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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界事変、本番です

「……行きたくねぇなぁ……」


ぼやく瞑鬼。しかし、どれだけ文句を言ったところで事態は好転などしてくれるはずがない。むしろ、本人からやる気という名の堪忍袋を奪っていくだけ厄介とも言える。


何とか怒らないという戒めを撃ち込み、重たい足取りで目的地へと向かう。


持って来たスマートフォンを取り出し、絡まったイヤホンを丁寧にほぐす。それも片手で。


片耳を音楽で塞ぎ、もう片方は念のため開けておく。道路交通法的には問題はない。ならば瞑鬼がやらない理由がない。


元の世界から持って来たもので、使えるのは携帯と包丁だけだった。元々乏しい財布はもう用済み。教科書なんてあっても、そもそもこの世界では選択できる教科が違いすぎた。


一度だけ見せてもらった瑞晴の教科書は、全てが魔法ありきの内容だったのだ。


現代文、古文、数学、物理、化学、世界史、日本史、地理、倫理。それら一般教科の中に、瞑鬼にとっては未知の魔法学なる教科がある。


羅生門は魔法で老婆を殺し、ナポレオンは魔法で大活躍した。この世界の歴史ではそれが正解なのだ。


学校のことを考え、思わず腹痛を覚える瞑鬼。以前までなら当たり前に通っていた学校が、今では考えるだけで下り龍。お手本のような不登校児の反応である。


十分ほど自転車を漕ぐと、忌まわしき五衣邸に到着。


しかし、そこでもまた瞑鬼は不運に見舞われる。


「げっ、ロリコン」


「……くそガキ」


出会って一秒、瞑鬼をロリコンなどと言い出したのは、他でもない五衣朋花だ。


友達と市民プールでも行って来たのだろう。手には小学生らしいキャラクターもののプールバッグが握られている。


「……なに?瑞晴がいない時を狙って襲いに来たの?わざわざ休日まで小学生の観察って……。警察呼びます」


想定外だった。まさかの本物はダブルパンチだった。瞑鬼の予想していた反応を、見事に組み合わせてのジャブを繰り出す朋花。


負けじと応戦しかけた瞑鬼だったが、この暑さの中ではそうも言ってられないらしい。大人しく口を閉じて、中元を持って来たとの旨を報告。


怪しげな目で瞑鬼を見つめる朋花を無視して、自転車を止め荷物を降ろす。握られたい携帯電話は視界に入れないようにした。


ずっしりとした箱を持ち、そのまま玄関へ行きインターホンを鳴らす。朋花に鍵を開けれ貰えばいいのだが、どうやら瞑鬼は一分一秒が惜しいらしい。


「……それ、何ですか?爆弾ですか?警察行きたいですか?」


気づくと、朋花が背後に迫っていた。その顔は完全に生ゴミの袋を見るそれである。


しかし、残念なことに瞑鬼にその程度の攻撃は通用しない。何せ、今まで実の父親から同じような目を向けられて来たのだ。今さら他人にどんな風に見られようが、瞑鬼のダイヤモンドメンタルを傷つけるには至らない。


無視して家からの返事を待つ瞑鬼。そんな反応が面白くなかったのだろう。朋花も喋ることをやめ、買って来たジュースに意識をシフトさせる。


「……遅くね」


もうインターホンを押してから五分は経つ。しかもこの時間に風呂に入っているとは考えにくい。


ひょっとしたら昼寝の可能性もあるが、子供が出かけているというのに態々鍵をかけてまで寝ないだろう。


それも、夫婦揃ってとなると尚更だ。


ちらり、と瞑鬼は朋花に視線を飛ばす。


鍵を開けろと言いたいのだ。けれど、言葉を交わしたくないから声は出さない。


「……何です?あんまり見ないでくれますか?瑞晴と違って男子って汚らわしい目をしてるんですから」


恐らく朋花のこの発言は、全国の男子高校生の反感を買うには十分だろう。多少顔が可愛い部類とは言え、小学生がこの発言をするにはいささかおませさん過ぎるのだ。


「……違えよ。お前鍵持ってないの?早く荷物届けたいんだけど」


心からの本音を飛ばす瞑鬼。こればっかりは嘘偽りのない本心だった。


瞑鬼の腕の中では、今でもドライアイスが昇華のハーモニーを奏でている。このまま待ちぼうけをくらい続ければ、いずれ箱ごと爆発するだろう。


しかも、残念なことに瞑鬼は荷物を床に置けなかった。いくら同じ町内の小さな配送とは言え、手を抜くことは許されない。お客様から預かった荷物は、しっかりと手渡すまでは床に置いてはいけないと言う業界の暗黙のルールがあるからだ。

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