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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
瞑き黄昏編
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渾身の一撃

相変わらずな語彙力に、もはや懐かしさまで覚えてしまう。


赤々と天まで火を噴く街の中、《なにか》は薄ら笑いをその無機質な顔に浮かべていた。さきの攻撃は、どうやらダメージとも思ってないらしく。虚構を映し出すだけの目は、やはり瞑鬼から離れない。


魔法回路が息を吐く。瞬間、《なにか》の身体は地面を蹴っていた。不気味に滑空し、気づけば目の前に皺だらけの手が。第一の魔法?そんな暇はない。一回コンテニューを覚悟した。


「知らん」


だが、同時に瞑鬼は確信していた。他称王であるならば、きっと。その時が来れば、自称騎士が来るはずだと。


刹那、金属がはじけるような甲高い音が、夜の街に反響した。


瞑鬼の目の前。それもほんの数十センチと言った、ごくごく間近で、二人の無頼漢がにらみ合っていた。どこかのプロレスのように、がっちりと手を組んで。全身から魔力を放出し。


「残念だな。次はアポを取ってこい」


地面に座り込む瞑鬼の上から、切羽詰まった夜一の声が。ミシミシと音を立てながら、《なにか》と力比べをしているのが酷なのか、その声からは一切の余裕が感じられなかった。


パラパラと、《なにか》の皮膚が剥がれ落ちる。この数ヶ月間で随分と筋力を上げた夜一に対し、相手はほとんど変わりなし。魔女戦を終え、白銀の民にも辛勝し。夜一は進化した筈だ。だから、せめて今回は。


だが、前回魔力の放出は、そうそう長くは持たないらしく。せめて瞑鬼程度の量ならば、ゴリ押しもできただろう。けれどあいにく、夜一の魔法回路は一般人用だ。


「……まずいな」


それは、この状況で夜一が言える、精一杯の皮肉。と言うよりも、ただの厳然たる事実だった。


楽観視していた。もう強くなったから、大丈夫だろうと。しかも相手はさっきまでぶっ倒れていたやつ。だから忘れていた。世界は、瞑鬼に厳しいと。


「王よぉぉぉっ!」

「なっ…………!?」


瞬間、爆発的な魔力の本流が、《なにか》を起点に展開。膨れ上がった筋肉に、80キロ超の夜一は吹き飛ばされた。そのままブロック塀に激突し、苦悶の声が溢れでる。


《なにか》の空虚な目に、瞑鬼が映っていた。そこにいる、腐ったような目をした若干十七の高校生は、怯えているのか動かない。こんな感覚、いつぶりだろう。


初めて魔女と対峙した時、カムイの姿を見た時。それと同じ戦慄が、今の瞑鬼を支配していた。恐怖なんて消え去ったような頭でも、どうやら本能が邪魔をしやがるようで。


夜一がやられた?そんなの相手に、自分一人で何をしろと?あくまで瞑鬼は司令塔。近接戦ならソラにも劣る。頭が追いつかない。《なにか》の皺だらけの手が、目の前まで迫っていた。王よ、王よの呟きが、次第に耳まで腐らせて。


「瞑鬼くんっっ!!」


それは、瞑鬼にとっては天使の声だった。


震える声で、暑いだろうに、それなのに必死に叫んで。瑞晴は石を投げつけた。微妙なコントロールでそれは《なにか》の頭にヒットした。


ダメージなんてない。鉄化の魔法使い相手に、いくら魔力で筋力を上げたとはいえ、女子高生の投擲じゃ。だが、それが癪に触ったのだろう。瞑鬼の眼前にあった目は、今や王女様に向けられていた。


ハイライトがない眼に恐怖が芽生える。後悔が奔る。だが、瑞晴は目を背けない。瞑鬼が戦えないのなら、自分たちがせめて。ワンマンチームじゃない。それを証明するかのように。


《なにか》が睨む。白銀が呻る。背中に乗ったままの朋花は、当たり前だが直視できてない。今はそれだけが瞑鬼の救い。彼女にまで戦われちゃ、両親に顔向けができない。


それは、一瞬の硬直だった。脚が止まった。さっきまで執拗に瞑鬼を狙っていた《なにか》も、白銀に恐怖を覚えたのだろうか。そして、その一瞬を見逃すバカが、このメンバーに居るものか。


「はぁっ!」


居ないのは知っていた。きっと、機を伺っているのだろうと。今じゃソラだって、立派に戦える。あの三人のようにはいかないが、それでも、瞑鬼たちよりかは遥かに強いのだ。


ソラ渾身の掌底が、《なにか》の肋骨を粉砕した。掌から伝わる嫌な感触。だが、ソラは力を緩めない。魔女特有の、圧縮された筋力を一気に解放。さきの夜一と同様に、《なにか》を大きく吹き飛ばす。


そのあまりにも強すぎた勢いは、コンクリなんか破壊して。燃え盛る家のど真ん中まで、《なにか》の身体は飛んで行った。


「……手、いります?」


にっこりと笑い、さり気なく手を差し伸べたソラ。頼もしすぎるその姿に、思わず瞑鬼は抱きつきたいなんて衝動に駆られてしまう。そのまま、頭を撫でて、徹底的に褒めてやりたいと。


「……せんきゅ」


そう言って瞑鬼が手を取ろうとした瞬間。到底信じられないだろう。なにせ、ソラの一撃は瞑鬼だったら死んでもおかしくないくらいの威力なのだ。


鉄だから。それとも単に、痛覚が取り除かれているのか。まるで何事もなかったかのように、《なにか》は瓦礫を振り払っていた。笑みが浮かぶ。


次の一コマには、もう間合いの中に飛び込んでいた。魔力を一気に放出し、筋繊維が引きちぎれることなど御構い無しの超跳躍。さっきのも今のも、《なにか》の異常な速さの正体はそれだった。


瞑鬼だけが見えた。今度の狙いは自分じゃない。将を射るなら馬からになぞらって、《なにか》はソラめがけて跳んでいた。いくらソラの反射神経でも、もう避けられないほど速く。


体が勝手に。きっと、そういうのが正しいんだろう。瞑鬼が思うより速く、身体は勝手に魔法を使っていた。守らなければならない者のために。瞑鬼のエゴのために。その漆黒の腕は姿を現した。


「くっそぉぉぉ!!!!」


出てくれたのはたった一本だけ。だが、それは瞑鬼の想いに応えた結果。ソラを失っちゃ、この先きっとやり切れない。だから。


瞑鬼の背中から生えた第七の魔法が《なにか》の首を掴んだ。そのままずっと伸びて行き、地面に勢いよく頭を打ち付ける。終わらないのは分かっている。あの頑丈さは、並大抵ではないと。だからせめて、少しでも遠く。自分たちが逃げ切れるくらいまで。


「寄せろ瞑鬼。アレは今やっておく」


だが、フレッシュ一の頑固野郎は、どうやら怒髪天なようで。自分を殴り飛ばした相手を、タダじゃ返せないらしい。


瞑鬼の隣で、夜一はいかっていた。それはもう、絶対に喧嘩なんか売りたくないような顔をして。格闘技の試合なんかじゃ、絶対しないであろう顔をして。


暴れる《なにか》。たしかに、このまま野放しにするのはいささか気がひける。それに、夜一のストレスも解消できるんならなおさら。


「……外すなよ」

「……お前次第だ」


不器用な夜一の言葉を信じ、瞑鬼は勢いよく腕を引き寄せた。宙ぶらりんな《なにか》は、抵抗などできるはずがなく。


瞑鬼と《なにか》の間に割り込む夜一。目が燃える。魔法回路がより太く。いつもの三倍近くの硬度で。時速50キロで迫ってきた《なにか》の身体に向けるは、全身全霊のラリアット。


ガラスを割ったとき風に、《なにか》の身体は砕け散った。しかもそれらは瞬時に光の粒子と化し、空気と一体に。後に残ったのは、満身創痍な高校生たちだけだ。


「……痛いな」

「……そりゃな。折れてる?」

「……心はな」


どうやら無駄口を叩ける程度には大丈夫らしい。ソラも同様に、ぎこちない笑顔だが元気そうだ。


突然の襲撃に困惑したフレッシュだったが、そんなのいつまでも引きずってても仕方ない。謎に振り回されるのは慣れている。正体不明の《なにか》に関しては、英雄たちに丸投げがベストだろう。だからもう、あまり考えないことにした。


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