らない。こんなもの、精神の呵責に比べれば、あってないようなものだ。
勝てないとは分かっている。けれど、瞑鬼には決着をつける責任があった。
脳は考えることを放棄し、体が勝手に動き始める。
「……なぁに?まだやるの?」
呆れたような顔で目をやる明美。当然だ。誰がどう見ても瞑鬼は満身創痍。とてもじゃないがまともに戦えるなんて思えない。
しかし、そんなことは関係なかった。瞑鬼が見るのは、現実ではない。空虚なまでの、悲しい理想である。
瞑鬼の魔法は両手一対、右と左の手があって初めて使用条件が整うものだ。だから、今の瞑鬼に魔法で目をくらますという選択肢はない。
対する明美の魔法。恐らく、魔女と言われているくらいの種族なのだから、それは相当に強い能力なのだろう。ひょっとしたら、瞑鬼なんて一撃で無力化できる類のものだという可能性もある。
だからと言って、尻尾を巻いて逃げれられるわけがない。だから瞑鬼は、無謀にも戦いを挑まざるをえないのだ。
「でも、残念ね」
繰り出した左拳をあっさりと避け、そう明美は口にする。
すれ違いざまに瞑鬼が見たのは、明美の右手に握られる、小さな短剣だった。それは刃渡りでいうならば、ギリギリ銃刀法に違反していないくらいの、本当に短いもの。
瞑鬼の記憶が正しければ、刀の名前はククリ刀。ネパールの狩猟用の刀で、その切れ味は折り紙つきである。
明美はそれを、どこからともなく取り出していた。
そして、それが取り出された意味。それが今、瞑鬼の目に映っているという事は。
「った!」
よろめいた瞑鬼の左の脇腹に、刺すような痛みが走る。直感で分かった。あの刀で斬られたのだ、と。
すれ違いざまに、明美は瞑鬼の腹を切っていた。けれど、それは深々と刃を立て、一撃で絶命させるようなものではない。
敢えて浅く斬りつけ、一瞬では楽にしない。もしここに殺し屋がいたならば、その最低な明美の流儀に異議を唱えていただろう。そう思えるほどに、神前明美は残酷だった。
「……貴方その顔、もしかして私のこと憎んでる?あぁ、ひょっとしたらここのガキのお友達だったのかしらぁ?ごめんねぇ。友達の親殺しちゃって」
「…………死ね」
状況から見れば、どう考えても瞑鬼の負けは必須だ。ここから逆転など、到底不可能だろう。それは瞑鬼自身も分かっている。
いつも通り、平常運転で人を苛立たせる明美の顔を見て、瞑鬼は心の底から殺意を覚える。恐らく、これだけ身内を殺したいと思ったのは初めてだろう。
これだけ最低な人間を書くには、やはり何かとモデルが必要なのです。明美さんのモデルは……。




